やっぱり錬金術師?
『神託』を受ける為には別室で行うことが決まっているそうで、リーリナさんについて私達は移動する。
「なぜ別室なのかしら?」
「一応決まりなので、別室からさらに扉がありまして、そこから進んだ先には小さな神殿があって、そこで『神託』を受けて戻ってきます」
「と、いうことは小さな扉が2つあるということ?」
「ええ、入口専用の扉と出口専用の扉となります。なお、出口専用の扉は部屋からは開けれない仕掛けになっていますので、間違うことはありません」
何とも不思議な話だ。美耶はゲーム的な都合だというだろうけど、そういうのがよく分からない私には非常に奇妙な話に思えてならない。
まぁ、特に危険なことなければいいんだけど。
そんなことを考えている間に部屋へ到着する。リーリナさんは鍵を取り出してドアにある鍵穴にその鍵を差込み鍵を開ける。
「ただ職業の指針を示すだけなのに大掛かりよね」
「確かにそうだね。結局のところクオンさんも言ってたけど、一通り取ってしまう流れがαからやってるプレイヤーの人達が考えた結果だからね」
「私が考えすぎなのかしら?」
「どうかなぁ? 他の人がゲームとかに慣れすぎているだけなのかもしれないね。私達にとってそん感じだよねって思ってることでもお姉ちゃんにはすごく不思議な光景に感じることもある筈だしね」
そう言って美耶も苦笑気味である。まぁ、ここはそういうものと思っているしかないかな?
可愛い妹を困らせるわけにもいかないだろうし。
部屋の中は非常にシンプルで綺麗に掃除されており、埃っぽさは全く感じられない。どちらかといえば同じ建物の中なのに別空間があるような感じさえある。
「そういえば『神託』を受ける部屋はここだけなんですか?」
「いいえ、他にもいくつかあるのですが、それでも『外から来た者』の方々が多過ぎて回っていないのが現状なのです」
リーリナさんは申し訳なさそうに言う。ゲーム的には人数配分など考えていないものなのかしら? と、私が思っていると美耶が何か思う節があるのか腕を組み「うーん」と小さく唸った。
「想定外のことがあったのかな……んー、もしかしたら別の理由……可能性としてはあるかもしれない……ま、まぁ、それは後で情報を集めるとして、先に進もう!」
「ええ、そうね」
美耶も基本的に切り替えが早いのです。これは我が家では非常に大事なことです。ジェットコースターに乗せられていたとしても思考切り替えが出来なければ酷い目に遭うことは多々あるのですから。
「では、御一人ずつ御入りください。入ったら通路に沿って進むと小さな神殿がありますから、そこに行けばどうすればいいか分かります。帰りは別の扉から、また通路に沿って戻って来るだけです」
「時間的にはどれくらい掛かるの?」
美耶はしっかりしたコなのです。
「そうですね、概ね10分程度だと思います」
「思ったより時間掛かるんだね」
美耶が時間がかかると思うという事はそういう事なのでしょう。私にはそれが長いのか短いのかの判断材料はありません。
「早い方だと5分くらいで戻って来られるのですが、多くの方は10分は掛かると思います」
「どうするお姉ちゃん? 私が先に行こうか?」
こういう時に優しい美耶はとても可愛い。けれども、私が先に行った方が良いような気がする。何かあった時にすぐに対応出来る人が安全なところにいた方がいいと思うからだ。
「ううん、私が先に行ってみる」
「お姉ちゃんがそう言うならいいよ。何かあったらすぐにメッセージでもいいから送ってね」
「うん、分かったわ。リーリナさん、まず私から行きますね」
「はい、分かりました。よい『神託』がありますように」
そう言ってリーリナさんは扉を開け、私はその扉をくぐって先へ進む。
通路はこの建物の廊下と同じような雰囲気はあるいたって普通の作りだが狭い。人が一人通れれば十分と言っているかの如くだ。
「ふくよかな人は大変かも知れませんね」
前に美耶から聞いた知識ではあるけれど、ネットダイブをする時、本来の身体から逸脱した身体を長時間操作すると現実にも影響が出ることが分かっているらしい。
なので、アバターというのは自分をベースに作るようになっている。故にふくよかな人はネット世界でも大体はふくよかなのだ。
これは母から聞いた話だけど、ふくよかな人が自らの痩せた身体をシミュレートしたアバターを使って、その差を感じることでダイエットさせるお店があるらしい。
さて、そんな事を考えている場合ではなかったですね。
通路の先にさらに扉があり、私はその扉を開く。扉の先には元いた部屋と同じくらいの広さの部屋に祭壇があり、神官の格好をした男の人が立っていた。
「ようそこ、導かれし『外から来た者』。ここは神託の間です。神々と繋がりを持って貴女に最も適した職業を教えて貰えるでしょう。さぁ、こちらへ」
と、男性は一冊の本を書台に広げる。
そこには手が書かれており、どうやら、そこに手を置けということでしょうか?
