山奥で待つモノ
私達がカレンさんと合流できたのは巨大な狼達との戦闘から小一時間経ってからだった。
崖と並行した道を進んだが、いつまで経っても同じ道へ向かう場所がなかなか見つけられなかったというのもあったが、お互いに深い茂みに入ってしまったのもあり、出会うのに時間が掛かってしまった。
それから更に一時間ほど歩き、幾度か魔物との戦闘があって、レベルが上がりレベル12になった頃にやっとカレンさんと合流出来た。
「ちょっとー、さんざんですよー」
と、美弥がカレンさんに言った第一声がそれだった。彼女は苦笑いをしつつ「ごめんね」と、ちょっと舌を出して『テヘッ☆彡』と、可愛らしくポーズを取った。ちなみに美弥はその瞬間に「『テヘッ☆彡』じゃないよ!」と、突っ込みを入れていたのがとても可愛かったとは言うまでもない。
「カレンさんんはちゃんと下調べしたんですか?」
「αの時は側に上がれる道があったのに、どうも変更が入ってたみたいね。これは私のミスとしか言いようがないわね……上側はレベル16~8の敵が結構出てくるところだったから、ルート的には下側を通る方が楽なのは分かってたんだけど」
どうやら彼女は私達をちょっとした出来心で力量を測った上で合流してから、少し上のレベルの敵でさらにレベルを上げようという魂胆だったらしい。と、いうか彼女の話ではここで引っ張りながら目的地へ向かうのがαでは『修行登山ルート』と呼んでいたらしい。
因みにちょっとした理由で不人気な場所らしく、誰にも邪魔されずに引っ張れるので仲間内では定番の修行ルートだという話しだ。
「実は下側ルートが隠しルートだったっぽいわね」
「アレ、隠しルートだったんですか? 結構、ギリギリな戦いを常に強いられて、すっごく精神点削られた感じなんですけどー」
「でも、経験値は美味しかったと思うんだけど」
「確かに!」
美弥は手をポンと打ってそう言った。普通の同レベル帯の敵からすれば少し強いが、得られる経験値が多いというボーナスがあるという結構意地の悪い設定だったらしい。正直、私としては何を言っているのか分からない。と、しか言えない感じですが……。
「何にしても、ひとまず今日の目的地へ時間までにつけそうだからよかったわ」
「結局、どこへ向かってるんですか? それにもう結構暗いですけど、さすがにこのまま山を下りるってのは難しいんじゃないですか?」
「ま、それはそうね。今日はもう少し行ったところに川があって、そこで野宿をしようと思ってるんだけど?」
「確かに、野宿も平気だとは言いましたけど……」
「みゃー、少し落ち着いて。たまにはいいじゃない、野宿だって」
「問題は宿を取ってるのにお金だけは取られるって話だよー」
「あ、それはたぶん誰かが払ってるから気にしない方向で。仲間の部屋は全員分、明日までは確実に確保って指示がるーこから出てたから、勝手で悪いかもしれないけど、貴女達の分も差し込んでおいたから」
「は?」
用意周到な人ですね。まったく……と、いうことは昨晩か今朝のうちに私達の今日、明日の行動はある程度決められている。と、いうことです。嫌かどうかと聞かれると、嫌ではないですが色々と勝手されるというのも少し癪に障ります。
野宿ということは誰かが晩御飯を用意しなければいけないわけですね……まぁ、少しくらい悪戯をしても、文句は言われないでしょう。
と、私がほくそ笑んでいると美弥が私の表情に気が付いて暗い顔をする。あら、気づかれてしまったみたいです。
「みゃーるん? 大丈夫、なんだか顔色が悪いわよ?」
「えっ、ああ、だ、大丈夫ですぅっ! はいぃー!」
「きゅ、急にどうしたの?」
「何でもないですよー、はい。何もありませんよー」
そう言って美弥は焦りながら不思議そうな表情をしているカレンさんから、頑張って私の機嫌が悪いことを誤魔化そうと必死になっていた。ふふっ、必死な感じの美弥も可愛いものです。
そんなやり取りをしながらも、さらに道を進んでいくと清流のサラサラと流れる水音が聴こえてくる。そして、水場が近くにあるせいか、高度も地上に比べれば高い為か少し肌寒いように感じる。
「少し寒いね……」
「確かにそうね」
私も美弥に同意する。肌寒いとは言ったけれど、貰った装備でなければもっと寒かったことだろう……そういう意味でいえばカレンさんに感謝をしなければいけない。それにちょっと癪に障っただけで、彼女の事が嫌いになったというわけでは無い。
どちらかと言えば好み――では無く、嫌いなタイプでは無いのです。
「そういえば、野宿と言いましたがテントとかはどうしますか?」
「ん? ああ、それは気にしなくてもいいよ。もうすぐ目的地だから……」
この言い方は他に誰かが待っている? と、いうことですか?
