第5話 小次郎鼻の下を伸ばす
村に受け入れられた小次郎は、午前中は村人に護身術等を教えながら日々を過ごしていた。そして午後からは村の女衆の果物や薬草等の採取の護衛として森に入っていた。
「むふ~う、眼福でござる」
村の娘達の護衛は小次郎のお気に入りである。こっちの世界の女性は中々に体の発達具合が素晴らしいのである、特に小次郎が素晴らしいと思うのは胸である。女性の象徴である胸がこれでもかと言うぐらい主張している女性がいるのである。小次郎の世界では着物で押さえつけられていたせいか、はたまた人種の違いなのか胸が余り大きくない女性が多かったのである。
見るともなく胸の揺れを見て一人鼻の下を伸ばしている小次郎であったが、女性の受けは悪くなかった。なにせ魔物が来ればアットいう間に魔物を打ち払い、女性達に指一本も触らせないのである。少々鼻の下を伸ばすくらい何の問題も無かったのである。
「小次郎、おやつの時間だよ」
「はい! でござる」
そして小次郎は女に弱かった、ご飯のおかわりで嫌味を言われ続けたせいなのか、はたまた生まれつきなのか、女性には低姿勢で丁寧なのであった。これがまた村の女性に受けた、この時代の男性は女性に対して高圧的だったのだが小次郎は全然違うのだ、そして村の誰よりも強かった、見た目は普通なのだが気に入られると結構良い男に見えるから人間とは不思議な生き物である。最初は鬼神の様な強さから怖がられていた小次郎だが、慣れてくると躾の行き届いた番犬の様に思えてくるから不思議である、特に食べ物を与えると満面の笑で美味しそうに食べるので女性達は色々な食べ物を食べさせて小次郎を餌付けしていった。そしてたまに胸や太腿を見せてやると鼻の穴をふくらませて興奮している小次郎を見て面白がっていた。
ただ小次郎、男には容赦無かった。訓練では手抜きもせず毎日男共を半殺しになるまで鍛えていたので、男からは悪魔だと言われて恐れられていた。それでも男達が小次郎に従うのは、強くなければ森で生き残るのは難しいからであった、つまり小次郎に鍛えられると以前より間違いなく強くなれるのだ。そして男達は小次郎の強さの底が見えないのに驚いた、強いとは思っていたがどの位強いのかサッパリ分からないのだ。女衆の護衛で森の中に入っているのは知っていたが、たまに出てくる魔獣を瞬殺するらしい、ゴブリンならともかくオークや狼型の魔物まで刀を使わずに瞬殺すると言うのだから信じられない強さだった。
もっとも小次郎が刀を使わないのは訳が有った、獲物を刀で切ると後の手入れが大変なのだ。砥石も鍛冶職人も居ない所ろでは刀が使いづらかったので使っていないだけだった。勿論小次郎の戦闘力が異常に高いおかげで出来る芸当なのだが。
「小次郎!川に行くよ!」
「むふ~ん!」
女衆が川に行くらしい、川に行くと言う事は・・・・・・水浴びである。小次郎は護衛なので女衆から目を離すわけにはいかないのだ、見たくは無いのだが仕方無いのだ、だって護衛だから。護衛たるもの対象から目を離すなど言語道断!仕方ないのでガン見せねばならんのだ。
こんな風に小次郎は村に馴染んでいた、小次郎が来たお陰で村の付近の魔獣は一掃され、村人は安全に狩りをしたり果物や薬草の採取を行う事が出来る様になった。そして小次郎は村の女衆にチヤホヤされてご満悦な状況だった。だが物事は上手く行く時ばかりではない、良い事があれば必ず悪い事が起こるのだ。特に油断している時に不幸は襲ってくるのだ。
この日も何時もの様に、女衆の採取の護衛を終えて村に帰って来ると村の雰囲気がおかしかった。いつもと何だか感じが違うのだ。村まで後少しという時に異変に気がついた小次郎が女達に声を掛ける。
「感じがおかしいでござる、皆はここで待つでござる」
「え!何か変なのかい?」
「うむ!嫌な感じがするでござる。拙者がチョット行って見てくるでござるよ」
何時もは陽気な小次郎が真面目な顔をしている。魔物を狩る時と同じような雰囲気をまとっている小次郎の言葉に女達は素直に従った。そしてそれを見た小次郎は物凄い速度で村に向けて走り出した、何だかすごく嫌な感じなのだ。
そして、村に駆け込んだ小次郎が見た物は目を覆いたくなる様な物だった。小次郎に食べ物をくれた老婆が血を流して死んでいる、小次郎に肉をくれた老人が倒れて血をながしている、そして小次郎が剣術を教えていた子供が口から血を流して呻いている。村の地面には馬の足跡が沢山有り、騎兵に襲われた事は直ぐに想像できた。丁度若い者たちは狩りに出かけていて村に残っていた者は大半が老人と子供ばかりだったのが仇になった様だ。
「何が有った!」
「馬に乗った奴らがイキナリ襲ってきたんだ、食物と女を攫って直ぐに逃げていった」
むらで助かった者たちに聞いた所ろ、10騎程の野盗が襲って来たそうだ。皆も戦ったが騎兵相手では分が悪かった、抵抗した者は殺され、若い女が何人か攫われたそうだ。
「どっちの方へ行った!」
「あっちだ」
「待っておれ!直ぐに取り戻してくる」
小次郎は激怒した、小次郎に親切にしてくれた者を殺すとは許せない。おまけに若い女を攫うとは言語道断! 見るだけで我慢していたのに何て事をする畜生であろうか、皆殺し決定である。
村人に聞いた方向へ全力で走る、馬の蹄の跡を追うので簡単だ。それに早くしないと女たちが心配だ、折角小次郎が守ってきた女達が野党に犯されてしまう。女達を思いだし激怒して、食べ物をくれて親切にしてくれた老人達が無残に殺されたことに更に激怒して小次郎は森の中を全力で走る、その速度は最早馬と変わらない。何時もは隠している殺気を隠すこともなく放っているので、森の魔獣や獣たちは小次郎の進路からは皆逃げ出して小次郎の疾走を邪魔する者は居なかった。
そして森の小道に入る馬の蹄の跡をつけて行くと、少し開けた場所に馬が10頭程繋がれているのを見つけた、女の悲鳴やくぐもった声が聞こえる。
「見つけたぞ!畜生ども、皆殺しじゃ!」
獲物を見つけた小次郎の目が怪しく光っている、この世界にきて始めて腰の刀を抜いた小次郎、左手に小刀、右手には大刀、そして背中には大太刀。月影無限流師範代、小次郎が始めて本気を出した瞬間であった。