「ここに手を置けばいいんですか?」
「ええ、手を置いてください。そして、目を閉じて下さい。すぐに神々の意思が降りてくるでしょう」
と、男性に言われて私は言われるがままに手を置き目を閉じる。
すぐに甲高い音が聞こえ、視界が一気に変わる――
真っ暗な暗闇と蒼白い光の線が走っている。幻想的な空間で正直言って色々といきなり過ぎて思考がついていけない。
と、言ってもすぐに心を切り替える為に私は深い深呼吸をします。大丈夫、怖くない……幾度かそう呟いて、息を一気に吐き出す。
「ふぅ……こういうのは一度言ってからにしていただけないかしら?」
落ち着いたのを感じ、私は周囲を再度見回すことで、状況を確認する。
フンワリと浮いた浮遊感というのは人を不安にさせる……特に真っ暗な空間というのが良くない。蒼白い線が幾本も走って何処かに消えて、また浮かぶ。
幻想的ではあるけれど、何もない空間にさらに奥行きを分かりにくくしている感じがある。
そんなことを考えていると、目の前に白い光が現れる。
『ようこそ、導かれれし者。戦闘大陸へ向かう貴女に最も適した力を示しましょう』
そう言うと、目の前にカードが数枚私の周囲をクルクルと周り、その中から1枚が目の前に浮かぶ。
『錬金術師が貴女の運命に最も適した力となります。このまま、その力を受けることを決めても構いません。次に適した力を見るなら、自ら手に取ってみて下さい』
白い光からの声はそう言った。
私は周囲のカードを調べることにする。まずは目の前のカードから最も近いところにあるカードだ。
『農家ですね。豊穣に恵まれし力となります。その力を受けることを決めても構いません。もしくは前に選ばれた力を受けることでも構いません』
白い光からの声を聴きながら私は考える。
錬金術師はINTで農家はSTRの補正でしたっけ……考えれば不思議な設定ね。他にはどんなカードがあるのかしら?
私はそう思い他のカードに手を伸ばす。
『調理師ですね。食の道は高く険しい道だと言われます。貴女はその力を手にして何を創造するのでしょう?』
白い光は皮肉めいた事を言う。私としてはお料理は嫌いではないし、美耶に比べれば比較的マシな方だと思うのですが?
と、いうか何を以って判断しているのでしょうか?
『その力にいたしますか?』
そうですね……クオンさんの話ではこれもINT補正だったと思いますし、私には向いているのではないでしょうか?
と、いうか色んな職業を結局取ることになるハズらしいので、初めはとっつきやすいモノの方が良いでしょう。
「はい、これにします」
私がそう言うと視界が一気に広がって、元いた祭壇に戻ってくる。
このフンワリとした浮遊感はなんとも苦手です。でも、その辺も慣れが必要という感じですかね。
そんな事を考えつつ、私は書台に置かれた本から手を放す。
「『神託』が降されたようですね。その職業を極めん事を祈ります。出口は入ってきた扉の隣りにある扉から戻られますように」
そう言って神官の男性は深々と頭を下げる。
私は言われたとおりに扉を潜り、元いた部屋へ戻った。
「あ、お姉ちゃん。おかえりー」
扉を開けるとすぐに美耶の顔が現れ、私は一安心の溜息をひとつ吐いた。
「なんだか、とても精神的に疲れたわ」
「まぁ、慣れないことをしてるから……かな? じゃ、私も行ってくるから少しだけ待っててね」
と、美耶は足早に扉を開けてその場から去っていく。出来れば本当に早く戻ってきてくれないかしら?
