バレリア商会
結局のところ、大金貨1枚と金貨20枚で決着が付きました。
クリューヌ・フェルナリートさんは不機嫌そうな顔を終始崩さないほどに厳しそうな顔をしていましたが、私とすれば十分な仕事が出来たと言えるでしょう。
大金貨は金貨で言えば100枚分の価値があり、現在のこの世界で金貨1枚の価値は中流階級のひと月ほどの生活費に相当する。下流……大部分の人々は以前に聞いた話だとひと月の生活費が大銀貨10枚で考えると随分と格差があるようです。
因みに貨幣の価値で基準となっているのが銀貨で銀貨100枚で大銀貨1枚、大銀貨100枚で金貨1枚、金貨1000枚で白金貨1枚となっている。小金貨は金貨10枚分で銀貨や銅貨でも同じだそうで、硬貨の種類でいえば、銅貨、小銅貨、中銅貨、大銅貨、銀貨、小銀貨、大銀貨、金貨、小金貨、大金貨、白金貨とある。
戦闘大陸では各国の共通貨幣が使われているので、基本的にこの国の中だけで流通している貨幣と考えるのが正しいようです。ただ、隣国などでは流通の関係上、大陸金貨では無く各国の貨幣が用いられることもあるようです。
ともかく、私は今回の活動資金として、銀貨で言えば120万枚相当のお金をゲットしたのです。
国の大部分である一般市民と同程度の暮らしでいえば一生遊んで暮らせるほどの大金となります……が、戦争を行う傭兵からすれば、一瞬で消し飛んでしまうほどのお金であると私は思っています。
これにはちゃんと理由があり、それはクオンさんや名斬さんの話を聞いているとよく分かったのです。私達がしている装備のほとんどが一点物の作られた装備なのですが、その材料費を考えると、この世界の人々と随分と乖離しているのです。
それに『外から来た者』である私達と『元からいる者』の間では大きな隔たりが存在します。
彼らは『死』と、いう概念を持っているのです。
彼からすれば私達は外の世界からやって来た異質な人間で、何らかの力で死んでも死んでも蘇って来るのですから。人によれば忌み嫌う人もいるでしょう。
フェルナリートさんも時折、私達を蔑んだ視線で見ていたので、そちらの傾向が強い方なのでしょう。
ただし、『元からいる者』の中に存在する英雄はその概念から外れている者であり、私達『外から来た者』のように『死』の概念からは外れて神の祝福により蘇る身体を持っているそうです。
さて、随分と話が逸れましたが、これにより私達は潤沢とは言い難いけれど資金を得たので遠征準備を始めることにしました。
私と美耶は、まずインベントリに貯まっている魔物の処理を行う為に解体屋へ向かうと言うと、団内全員が興味深そうについてくる事になりました。
「ちえるんもみゃーるんも相変わらずなの?」
るーこさんは私達姉妹の現実な姿を知っているのでそう言う言い方をしたのでしょう。私は笑顔で返事をします。
「最近は行ってませんよ。父と共に秘境へ冒険しに行くのは嫌いでは無いですが、しばらくの間は父を喜ばすと言うのは私にとって最重要の禁止事項です」
「あー、ヌルヌル事件ね。ママと電話してる時に聞いたわソレ」
「何のそのヌルヌル事件って?」
カレンさんが喰いついてきます。できれば思い出したく無い記憶なので封印です……何も考えずに封印しないと闇が漏れてしまいます。
「ヤバいです! お姉ちゃんが闇堕ちしちゃう! 忘れて、お姉ちゃん! 思い出しちゃダメだって!」
「一体……何があったって言うの?」
◇ ◇ ◇
「……も、もう、大丈夫ですよ……」
「ほ、ほんとうに?」
「ええ、何もありませんでした。なかったんです……忘れます、思い出しません……」
「あはは……」
カレンさんは口角を引きつらせつつ、乾いた笑いを浮かべた。私は記憶をとりあえず封印して、通常営業へ精神を戻します……ええ、ヌルヌルやニョロニョロしたことは封印です。
「とりあえず、この話は私がいないところでお願いします。あまり人を傷つけたくは無いので」
と、私が言うと事情を知っている人たちは苦笑を事情を知らない人たちは小さな溜息を吐くのでした。
「ともかくです。ある程度まとまった資金が手に入りましたけれど、どういう使い方をするのがいいか、財務官であるクオンさんの意見を聞きたいと思いますが、どうですか?」
私がそう言うとクオンさんは真面目な表情になり「そうだな」と、小さく呟き考え込むしぐさをする。それを見て、私達は静かに彼の考えがまとまるのを見守る。
