第3話
第3章[俺って逸材?]
見慣れない天井、鼻をつく薬品の香り、流れる非常事態を示すアナウンス………ん⁈
ガバッと飛び起きると周りに鳴り響くアナウンスに耳を傾ける。
『非常事態発生、非常事態発生、街にいる冒険者は直ちにギルドまで来てください!繰り返します!街にいる冒険者は……』
ポケ〜とする俺。状況が飲み込めない。
そんな状況の俺を現実に引き戻したのは、部屋のドアが開く音だった。
『…キリア…目、覚めた?』
『あ、うん。…目は覚めたけど……何があったの?』
『非常事態』
『それは知ってる。何で非常事態が起こったのか聞いてるの』
マイペースな発言に呆れて返すととんでもない発言が飛んできた。
『キリアが魔法使ったから非常事態が起きた』
『え?』
いや確かに魔法を使った後の記憶は一切ないけど……俺のせい?
俺が混乱しているのをお構いなしに質問をぶつけてくる。
『そんなことよりキリア…何者?』
『一般人だけど?』
『…魔法は何処で習ったの…?』
泣きそうな顔で問いかけてくる。
『習ったことなんてないけど?…ていうか使ったのも初めてだよ?』
『嘘をつかないで!』
いきなり 物凄い気迫で憤慨する彼女に驚きながらも恐る恐る答える。
『い、いや、本当の事だし何で怒るんだよ』
『ッッ!』
質問の意図がわからず普通に返すと何故かいきなり立ち上がり部屋を飛び出してしまった。
……去り際に彼女の頬に光るものが見えた気がした…。
……なんとも言えない空気が流れる。
再びドアが開きさっきのアウェー感はドアの音にかき消された。
『さっきエリカと廊下ですれ違ったけど……何かあったの?』
『いや……実は……』
さっきのやりとりを包み隠さず話した。すると、シリアスな雰囲気でこう言った。
『あーなるほど……これは謝ってきた方が良いよキリア。』
疑問を抱いている俺に彼女は続けてかたりだした。
『エリカにとって魔法はね、人生の全てなんだよ』
『…………』
『親の復讐をしたくて、名門の魔法学校に入学して、何年も魔法に人生を捧げてきた人間なんだよ。……君は彼女の努力を一言でへし折ったんだよ。』
理解した。いや、理解してしまった。
途端に胸が痛む。締め付けられるような、押し潰される様な痛みだ。
『…少し外の空気吸ってくる』
『うん……』
何かを察した様に笑顔で手を振ってくれる。…正直嬉しかった……罪悪感で押し潰されそうだったから。
ふらつきながら長い廊下を歩く、寝起きだからかすごい頭が痛い。…正直、エリカが何処にいるのかは見当もつかない。……でも、謝りたい。その一心で彼女を探した。……が見つからず、その日は宿にも帰ってこなかった。
『キリアーそろそろ出発するよー』
『分かった、すぐ行く』
今日は新チームでの初めてのモンスターの討伐だ。この討伐クエストは俺のレベルアップをするためにやるらしい。
魔法使いはレベルが上がらなと魔法が使えない。
一般の魔法使いはレベルアップポーションを使ってレベルを上げるらしいのだかこの街には魔法使いになれる人が20年現れなかった事もありそんなポーションは需要がなくこの街には置いてないらしい。だから最初は寄生させてもらう事になる。
寄生とは言っても初めてのモンスター討伐だ、かなり張り切っていたのだが、昨日の事が頭を過ぎり途端に冷めていく。
限界までブルーになった頭の中は謝らなきゃという気持ちと怖いというマイナスの葛藤が思考の大半を占めていた。
そんな気持ちのまま階段を降りてリサのいるとこまで勇足でかけて行く。
『銀貨二枚と銅貨4枚だよ』
宿のおばさんに料金を渡して宿を後にした。
道すがらリサが『大丈夫だよ、エリカなら多分ギルドにいると思うから』と声を掛けてくれた。俺の心境を察してくれたのだろう。
『ああ……ありがとう。』
エリカがニカっと笑い、話はひと段落する。
『ところで昨日の警報なんだったんだ?』
『……まぁ、言っても信じないだろうから自分の目で見てみたら?今から昨日の場所に行くからさ』
『………分かった』
渋々了承し、ギルドまで黙々と脚を運んだ。
ギルドに着くとザワザワしていた空気は一転、驚きの表情を顔に出した冒険者の皆はリサを見る、そして流れるように横にいる俺に視線を向ける。しかしその視線は驚きではなく値踏みに変わっていた。
『なぁ、視線が痛いんだが……』
『いつもの事だから、それよりあのテーブルにエリカたちがいるよ!』
とたんにドキッとする俺、恐る恐るリサが指差す方をみるといつもどおりの顔をしたエリカとナターシャがこちらをみて早く来いと言わんばかりに手招きしている。
視線の嵐の中そちらに向かうとテーブルには二枚の紙が置かれており、二人はその紙に視線を落としていた。
俺もそれをみたが落書きにしか見えなかった。もしやと思っていたがやっぱり文字は読めなかった。言葉が通じるなら文字も同じでいいのに!
