ヌルヌルを越えて
ヌルヌルした子を倒したことで、レベルアップをしたことで新しいスキルが開放され、周囲の安全を確認してから、ヌルヌルした子をインベントリに仕舞い、内容を見る。
「刀は遠距離攻撃を弾く『矢弾き』と強さがアップデートされる度に大ダメージを与えれる『一刀両断』ね。残念だけど魔導機の方は追加スキルは無いわね――でも、代わりに現状のスキルがアップデートされているわ」
武器は装備していることでレベルが上がった時に該当レベルに対応してスキルが開放される仕組みになっているようだ。
「そうなんだ。私の方はメイスで『ストンプ』これはダメージは低いけど、移動阻害を数秒与えるスキルみたい……メイスを地面に当てて砂を飛ばすってイメージか。あと、『ヘヴィアタック』がアップデートされてる。盾のスキルも増えてて、盾を構えた状態でタックルをする『シールドアタック』こっちは仰け反り効果がメインみたい。後、御守りのスキルも開放されてて回復がアップデートされてる」
「なんだか、沢山覚えたのね」
私の言葉に美弥は満面の笑みを浮かべる。ふふっ、いつも可愛い笑顔で笑う妹って天使だわ。
「そうだね。武器種に大体4種類から6種類のスキルがあるらしいよ。でも、持ち替えで設定出来るのって片手に二種類なんだよね」
「と、いうことは4種類までの武器種は扱えるってことかしら?」
「うん、そうなるかな」
そう考えると、私もあと2種類の武器を設定して扱えるようにしておいた方がいいってことかな……うん、また美弥に教えて貰おうっと。
「そういえば、美弥はよく木の上から降りようと思ったわね」
「ああ、致死攻撃に関するtipsをちゃんと読んだからね。落下攻撃は致死攻撃系に属するタイプの攻撃だから、格上の相手にはすごく有効なんだよ」
「なるほど……そんなのがあったのね」
「うん、これで熊がいたとしても大丈夫だよね」
と、美弥は楽しそうに言った。美弥は知らないのだ――熊さんという生き物は木登りが得意だということ。あの日は偶然にお手製のヤリを持っていたし、木の上でも安定性の高そうな枝が存在していたから選択肢としてなりたっただけなのだ。
それに、熊さんが私達に気が付くのがもう少し早ければ、逃げれなかった可能性はかなり高い。
考えると、神様に感謝の祈りを捧げなきゃいけないくらいの気持ちになりますね……。
「みゃー。残念だけど、普通は熊さんがいても木に登って躱すなんて考えたらダメなのよ」
「どういうこと?」
「実は熊さんって木登りがとっても上手なのよ」
「マジで!?」
そんなに驚かなくても良いのでは? と、いうくらいに美弥は驚きの表情を浮かべる。
まぁ、驚く美弥も可愛いのですけど。
「本当のことよ。私が美弥に嘘をついてどうするの?」
「たしかにー。はぁ、まだ午前中だけど、すっごく疲れちゃったね」
「そうね。それにすっごいヌメヌメね」
「だよね……トロロアオイとかヌタウナギのヌメヌメに似てるよね」
「嫌なことを思い出させようとしているのかしら?」
時に父は珍しい物が好きで突如として持って帰ってくる事がある。トロロアオイは紙漉きに使えたからよかったけれど、ヌタウナギだけは許せません。
どうやらお隣の国では食べたりするそうですが、正直言ってごめんなさいである。
しかも悪戯で風呂桶に大量に入れますか? アホですか? シャワーを浴びる時に風呂桶にすくって頭からぶちかけちゃいました、本気で泣きました。もうマジでトラウマです。ヤツメウナギもゴメンです、滅ぼしたいレベルです。母も超絶怒り爆発でした。
「ウナギ怖い……ウナギ怖い……」
「わぁー、お、お姉ちゃんっ! ご、ごめんてばぁ!! しっかりしてぇー」
「はぁっ、はぁっ、こ、怖い夢を見たような……気分だわ。父許すまじ」
「ああっ、パパ逃げてぇー」
くっ、あそこまで自由な父を庇う美耶はなんて可愛いのかしら。
「なんとか、なんとか立ち直ったわ」
「お、恐るべしアレ……」
美耶は私を気遣ってかアレと直接名前を言わない作戦でオブラートに包もうとしています。まぁ、全く包めていませんけど。
ともかく、この忌まわしいヌルヌルをどうにかしなければ不快感が増すばかりでしょう。
