開戦前のひと時
城を後にしたけれど、城内の微妙な雰囲気を見て思ったことがありました。
皆が疑心暗鬼というか、戦の前だというのに疲弊しているという状態が目に見えて分かった。特に領主である人物は枯林のように肌の色も艶も無く、その瞳は死んだ魚のように光を失いかけていた。
私の思い悩む雰囲気を感じ取ったのか、クオンさんが私の肩をポンと叩いた。
「色々と考えないといけないことはあるけれど、ひとまずは開戦までに準備できることをやっておこう。ただ、一つだけ気を付けないといけないだろうことがあるけどね」
「それは……なんでしょうか?」
「たぶんだけど、俺達の傭兵団にここの領主が監視目的で人を送って来ると思う」
「私達のことをあからさまに怪しんでましたから……仕方ないような気もしますね」
「まぁね。噂によると、戦争の準備として領主は大規模な粛清を行ったようなんだ。原因としては、マイゾ王国や自由商王国からの賄賂を受け取って私腹を肥やしていた官吏がいたことだろうね」
「城内の空気が不穏だったのはそのせいですか……」
「たぶんね。急な対応を国に求められてやったんだろうけど、かなり懐近くで私腹を肥やしていた部下がいたんだろうね……副官の人は兄弟のようだったから、現状は信じられるのは身内だけって感じなんだろうな」
「なんともな話ですね」
「ま、このゲームの面白いところでもあるかな。NPCが実際にこの世界に生きている感じがするってのは非常に――てぇっ! な、何すんだよねーちゃん!」
どうやら、スイッチが入ってしまったクオンさんにるーこさんが素早く反応して華麗にローキックをお見舞いし、クオンさんはガクリと片膝を着きつつ抗議を行った。
「たらたら喋ってる暇はないでしょ? とりあえず、何人かは斥候としてクリオファス魔鉱田を見て貰わないといけないんだから」
「でも、先方からの命令書がないと手形が発行されないんですよね?」
「どーせ城からの使いがすぐに来るわよ。ってことで、私達がちゃんと揃ってる方がいいかな……と、思うんだけど?」
「た、確かにねーちゃんの言う通りだね……ったく、ガチのローキックは勘弁してくれよな。ダメージは無いっていっても、やられるのはたまったもんじゃない」
そう言ってクオンさんは何事も無かったように立ち上がる。それを見ていたるーこさんは何事も無かったようにしつつ、周囲をチラリと見るような仕草をする。それを見てクオンさんは小さく溜息を吐いてから口を開く。
「あと、つけられてるようだし、一応周囲を警戒しながら戻ろう」
「そうね……じゃ、愚弟には囮になって貰って、サクッと撒いてしまいしょう」
「マジか!?」
「では、クオンさん。よろしくお願いしますね」
「はぁ……仕方ないなぁ。途中まで一緒に行って、あそこの通りに差し掛かったところで走って別れようか……俺は少し後ろにいる人と遊んでから戻るよ」
「じゃ、頼んだわよ」
と、るーこさんは楽しそうに言って、それを聞いたクオンさんは小さく溜息を吐きつつも、その表情は楽しそうだった。そして、私とるーこさんは裏道へ勢いに任せて走りだす。この雰囲気は確かに楽しいと私も思いつつ、るーこさんに付いて行く。
「結局のところ、状況はよく分からないままですね……」
私がそう言うと、るーこさんは難しそうな表情を一瞬だけしてから「ま、考えても仕方ないわ」と、笑みをこぼす。たぶんだけど、難しいことを考えるのが面倒くさかったのだろうと、私は判断する。
クオンさんは色々と特殊な情報網から、この状況が生まれた原因というのに心当たりがありそうな雰囲気ですが、自分から言うつもりは無いのか……もしかすると、私を試しているのか分かりませんが、私自身は現在の状況にややモヤッとしている事だけは確かです。
るーこさんは多分だけど、状況をただ何も考えずに楽しみたい派なので、何も考えていない気がします。そういうところは本当に美耶とソックリなところです。
「ねぇ、ちえるんは道って覚えてる?」
「方角だけは確かだと思います。正直、ここの街に関しては初めての場所なので、道は全くですよ」
「まぁ、そうだよね……ちなみに、私ってどちらかと言うと方向音痴なんだけど、大丈夫だと思う?」
