第2話 小次郎の人助け
「腹減ったでござるな」
森の中に入って来たが何も無い、腹が減って来たのだが木ノ実なんかも無いので小次郎はホトホト困っていた。このまま飢え死にと言うのも情けないものだな等と考えていた。
小次郎は3男とは言え旗本の出自である、贅沢は出来なかったが飯だけは腹一杯食わせて貰っていた。道場の稽古で2~3日飲まず食わずと言う事は有ったが基本的に毎日2食腹一杯食っていたのだ、いや言いすぎた、遠慮しながら腹8部程食べていたのだ。
「困ったでござる、せめて水だけでも飲みたいでござるな。木でも齧って見るのも一興でござるな」
幾ら歩いても誰にも出会わないのだ、相当な僻地か田舎なのであろうか?神隠しと言うのも大概に酷いものでござるな~等と考えながらも傍から見ていると余り困っている様にも見えなかった。小次郎は生まれつき緊張感というものが希薄であった、常に飄々としてヘラヘラ笑っているのだ。周りがそれを咎めると直ぐに謝るのである。しかし謝ったからといって行動に変化は見られなかった、道場にしても格式の低さを長兄から咎められても絶対に辞めたり変えたりはしなかった、ただ謝るだけである。つまり小次郎は物凄く頑固なのだ。
腹は減っても武士は食わねど高楊枝である。すたすたと早足で歩く、現代人と違い小次郎の足は丈夫である。草鞋を履いた足で一日20里(80キロ)位は平気で歩くのだ、そして粗食に強く体はやたらに頑丈である。そして目も耳も非常に優れていた。
「む!」
森の中から悲鳴が聞こえた、なにやら切羽つまっている様だ。困っている者がいるなら救うのが人の道である、腹が減って目が回りそうだが小次郎は駆け出した。森の中なので距離感は上手く掴めないが、大した距離では無いはずだ。恐ろしい勢いで走り出した小次郎は無念流の走法を使い人間の限界を軽く超えた速度を出す、現代ならばオリンピック新記録を出す程の速度だ。
木の陰から小次郎が飛び出すとそこには緑色の変な生き物3匹に囲まれた少女が居た。少女は悲鳴を上げながら手に持った籠を振り回し緑の化物を追い払おうとしていた。
「大丈夫でござるか?」
「!!!!」
森の中から飛び出してきた小次郎を見て、少女と3匹の化物は固まっていた。頭の上に変な黒いものを乗せた変な格好をした変な人間だと思ったのかも知れない。
「「「ギャギャ!!グギャ~!」」」
少女を襲っていた3匹の魔物が小次郎に向かってきた。小次郎の方が危険度が高いと思ったのかも知れない、小柄だが醜悪な顔をした生き物だった、この世界ではゴブリンと呼ばれている魔獣だ、しかし小次郎には残念ながらラノベの知識は無かったので分からなかった。
「むむむ、面妖な!妖怪でござるか」
いきなり襲い掛かって来た魔物は3体、いずれも小柄で醜悪な顔をしたゴブリンだ。小柄だが牙も爪も鋭く噛まれると痛そうだ、大体中型犬程の強さを持っている様だ。
現代人なら急な戦闘行為等は経験も知識も無いので無理だが、小次郎は戦闘のみに特化した武士、そしてその中でも剣術修行一筋に20年を費やした武人である、向かい来る3匹のゴブリンを刀を使う事もなく手刀で首筋を叩いて始末していった。刀を使うまでも無い敵と認識したのであった。
「へんてこな生き物でござるな、緑色なので河童の出来損ないで御座ろうか?」
ゴブリン3体を軽く素手で始末した小次郎は襲われた少女の方を見た、そしてゴブリン以上に驚いた。
なんと少女の髪は見た事も無い色をしているのだ、髪は金色で瞳が淡い青色なのだ、これが噂に聞いた南蛮人なのであろうか? 等と考えていたら少女の方もこちらを見て驚いている様だった。2人でお互いに驚いた顔をしていたのが面白かったのか、それとも緊張が溶けて嬉しかったのか突然少女が笑い出した、嬉し泣きって奴かも知れない。
「ハハハハ~!」
「元気が出たようで何よりでござる」
「@@@@@@@@@@!」
「??? 何を言っているのか分からないでござる」
少女がこっちを見て何か言っているが全く分からない。小次郎が聞いた事のない言葉だった、大層聞きづらい方言が有る事は知っているが、そもそも小次郎の言葉とは全く違う感じがした。でもまあ何となく感じるのは自分に対して感謝している様な感じはしたので、気にしない様に一応言ってみた。
「何を言ってるか分からないでござるが、気にする事は無いでござるよ」
人懐っこい笑いを上げながら小次郎は言った。少女は何かを悟ったかのようにいきなり小次郎の手を掴んで歩き出した。
「これ、チョット待つでござる!オナゴがいきなり男の手を掴むとはハシタナイでござるよ」
「@@@@@@@@@@」
少女は小次郎の言葉を聞いても平気でニコニコしながら、森の奥へとずんずん歩いて行く。この変わった少女は偉く積極的でござるな~等と思いながら、どこにも行くあての無い小次郎は大人しく少女に手を惹かれて歩いて行った。
そして歩くこと小半時、こじんまりした村の様な所にたどり着いた。見たところ木を切り倒して切り開いた村の様だ、住民は全部で100人程度の小さな村の様だった。住人はやはり小次郎とは違う様である、髪の色や肌の色が少し違う様である。
「やはり拙者は南蛮の国に来たようでござるな」
手を引いていた少女が村の中へと走って行き一人取り残された小次郎は、村人達の格好が自分とは違うことに気がついて小さな声でつぶやいた。
「言葉が通じないのは困ったでござる、せめて水くらいは欲しいでござる、出来れば食物でも恵んでもらえると嬉しいのでござるがな~」
流石に腹が減ってもう動くのもきつくなって来た小次郎であった。戦うのは全く気にならないが、腹が減るのだけは嫌いな男であった。
腹が減って動く気力も無くなった小次郎は村の入口でボ~っとして立っていると、村から少女に手を引かれた大柄な老人がやって来た。大柄な小次郎と同じ位の背丈でガッシリした見た目の老人である、何となく威厳が有るのでこの村の長老かも知れないな等と思っていたら、目の前に来た老人が話しかけてきた。
「@@@@@@@@!@@@@@@@!」
「はは・・・・・・、分からんでござるよ」
最初から期待はしていなかったが、当然の様に言葉は分からなかった、そして仕方ないので愛想笑いを返す小次郎であった。村長らしき老人は大きく頷くとポケットからネックレスの様な物を取り出し小次郎に差し出した。小次郎は訳が訳が分からないので村長の手にあるネックレスを見ていると、少女がネックレスを手に取り自分の首に掛ける動作をして小次郎をチラチラ見ていた。流石に鈍い小次郎もネックレスは首に掛ける物だという事に気がついた
「首に掛ければ良いのでござるか?お守りみたいな物でござろうか」
「掛けたでござる」
「若者よ、儂の言葉が分かるか?」
「な!・・・・・・分かるでござる!」
「良かった!これでちゃんとお礼が言える」
老人に渡されたネックレスは異種族の言葉が分かる様になる魔道具だった。この国の村長や町長等は異種族と話をする為に持っている物なのだそうだ。本来は交易等の時に使う物なのだそうだ、お陰で言いたい事や聞きたい事が聞けるのでお互いホットしたのだった。小次郎の言いたいことはただ一つ。
「ハラヘッタ!ナニカクワセテ」