依頼と報酬
私達は戦争へ参加する為にその準備を行っていた。
具体的には参加する為に移動しなければいけない為の旅の準備が主です。
このゲームの目的である戦闘大陸ヴェルハーサでの戦闘ではなく、共和国の西側国境のヘレイソ平原での戦闘に参加する予定となっています。これに関しては、一度は準備から先にという話だったので、装備や回復薬、野営用の準備――主には野営用の食糧などの買い込み――をしていたところ。妙な噂話を聞いてしまった為に職業案内所にいるリーリナさんに確認を取りに行ったことで、向かう戦場が決まってしまったのです。
決め手となったのは東のラペルト自由商王国の調略によって西のマイゾ王国との関係が急激に悪化しマイゾ王国の軍が西側国境付近に集結しつつあるという情報を得て、共和国も徴募を開始したという流れだそうですが、この話はリーリナさんの上司であるクリューヌ・フェルナリートさんから私達傭兵団『鋳薔薇の森』への依頼として出された話でした。
リーリナさんの上司であるクリューヌ・フェルナリートさんは共和国の情報部門に所属する上級職員だそうです。彼曰く、随分と上の人物が私やるーこさんのことを数日前から調べていたそうです。そこに傭兵団の結成申請が来て慌てて私に繋がる人間を探していたところに、たまたま私達がやって来た――と、なんとも都合のいい話の連続で依頼主側も困惑しているようです。
妙な都合の良さに何者かによる情報介入があったと疑う私達の中でみゃーが言ったのです。
「何にしても分かんないんだったら、飛び込めばいいだけでしょ?」
と、そして、すぐさまに賛同するるーこさん。こういうところは、2人ともよく似ているところです。
そう言えば食事の好き嫌いも似てるんですよね、あの2人。少し妬けますね……と、その話は置いておき、私もすぐに賛同したことで、少し怪しげな話に乗ってクリューヌ・フェルナリートさんの依頼を受ける事にしたのです。
因みに、その依頼とはあることを調査することなのですが、結果的に今回の戦闘に参加することが都合良かったという話だったのです。
今件は対立の原因となっているヘレイソ平原にある都市パライシアソスで起こった事件の調査。
元々、ヘレイソ平原は潤沢な『魔素溜り』が存在しており、同平原内にあるマイゾ王国の辺境都市であるリニアクシスと長きにわたる巨大な『魔素溜り』であるクリオファス魔鉱田の権利を争っている。
争ってはいるが、様々な商会がクリオファス魔鉱田に入り込んでおり、パライシアソスからリニアクシスの通商路も非常に賑わっているので、対立はしているがお互いに商売としては交流がある。と、いう関係なのだが、問題が起きたのはラペルト自由商王国の商会が出入りするようになった事だろうと推測されている。
戦闘大陸南方にある国の中で、共和国、ラペルト自由商王国、マイゾ王国共に非常に小さい国である為に商人の国であるラペルト自由商王国は付近で商売をしていない国というモノが存在しないほどに、かの国の商人は至る所に入り込んでいる。
地方によれば領主に取り入って領地経営に口を出す者もいると言う話を聞くこともあるらしい。
だからこそ、今回パライシアソスで起こった事件が各国に大きな溝を作り上げたと言えるそうだ。ちなみに、その事件とはクリオファス魔鉱田で大量の魔素壺を運んでいた共和国所属のニールセン商会の商団が何者かに襲われて、全ての魔素壺を奪われことに端を発する。
しかも、ニールセン商会は襲われた前日にマイゾ王国の商会であるクゥアレッゾ商会と会合を持っていたことが分かったことで、両都市で溜まっていた鬱憤が爆発し、暴動から戦争にまで発展――と、いう流れで今回の戦争ということらしい。
他の商会からの情報でラペルト自由商王国の商会であるバレリア商会の名前が出てきたことで、共和国の上層部はラペルト自由商王国から調略を受けたのでは? と、いう可能性を考え始めたそうです。しかし、始めた戦というのは早々に畳むということも出来ず、真相を明らかにするにしても、情報が足りない為に困っていた……と、いう話です。
この件に関しては時間を巻き戻して語りましょう。
「それにしても、私達が戦争に参加する意味が分からないですね」
私は思わずそう呟いてしまいます。その場にいた全員が微妙な表情をする瞬間を見てしまいました。
「うん、ちえるんはそう言うと思ったんだよね。私も正直、同意見だし」
るーこさんも賛同してくる。そこで厳しい顔をしたのはクリューヌ・フェルナリートさんで、彼は掛けている眼鏡をクイッと上げて、ワザとらしい咳払いをする。
「確かに、戦闘に出る必要性は無いと言えるかもしれん……しかし、情報源である商会達が現在いる場所はクリオファス魔鉱田なのだ」
「それが一体?」
私は落ち着いた雰囲気で聞き返します。彼は掛けていた眼鏡をずり落としつつ固まります。それを見ていたリーリナさんが焦った風に声を上げます。
「あ、あのっ! ちえるんさん! 現在、その戦場の中心にあるのがクリオファス魔鉱田なんですよ!」
「戦場だったのですね。でも、それではすでに商会の人など残ってはいないのではありませんか?」
「それがですね。魔鉱田というのは地層深くにあるので、表層面は戦場になっても問題無いほどの深い深ーい施設なんです」
