第9話 小次郎冒険者になる
アルムの街に入った小次郎ではあるが、盛大に街に迷っていた。何せ何を基準に作られているのかサッパリ分からない。元の世界の街と造りが違い過ぎて迷ってしまうのだった。
「困ったでござる」
小次郎は困っていた、道行く人は沢山居るのだが皆小次郎を避けて行くのだ。誰ひとり小次郎の方を見ようとはしない、目が合えば声を賭けて冒険者ギルドの場所を聞こうと思うのだが露骨に避けられているので聴き憎いのだった。
街の人間からしてみれば、どう見ても怪しい人間にしか見えないから避けて通るのは当たり前だった。髪や目の色が違うし馬に乗って剣を3本も持っている人間に話掛ける奴は居ない、どう見ても危ない人間にしか見えない小次郎であった。厄介事を避けて通るのは普通の人間なら当然の結果であるが、小次郎は自分の姿が危ないとは全く思っていないので不思議な顔をして街行く人達を眺めているのだった。
「やはり、馬の上にいるのが悪いのでござろうか?人を見下している様に見えるでござるからな」
馬から降りた小次郎は馬の手綱を手に持って街行く人に声をかけてゆく。冒険者ギルドに行って冒険者になるつもりなのだ、ついでに今晩泊まる宿屋についても考えないといけない、それに沢山の荷物の中で売れる物は売って身軽になりたいのだ。色々と考えていると顔に焦りが出るのか、益々道行く人が小次郎を避けてゆく。
「ふへ~、弱ったでござる。誰も話を聞いてくれないでござる」
「これ、そこのお方。チョット尋ねたい事が・・・・・・」
「・・・・・・」
小次郎は必死に声を掛けるのだが、声を掛けられた方は絶対に視線を小次郎には向けず、下を向いて急ぎ足で通り過ぎてゆく。誰も厄介事にはかかわり合いに成りたくないのだ。
「む~、又無視されたでござる。この世界の人間は冷たいでござるな」
「チョット!チョット!あんた!」
「何でござるか?」
先ほどの門番が小次郎に声を掛ける。
「怪しい人間がいるって市民から言われて来て見たら、又あんたか!」
「拙者はそんなに怪しいでござるか?」
「だから言っただろう!剣を渡せって。剣を3本も持って馬に乗ってる異国人なんて、怪しいなんてもんじゃ無いぞ」
門番に散々文句を言われたが、何とか小次郎は冒険者ギルドなるものの場所を聞くことが出来た。自分が怪しく見える事は良く分かったが、小次郎は刀を手放す気は全く無かった、刀は武士の魂なので捨てるわけにはいかないのだ。
すこし精神的に参ったが、こういう時こそ武士は食わねど高楊枝である。小次郎は空元気を出して背筋を伸ばして悠々と冒険者ギルドへと馬に乗って行った。
「うむ、ここが冒険者ギルドであるか。大きい建物であるな」
門番に聞いた場所に冒険者ギルドは有った。木造3階建ての大きな建物だ、元の世界の商屋の建物よりもかなり大きい、中々立派な建物なのだが又もや小次郎は困ってしまった。ギルドには馬を停める場所が無いのだ、自分が建物の中に入ると馬に積んでいる荷物がお留守になってしまう。貴重な荷物なので目を離したくは無いし、そうは言っても建物には入りたい。
「う~む、又々困ったでござるな」
小次郎は又々キョロキョロと周りを見渡す。金子を渡して少しの時間馬の見張りを頼みたいのだ、だがやはり誰も小次郎と目を合わせない、異国の風貌と武装がとても怪しく見える為だ。
ここで小次郎の外見に付いて一言。小次郎は元の世界の男としては大柄である、元の世界の男の平均身長は150~165センチ位であるのに対して、小次郎は170センチを軽く超えていた。この世界の男たちと比べても遜色のない身長と体重を持っていた、また森の中で半年ほど暮らしていたために風貌は浅黒く、また村人に熊の毛皮の服を作ってもらったので、見た目は怪しい蛮族風になっていた。その蛮族風の異国人が腰に大小、背中に180センチ近い背負い刀を持って辺りを見渡しいているのだから、一般人は怖がって近づかないのは当然であったのだ。
「困った・・・・・・」
「おじちゃん!困ってるのかい!俺は役に立つぜ」
「うん・・・・・・」
「おじちゃん、俺が助けてやるよ」
目の前に汚い格好をした子供が立っている。街の皆が怖がって近づかないのにこの子は平気な様だ、ただ偉く汚い服をきて髪の毛もボサボサで手足も細かった。
「拙者を助けてくれるでござるか?」