そんな心の声を無視して話は始まる。
『討伐クエスト……どっちにする?』
エリカは昨日の事など無かったかの様にみんなに聞いていた。
『んーコッチは危ないからこいつにする?』
『いや、それの方が危ないと思うぞ』
チラチラとコッチを見ながら話を進める一同。何かハブられているように感じたので無理やり会話に顔をねじ込んだ。
『それ、どんなモンスター?』
『コイツは致死性の毒を持ちその致死率は98%だ。もう一つは人間の様な見た目で剛力の持ち主、簡単に腕を握り潰してくる』
『すまん、俺そんなの相手にできない…違うのでもいいか?』
『あとは…ゴブリンぐらいしかいないけ『是非そいつにしてくれ!』
即答した俺に驚く三人、一番にエリカが講義の声を上げる。
『…やめた方がいい、死ぬから。』
それに同意する二人。…正直何が危ないのか分からない。
毒、腕を引きちぎる、そんな攻撃方法してくる奴より絶対ゴブリンの方が安全に決まっている。
『ごめん、折角みんなが忠告してくれたんだけどやっぱり俺はゴブリンを討伐したい。』
一瞬の沈黙が訪れる、
『まぁいい、いざとなったら私達が助けてやる。だがキリアのレベルを上げる為のクエストなんだからモンスターに一撃ぐらいいれてくれよ?』
『ああ!任せろ!!』
意気揚々と返事をし受付まで持っていき紙
をテーブルに置く。
その紙をみた受付嬢は目を見開き何度も丁寧にクエスト内容を確認して次に俺のランクを確認し一言。
『このクエストは受注できません』
『え?何故ですか?』
『このクエストはAランク以上の冒険者でないと受注することができません。貴方はランクD、最低ランクですよね?例えAランク冒険者に同行してもらうとしてもほぼ確実に命を落とします』
受付嬢の忠告を聞き背筋に悪寒が走りる。
(あれ?俺の知ってるゴブリンって小さくてゲームとかではスライムの次に弱く、序盤の序盤で戦うザコモンスターだと思うだけど…)
周りからの過剰反発に怖くなったキリアはクエストを取りやめようとしたのだが、リサが銀色に光る龍の紋章を突き付けた事で周りの空気が変わる。
『!…龍を穿つ二本の双剣…そ、その紋章は……まさか…神速の双剣! 』
『私達が助けてながらやる、これでも不満かしら?』
顔面蒼白な受付嬢の前で謎にドヤ顔を見せつけるリサ。
『い、いえ…ですが何故あなた方がこんな場所に…いや、何故Dランク冒険者をパーティーに入れているんですか!?』
『キリアには才能があるの、私達を凌ぐ才能がね。それを放って置けなかっただけ』
その話を聞いていた受付嬢はともかく、盗み聞きをしていた周りの冒険者も驚きザワザワとした空気が周りに広がる。
それを遮るように上からリサの頭目掛けて振り下ろされるゲンコツ。『ギャッ』という短い悲鳴を上げ紋章を握ったままビタン!と倒れ伏すリサ。
ザワザワした空気はシーンとし誰もが呆気にとられる中ナターシャは受付嬢にじゃあこれを受けるからと言うと倒れたリサを担ぎ上げ急ぎ足でギルドから出て行ってしまった。
遅れて立ち上がり俺とエリカも後を追う。
ギルドを出るとナターシャは待っていた。
『キリア、これ渡しておく、これで装備を整えて正門前に集合にしよう』
『これは?』
『報酬金だ。昨日のクエストの』
