決闘と約束
食事を早く終え、離れにある道場で美耶と組手を終えシャワーを浴びるかどうかの時間を考えていた。
「と、いうか本気なの?」
「ええ、いたって本気よ。そうじゃないとここまで拘ったりしないもの」
「それにしても……本当かなぁ」
「ええ、私が見間違えるわけはないわよ」
私は知っている。あの動きかた、流れ――
それを確かめる為に態々食後、美弥に無理を言って道場に付き合って貰った。そして、私は記憶の中にあるあの動きに確信を得た。
「残念だけどシャワーを浴びる時間はなさそうね」
「んー、多少遅れても文句は言われない気がするけれど……」
「だって、向こうは時間軸が違うでしょう?」
こちらの30分が向こうの1日だと考えると、待ち合わせで15分遅れただけで半日分の遅れとなることを考えるとなんとも微妙な気持ちになるというものです。
「まぁ、確かに言われればそうだけどさ。来なかったら来なかったで、やれることも色々とあるし、しょせんゲームだと思ってればそこまでイライラすることも無いんじゃないかと、私は思うんだけどね」
「でも、相手は生身の人でしょ? 待ち合わせに遅れるというの自体、あまり性に合わないもの。待たせるなら早めに行きたいもの」
「……まぁ、いいけどさ。私はシャワー浴びても間に合いそうだから、お先に浴びちゃうよー」
そう言って美弥は立ち上がり身体を伸ばして道場を後にする。私は美弥を見送りながら、道場の戸締りをしてから母屋に戻って、母に道場の戸締りを報告してから部屋に戻って道着を脱ぎ、部屋の温度を調節して、下着姿のまま、美弥が設定してくれたPCの電源を入れて、ベッドに横たわりVR機器を取り付けて目を閉じる。
『ログイン認証を行います――』
音声によるガイドが聴こえ、私はゆっくりと目を開く。
『網膜パターン確認――脳波パターン読込――――確認しました。ログイン致します』
そしてやってくる浮遊感――
「この浮遊感だけは慣れないわね……」
そう言いながら私は自分の部屋が再現された世界へやって来た。私の姿はまさに私本人でお気に入りのワンピースを着ている――これも美弥が用意したモノなのね。
「美弥ってば、相変わらず可愛いわね」
と、私はそう呟きつつ、机の上にあるメニューからファンタジー・クロニクル・ウォーのアイコンを選択してゲーム内にログインする――
『ファンタジー・クロニクル・ウォー クローズドβテストへようこそ!』
数時間前に聞いたのと同じ音声が再生され、ファンタジー・クロニクル・ウォーの世界が広がっていく。目の前は前回ログアウトした宿屋のベッドに寝転がっている状態だ。
「宿でずっと寝ていたら、部屋ってどうなっているのかしら?」
思わず不思議なことに気が付いてしまい、私は首を傾げた。ちなみに隣のベッドには美弥が寝ているハズ――だったけれど、そこには何も存在していなかった。
「あれ?」
そう思っていると、薄っすらと美弥が寝ていたハズのベッドが現れる。
「んー、お姉ちゃん。おはよー!」
「寝ていた感じは全くしないけれどね」
「気分の問題だよ、気分の」
「ふふっ、気分ね……そういえば、さっきまでみゃーがいたベッド自体存在してなかったのだけど」
「ああ、ログインするまでそこに存在してたら、変な悪戯とかされちゃうでしょ?」
「私はしないわよ?」
「お姉ちゃんはしなくても、世の中わからないでしょ?」
「なるほどね……もう一つ気になってるんだけど、宿の部屋は有限よね?」
「えっとね、確かに有限ではあるんだけど、この宿の規模だと部屋数は見た目以上に多いはずだよ」
「どういう仕組みなのかしら?」
「宿の中で客室フロアは別サーバー扱いだから、別空間だと思っておけばいいよ。部屋の住人が全員ログアウトしている状態だと部屋には誰も入れなくなるってのが基本設定らしいよ」
「詳しいのね」
「ちゃんとヘルプ読んだからね。あ、そろそろ時間だから行かなきゃ」
「うん、そうね」
そう言ってメニューから時間を確認して、私達は部屋を出た。
ちなみにロビーで部屋のキープを4日分先に取っておく。これで、ここが基本のリスポーン地点として登録することが出来るからだ。そうしないと、初期位置か所属国領の主都のどこかでリスポーンすることになるらしい。
正直、現在地とあまり変わらないのでどちらでも良いと私は思っているのだけど、美弥はちゃんとやっておいて損はないというので、従っている。
