山岳の王
大鷲のような鳴き声を上げて、巨大な翼を羽ばたかすと、突風が巻き起こる。
すると、るーこさんは両腕に嵌めた手甲をクロスさせ防御態勢を取りつつ声を上げる。
「飛来物に注意して!」
言ったその先に私は鋭い衝撃を受けて思わず尻餅をついてしまう。しかも、突風に流されてるーこさんとの距離が5メートル近く開いてしまう。
「ちえるん!」
「だ、大丈夫です。少し驚いただけですから……それにしても、小石のダメージは地味に効きますね」
今までダメージというモノをあまり経験してこなかったけれど、身体にチクチクと当たる小石によるダメージでこのゲームを開始してはじめてHPが減るという感覚が分かってくるというのは普通に考えるとおかしな話だろう。
私は継続的に受ける突風によって飛ばされてくる小石を『鞘受け』と『矢弾き』で対応出来そうなヤツは対応していく。
もう少し派手なダメージならストレスにはならないのにコレは厄介ですね。
私は状況確認をしながらるーこさんを見ている、躱す事はせずに手甲で弾き防ぐくらいしかしていない。たぶんだけど、効率重視なのかしら?
そんな事を考えているとるーこさんから注意が飛んでくる。
「無駄に動くと次の対応に遅れるわよ」
「はいっ!」
「アイツが羽ばたくのを止めたら突っ込むから、ついて来て!」
「分かりました!」
魔物が大きな翼を羽ばたくのを止めるのと同時にるーこさんは駆け出す。それについて行く為に私もほぼ同時に駆ける。
「アイツの懐に飛び込むからね!」
そう言ってるーこさんは魔物に向かって突進していく。魔物は大きな鳴き声を上げて鋭い嘴でるーこさんを捕らえようとするが、るーこさんはそれを見事に躱して獅子の懐へ滑り込む。私もそれを追いかけて滑り込んだ。
「私がバランスを崩させるから、攻撃をして!」
「はいっ!」
るーこさんはそう言うと、魔物の後脚に向かって拳を突き立てる。魔物は痛みで前脚を大きく上げて身体を逸らせる。私は刀を突き入れようと動くが、先に相手の前脚の爪が襲い掛かって来る。
「くっ!」
素早く『鞘受け』を使って爪を防ぎつつ、魔物の身体を斬りつける。
「浅いっ!」
「無理に倒そうとしない! さぁ、一気に引くよ!」
そう言いながらるーこさんは数回魔物を殴ってから、魔物の気を引きながら距離を放す。当然、私もそれに合わせて魔物から一旦離れようとする。
魔物は再び大鷲のような鳴き声を上げて大きな翼で羽ばたき突風を巻き起こし、私とるーこさんはそれに巻き込まれてゴロゴロと転がされる。
私もるーこさんはお互いに途中でバランスを取りながら起き上がり、視線を交わす。
すると、るーこさんは挑戦的にニヤリと笑い私を見る。私もその視線を受けて挑戦的な表情で返す。
「アイツはこのゲームではレベル20位で唯一挑戦可能なボスキャラの一体で『山岳の王、エルダーグリフィン』よ」
「なるほど、アレがグリフォンというヤツなんですね」
「他のゲームとか小説とかにも出てくるでしょ?」
「ゲームは分かりませんけど、他の物語には出てきますね。詳細な絵は見たことが無かったので、頭が鷲で身体が獅子で大きな翼を持つということは知っていましたが」
「なるほど、思ったより興味が無かったのね」
「ご名答です」
「ともかく、アイツは高い体力が特徴で特に風系のスキルは要注意。あの羽ばたきで起こる風はスキルだから」
「魔法とは違うんですね」
「まぁ、理論的には良く分からないけど、違うらしいわよ。難しい話は愚弟にでも聞いて」
そう言っている間も魔物は風を巻き起こし続けている。飛び交う小さな石が身体に当たり少しづつだが、HPが削られて行く。
「さて、先にポーション渡したのは覚えてるかしら?」
るーこさんが来てから、念の為という理由で幾つかの回復アイテムを受け取っていた。
「はい、覚えています」
「なら、使い方も覚えてる?」
「はい、アイテムショートカットですよね」
インベントリ内のアイテムはジェスチャリングと呼ばれる人がする動作と結びつかせて瞬間的に取り出したり、使用したり出来るシステムが存在する。
