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混乱の始まり

結局、俺は間違われていたみたい。テロルさん達の様子からして、とても大切な人のようだけど…そんな人を間違えるなんて、あるのかな?よっぽど俺が似ていたのかもしんないけど。何か、その人が可哀想だなぁ、俺みたいな平凡な高校生に間違われるなんて。そんなこんなしていると、いつの間にかオフィスみたいな空間に来ていた。…っていうか、移動(テレポート)させられた?ファンタジー!!やばいテンションあっがるぅ!

「…ただいまより、哀切様の転移及び……様の失踪についての会議をはじめます。皆様、一人ずつ意見をお願いします。」

ありゃ、なんか会議みたいなのが開かれた。俺の転移についても議題なんだな、何か複雑。あとさぁ、ちょっと思ったんだけど……何でだか、いつもその人の名前だけ聞き取れないんだよ。まるで意図的にノイズを仕込まれたかのように聞こえない。なんでだろ。

「はーい、まずアタシから!あのねぇ、佐保はね、……様と全くって言って言い程に容姿も気配も似てる。喋り方とかは違うけど。種族はわかんないからなんともなー。あはは!」

サンドラさんは豪快に笑ってるけど、要するに存在が似てるってことだよな?俺は本の知識でしかないけど、そういうのは知っる。存在が似ているということは、普通は存在しないし有り得ないことだ。存在が似ているということは、ほぼ同じような存在だということ。つまり、俺がそのほにゃらら様であるのが80%ぐらいの確率できまった、とも言いかえられるかな。情報が少ないからそれ以上はなんともだけど。…っていうか、そういうのってなんかもうちょい暗い感じで報告されるもんじゃないの?

「じゃあ次は僕かな。多分だけど、彼は既に人間じゃないよ。魔界(いせかい)にいたから影響をうけたのかもしれないね。だから、もう…地上には戻れないと思うよ。残念だけど…。」

ライラスさんは俺をチラッと見ては申し訳なさそうにしている。罪悪感というか、俺がショック受けないのか不安なのかもしれない。俺の心境はというと。マジかよ。最悪だけど…納得もできる。元の世界に帰れないということは、両親にも会えないし、友人にも会えない。勿論…りゅーにも会えない。なのに、涙の一つもでてきやしない。実感がないからなのかもしれないけど、なんだか無性に悲しくなってきた。まぁ、ファンタジー万歳だから何でもいいんだけどね!王道的ファンタジー展開ありがとうございまぁっす!って感じだ。え?シリアス?なにそれ美味しいの??

「俺様は特にないぞ。コイツの事なんぞ興味ねぇからな。」

「えっ、俺、レオノールさんに何かしましたっけ?」

冷たく言い放つレオノールさん。俺って何かやらかしてたっけか、そもそも会話なんてしてない気がするのになぁ。…そんな失礼な事言ったっけ?そんな事をぐるぐると考えているとバツが悪そうにレオノールさんが顔をしかめてこういってきた。

「…オメェにそっくりの……のや…じゃない、様の事があんまり好きじゃねぇんだ。」

かなり顔を苦々しく歪めている辺り、本当に嫌なんだなぁと察せてしまった。好きじゃないとぼかしているけど、似ているだけでの事も嫌うんだから相当苦手なんだろう。…ほにゃらら様を呼び捨てにしようとしてたみたいだけど、それはレオノールさん以外の人がこれでもかってほど威圧をかけてた。…なに、そんな偉いのかよ、ほにゃらら様って。ていうか、それを呼び捨てにしようとしてたレオノールさんもレオノールさんだけどな。

…俺はレオノールさん、好きなのになぁ。ガタイ良いし、格好いいし、如何にも武人!って感じなとことか俺様って言ってる所とか、二次元にいたら推しになりそうなのに…」

「「「「「「「……!?」」」」」」」

え、あれ。口に出てたのか。呆然とする皆を他所に、俺は出されたお茶を飲む。…ちょっと、いやだいぶ蒸らす時間も抽出時間も短いな。味が薄い。ふむ、要検討だな。そう思いながら、優雅には飲めないが、それなりにマナーは守って飲んで寛ぐ。…そんな俺を見て、他者は待ったをかける。

「いやいやいやいやいやいや!!佐保ってレオノール好きなの!?あのバカで阿呆で間抜けで自他共に認める脳筋なレオノールを!?」

「おいライラスてめぇ後で覚えとけよ」

「あひゃひゃ!こりゃまた面白い展開だね~☆」

「面白がるなリューゼ!」

「はは、怒ってなどいません、いませんからちょっと顔かしやがれくださいませ、レオノール。」

「テロル落ち着け!彼奴はお前の敬愛してる奴じゃないかもしれないんだぞ!!」

などなど、反応は三者三様だが、とても見ていて面白い。何だろう、これを愉悦というのかな。

まぁ現実逃避はそれくらいにして、現実と向き合いますかぁ。どうやら皆は俺がレオノールさんを好きだと聞いて驚愕している様子だ。…いや別に誰を好きだってよくね?意味わかんねー。俺はお茶を啜りながらテロルさんに進行を促す。テロルさんは動揺しつつも、すぐに切り替えて司会を努める。

「では、報告の続きをお願いします。」

「じゃあ次は僕だね!んーとねぇ~裏業界のコネを使って調べたんだけど、どうやらさ~”存在が似ている”んじゃなくってさ?どうやら~”存在が一致しちゃった”みたいなんだよねぇ~。あひゃひゃ!ほんと笑える~!でもまぁ不幸中の幸いってやつさね、そのまま……様の体に入らなかったら、あっちの世界でもこっちの魔界(せかい)でも死んでたね!あひゃひゃ!!ま、僕はこのまま情報収集を続けるから放置しといてちょ~☆」