「とりあえず……幾つか考えなければいけない事がある。まずは、調査が必要な件と戦場で戦う件について。これに関しては戦場が調査の目的地ということだが、そもそも本当にそれが事実かどうかを調べなければいけないと思う。戦場で戦うスケジュールと調査に必要なタイミングなども計算しておかなければいけないだろう。他にも幾つか気になっていることがある……」
と、言ってクオンさんは少し黙って首を傾げる。
「何か問題でもあるのですか?」
「まぁね。まず、この国の上層部が俺達だけに仕事を依頼しているかどうか……って、ところが疑問なんだ」
「ゲーム的な考えだとありうるんじゃ無いんですか? 正直なところ、私には分かりかねますが」
「いや、それはちえるんが分からないと思う方が正解なんだ。このゲームにおいてはね……何と言っても、このゲームの売りである、リアルな世界っていうのが、NPC……と、いうか世界までもをAIによって作り上げているから、厳密にいえば色々と違いはあるけれど、NPCというのはこの世界の住人と考えて間違いじゃない」
「だから、信用できない?」
「まぁね。信用に足るほどの情報を持ち合わせていないって言う方が正しいかな。こっちは向こうの事なんか知らないんだから、今日会って、今日信用しろって言われても無理だろ?」
「まさにそうでござるな」
「他にも問題が幾つかあるんだ。依頼の話をしている時にバレリア商会って名前が出てきたのを覚えているかい?」
と、クオンさんはそう言ってから、インベントリからポーションを取り出す。
「このポーションは市販品で、この街にある中央市場で購入したものだ。他にも幾つか便利な魔導機も同じ商会から手に入れている」
「まさか……」
「そのまさか、だよ。バレリア商会はこの都市の中央にまで入り込んでいる。ここの職員が使っているインク壺にもバレリア商会の印章が付いていた」
下手をすると、この国の内部にも繋がりがある……と、いうことになる。そして、その中で怪しい依頼が入ってくるとして、理由は何があるだろうか?
「ちえるんはどう思う?」
突然の無茶ぶりですけど、考えるには口に出すのは悪くないと思うのです。
「まずは以前から私やるーこさんがマークされていた。これに関してはこの世界が以前のテストから続いていると考えれば、注目されるのも仕方ないのでは無いか? と、思っています。しかし、その一方であまりにも急展開過ぎる話はかなり胡散臭いです」
「まぁ、そうだよね。正直言って……罠の可能性は高いと思ってる」
「もし罠だとしたら、何が狙い何でしょうか?」
「そこが、イマイチ分からないんだよね……なんにしても調べるとすれば、まずはバレリア商会。それからこの国の現状かな……ただ、戦場迄の時間は思ったよりないから、戦闘開始のブリーフィングまでに戦場へ準備して現地へ行かなきゃならない」
聞いた話によると、国軍の兵は駐屯地などから出兵するが、傭兵に関しては基本的に現地集合というのがこの世界での戦争のルールであるそうだ。
こういう部分は非常に非現実的な仕組みになっているのがとても不思議ではあるけれど、それはそういうものと割り切らないといけない部分だそうです。
「物資調達はバレリア商会でしましょう。とりあえず、心象を良くしておくのは悪いことではないでしょう。装備などに関してはどうしますか?」
私がそう言うとクオンさんは即座に答える。
「まずは、現状持っている武器のアップデートだ。次に予備武器の確保。ポーションとかは購入だろうな、作る事も可能だけど、正直言って効率がいいと言えない」
「それはレベル的に、と、いう事ですか?」
「ああ、その通り。錬金で作れるポーションは現状レベルだと2種類だけど材料費と労力を考えると買った方がいいと思う」
「なるほど……装備など準備に必要な資金はどれくらいですか?」
そう聞くとクオンさんは「ちょっと待ってくれ」と、言ってメモを取りながら何やら計算を開始する。
「まずは防具面の補強で金貨20枚、武器で50枚というところか。向こうまでの旅費はひとり当たり大銀貨30枚あれば……だな」
うーん、実際はもう少し掛かると仮定すると手持ちはほぼ無くなりそうな勢いです。やはり解体ですね。
と、私はまずの目的を思い出し解体屋へ向かうのでした。
みゃーるん「そういえばバレリア商会は?」
ちえるん「後でいいです」
みゃーるん「解体してたら、今日は何も出来ないんじゃ?」
るーこ「みゃーるん、ちえるんは今日は解体に費やす気だよ」
みゃーるん「別にいいんだけど」
ちえるん「全員に仕込むわよみゃー」
みゃーるん「ほ、本気なのお姉ちゃん!?」
(๑╹ω╹๑ )当たり前でしょ(๑╹ω╹๑ )流石お姉ちゃん