『いや、受け取れないよ!俺何もしてないし…』
『装備を整えるのに必要だろ?それとも金はあるのか?』
『う…ないけど…』
俺がなかなか受け取らなかったのを焦ったく感じたエリカがナターシャから革袋を受け取って俺の手に無理やりねじ込む。
『…私達からのプレゼント、受け取って』
『…わかったありがとう』
『よし!じゃあエリカがキリアの装備を見繕ってやれ。私はこのバカを叩き起こして装備を整えてくる!』
そう言ってピューッと走って行ってしまった。
『じゃあ、とりあえず防具屋行こっか』
『…いいけど…場所わかる?』
『……わからない…』
ため息を一つ吐くと『私がよく行く店でよかったら紹介する……来て』と言って歩き初めた。
……これが悲劇の始まりになるとも知らず……。
『エリカ、さっき受付嬢はリサのこと[神速の双剣]って言ってたけど…もしかしてリサってすっごい有名な冒険者なの?』
黙々と歩くエリカに今まで疑問に思っていた事を聞いてみた。
『………そう、けどちょっと違う…私達は勇者。みんな二つ名を持ってる。私は氷華の魔女、ナターシャは破壊の大剣。』
思わぬ答えが返ってきてびっくりする。
『勇者って魔王を倒すあれ?』
『そう、年に一度冒険者の中から勇者を決める大会がある。私達はそれでなった』
『………なんで俺をパーティーに入れたの?初心者の俺を入れるメリットなんてないよね?』
そう、俺をパーティーに入れるメリットはマジで何処にもない。魔力率は0だから魔法は使えても簡素なものしか使えない。しかも俺はまだレベル1だから魔法を一つも使えない。唯一の救いは魔力量が他人よりかなり多いぐらい。まぁ魔法使えないならどんだけ魔力あっても無駄だけどね……なんか涙出てきた。
心で涙をすすってるとエリカは少し考える素振りを見せると話し始めた。
『……勇者パーティーは私達以外に3つあるの…私達は勇者の中では最弱でこの街でしかパーティーに勧誘出来ない』
『それでも俺を選んだ理由が『話を最後まで聞いて』
一喝されて俺が黙るとまた話し始めた。
話の内容を要約すると、年に一度勇者の順位を決める大会がありそれで勝てば好待遇を得られ逆に負けたものは蔑まれる。
エリカたちはその大会で全敗し迫害された。その中の一つがこの初心者の街『ラース』でしかパーティーに勧誘出来ないと言う事らしい。
『……でも、この街にももっとレベルの高い冒険者がいるでしょ?なんで俺なの?』
『…私達が負けた理由は回復役がいなかった事…魔法使いなら回復魔を使える可能性がある』
なるほど…つまりは俺を回復役としてパーティーに勧誘したいわけか……だかそれなら一つ聞いておかないといけない事がある
『回復魔法って誰でも使えるの?』
俺の素朴な疑問にエリカは苦い顔をして答えた。
『無理…回復魔法は凄くレア…生まれ持っての才能があるかないかで変わってくる』
『そうか』
……とりあえず何故俺を勧誘したのかは分かった。そして絶望した。
(俺、魔力率0ですが⁈才能なんて微塵もないよ⁈)
あははと乾いた笑いを上げ、捨てられる未来を見据えながら重い足取りでゆっくりと目的地に向かうのでであった……
遅くなってすみません!
やっぱりまだチート出来なかったです。
次の次は頑張ります!