美耶からも教わったので、ちゃんと覚えている。
「じゃぁ、体力が半分まで来ている時は常に飲むように心がけておいて。特に戦闘において敵に突っ込む時は思い掛けない一撃にも耐えれるようにするのが基本だからね」
「はい、分かりました」
「で、アイツってば、風を起こす以外の攻撃で一番気を付けないといけないのは空を飛んでいる状態からの急降下攻撃ね。タイミングは見てたら分かるから。絶対に当たらないように避けて」
私がコクリと頷くと「よろしい」と、自慢げに彼女はそう言うのだった。
「よし、コイツの倒し方ってのは地味だけど、同じことの繰り返しで体力を削っていく……んで、体力が一定まで減ると空へ上がる。そこから数回急降下攻撃をしてくる。出来るだけ躱して躱して隙を突いて殴るってのを繰り返す」
「本当にただの繰り返しなんですね」
「まぁね。ただ、時間が経つごとに攻撃力が上がっていくから直接攻撃だけは要注意! さぁ、行くよ!」
彼女がそう言うと、魔物は羽ばたきを緩めていく。その終わった瞬間を突くのだと、るーこさんは言うように駆ける。私もそれに付いて行く……とても楽しそうな彼女の後を追いかけるだけで、こんなに楽しいのは何故だろうと私は不思議に思いながら。
るーこさんは魔物を挑発するように横っ面を一撃殴り、次の攻撃タイミングに私は割り込んで切りつける。
畳み掛けるように更にるーこさんは回し蹴りを繰り出して魔物の頭にさらに攻撃を加える。今度は彼女の邪魔にならないように魔物の足元に向かって一撃、二撃与えると、るーこさんから「引くよ!」と、声が掛かり私はほぼ同時に身を翻して魔物との距離を取る。
「うん、いい連携だった」
「いえ、るーこさんが合わせてくれているからですよ」
「そんなことないよ……」
と、少し照れながら彼女は歯に噛んだ。
「体力の見方は覚えてる?」
「はい、今、だいたい三分の一程度体力を削った感じでしょうか?」
私は今朝まで全然相手の体力というモノを意識していなかったのだが、相手を注視することで表面的に見えるステータスとして体力ゲージだけ見ることが出来るということを教えて貰ったのだ。
ただし、上位のスキルで相手にステータスを見せない偽装スキルが存在するらしいので、戦場では気を付けないといけないとのこと……。
「ありゃ? もう動きのパターンが変わったわね。もしかして……調整が入ったのかしら?」
と、るーこさんは不思議そうな顔をする。どうやら、想定と違う動きを魔物がしているようだ。
「うーん、私達がαテストの時にボコり過ぎたのかもしれないわ。いい経験値だったから、数日間湧くたびに狩ってたのよね……」
「他のプレイヤーは知ってたんですか?」
「他のプレイヤーが来れないように大量に罠を張って仲間内でここを占拠してたせいで、誰も山に来なくなった」
と、るーこさんは悪戯っ子のようにさらりとそう言った。
「多少、大人気ないとは思ってはいるんだよ。でもね、妨害することがダメなゲームと認められているゲームってのがあるからね」
そう言って彼女は楽しそうにする。このゲームは後者というのは何となく分かっている。そもそも、プレイヤー同士で戦争するのがこのゲームの目的だからである。
「ちなみに、同じ国同士のプレイヤーでも都市や基本となる街道では攻撃するのは違反だからね。ここは扱い的にはPvP上等のダンジョン扱いだからね。って、そろそろアイツが降りてくるわ!」
余裕で喋っていたのは魔物が上空を滑空していたからだ。そして、狙いを定めたと言わんばかりに私達の方に突っ込んでくる。
私達は急いで魔物から逃げ、魔物は一直線に地面に激突し、付近の岩を粉砕する。
「ここの岩棚が平たくなっているのは、アイツが何度も突っ込んでるからという小噺があるらしいわ」
「うーん、すごい石頭ってことですか?」
「アレもスキル扱いだから、頭の硬さとは別かもしれないけどね。もう一度、羽ばたくけど、石頭で砕いた岩が飛んできるから気を付けてね」
「やっぱり石頭なんですね」
と、言っている間に魔物は鳴き声を上げて大きく羽ばたき風を巻き起こす。
