3日目の夜
3日目は午後にパワーレベリングなる地獄のような時間を過ごし、るーこさんに付き合わされてボスまで倒した。それはそれで楽しかったのだけれど、問題はその後だった。
4日目の午後に例の約束が果たされる事になった。しかし、その話が出たのがボスを倒して野営地へ戻ってきた頃で時間的に山を下りるのに6時間強掛かる事を思い出し、今から出ても時間的に厳しいだろうと確認を取ってみる。
「まぁ、なんとかなるんじゃない?」
と、あっけらかんとした返事がるーこさんから返ってくる。少し予想はしていたのでそこまでは驚きはしなかったですよ。
多分ですが夜の間に下りればいいとか思っているんでしょうね。
「本気ですか?」
私はるーこさんに向けて真剣に聞いてみた。彼女は私の表情を見てから挑戦的な笑みを零す。
「ちえるんは出来ないって決めて掛かるタイプかな?」
「出来ないわけではありませんけど、夜の山を下りるのは無謀では無いのですか?」
「現実でやるよりは遥かに現実的な話かな?」
と、やや疑問形の答えが返ってくる。現実でやるより……と、いうところで少し納得してしまう自分がいるところがアレですが、可能か不可能かで言えば可能な話だというのはハッキリしました。
ここで一番の問題は私個人の問題となってくる。美弥は私が言いたいことを分かっているので心配そうに私を見ている。そういう姉想いの美弥は可愛いです。
「実は大きな問題があります」
私は真剣な顔でそう言った。るーこさんは不思議そうな顔をする。考えるとそれが普通なのかもしれない、ここはゲームの中で現実の時間で言えばまだ1時間半も経っていないのだから。
「どんな問題なの?」
「はい、私はどうしても寝たいので今から山を下りるとすれば、到着は明日の早朝となります。多少寝たとしても、それでは私は万全の状態でるーこさんと戦うことは出来ないと思います」
「あー、あと一個問題がありまーす!」
と、ここで美弥が割って入ってくる。
意外なところから声があがったので私もるーこさんも驚きの表情は隠せない。
「して、みゃーるん。いかな問題が?」
るーこさんは小さな溜息を吐いて美弥に質問をする。美弥は少し申し訳なさそうな顔をしてから口を開く。
「いやぁ、私ってば現実時間で2時間って言ったんですけど、このゲームの場合クールダウンがあるので、実質だと約1時間と45分なんですよね」
「あれ? それじゃぁ……」
「はい、明日は午前中でやめてログアウトしないと晩御飯に遅れちゃうんでNGです!」
「えーっと、みゃー。少し教えて欲しいのだけど、クールダウンってなんのことなのかしら?」
私がそういうと、周囲にいた全員が妙に納得した表情をして「そうだよね」と、口々に言った。この場で理解していないのは私だけということのようです。
「えっとね。今って現実と仮想現実で時間の流れって違うよね」
「それは確かにそうね」
「でね、これもゲームによるんだけど……このゲームの場合はログアウトする時はクールダウンって言って仮想現実での時間間隔を少しの時間をかけて現実に戻すための仕組みがあるんだよ」
「マッサージチェアでゆっくりとのんびりする感じよ。なかなかアレはリラックス効果が高い」
「そのような事が必要なんですね」
「正直、技術的なことはぜーんぜんわかんないけど、ともかく脳みそを休ませるって感じなのかな?」
「なるほどね……」
と、私は納得しつつ結局時間的に今晩と明日の午前中しか無いという現実だけが残った。
「うーん、明日の朝早くに出たとしても到着したらすぐにホテルの部屋を取ってログアウトする感じなのね」
「はい、そうなると思います」
「じゃぁ、もし、これから山を下りて朝頃に到着したとして、それから闘技場に行くのは?」
「世の中には徹夜をしても平気な人と、どうしても睡眠を取らないと動けない人というのが存在します」
私は即座に否定する。感覚的にここが仮想現実《VR》の世界であっても、一日という時間軸がある世界では眠らなければいけないのです。
「なるほどね。言いたいことは分かるわ。問題は……なんにしても時間よね。提案としては、まず、これから山を下りるのは確定で。明日の朝に宿とかの手配をして、全員ログアウト準備をして現実で食事や準備をして食後にログインして、約束を果たすってのはどうかしら?」
「ご飯の後だと、現実世界で9時くらいかな? お姉ちゃん大丈夫?」
「ええ、特に用事は無かったと思うからお風呂に入る11時くらいまでなら大丈夫じゃないかな?」
「じゃぁ、それで! って、ことで撤収準備をして山を下りるわよ!」
撤収準備といっても、ここは現実世界では無いとすぐに気づかされる。なんといってもインベントリというとても便利なモノがあるのだから、リアリティを求めるなら重さも考慮すべきところだと美弥が言っていたけれど、リアルすぎると人を選ぶだろうから多少は現実離れした部分もあってよいってところじゃないかしら?