「……そんな技能を持ち合わせてたんですね。あ、そっちじゃなく、そこは右に曲がってください……裏通りから出来るだけ早く出たいですね」
城から近い裏道というのは基本的に曲がりくねり、複雑になっている。これは攻められた時に防衛しやすいように真っ直ぐな道や幅の広い道にしない為にそうなっているのは場所の東西を問わず、そういった傾向にあるらしい。これはお爺ちゃんから教えて貰った蘊蓄ですが、こういった状況で思い出すというのも……なんですね。
「ちえるん、知ってる? 城の近く、城下町での道ってのはワザと真っ直ぐな道を避けるように作られてるって?」
「ええ、知ってますよ。お爺ちゃんから聞きました?」
「むむ!? 孫という孫にその話をしてるのか……くぅっ、あの爺……」
「そういう蘊蓄大好きですよね、お爺ちゃんって」
「同じことを思い出してたとは……」
「ふふっ、不思議ですね。あ、そこは左に行きましょう。大通りに出るハズです」
「りょーかい!」
私とるーこさんはそんなやり取りをしながら、今回の拠点として借りている宿へ戻った。
クオンさんが戻って来たのは私達が宿に戻ってから半時もしない間で、また城からの使いだという陰気そうな男と一緒だった。
「貴女が【鋳薔薇の森】の団長殿でありますか……」
陰気な男は消え入りそうな声でそう言った。私は前に進み出て「そうです」と答えると、男はあまり興味がなさそうに「そうですか……」と、答えた。
「……そんな事はどうでもいいです。これが指令書です……読み上げますので、ざっと聞いておいてください。パライシアソス軍、第8連隊の第2中隊に配属されます。クリオファス魔鉱田攻略軍の後方支援部隊となります……ふぅ……」
「後方? ですか?」
私が首を傾げると、陰気そうな男は再び深い溜息を吐いてから指令書を一度丸めなおし、あからさまに嫌そうな顔をする。
「そうです。後方支援と言っても、貴女方の仕事はこの戦いが終わるまで何もせずにボーっとしておいて頂けると……まぁ、そのような感じです」
「我々によほど動いてほしくない……もしくはパライシアソスの領主は議会自体に信用が無いと考えているということか……」
クオンさんが何かを考えるように呟くと陰気な男は辟易するように嫌な顔をして再び溜息を吐き、やれやれというような仕草をして
「……そんな事は私には興味の無いことです。……こんな事は言いたくはないですが、一応私は貴女達の監視役を兼ねているのですから、軽々しく領主やハゲ野郎などとは言わない事です」
「あら? 誰もハゲとは言っていませんよ?」
「……これは失礼。ともかく、あなた方にはただ参戦だけして事が終わるまでゆっくりとお茶でもしていれば良いのです」
そう言って陰気な男は投げ捨てるように指令書を放り投げ「また明日の朝、一番の鐘が鳴る頃にに来ます」と言って去って行った。
「とても個性的な方でしたね」
「そうね。とりあえず塩でも撒いておきましょう」
と、るーこさんは和かにそう言ってインベントリに投げれる物が無いか確認する。
「流石に物は投げちゃまずいっしょ」
「そうッスよ。コマンド『物は大事に』ッス」
クオンさんに同意するようにミソスープさんが謎のノリでそう言うと皆が苦笑気味になり。
「命なら分かるが物って何だよ」
と、一斉にツッコミを入れる。
「と、いうより。ちえるんが意味不明なノリに固まっちゃったじゃない! このスカポンタン!」
「こりゃ失礼したでやんす」
「って、ちえるんが不思議そうな顔で見てるって!」
「お、おねーちゃん。後で解説するから、ジト目で見ないで〜!」
謎のコントが始まったのでどうやら冷めた目で見ていたようです。慌てる美耶もるーこさんも可愛いという事は言うまでも無いでしょう。
「さて、気を取り直して……先ほどの領主様の使いの方ですが色々と質問をしたかったのですが、さっさと出て行ってしまったので、代わりにクオンさんに確認をしたいです」
「あぁ、了解」
そう言ってクオンさん含め皆はテーブルへ着く。
「あ、私お茶を入れてくるね」
「私も手伝うわ」
と、カレンさんとしょこらんさんは部屋を出て行く。
「俺の分かる範囲のことしか答えられないよ」
「それは仕方ないと思っています。まずは戦争のルールを再確認させて下さい」
