恋するコイノボリ?
誰にでも、赤い糸で結ばれた「運命の人」が存在する。女の子は、その人と結ばれる為に、色んな経験をしなければいけない。
幼い頃に夢に告げられたその言葉を信じ、いつ出会えると知らぬ相手を待つのか、探すのか。そして「私」は何者なのか?
5月。
山々は新緑の季節を迎え、景色を薄桃色に染め上げていた桜の花も姿を隠し、当たり一面が緑色に染められる。空の水色のキャンバスに、白い雲たちが時に太陽の色を借りながら一瞬の芸術を作り続けている。その中を時には控え目に、時に悠々と我が物顔で游ぐコイノボリたち。古来より語り継がれる登竜門の伝説も、この国で語られる伝説や由来にもさほどの興味は無いけれど、私は民家の庭先でポツンと彷徨う一組のコイノボリが好きだ。
地方のイベントで、何万匹のコイノボリが何とか川に、とテレビのニュースでみかけることはあるが、そんなことには興味を示さない方の一人だ。ああいうものは、それが良いと思う人が見に行けば良いし、地元でやるから必ず参加しなければいけない訳ではない。勿論それはそれで絵にもなるし、見に行くこともあるが、どうも好きにはなれないのだ。
公園のベンチに腰を下ろして水色のキャンバスをぼんやりと眺めていると、両手を振りながら誰かがこちらに走ってくるのが見える。私はそいつが苦手だ。彼女はコイノボリの集団が好きだ。眺めていると、誰も一人じゃないと感じるらしい。テメーはコイノボリだったのかよ!とツッコミを入れられるほどの長い付き合いではないが、何故か毎年何ヵ所かに私を連れていきたがる。彼女にその理由を聞いたことがあるのだが、聞かなければ良かったと後悔している。「えー、だってタマちゃん魚好きそうなイメージだもん!」
そもそもコイノボリは魚では無いと思うのは私だけか?それよりタマって何だ!変な名前付けんじゃねぇよ!ま、トモダチの呼名を付けるのは間違った事じゃないから許しはしているが、その飼い猫みたいな名前は止めろ!俺にはシッポもヒゲも生えて無いし、それ以前に猫では無い!
心ではそう思いながらも私は、彼女に「タマちゃん」と呼ばれると何故か嬉しそうに返事をしてしまうのだ。
「ニャァ」
ん?まてまてまてまて!今私何て言った?
ほーら、可愛いんだから。などと良いながらうんと背伸びをして私の頭をワシャワシャと撫でようとする彼女の事は、少しだけ好きだ。
なぜ彼女はコイノボリの集団に引かれるのか…