渦巻く思惑
翌日の夕方頃にヘレイソ平原の中東部にあるクリオファス魔鉱田から程近い辺境都市パライシアソスに到着した。
延人口7千人の東西に長く広がる街道を中心に発展した城塞都市です。
共和国の国軍は既に到着しており、その規模は5千で相対するマイゾ王国軍は6千強という情報が入ってきていた。しかし、かの国は平原とクリオファス魔鉱田に兵を割いて配置しているようで主戦力となる平原の兵力が4千強、魔鉱田に配置されている兵は2千となっているという話をクオンさんが情報屋から情報を買って報せてくれました。
一度、宿を押さえてから、私とるーこさん、そしてクオンさんの3名で自軍の駐屯地へ命令書を受け取りに行く事になり、パライシアソスの城へ向かう。
向かう途中、巨大な城が近付いて来て私はその壮大なスケールに息を飲む。
「結構大きな城なんですね。城塞の外からも見えていましたが、近くに来るとよりスケール感に驚きます」
「確かにね。現実でも仮想現実でもこういう景色ってグッとくるわよね」
「そうだね。特にこのゲームは作り込みというより、NPC達が独自の文化や知識を使って作っているからリアリティの高い作りになってる所が非常に拘りを感じるよ」
クオンさんは少し熱っぽくそう言って、少年のような瞳を浮かべて周囲を見回す。
「こっち側に来るのは初めてだから、もう少し観察をしておきたいところだ」
「愚弟、ちえるんがドン引きしているから、その辺で落ち着きなさい。それに勝手するなら帰りしてよね」
「え? あ、あぁ。ごめん」
「いえ、構いませんよ。クオンさんの視点で見た世界というのはまた他の人とは随分と違うのでしょうね」
私がそういうと、るーこさんとクオンさんは少し苦笑する。クオンさんはその後に小さく息を吐き「まぁ、違うんだろうね」と視線を遠くに移す。
「確かに人によく言われるんだけど、常に作り手視点で見たり考えたりしか出来ないんだ。脚本、カメラワーク、衣装……何でもだよ。ああじゃ無い、こうならより良い。みたいなことばかり考えてしまう。一種の病気みたいなモノさ」
「でも、だからこそ……るーこさんの衣装デザインをしてるんですよね?」
そう言うと、クオンさんはバツの悪そうな顔をする。
「コイツの場合、ちっさい仕事ばっかりで飯も食えない状態だったから私が仕事を上げたら何だか人気出ちゃって、そっから私専属で契約する事になったのよ」
「ホント、ねーちゃんに食わせて貰ってるんで、マジでなんとも言えないんだな」
そう言ってクオンさんは照れ臭そうに笑う。
「と、いうことはクオンさん、しょこらんさんはるーこさん様様という事なんですね」
「その通りよ。全く……ダメな弟と義妹を持ってしまったわね」
「って、ねーちゃんみたいな生活破綻者がそんな事言ってもいいのか? しょこらんが管理してくれてるから成り立ってるの忘れんなよ?」
「クッ、痛いところ突かれたわね。いいもん、アンタ達が結婚したら私はちえるんと住むから、ね? ちえるん?」
「え? は???」
もう、この人は屈託のない笑みで何てことを言うのでしょうか? 心臓バクバクなんですが、このままじゃ、また倒れてしまいそうです。
「嫌だった?」
「嫌では無いですけど、私はまだ高校生ですから……母が許さないと思いますよ?」
「ってことは、まだ暫くはしょこらんに世話されないとダメね……」
「って、ねーちゃん。自分で色々と出来るようになってくれよ」
「別に出来ないワケじゃ無いわよ。したくないだけで。ゲームしか取り柄ないってワケじゃないんだからね?」
「とりま、料理という名のダークマター生成すんのやめような」
「クッ……リア充滅びろ!」
「うふふっ」
2人の仲睦ましいやり取りに思わず笑いを漏らしてしまいました。その2人は不思議そうに私を見てきます。あぁ、2人とも姉弟なんだな、と思わせるひとコマです。
「ちえるんが大体どんな事を考えてるか分かっちゃったわ」
「珍しい、ねーちゃんにしては思考が冴えてるんじゃない? まぁ、俺にも分かったけど……」
「あ、ちえるん。言わなくてもいいから、散々言われてるし」
「そうなのですか?」
「俺はそんなに似てないと思ってるんだけどなぁ。たまに言われるんだよね……ちえるんとみゃーるんは双子だし似てて当たり前だろうけどね」
「まぁ、よく見た目だけとは言われますけどね」
私がそう言うとるーこさんは「そう?」と、再び首を傾げる。
「ちえるん自身も思っていないかもしれないけど、結構、似ているわよ。例えば食べ物の好みとか、好きな色とか。あと、アレかな……何気ない仕草かな」
「仕草……ですか?」
「うん。2人とも深く考え事をする時、意識的か無意識かは分からないけど顎やおでこに指を当てる癖があるよね」