あっという間に撤収準備を終えて、山を下り始める。行きしなは3人だったけれど、帰りは8人と人数が増えて私は不思議な気分だった。しかも、下り始めて少し経ったところでクオンさんが歩く順番を言い出し始めて、るーこさんがそれに同意してその通りの順列で道なき道を進んでいくのは、特に不思議な光景だった。
「一番先頭がみゃーで大丈夫なんですか?」
「ま、大丈夫じゃない? 道は指示するし、それに盾持ちキャラってこの中だとみゃーるんだけだし」
「そういうモノですか?」
「まぁね、一番先頭は防御力がしっかりとしている、いわゆるタンクってヤツ。戦闘集団によって盾役の人数が増える場合もあるかな……戦場での役割だと、前線の維持とアタッカーの補助」
「盾で殴りつけるヤツですね」
「そ、魔物相手でも使うけど、アレは対人がメインの攻撃で、一発頭にでも当てれれば相手はしばらく前後不覚で動けなくなる。動き的には地味だけど戦場では絶対に必要な奴ね。ちなみに仲間内で盾持ちは留守番組で一人いるから、みゃーるんも仲間になるなら大事な戦力ね」
「あれ? るーこさんが私が作る傭兵団に入るって話じゃなかったですか?」
「あら? そうだったかしら? 私が勝ったら、ちえるんもみゃーるんも私と一緒に戦ってもらおうと思ってるんだけど?」
と、るーこさんは自信に満ちた瞳を私に向ける。
「条件の確認ですけど、模擬戦をして10本中1本でも私が勝てば、私の勝ちでいいんですよね」
「そうだよ。ハッキリ言って、私、対人戦で1対1ならそこらにいる人には負ける気は全く無いわよ?」
「確かに……るーこさんは強いと思います。たぶん、ゲームを熟知されているわけですし。でも、私にもチャンスが全くないとは言わせません」
「んー、結構無いと思ってるんだけど?」
「言いますね……」
確かに……やってみないと分からないと思っているところはあるけれど、経験値や理解度からすれば、どう考えても私に勝ち目はなさそう……だけれど、それでも全くチャンスが無いわけじゃない。あくまでも、あくまでも、それは私の中で思っていることが正しければ――だけれども。
「お姉ちゃんもなんで、こんなにムキになってるのか私にはサッパリ分からないんだけど」
「それは私も気になってるんだけど、教えてくれない?」
と、私の後ろにいるカレンさんがそう言った。
「それは秘密です」
素早く私は返事を返す。
まだ、それは言う気は無い。と、いうか本当の理由は誰にも言う気は無い。
「カレンさん、諦めてください。お姉ちゃんはこうなったら誰にも絶対言わないくらい頑固なんですよ」
「硬派なのね」
頑固とは少し失礼な……と、思いつつも多少なりとは自覚があるので反論せずに黙っていることにする。何にしても、山を下りてログアウトして、また戻ってくるまで、脳内でるーこさんと対峙するイメージを固めていくことに集中するしか無い。
山道を結構な速度で下る中、私はそんなことを考えながらるーこさんの背中を追いかけ続けた。
ちえるん「すぅーすぅー」
るーこ「ちょ!? ちえるん???」
みゃーるん「お姉ちゃんは特定の時間になったら自動で寝ます」
るーこ「いや、歩きながら寝るの?」
みゃーるん「大丈夫です。むやみに近づいたら殺されますよ? 自動防衛システムが機動してますから」
るーこ「はぁ?」
みゃーるん「お姉ちゃんは殺戮機械ですから」
るーこ「冗談だよね?」
みゃーるん「はい、冗談ですよ(*‘ω‘ *)」
るーこ「(´・ω・`)」