「おじちゃん、この街の人じゃ無いよね。俺が役に立つよ、街の案内が出来るよ」
「冒険者ギルドに入っている間馬の番を頼みたいのだが、出来るか?」
「出来るよ、俺は役に立つよ!」
「それじゃ、少しの間頼むでござる。何か有ったら大声を出すと良いでござる、直ぐに来るでござるよ」
「それじゃこれはお駄賃でござる、用が済んだらまた同じだけ渡すでござるよ」
「うわ~!こんなに貰えるんだ!俺頑張るよ」
小次郎は子供と言えども馬鹿にしたりはしなかった、元の世界では子供と言えども家の手伝いから兄弟の面倒まで子供と言えども大人顔負けで働いていたからだ。目の前の子供もチャッカリてを出して来たので駄賃として銅貨を5枚渡した。ちゃんと番をしていたら帰って来た時に又銅貨を5枚渡す約束だ、元の世界でも契約時に半金、契約完了時に残りの半金と言うのは一般的な契約方法だった。
馬を預けた相手が子供だったので一寸不安な小次郎であったが、少しの間なら大丈夫だろうと思い急いで冒険者ギルドの建物へと入って行った。中に入ると結構な数の人間が居る、小次郎の方をジロジロ見る人間とチラリと見て後は素知らぬ顔をする人間が半々位だった。
小次郎はといえば中の人間を見渡して自分の脅威になりそうな人間を探すが、別段腕が立ちそうな者は居なかったので受付に向けてズンズン歩いて行った。受付に5人居てどれも冒険者らしき人間がこれまた5人ほど並んでいる、小次郎は日本人なので律儀に最後尾に並んで立った。しかし、大人しく立って並んでいるのだが熊の毛皮を着た野蛮人が武器を持って後ろに立っていると不安になるのか列の前の人間が居なくなる。3人ほど前の人間が逃げ出したので思ったより早く小次郎は受付にたどり着いたのだった。
「うむ、日ごろの行いが良いと好い事が起こるでござる」
小次郎は威嚇も何もしてないのに早く受付にたどり着いたので機嫌が良かった。確かに日頃の鍛錬の結果身に付いた武威が周りの人間を押しのけたのだから、日頃の行いは大事であった。
「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ。ご用件は何ですか?」
「冒険者に成りたいのだ、宜しく頼む」
冒険者ギルドの受付は流石であった、小次郎の雰囲気に飲まれることなく普通に対応している。荒い人間が多いので慣れている事も有るが冒険者ギルドの中で暴れる人間は居ないので安心している面も有った。流石にどんなに荒っぽい人間でも大勢の冒険者が居る中で暴れたりはしない、暴れても直ぐに周りの冒険者達に逆襲されるのだ。そして暴れた冒険者はギルドの資格を剥奪されて放り出されるので割に合わないのだ。
「字は書けますか? 書けないのであれば代筆いたします」
「書けるので大丈夫だ」
当時から日本の識字率は世界最高であったし、小次郎は旗本の出であるので文字は漢字も平仮名も書けた、勿論計算も出来る。江戸時代の教育レベルは意外と高いのだ、城の建築等を見ればその水準の高さが分かるだろう。
「何と読むのですか?読めませんが・・・・・・」
小次郎は自分の名前を漢字で書いたのだ、見事な達筆で有ったが受付には読めなかったようだ。仕方ないので名前の横にこの世界の言葉でコジロウと振り仮名を振ってみた。
「コジロウさんですね、では銀貨1枚を払ってください。それで手続きは完了です」
「うむ」
小次郎は受付に銀貨1枚を渡す、そうすると木片が付いた首輪を渡された。これが冒険者の印になるのだそうだ。出世すると木片の種類が変わるのだと受付の人が教えてくれた。
「うむ、世話になった」
冒険者に成れたことに気をよくした小次郎であったが、これから宿を探したり荷物を整理したりやる事が多いのだ。冒険者が金を稼ぐ方法等を聞きたい所だが、急いでいるので今日の所は聞くのを辞めておく、明日落ち着いてから受付の人に冒険者の仕組みについて聞く事にした。そそくさと受付を後にして外に出ようとしていたら外から悲鳴が聞こえた。
「おじちゃ~ん!」
「!!!」
馬を預けた子供の叫び声である、これは何か有ったなと小次郎は大急ぎで出口に向かった。
評価やブックマークをしていただき有難うございます。マイペースで緩々と書いてます、勿論時代考証や設定も緩々です。暇つぶしで見てやって下さいませ。