「オーケー、了解した。まず、このゲームの戦争というのはこの世界の戦争の仕組みと言い換えた方がいいかな……開始が宣言されると戦場に分かれた区分け毎に魔尖塔が出現する」
「幾つくらいあるんですか?」
「そうだな。通常の戦争と同じだとしたら、本陣に大魔尖塔、中隊単位に魔尖塔が存在する。今回は平原と魔鉱田に軍が分かれていることを考えると、戦場自体は2か所にあるので、大魔尖塔は2本、平原には魔尖塔6本、魔鉱田には4本――かな」
そう言いながらクオンさんは大きな地図に魔尖塔に見立てた駒を並べていく。
「魔尖塔とはどんなモノなのですか?」
「魔尖塔の効果は一定範囲に対して、様々な能力向上効果を発動させることが出来る。ただし、その機能を使用する為には多くの魔素が必要になる」
「魔素はどこで得るのですか?」
「この世界では色んな所に魔素が湧く場所が存在する。特に要所となるところイコール魔素が湧く場所という形になっている」
「気になっていたんですけど、首都とかではあまり見ませんでしたね?」
「そこね……まぁ、多分システム的に戦争が起こらないような仕組みになっているんだと思う」
「だから、魔素が湧く場所が無い?」
「あくまでも予想でしかないけどね」
そう言ってクオンさんが苦笑していると、しょこらんさんとカレンさんがお茶を持って部屋に入って来る。
「お茶菓子もどうぞ」
と、テーブルにお茶とお菓子を置く。私は彼女達に礼を述べると、しょこらんさんはにこやかに微笑み、カレンさんは「別に何もしてないわよ」と、照れくさそうに言ってから椅子に座った。
「まぁ、何にしても戦場でまずやる事は魔素溜りで魔素を獲得して、魔尖塔に魔素を補充することから始める感じかな」
「戦闘だけというわけじゃないのですね」
「そうだね。あと、隊長や副隊長など隊の権限を持っているメンバーのみ小魔尖塔を立てることで、占領領域を増やすことが出来る」
「敵側の魔尖塔を占領することは出来ないのですか?」
「……方法はあるんだけど、通常の戦場では無理な事が多いから普通は破壊してしまう方が楽かな」
「小魔尖塔とはどういうモノなんですか?」
「小魔尖塔は通常の魔尖塔と違って時限性の魔尖塔で一定時間の間、魔尖塔と同様の効果を発揮することが出来るモノだね」
「……結局のところ、勝利条件というのはどうなっているのですか?」
「まぁ、そこが一番気になるところだよね。基本は相手の本拠地にある大魔尖塔を破壊すること。これによって、敵のプレイヤーが甦りすることが出来なくなる」
「敵がNPCの場合はどうなんですか?」
「NPCは英雄以外は甦りする力は持っていないから、NPCの大将を倒せば終わりか……もしくはNPCの大将が負けを宣言するか……だな。ただ……NPCが負けを宣言するパターンは大魔尖塔の破壊で大体は決着が付くから」
「……なるほどです」
私はそう言って、目の前にあるお茶を口に含み。ゆっくりと茶葉の香りを堪能する――仮想現実でお茶を楽しむというのも少し不思議なのはこのゲームの中で幾度か感じましたが、何度でも思ってしまうのも、まだ慣れていないというところなのでしょう。
「で、予習復習はバッチリかい?」
と、クオンさんは少しだけ優しく微笑んでそう言った。
「とりあえず、ルールだけは分かりました。ただ、今回は別の件もありますから、そちらの方に関してはどうするかを考えないとダメですね」
「それはそうで御座るな……一応、拙者とミソスープ殿で潜入してきたので、情報共有するで御座るか」
「ええ、お願いします」
すると、テーブルの上にミソスープさんが、地図データを展開させた――
るーこ「連隊とか大隊とかって言われても、パッとわかんないわよね?」
ちえるん「国や時代によって変わるそうですが、このゲームでは以下らしいですよ」
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連隊500~1000
大隊200~300
中隊50~150
小隊8~20
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るーこ「ちゃんと調べたのね」
ちえるん「調べたのはみゃーるんですけどね」
みゃーるん「えっへん!」
カワイイデスネ(*‘ω‘)ω‘) (‘ω‘*)???