そうこう言っている間に山奥の森の中にあるヒッソリとした渓谷へ足を踏みいれ、地面はジトジトして辺りには苔が生えているような場所へやってくる。
「おっ、キタキタ! こっちだよ!」
「るっ、るーこさん!?」
突如現れたるーこさんに私は思わず固まってしまう。
な、な、な、なんてことでしょう!?
「ふふーん、おっどろいた? カレンに聞いたんだけど、カレンのせいで逸れちゃったんだってね」
「え、あ、はい……」
「私達は今回使ってなかったルートだったから、まさか変更されてるとは思ってなくってさ。ホント、ごめんね?」
「い、いえ……大丈夫です。レベルも二つもあがりましたし」
「って、ことはレベル12か……うーん、順調とは言えるかな。明日で残り8くらいが目標だね」
「あ、あの。るーこさんはおいくつなんですか?」
「えっとね。今、18かな。なんだか、いい響きよね『じゅうはち』って」
そう言いながらるーこさんは無邪気に微笑む。ただ、その視界の端で美耶がホッとしている姿を発見。美耶、それとこれとは別なのです。
「…………」
「どしたの?」
「いえ、なんでもありません。そういえば食事はどうなさるんですか?」
「あー、店でシチューとか干し肉とか買ったけど?」
「私が作ってもいいですか?」
「いいの、ちえるん?」
私は満面の笑みで「はい」と答えた。
そして、その時に美耶は気がついたようだ、まだ何も終わってはいない事を……。
「わ、私も手伝おうか?」
「美耶は私の半径5メートル以内に入らないように」
「ちょ、流石にひどいよ!」
「食材の為と私の精神衛生上の問題」
「ううっ、いいもん。るーこさんと仲良くするもんっ!」
と、美耶は駆け出しるーこさんの腕に飛びついた。
「くっ、美耶……」
憧れのプロ選手に絡んで(私への嫌がらせ含め)楽しそうにしている美耶はそれは可愛いのは当たり前ですが、ちょっと意地悪が過ぎるんじゃなくって?
なんてズルイのかしら美耶ってば。くっ、こっち見てニヤニヤしたぁー。
「くっ、ふぅふぅっ。が、我慢よ私、酷い事を言ったのは私なんだから……でもね美耶、事実は事実なんだからね」
謎の物質を製造する妹の特殊能力を恨めしく一瞬思いつつも、それだけは無いと冷静さを取り戻す。
「とりあえず、私が手伝おっか?」
と、ふんわり美人さんがやって来る。彼女がクオンさんのいい人なのね。
「えっと、何かな?」
「いいえ、カレンさんがリア充爆発しろと言っていたので、言うべきか悩んでいただけです」
そういうと彼女はポカーンと絵に描いたように固まってしまう。なるほど、この人は普通の人なのだと認識し、私は少しだけホッとする。
「別に悪気はないんですよ」
「そっ、そう? カレンちゃん他に変なこと言ってなかった? 大丈夫?」
「ええ、他には特に……クオンさんってどんな人なんですか?」
私がそう質問すると彼女は少し困った風な表情をしつつどこか嬉しそうにする。
「るか……じゃなくて、るーこさんとは真反対なタイプ? うーん、似てるところもあるんだけど、るーこさんは超が付くほど思考がポジティブでクオンくんは基本的にネガティヴなんだよね」
「なんとなく雰囲気は分かります」
「でもね、2人とも得意な分野においては超が付くくらい負けず嫌いで偏屈なの。面白いでしょ?」
「確かにそうですね」
「あ、お料理どうしよっか?」
彼女は思い出したようにそう言って首を傾げた。
「そうですね。とりあえず、パパッと処理してしまいましょう」
「そういえばちえるんちゃんは調理師を取ったの?」
「ええ、私でも出来そうなところはこれだったので」
「そっか、お料理上手だものね。一応、私も調理師取ってるから、聞きたいことがあったら言ってね」
「分かりました。とりあえず、下処理をしていきましょう」
