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サムライ異世界へ行く  作者: ぴっぴ
第1章 サムライ異世界へ立つ
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第1話 小次郎

 小次郎は旗本の3男であった。幼少の時から剣の才能が有り、道場でも5指に入る程の腕前だった。だが今は平和な時代、剣よりも算術の方が喜ばれる時代だったのだ。


「小次郎、お主は又道場なのか?今の世の中剣術より算術だぞ」


「申し訳御座いません兄上、拙者算術はとんとわかりませぬ」


「そんな事だから嫁の来ても無いのだ、精進するが良い」


「申し訳無い・・・・・・」


 今日も長男から嫌味を言われながらも小次郎は道場へと行く。旗本とはいえ300石摂りの貧乏旗本なので3男の小次郎は肩身が狭かった、士官する宛でも有れば少しはマシなのだが今は平和な時代なので剣術しか取り柄のない小次郎に士官の話は全く無い、つまり無職なのだ。そして毎日無駄飯を食べているので長男、次男から事有る毎に嫌味を言われているのだ。


「はあ~、せめて有名な流派なら士官出来たんだがな・・・・・・」


 小次郎の通う道場は田舎の道場である。江戸の有名な道場で強ければそれなりに士官する事も有るのだが、金の無い小次郎は安い道場しか通えなかったのだ、しかし小次郎の剣の才能はそれなりに有り、3歳の時より精進していた剣術は今では師範代を務める程になっていた。つまり道場のナンバー2である。


「小次郎、いい加減道場を継ぐ気になったか?」


「いや~、ちょっとお待ちくだされ師匠。実家が色々やかましくて・・・・・・」


「ふん!臆病者め、実家の顔色を伺うなど軟弱な奴!」


「申し訳有りません」


 この小次郎、剣術の腕は立つのだがいかにも気が弱いのだ、幼少の頃から長男、次男に虐められてきたせいで自分に自信が無いのである。師匠からすればそれがいかにも歯がゆい、剣を取れば無敵に近いのに直ぐに謝るのだ。気に食わなければ剣で叩きのめせば良いのに、この男は争いを避けてしまうのだ。


「謝るでない! 武士ならば力ずくで何とかする気概を持たんか! 馬鹿者めが!」


「申し訳御座いません」


「貴様~!!! 謝るなと申しておろうが!」


「・・・・・・申し訳御座いません」


 師匠に度々言われてもこの男は気が弱いのだ、特に年長者から怒られると身がすくんで謝ってしまうのである。道場を次ぐ話も本当は継ぎたいのであるが、実家の「世間体が悪い」という理由で頓挫しているのである。道場が有名な所であれば実家も両手を上げて賛成するので有るが、小次郎の通う道場は平民ばかりが通う貧乏道場なので格式が低いのである。


「俺は一体何なのだろうな?どこに行っても謝ってばかりだ、頭が悪とはこういう事なのかな」


 乾いた笑いを浮かべながら、道場の訓練生に訓練をつける。この道場は格式は低いが、厳しい訓練で知れている道場だ。普通の武士の姉弟などは余りの厳しさに三日で逃げ出す程のものなのだ、当然のようにこの道場は訓練生を選ぶ、1年続けば他の道場では中堅程の実力になり、5年続けば他所の道場の師範等は片手で捌ける程になるのだ。小次郎は既に15年も通っている、だが未だに師範を超える事は出来ないでいた、それもそのはず、師範は江戸で高名な道場を片っ端から撃破して江戸の道場主全員に命を狙われた為に田舎に逃げてきたと言う曰くつきの人物だったのだ、世が世なら日本一の剣士とも言える天才剣士であった。

 小次郎がもう少し頭が良ければ師匠の異常な強さに気がついたかも知れないが、小次郎は真面目で弱気な性格だった為に自分の強さに気がついて居なかった、彼こそは日本で2番目に強い剣士だという事に。


 道場生全員に稽古をつけた小次郎は帰り支度をする。連続で休息も取らず8時間、木刀を振り回したのに息も切らしていない、汗すらかかない程の化物だ。最も師匠に言わせると3日3晩飲まず食わずで戦えるのが本物の武士なのだそうだ、小次郎も最初からそう言われていたので訓練生にもそう指導してきたのだ、小次郎が15歳の時、師匠から折り紙を授かった時の試練が、3日3晩の連続試合だったのでそう言うものだと思っていた。


「師匠、これでお暇いたします」


「うむご苦労であった、これをやるから持ってゆくが良い」


「何ですか?それ」


「剛剣十六夜。伝説の剣じゃ、時を切ると言われておる」


「ははは、それは凄いですな」


「貴様、信じておらんな! まあ良い、これを持てばお主も少しは強そうに見えるであろう」


 師匠が大太刀を持ってきた、俺にくれるそうだ。師匠が言うには伝説の名剣なのだが、なにせ田舎の貧乏道場の道場主が名剣なんかを持っている訳もない、いくら俺が馬鹿でもそれくらいは分かるのだ。でもそれを言えば又怒られるので有り難く頂く事にしたのだ。でもまあ、何だか雰囲気のある剣だった。ちょっと怖いというか、剣に妖気が漂っている様な気が・・・・・・まあ、気のせいだきっと。


 そして道場からの帰り道、師匠に貰った剣が偉く気になってつい抜いてみた。自分の刀よりも肉厚で長い、斬馬刀にしか見えないが小次郎はこの時代の人間にしては大柄な方なので何とか抜くことができた。


「何とも変わった刀でござるな、斬馬刀にしか見えないのに何か違う様な・・・・・・波紋が何か金色の様な気が・・・・・・」


 つい癖で振ってみる。一振、二振り。暗い夜道に金色の光が走る、それは次元を切り裂き小次郎を違う世界へと誘った。

 小次郎の目の前に明るい光が漏れている、人間なら暗い夜道より明るい所に行くのは本能の様な物だった。つい小次郎は明るい方へと歩いて行ってしまった。そこが異世界だとも知らずに。


「何でござろう?面妖な」


 そして歩いて行った先は平原、こんなに広い草原は小次郎は見たことが無かった。さっきまで夕方だったのに此処は昼の様だった、何とも不思議なのだが小次郎は異世界やラノベを知らない人間なのだ。不思議な現象にも大して動じる事もなかった。


「狐に化かされた様でござるな」


 狐に化かされた、と言う事にして諦めた小次郎は取り敢えず前に向かって歩いて行く事にした。振り返っても元の道は無いのだからしょうがない。諦めの良さが小次郎の取り柄だった。そしてこれから小次郎の不思議な冒険が始まる事になる。





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