「ひとまず宿に戻ってこの滑りを落とそうよ。後、狩った獲物のチェックとかして今日の監視員を待ちますかぁ」
私は美耶に同意して街に戻ることにするのだった。
因みに森を抜けるまでさらに追加で猪と大蛇を数体追加して街に戻った。
◇ ◇ ◇
宿に戻る迄もなかなか大変だった。
ヌルヌルの粘液塗れの女の子が2人街を歩けば、ヒソヒソ声も聞こえてくるというものです。
普段はあまり気にしない美耶ですが、随分と服が透けていたようで……まぁ、私もそうではありますが、見られても対して減る物でも無いのです。
恥ずかしがる美耶も可愛いかったので眼福です。
そんなこんなで、宿に戻り気がつくのですが、先に狩った物を処理しなければ思っているよりお金が無かったのです。
「って、何してんのさキミ達は……」
と、呆れ声が聞こえてくる。
そこにはゴスロリな格好をした女の人です。ゴスロリとは2000年代の初頭に流行ったファッションのひとつで現在も愛好家が多い日本初のカワイイってヤツです。
「ヌルヌルになったので宿でお風呂を借りようと思ったのですが手持ちが微妙でして」
「なるほどね。ま、仕方ないか……私の部屋に来たらいいよ」
「いいんです?」
「いいよ。るーこに頼まれてた件の延長みたいなもんだし」
「えっと……」
「アタシはカレン。ヨロシクネ」
と、少し特徴のある声で彼女はそう言った。
この宿は一部屋ごとにお風呂が用意されているので昨日もゆっくりと湯に浸かり疲れをぶっ飛ばしたのだが疲れが先に来て寝てしまった。
因みに朝方にちゃんと入りましたよ。
カレンさんによるとるーこさん達は個々で部屋を借りているらしく基本的に相部屋に泊まることはないらしい。ただ、例外があるとすればクオンさんの彼女さんだけらしい。
「あ、取り敢えず目の前でいちゃついてたらマジでシバイてもオッケーだから! 思いっきりリア充爆発しろと言ってやって」
「彼女さんだったんですね、あの人」
「るーこの保護者みたいなポジでもあるけどね。あの子はるーこのマネージャーだから」
るーこさんのマネージャー……るーこさんに我儘や理不尽を押し付けられて!? 何だかとてもヤバそうな感じ、この胸の高鳴りは何かしら?
「カレンさん、お姉ちゃんが不思議世界へ旅立ってしまいましたぁ」
「ほっときゃ治るでしょ。早くお風呂入ってきなよ」
私が楽しい妄想に浸っている間に美耶はお風呂を借りているらしく、この場からは居なくなっていた。
「さてと、キミの妹ちゃんが戻ってくるまでに整理しておかなきゃ」
そう言ってカレンさんはインベントリを広げて、ベッドの上にヒラヒラの服を幾つも起きはじめる。
「あ、あの? い、いったい何をしてらっしゃるんです?」
聞くとカレンさんはニヤリと笑い「んー、逆かな?」と、呟いてさらにインベントリから服を出していく。
「えっと何が逆なんですか?」
「取り敢えず、お風呂上がったらね。ほら、妹ちゃん出てくるわよ」
と、言った瞬間にお風呂の戸を開けて出てくる美耶。当然、事情が掴めなくて呆然と立ち尽くす。
「はい、服はコレとコレかな……で、キミも早く風呂に入っておいで」
「は、はぁ……」
私は部屋から追い立てられ、仕方なく風呂場へ向かうのであった。
この世界は中世ファンタジー風ではあるけれど、魔導機や魔導具の存在によって思っているより近代的な生活が再現されている。
私は服を全て脱ぎ捨ててシャワーを浴びる。
ふと、思ったけれど先までの服はどうやって洗濯すればいいのだろう? 出てからカレンさんに聞いてみるしかないか。
お風呂からは柑橘系の果実みたいな香りがフンワリと漂ってきて、私は吸い込まれるように湯船に浸かる。
「はぁふぅ。こ、これは……」
身体の芯から温まる感じ、精神と体力が一気に回復するような気持ちだ。
このままでは寝てしまいそうなくらい気持ちが良いです。けれども、寝るわけにはいかないと私は逃げるようにお風呂から出たのだった。
フワフワのタオルで身体を拭き、同様のタオルで髪の毛の水分を取りながらクルリと包んでおく。
用意されていたバスローブを身に纏って風呂場を後にした。
ちえるん「下着の替えってどうすればいいのかしら?」
カレン「ニヨニヨ」
ちえるん「(´・ω・`)」
カレン「クックックッ」
どうなる? どうなるのぉ?