そう言って私は途中で捕まえた巨大ガエルを取り出す。カエルは種類によっては毒があるので食べることは出来ないだろうけど、これは食用にもなるカエルを元にデザインされているようなので毒も無く食べることが出来るだろう。
そんな事を思っていると、目の前で彼女は固まっていた。
「えっと、か、か、カエル?」
「ええ、カエルですよ。鶏肉っぽくてなかなかいけます。あ、これは私がやっておくので鶏肉をお願いしもいいですか?」
「鶏肉?」
私はインベントリから、これも途中で仕留めた鳥だ。多分カモの仲間だとは思うけど、まぁ、食べれるでしょう。
「一応、首は落としておいたので、血抜きは必要ないですよ。出来れば羽を毟って貰えますか?」
「どっ、どうすれば、ばばっ、い、いいかな?」
「まずは45度くらいのお湯につけて、ゆるくなったのを確認しながら毟っていって下さい。あ、タライとかってあるんですか?」
「タライはないけど大きめのお鍋なら……」
「見せて貰えますか?」
そう言って彼女は大きい鍋をインベントリから取り出す。と、いうか彼女の名前って聞いたかしら?
「えっと出したけど?」
「ああ、すいません。関係ないですが、名前を聞いてなかったと思い出しまして」
「そ、そうだっけ? 私はしょこらん。えっとよろしく?」
「そういえばフレンド登録って……」
「ああ、そうだね。はい、申請出したよ」
と、彼女は慣れた手つきでフレンド申請を出してきた。私はそれを見つつ、やるな。などと考えながらフレンド申請を承認する。
「で、鍋はそれで大丈夫ですよ。ギリギリですけど入りそうですし。取り敢えずお湯を沸かしましょう」
「だね」
そう言って彼女は鍋を焚火に掛けるための道具を出して設置しお湯を沸かす。
それを見た私はカエルの調理に入る。と、言っても皮を剥いで内臓を取って綺麗に洗って捌くだけだ。
「45度だと、かなり熱めのお風呂くらいの温度だね。これでいいかな……で、やった事が無いから教えてくれないかな?」
「いいですよ」
私はインベントリから取り出した鳥を湯に入れて少し揉みつつ羽毛の抜ける感じを見る。
「お風呂で毛穴が開くのと似たようなものです。これで、毟っていきます……やってみてください」
「うん……はぁ、頭があったら卒倒してたかも……うっ、うまく毟れないよぉ」
「はじめはそんなものです。慣れですよ、慣れ」
「うーん、慣れてもなぁ」
「広い庭があるなら鶏を買って捌けるようになるかも……ですよ」
「いや、無理だし」
「ふふっ、終わったら言ってください。次の作業を説明しますから」
そうやって、私は彼女が羽を毟っているのを見守りながら、大量のカエル肉を捌いて行く。
「終わったよ。こ、これはかなり大変だったよ」
「では次は内臓を取って綺麗に洗います。ナイフか包丁はありますか?」
「うん、包丁があるよ」
「いいですね。それ、私も欲しいです」
「明日が過ぎれば売ってるところ、教えてあげるよ」
「約束ですよ?」
と、しょこらんに約束を取り付けて、鳥の捌き方を説明し、彼女はぎこちないながらも、内臓を取り出して清流の水で綺麗に洗う。
その頃には私は既にカエルの下準備を済ませ、実際の調理に移ろうとしていた。
「そうそう、しょこらんさん。ここにはカエルなんていませんでした。この肉は全て鶏肉です」
私の言葉に彼女は再び固まり「はぁ?」と不思議そうな声を上げた。
みゃーるん「私も料理したーい」
るーこ「私もぉー、いやぁ、無いわぁ」
みゃーるん「無いんですか?」
るーこ「出来る人に任せればいいじゃん」
みゃーるん「それって私が出来ないみたいじゃ」
るーこ「出来てないから任せて貰えないんじゃ無いの?」
みゃーるん「(´・ω・`)そんな事無いもん」
るーこ「いや、みゃーるん?」
みゃーるん「(´・ω・`)ないもーん」