「言われてみれば確かにしますね……」
何となく癖になっているのは自分でも思っていた。どちらが先にやるようになったかは、自分自身は覚えている。この癖はもうひとりやる人物が目の前にいるのだけど、それは気がついていないようなのでそっとしておきましょう。
「あ、こんな所で立ち話をしている場合では無いですね……」
「確かにそうだね。急がないとダメだな」
そうして私たちは早足で城の中へ向かった。
◇ ◇ ◇
パライシアソスの城、ヴェルハーサ大陸の南端に位置する共和国内の領地では規模の大きい城塞都市であり、その領主であるヴェインゴ・アルガス・パライシアソスは深い溜息を吐き続けていた。
彼は共和国で流通する魔導器を作り出す材料ともなる魔鉱を多く採取出来る魔鉱田の中でも、国内でも最大級の魔素溜であるクリオファス魔鉱田を隣国マイゾ王国に奪われるという失態を犯してしまった。
最高議会の苦情も含め彼は精神的に随分と疲弊していた。
そもそも、彼は魔鉱田の管理に関してはパライシアソスの財務官僚達によって管理していたが、彼らの商会達の活動にとって妨げになるという進言によって駐屯軍の配置を下げ、配備していた人数も随分と少なかった。
彼が考えると全てがおかしかったと気が付いた時には時すでに遅しで、食事中に受けた報告で思わずテーブルにあった食器を叩き割ってしまったと書記官の記録に記載されているほど。
自由商王国の商会が随分と領内に入っていたこと、マイゾ王国の大商会の動きも考えるとおかしかったと彼は頭を抱える。そして、既に粛清済みの我が領の商会や官僚達も随分と賄賂で財を肥やしていたことを知った時は胃痛で厠からしばらく出れなくなっていたとも記載されていた。
そんな彼は現在、議会上層部から依頼を受けてやって来た『外から来た者』達を前に最大級の溜息を吐いた。
「貴公らが例の者達か……はぁ……」
彼の深い溜息に『外から来た者』達は訝し気な雰囲気を出しつつも非常に理性的であったことに領主であり、今回の指揮官である彼は驚きの表情を浮かべる。
「して、貴公らの任務は指令書にある通りのクリオファス魔鉱田奪還作戦への従事だと記載されているが本当かね?」
「ええ、その通りです」
「この指令書はどこまで信用できるかね?」
「さぁ、それは分かりかねます。私共も今回が初の戦となりますので……」
「かなりの上からの命令書を持った『外から来た者』が初の戦というのは、不思議な話だな。ふぁ~……しかし、この書類が本物なのは確かではある」
そう言って彼は魔導器に書類を通して見て、嫌そうな顔をして指令書に受理のサインを記入して彼らにそれを返した。
「はぁ……配置などに関しては従者を遣わすので、どこを拠点としているのかだけ伝えておくとよい。ふぅー、さっさと出て行ってくれたまえ」
「……分かりました。それでは」
彼らは微妙な雰囲気のまま部屋から出て行った。部屋から出て、扉が閉まり数秒後にヴェインゴ・アルガス・パライシアソスは副官である、弟のヴィクトールに視線を向ける。
「して、どう思う弟よ」
「そうですね。議会の思惑もあるのは確実でしょう……どういった者達かというのは誰かつけておきましょう」
「にしても、色々な思惑が渦巻いておる状況で我々だけが放置されている感が拭えぬな」
「全くです。しかし、何よりも目の前の敵を駆逐して魔鉱田を取り戻さねば、何も進展しませんから……」
「だな。我々の慢心と言われれば、その通りだと肯定せざるを得ぬのはどうしょうもないにしても、議会上層部にも随分と奴等に入り込まれているという情報もある」
「ですね。とりあえず、各部署の再配置もなんとか……と、いうところですが……」
「とりあえず、よく分からない者達については端の方に配置して戦況に影響を及ぼすところは避けるに限るな」
「ええ、私もそう思います」
「なんにしても、戦に勝てねば……どうしょうもないな……」
精神を疲弊した領主兄弟は深い溜息を吐き遠くを見つめ、再び大きな溜息を吐いた。
ちえるん「なんだか、幸の薄そうな方でしたね」
るーこ「あー、わかるわぁ」
ちえるん「それに、とてもお疲れの様子でした」
るーこ「あれは禿げそうだよね」
ちえるん「年齢は結構若そうな雰囲気でしたけど、確かに前髪が若干残念な雰囲気でしたね」
るーこ「にしても、凄い溜息だったよね」
ちえるん「ですね。あんなにあからさまに嫌そうな溜息を会話中にされるのって初めてなんですけど」
るーこ「あ、それは私もだわ」
ちえるん「ともかく、信用されていない様子でしたから、色々と気を付けないとダメですね」
るーこ「え? なんで?」
(*‘ω‘) (‘ω‘*)