「お、出て来たね」
私達を待っていたと言わんばかりにるーこさんが宿のロビーで待っていた。
「どうやら、お待たせしてしまったようですね」
「ううん、思ったより早く来ちゃっただけだから、気にしないでいいよ」
「すぐに行きますか?」
「ふふっ、やる気だね。うん、いいよ」
そうして、私達は闘技場へ向かった――
一度カレンさんと来た時に見ただけだけど、自分でルームを作ることを宣言してやって見せる。美弥が後ろからアドバイスしてくれて、なんとかルームを作ることに成功して、その場にいる全員に招待を送る。
「はーい、よくできました」
「が、がんばりました!」
「って、これからだよ」
「そ、そっ、そうですよねっ」
「お姉ちゃん、落ち着いて……」
「だ、大丈夫よ……慣れないことをして、動揺しているだけだから……」
そして、私達は闘技場内へ転送されるのであった――
1日に何度もこの浮遊感を体験するのは出来るだけ避けたいところだ。と、私は思いつつ、視界が開け闘技場内に入って来たことに安心を覚える。
やはり、人は地に足を付けていないとダメですね。
「まずはルールを確認しようか?」
「はい」
「とりあえず、決闘モードで10戦設定ね。そのうちで1勝でもちえるんが勝利出来れば、約束どおりちえるんが傭兵団を作った時にはメンバーとして登録させて貰うわ。これで問題無い?」
「はい、ちゃんと録画しておきましたよー」
「俺たちは立ち合いで来てるだけだから、観戦室へ移動するよ」
そう言って、るーこさんのお仲間たちは観戦室へ移動していく。
「じゃ、お姉ちゃん。私も見てるからね」
と、美弥が心配そうに言って私の両手にソッと手を添える。私は「大丈夫だよ」と、言って美弥の手を握り返してからソッと美弥を抱きしめる。
「美弥、お姉ちゃんの我儘に付き合わせてごめんね」
「もう、お姉ちゃん……千絵のバカ。大丈夫に決まってるでしょ。頑張って」
「うん」
そう言って、私は美弥を放し美弥はとっておきの笑顔を私に見せて彼女も観戦室へ移動する。
「さぁ、始めましょう」
「オッケー!」
るーこさんはそう言った瞬間から、スキルを使った移動で私の目の前に現れ、強烈な一撃を放ってくる。手甲での攻撃は距離が重要で、喰らえばかなりのダメージを追うことは確実だ。
私は素早く『鞘受け』で受け流しながら『一閃』を放つ。しかし、彼女も同じように手甲で受け止める。
「うん、凄い反応速度だね。ホントにゲーム初心者とは思えないよ」
「私も少し驚いているくらいです……でも、初心者なんですよ!」
私はレベル15で獲得した『一閃改』でるーこさんに攻撃をする。『一閃改』は『一閃』より威力は低いけれど、早い剣撃スキルで牽制向けの攻撃だ。しかし、るーこさんはそれを身体を反らしながら躱し、側転をするように動き、蹴りを放ってくる。
「くっ……」
たぶん、スキル系の攻撃なのだろう、刀で受け止めようとしてもそのままダメージを喰らって私は数メートルの距離を吹き飛ばされる。
地面に叩き付けられるのを避ける為に私は身体を捻り、その反動を使ってそのまま立ち上がる。
「へぇ、やるね……でも、逃がさないよ!」
そう言って彼女は移動系のスキルを使って距離を詰めて既に持ち替えていた刀で切り込んで来る。私はそれを『鞘受け』で受け止めようと動くと、彼女は刀の軌道を途中で変え、そのままの勢いで切り込んで来る。
「『霞切り―流―』!?」
レベル20で獲得できる『霞切り』の上位スキルで如何なる攻撃もフェイク技として使える刀系の上位スキルだ。ある程度、予想はしていたけれど、タイミングが悪く――いいえ、私に焦りがあったのは分かっているけれど、そのまま斬撃を喰らい私の視界は真っ暗になる。
そして、すぐに現実に引き戻される。
「まず1勝ね」
楽しそうなるーこさんは自慢げにそう言った。
私はまだ始まったばかりだと深く息を吐いた――
みゃーるん「頑張れお姉ちゃん!」
クオン「すごいぞ、そこだ!」
みゃーるん「あーフェイクだ、すごい! るーこさん、カッコいい!」
クオン「そこだ! ああ、惜しいっ!」
みゃーるん「あれ? クオンさん、お姉ちゃんの応援してませんか?」
クオン「当然じゃないか、何を言ってるんだ?」
みゃーるん「え?」
ええ??(*‘ω‘ ) (`・ω・´)当然でしょ?