私はそんな事を考えながら、自身の情報に追加されている職業の項目を確認する。
調理師――
様々な食材を扱う職業で料理を作る時に補正値が働き美味しい料理が作れるようになります。
また、レシピを得る事で材料さえ揃っていればレシピから料理を再現することが出来る様になります。
レベルが上がるごとにINTやDEXに補正値がボーナスとして追加されます。
私は心の中で「なるほど」と、呟いて表示されていたウィンドウを閉じた。しかし、分からない事があるので、美耶が戻ってきてから相談しようと決める。
「そういえば、リーリナさん」
「はい? なんでしょう?」
「リーリナさんは、神託を受けに行った事はあるのですか?」
「えっと……はい。ありますよ」
と、彼女はあまり思い出したくないというような表情でそう言った。
「話したくなければ、別にいいのですが……その時のことを聞かせて貰ってもいいですか?」
「私の話なんて、面白くも何もないですよ?」
「そうですか? 少し気になったので……」
「あまりいい思い出では無いですが、いいですよ。『元から住む者』は皆10歳の誕生月に神殿から招待があって、『神託』が降されるか調べるんですが……実は私って受けてないんです」
衝撃的事実が明かされました。
「そんなことってあるんですか?」
「普通は無いんですけど、ちょうどその年は流行病がありまして、神殿側から拒否されたのです。実はそれ以降、受けれていないのです」
「今から受けてみることは出来ないんですか?」
私の言葉に彼女は悲しそうな表情を浮かべて「残念ながら」と、小さな声でそう言った。
「申し訳ありません、失礼なことを聞いたようですね……」
「えっ、いいえ。いいんですよ。私なんかに『神託』が降りるような事は無いと思いますから」
「そんな……でも、もしかしたらでも……」
「いえっ、あったとしても、もう間に合いませんから」
「間に合わない?」
私は首を傾げてそう言うと、リーリナさんは優しく微笑む。
「そうなんです。『元から住む者』が『神託』を受けて力を授かったとしても、その力を伸ばすには最低でも10年は必要だと言われています。なので、今から受けて『神託』が為されたとしても、それを極めるには厳しいでしょう」
リーリナさんはそう言った。
見た目で言えば、まだ彼女も随分と若いハズだ。それでも難しいというのは一体どういうことだろう?
「不思議そうな顔をされてますね……私、流行病を患って今は普通の生活をしていますが、実のところ治っている訳では無いのです」
「そ、そんな……」
「気にしなくてもいいんです。元々、身体も弱く跡取り娘だというのに家の手伝いさえ碌に出来ないのですから」
「ご、ごめんなさい……」
「気にしてませんよ。もし、全ての病を治せる方法があれば考え直しますけど、無理そうなので……それにそんなお金もありませんからね」
ダメです……自己嫌悪に陥りそうです。
私は数回、深呼吸をします。
「もし、貴女を救う事が出来れば……『神託』を受けてみませんか? いつになるか分かりませんが、どんな病でも治せる方法を探してみますから」
「……無理しないで下さい。それに『外から来た者』の方は皆さん戦闘大陸に向かって行くのでしょう?」
「もしかしたら、戦闘大陸にはそういう知識が、他の国にはあるのかもしれない……」
私の真剣な眼差しに彼女は優しく微笑む。そして、ソッと私の手に触れて彼女は口を開く。
「優しく強い貴女なら東の帝国にいるという賢者を探してみてください。昔、不老長寿の技術を作ったとされる人物で数百年の時を生きているそうです」
「うん、探してみる」
「作り話かもしれませんけど……もし本当なら私ももう少し希望を持ってもいいかな。なんて……」
「約束しますから」
「ええ、貴女の言葉。私は信じましょう……でも、これから、戦乱の時代に入っていくと皆が言っています。何よりも貴女が生き残ることを祈っています」
彼女はそう言って優しく笑った。
「たっだいまー! って、ど、ど、どうしたの!?」
ちょっぴり空気の読めないタイミングで登場する美耶も嫌いじゃないです。私は感情をグッと押し殺して「おかえり」と、彼女に笑顔で答えた。
ちえるん「錬金術師って厨二病っぽいでしょ?」
みゃーるん「え? だ、ダメ???」
ちえるん「ま、まさか……」
みゃーるん「ヒューヒュー(´ε` )」
ちえるん(クッ、厨二病のみゃーも可愛いわっ)