プリンアラモード
目の前に鎮座するプリンアラモード。
結局、三人とも初期所持金をプリンアラモードへ変換することにしたのだった。なぜ、そんなことになったかと言うと、るーこさんが『運動能力に自信があるなら、初期所持金分くらい一瞬よ』と言ったことで、ならいいか……と、いう流れになったのだ。
ちなみに美弥に対して『このゲーム上では、るーこだから、活動名では呼ばないって約束だけ出来る?』と、いう流れで美弥は約束するから、フレ登録して欲しいと言って、強引にフレンド登録をして貰っていた。なお、私も美弥とるーこさんにフレンド登録して貰った。
でも、フレンド登録で何が出来るのか実のところ分かっていないのは言うべきではないと思い、そっと放置している。
「とりあえず、食べよう」
「いただきまーす」
「いただきます」
ほどよい弾力のあるプリンにスプーンを差し込み掬うとプルンと揺れる。黄金色の塊を口の中に持っていく。濃厚な卵の香りが鼻腔を擽り、口へと運ぶ速度を速める。
口内に入ったプリンは瞬時にほろりと溶けて、カラメルの苦みとプリンの甘味が混ざり合った複雑な味が広がっていく。なんとも絶妙なバランスの濃厚なプリンの味に私達は舌鼓を打つ。
「うん、美味しい」
「でしょ?」
「どれだけ食べてもカロリー0なのが凄いですね……」
「あー、食べすぎには注意ね。脳が勘違いして身体壊すよ」
「お、おそるべしVR技術」
「一応、ちえるんは初心者だろうから、説明しておくけど、VRでの再現はかなり現実に近い。だからこそ、脳は勘違いしたりするから、現実生活に影響が少なからずおきたりするのよ」
「だから、感情が高まりすぎたら強制的に接続が切られたりするってことですか?」
「うん、そうだよ。使ってるアバターが現実の本人に限りなく近いモノを使っているのも、そういう影響が出にくいようにっていう慣習からみんなそうしてる」
「そうじゃない人もいるってことですか?」
「まぁね。ただ、ゲームによってはそれようの対策がされたゲームもあるから、一概にダメだってわけじゃないの。このゲームの場合は対策されてないタイプのゲームね」
「対策アリとナシの差ってなんですか?」
「うーん、難しいことは分からないけど、対策ナシの作品は精度が高くて自分の肉体性能や反射神経が必要なアクションゲームが多くて、対策アリの場合は動作アシストが豊富なタイプのRPGが多いって感じかな。どちらも特殊な移動や人並み外れた挙動に関してはある程度のアシストがあるけど、そっちも深度の差って感じかなぁ」
そう言ってるーこさんはペロリとプリンアラモードを平らげる。
「って、るーこさんが私達のプリンを狙ってる!?」
「いあいあ、そんなことないって……じゅるり」
「超絶狙ってるじゃないですかっ!」
そう言って美弥はプリンアラモードを両手で守ろうと必死だ。るーこさんはその姿を見ながら悪戯な微笑を浮かべて「しっしっしっ」と、笑う。
「そういえば、聞きたかったことがあるんですけど」
私は気になっていたことがあったので聞いてみることにする。彼女は楽しそうに「なんでも聞いて」と、言う。
「どうして、私達に声を掛けたんですか?」
ただのお人よしという感じがしなかったから気になっていたのだ。普通、プロで活動するようなプレイヤーが態々そうやって人と関わりに来るとは私には思えなかったからだ。
彼女は私が考えていることを薄っすらと察してか分からないけれど「うーん」と、唸ってから「言っていいものか……」などと言って悩みだす。
「えっと……さっきも言ったけど、このゲームにおいて悪目立ちすることは危険だって言ったのは本当のことだから。ちなみにあんた達に声を掛けたのも私がお人よしだから……なんだけど、それじゃぁ納得できないってことだよね」
「はい、その通りです。妹のことを知っていてご自身の仲間に……と、いうのも無理がある感じだし、なんだか納得の行く理由が見つからなかったんです」
「まぁ、疑うのは悪いことじゃないんだけど、お姉さんとしてはちょっと悲しいかな。一番の理由としては美人な子が二人なんだか楽しそうに話をしてて……その、周囲から随分と浮いていたから――かな」
そう言ってるーこさんは視線を逸らした。
少し頬を染めて恥ずかしそうにそう言った彼女の表情はどこかとても可愛らしい感じがして、思わず私は微笑んでしまう。
「ちょっと……ショックだわ。年下の女の子にそんな風に笑われるのって……」
「って、私のさくらんぼっ!?」
「ふっふっふっ、キミのお姉さんの所為でさくらんぼは犠牲になったのだ」
「ちょ!? お姉ちゃん!」
「って、私は関係ありませんっ!」
「残念だね。ちえるんのさくらんぼも犠牲になったのだ!」
「い、いつのまにっ!?」
フフンと笑う彼女の顔を見て私は思わずドキリとしてしまう。
悪戯っぽい切れ長の瞳。すごい美人でゲームも上手ければそれは人気のあるプレイヤーなのだろう……人を惹きつける魅力があるというのはこういう人を言うんだろうな。と、思っていると目が合ってしまい、私はそんなことを考えていたということを悟らせない為にそっと視線を外した。
「そう言えばるーこさんはソロ予定なんですか?」
「私の場合は傭兵団かな」
「ようへいだん?」
私が首を傾げると美耶が自信満々に指を立てて説明を始める。
「このゲームでは傭兵団っていうプレイヤーの集団を作る事が出来るんだよ。傭兵団はその貢献度によって色んな特典が付与されるの」
「へぇ、そうなんだ」
「一応、それ以外にも色々とあるんだけどね」
と、るーこさんは言って、インベントリからメダルを取り出す。
「これは?」
「αの撃滅戦での上位者特典なんだけど、参加資格自体が傭兵団に所属すること。まぁ、開催されるイベント次第ではあるけど、唯一αからβ時に引き継げたアイテムなのよ」
そう言って彼女は再びメダルをインベントリにしまう。
「まぁ、興味があるなら2人も傭兵団を作ってみるといいよ」
「あ、あの……もし、もしも、私が傭兵団を作ったらるーこさんが私の団に入るっていうのじゃなしですか?」
「お、お姉ちゃん?」
珍しく半端ないくらい美耶が狼狽てる。でも私は後悔なんてしない。
るーこさんは少し驚いたような表情の後で楽しそうに微笑んでから挑戦的な瞳で私を見つめる。
「いいよ。ただし――条件はあるけどね」
プリンアラモード「ふふっ、崇め奉りたま」
(๑>◡<๑)ウマシ
プリンアラモード「あれ? あがめっ……ああっ、瞬殺されっ!?」
(*´꒳`*)御馳走様
プリンアラモード「ああっ」