第11話 小次郎養い親になる
子供を助けて貰ったお礼に食事をご馳走する事にした小次郎だが、この街の事等何も知らない。そこで何処に行けばいいのか老人に聞いてみた。
「ご老体、拙者この街に来たばかり故何も分かりませぬ、丁度良い所が有れば教えて頂きたい」
「ふむ、良かろう。ついでにこの街の事も飯でも喰いながら教えてやろう」
老人に連れられて宿屋と食い物屋が併設されている館へとやって来た。ここは旅人が泊まったり食事をしたり出来る場所なのだ。安くて美味い物が食えると老人に教えてもらった。元の世界では独身であった小次郎は良く屋台で色々な物を食べていた、蕎麦、天ぷら、団子、江戸時代後期は意外にも外食産業が盛んであった、味付けも味噌や醤油、鰹節や昆布の出汁を使っていた。全て自然食品、公害の汚染が無いのである意味、現代よりも良い物を食っていたとも言える。因みに和菓子などは当時から有った模様。
「ご老体、適当に注文をして頂けますか。拙者何も分からない故に」
「良かろう、予算はいかほどじゃな?」
小次郎は馬鹿正直に所持金の金額を告げた。小次郎は相手を信用したらトコトン信用するのである、裏切られたならそれは自分の見る目が無かったと言う事である、全て自分の責任だと割り切っていた。
村長からもらった金は大して多くなかった様で老人は遠慮がちに食物を3人分注文した。全部で小銀貨3枚だった。ここでは注文と同時に金を払うのだ、多分食い逃げが多い為であろう。なにせ街中で強盗がノウノウとしている程治安が悪い所なのだ。
「そうじゃ、まだ名を名乗っていなかったな。儂の名前はシンと言う、B級の冒険者じゃ」
「これはこれはご丁寧に、私の名前は小次郎と申します、今日冒険者になったばかりの者です。因みにここに来る前は森の中の村で半年ほど暮らしていました」
「そういえば、お前の名前は何だ?」
「俺の名前はココ」
老人と話して居ても子供はニコニコしていて非常に大人しい。慣れない場所に緊張しているのか、少し顔が引きつっている様にも見える。
「適当に注文したが、食えるかな?」
「俺何でも食うよ、嫌いな物は腐った物」
「ハハハ、それなら大丈夫じゃ。ちゃんとした物が出てくるぞ、美味いぞ」
来た食物は野菜と肉片の浮いたスープ、パン、肉を焼いた物の3品だった。スープも肉も岩塩が掛かっているだけのシンプルな味わいだった、日本の食物からすれば物足りないが、日本では肉は鶏肉しか食えなかったので腹持ちの良い肉はありがたかった。
「うめ~、こんな美味しいもの始めて食った!」
「そうか、好きなだけ食え。儂は歳じゃから肉を分けてやろう」
「うむ、子供は食べるのが仕事じゃ、足りなければ頼んでやるぞ。好きなだけ食うと良かろう」
ココは運ばれて来た食事を大喜びで食べている、先ほど死にかけたのに凄い回復力だった。親切な老人は流石に肉は辛いらしくココに半分ほど分けてやっていた。小次郎は出てきたものは何でも残さず食べた。
「シン殿、先ほど子供を治した不思議な技は何でござるかな? 差し支え無ければ教えて頂きたい」
「ああ、あれは回復魔法じゃよ。儂は回復師として冒険者をやっていたのじゃ。仲間が怪我をしたり毒にやられた時に働くんじゃ、儂がBクラスに成れたのも全て仲間が居てくれたお陰じゃよ」
「ほ~、それは大したものですな。厳しい修行をして身につけたのでしょうな、私と違って人の役に立つ技でありますな。私は剣術しか出来ませぬからな」
このご老人はもう30年も冒険者をやってるのだそうだ、回復魔法の使い手は貴重なので仲間が守ってくれるのだそうだ。それでも流石に老体で冒険者は辛いので、そろそろ引退を考えているのだそうだ。因みにBクラスに成ったのは20年以上も前の事だそうだ、回復師は戦闘能力が無いので仲間の強さ次第でクラスが決まるのだと笑いながら話していた。
「しかし助かりました、子供が怪我や死んだりしたらココの親御様に申し訳が立たない所ろでございました」
「え!俺親なんかいないよ」
「何だと。一体どうやって暮らしておるのだ?」
「街で色々な事して暮らしているんだ、人の役に立つとお金や食べ物を貰えるんだよ」
「そうでござったか・・・・・・」
どうりでこの子が役に立つ事を強調するはずであった、この子に取って人の役に立つ事は生活の糧だったのだ。子供が独りで生きていくとは想像を絶する苦労があるであろうに、それでも先ほどの腐れ達の様に外道に成らないとは見上げた子供であった。それと同時にこの街の人間の冷たさに腹を立てた小次郎であった。もとの世界なら子供は近所の大人たちが引き取って育てること等は普通であったのだ、長屋では誰の子供か分からない子供たちが沢山いたのだ。現代人よりも江戸時代の人間の方が鷹揚だったのかも知れないし、心根が豊かだったのかも知れない。少なくとも金が不浄の物と言う考えがあっただけ現代人より高尚だったのは間違いない。
「・・・・・・」
「どうするつもりじゃな?」
小次郎が難しい顔をして考え込んでいると老人が何かを感づいた様に声を掛けた。目が笑っているので小次郎の考えが分かったのかも知れない。
「ココよ、拙者と一緒に来るか?贅沢はさせてやれぬが、食う位は大丈夫だ・・・・・・いや、大丈夫な様に頑張る」
「え!俺を貰ってくれるのかい、おっちゃん」
「うむ、ココは見所が有るからな、拙者が色々と教えてやろう。読み書き算盤、それと剣術等をな」
「俺頑張るよ!おじちゃんの役に立つよ!」
異世界に来て半年、嫁も居ないのに小次郎は子持ちになった。一人では無くなったので無茶は出来無くなったのだ、今までは好きな様に生きて野垂れ死んだら良いと思っていたのだが、これからは簡単に死ねなくなった、これが大人になると言う事なのだが小次郎はまだ気づいて居なかった。
その日の夜は小次郎とココは老人の家に泊めてもらった、老人は一人暮らしなので遠慮しなくて良いのだと笑っていた。長年の冒険者生活で貯めて買ったという家は一軒家で洒落た家だった。