「まぁ。それは驚きです……でも、商会の方、もしくは鉱夫の方は凄いですね、地上では戦が起ころうというのに魔素をひたすらに取り出そうとしているだなんて」
私の言葉に先ほどまで固まっていたクリューヌ・フェルナリートさんが理性を取り戻し、眼鏡をクイッと上げて咳払いをひとつした。
「状況的に我が国の商会が魔鉱田に閉じ込められている状態だ。他国の商会も同様だと考えるのがよいだろう……だから、我が国は貴殿らにクリオファス魔鉱田の解放と、事件のあらましを調査して貰いたいと思っている」
「へぇ、面白そうじゃん」
と、るーこさんは挑戦的な目をしてニヤリと笑う。私ってば彼女のそういう表情が堪らなく好きなんですよね。美弥の我儘に負けずとも劣らない破壊力があります。
「いいでしょう。我が『鋳薔薇の森』がその依頼を受けましょう――ただし、満足できるだけの報酬があってこそだとは思いますけど」
私がそう言うとクリューヌ・フェルナリートさんは小さく「ふむ」と呟き顎に手を当てて少しだけ首を傾け目を瞑る。
「フェルナリートさんは考え事をする時、こうするのが癖なんです。ちなみに暫くの間は誰の言葉も耳に入らないので……すいませんが、暫くお待ちください」
「分かりました。それにしても、リーリナさんは変わった方が上司なのですね」
「ま、まぁ……そうですね。どちらかと言うと、ここは変わった方の方が多いので、何とも言い難いところです」
そう言って、彼女は申し訳なさそうに苦笑する。リーリナさんも結構な変わり者……と、思った方がよさそうですね。
「あ、そう言えば……皆さん、実家の方にお泊り頂いてありがとうございます。特に料理長が喜んでいましたよ」
「あ、そういえば彼女の実家だっけ?」
「そうですよ……と、いうかるーこさん達はどういうキッカケであの宿に泊まっていたんですか?」
「んー、大量に魔物を狩ったから贅沢したかった?」
はい、るーこさんらしい答えです。よくよく考えなくても美弥と姉妹って言われても皆が納得してしまうレベルで傾向が似てますよね。私ってば双子なんですけど、美弥とは見た目以外は全く似ていません。
「そういえば、お知り合いだったのですか?」
「偶然の出会いですが、知り合い……いいえ、家族のようなものです」
「ちょ、ちえるん。さすがにそれは言い過ぎだよ」
「でも、現実で従姉妹ですからね。間違ってはいないでしょう?」
そう言うとるーこさんは少し照れたように「まったく……」と、呟く。拗ねたところも、カワイイのです。本人には言いませんが……。
「んんっ!」
と、大きな咳払いが聞こえ、私達はその方へ視線を向けると、再び不機嫌そうなクリューヌ・フェルナリートさんが眼鏡を高速でクイクイしています。
「で、よろしいだろうか? 君も雑談は程々にしたまえ」
「は、はいっ」
「フェルナリートさん……報酬の方はいかがですか?」
「ああ、その件だったな。ひとまず……私の裁量でどうにか出来ることならば、問題無いだろう。しかし、私だけでは判断できないような報酬を望むのであれば、議会へ伺いを立てなければならない」
「議会……ですか?」
「……ああ、そうだ。全く……これだから『外から来た者』は……んんっ、我が国は領主議会に所属する領主たちによって政を行っている国だ。何を決めるにしても議会の承認が必要な場合が存在する」
なるほどです。君主がいない……と、いうことなのでしょうね。その辺りの詳しい説明はクオンさんにでも後で聞きましょう。まずは最も今、欲しているモノを要求することにしましょう……細かい調整はクオンさんに投げて……と、考えているとクオンさんと視線が合う。
「…………」
彼はちゃんと察してくれたのか、微妙な表情をして押し黙ってしまいました。
「ともかくです。私達が報酬として要求するのは傭兵団の拠点となる施設です」
「拠点……」
「はい、我々の活動拠点としてそうですね。ある程度の広さが担保されていて、森や河川が近くにある風光明媚なところがいいですね……」
「そ、そうなると、議会の承認が絶対に必要となる」
「いつ承認を頂けますか?」
「そ、そうだな……」
「できれば、早急に頂きたいのですが?」
「ふむ……とりあえず、候補は幾つかこちらで見繕った上で議会にも上申しよう。最終的な許可が下りるのは任務が成功したと判断したらだ」
「分かりました……あと、一点よろしいでしょうか?」
「ああ、聞こう」
「当然ですが、活動資金に関してはフェルナリートさん、もしくは国が負担してくれるのでしょうか?」
「……そうだな。多少は活動資金として融通しても構わないと思っている……ただし、融資という形をとらせて頂く」
まぁ、失敗すれば大損ですものね……それに、私達は彼らと違い『死』という概念が違います。私達はやはり非現実の中での話なのですから。
「ええ、分かりました。まずは即金で大金貨10枚でいかがでしょう?」
と、私が言った瞬間。部屋が凍り付くのであった。
カレン「大胆過ぎない?」
みゃーるん「まぁ、ですよねー」
ちえるん「でも、戦争ってお金の掛かるものでしょ?」
クオン「そりゃ確かにそうだけどね……」
ちえるん「それに相手は国なので、ちょっとくらいいいかなって……」
るーこ「いいわ、そういうところ。すごくいい」
みゃーるん(あれ? オチないの? ちょっと……不安なんだけど???)
ちえるん「うふふん(*‘ω‘ *)」