状況的には巻き起こされた風は1.2倍増しといったところでしょうか。そして、小石というには大きめの石礫が幾つも飛んでくる。
流石に当たると痛そうなので、大きめの石は『鞘受け』で受け流すか『矢弾き』で相手に打つける。
「思ったより、『矢弾き』のダメージって効いてるわね……ちょっと面白いわね」
と、言って突如るーこさんは装備を持ち替える。
「新しい攻略法になるかもしれないのは楽しいわね!」
「って、るーこさん?」
「私の初期装備はコッチだから、ちえるんとの違いで言えば攻撃特化?」
そう言って彼女も『矢弾き』で石礫を魔物に返すが私よりも大きいダメージが入ったようで魔物の動きが止まる。
私は驚きつつも、カレンさんが言っていた言葉を思い出し、こういうことだったのか、と納得に至る。
「カレンさんが仲間内で和物装備が多いって言ってましたけど、刀使う人って多いんですか?」
「あー、そうね。私、クオン、名斬と今回コッチに来てないメンバーでミソスープってのがメインかサブで刀を使ってるわ。因みにだけど、クオンとミソスープは武器種四種類選択してる変態だから」
「そんな事も出来るんですね」
「まぁね。最終的には武器種も全てコンプリートして全てのスキルが扱えることも出来るわよ……まぁ、普通はしないけど」
「そうなんですね」
「基本的に戦闘中に使えるのは多くて3つくらいかな。武器持ち替えにしても、隙になるから。混戦時は使えないし……さぁ、行くよ!」
と、魔物の様子を見てるーこさんはそう言って駆け出す。私も彼女に言われる前に既に動いていた。
「ここは私から!」
そう言って私は『一刀両断』を使用して魔物に強烈な一撃を喰らわせる。るーこさんは私に合わせるように二の太刀と言わんばかりに『一刀両断』を叩き込む。
『一刀両断』は縦もしくは横の隙の大きな剣撃で相手からの反撃を非常に受けやすい動きの攻撃だけれど、刀の力が最も発揮される攻撃だと私は思っている。
そして、魔物は二の太刀を入れたるーこさんに向かって嘴で喰いつこうとするのを私が『鞘受け』で受け流す。そこにるーこさんが『閃光』でダメージを与えて、私は素早く『霞斬り』を放つ。
魔物は怯んでいるタイミングであれば、『霞斬り』の諸動作である動きの間をゼロに出来ると私は咄嗟に思った。
カレンさんは『一閃』や『一刀両断』のフェイク技と言っていたが、これは初めの基本動作を途中で止めるのでは無く、基本動作の勢いを利用して放つ剣撃なのだと理解している。
「はぁぁぁぁぁっ!」
私は縦斬りの『一刀両断』から身体を捻るように遠心力を利用して横切りへ繋げる動きを選択すると、自身で身体を動かすよりも早く鋭い一撃を敵に与えていた。
魔物の身体に深々と斬り込まれた傷から溢れる血潮、断末魔に似た声を上げ、最後の力を振り絞り私に鋭い爪を入れようと動くが、そうはならない。
「なるほどね。いい一撃だったわ。でもね、トドメは私が頂きよ!」
そう言ったるーこさんは武器を手甲に替えて、グッと腰を落とし、拳士の一撃必殺の攻撃を放った。
まるで風が巻き起こるようにるーこさんの拳が魔物の心臓を突き破り深々と突き刺さる。そして、彼女が腕を引き抜くと同時にその巨体が地面へ崩れて落ちる。
「うし! 討伐完了! やったわね、ちえるん!」
「えっと、は、はい」
無邪気に喜ぶるーこさんの勢いに押されて喜ぶに喜べなかったけれど、敵に打ち勝ったという高揚感が私を支配する感覚は確かにあった。
はじめて美耶以外の人とこういう風に遊んだという私の初めての体験がレベル20でも勝つのは相当難しい相手だったと知るのは暫くしてからのことであった。
ちえるん「グリフォンかグリフィンか」
るーこ「どっちでもいいんじゃない?」
ちえるん「そう言われればそうですけど」
るーこ「フォン派? フィン派?」
ちえるん「…………言ってもいいですか?」
るーん「うんうん!」
ちえるん「正直、興味無いんですよね」
るーこ「あ、わかるわーw」
ちえるん「でしょう?」
キミタチ(´・ω・`)マジカ