すっごい重要な事をサラッと言って放置しろとか言ったぞこのロリ(アルデンテさん)。ていうか、キャラブレッブレな気がするんだけど、大丈夫かコイツ。…それは置いておいて、アルデンテさんの言葉から推測するとだ、存在が「似ている」のではなく、「一致してしまった」のだという。つまり、意図的ではなかったものの、結果的にそうなってしまった、もしくは予期せぬ事態だったってことなんだろう。それも、奇跡と思えるレベルのものだ。俺は、この体に入らなかったら死んでいた。…彼方の世界でも、此方の世界でも。元より交わることのない世界が交わって、二つの存在が一つになってしまったというのなら。…どちらかの存在が消えてしまったと言い換えても可笑しくはない。…でも、俺は、おちてきたときから意識があった。つまり、この体の持ち主は強制的に俺に呼び出された挙句に、存在を消されたんじゃないか?…そう考えると、恐ろしくて堪らなかった。恐怖に体が震える。そんな俺を無視するように会議は進んでいく。

「私の報告は特にないわ。天界も以上はないし、間違った人間を連れ込んでいないって言うのよ。」

…つまり、天界は俺の事を完全にほにゃらら様を魔界に連れてきたって思っているだけなんだろうな。だから俺を人間だなんて思っていないし、連れ込んだとも表記していない。そういう事だろーなー。

「私からの報告…というより提案なのだけれど。」

「シルヴィアがですか。どうぞ。」

「本人にステータスやスキル及び名前と種族を確認してもらえばいいんじゃなくて?こんな定時報告会みたいな事しなくたって終わるじゃない。」

わぁ、その発想はなかった。っていうか先に言ってほしかったよなそれ。この時間無駄じゃんか。でも美人さんにそんな事を言う気にはなれない。俺の根性ナシめ…

「じゃあ確認すっから待っててください。」

そう言ってウィンドウを開いて確認する。

==============================

≪…………≫

種族:死神 役職:族長

称号:「鮮血の皇帝(ブラッド・エンペラー)」、「覚醒しせし暴君(ウェイカーティレント)」、「最弱の死神」

所持能力(スキル)物理体(マテリアルボディ)攻撃完全無効化、精神体(スピリチュアルボディ)攻撃無効化、魂攻撃態耐性、思考伝達、反転者(アマノジャク)包容者(ウケイレルモノ)、スキル解析、盗み見、×××(解読不可能)

所持魔法(マジック):物理魔法、精神魔法、元素魔法、概念魔法、精霊魔法、聖魔法、邪魔法、創造魔法、干渉魔法、上書き魔法、洗脳魔法、変形魔法、召喚魔法、属性魔法、回復魔法、庇護魔法、隠蔽魔法

特殊能力(ユニークスキル)×××(解読不可能)一撃必殺(クリティカルヒット)

===============================

これ以上先は文字が複雑すぎて読む事が出来ない。にしても、攻撃ほぼ無効化できるし耐性あるし、よくわかんないのもあるけど、魔法の数えげつなっ!これもうチートじゃん!チート万歳いやっほう!!回復もなにもかもできるじゃんやっばいな!…でも、解読不可能っていうのが二個ある。それは気になるけど、何よりもまず、名前がわからない。とりあえずこの文字が読めない。何だろ、解読できねえのかな…。そう思っていくつかのスキルをタップしたけど、何にもならなかった。チェッ、つまんねーの。…ってそうじゃない、これを伝えないと!

「見たけど、何を伝えればいいんですか?」

「名前と種族と役職、後は…称号辺りを教えて頂戴。」

「名前は読めないです。種族は死神、役職は族長で、称号は「鮮血の皇帝(ブラッド・エンペラー)」、「覚醒しせし暴君(ウェイカーティレント)」、最後に…」

と、そこまで言って、ぐゎしっ!とすごい勢いでシルヴィアさんに肩を摑まれた。女性だというのに、外見からは想像もつかないほど怪力だ。肩に爪が食い込んで痛い。俺が顔をしかめると、痛いという事が伝わったのか、小さく「ごめんなさい、取り乱したわ。」と謝罪され、放された。少し肩を動かして、何ともない事を確認してから答える。

「気にしないで下さい、それより、どうしたんですか?」

俺のこの問いに答えたのは、まるで嫌な事をかみしめるように苦々しい顔をしたレオノールさんだった。

「お前は、完全に……様だって証明されちまったんだ。」

え?何で?それってつまり、俺はほにゃらら様と同体になっちゃった、って事だよね?だから、そのほにゃらら様のスキルも、魔法も、称号も、なにもかもを持っている訳、なんだよな…?

その思考に辿り着いた途端、顔から血の気が引いた。だって、つまりは俺が殺してしまったようなものでもあるのだ、怖くないわけがない。そんな俺を見かねて、テロルさんが近寄ってきた。

「…哀切様、貴方のせいなどではございません。我が主である……様が、そう簡単に死ぬ訳がありません。例え貴方が今、我が主の体を自由にできるのだとしても。あの方はそう簡単には死なないのです。あの方が簡単に死ぬようなら、レオノールがとっくに殺しています。」

テロルさんの言葉を肯定するようにレオノールさんは忌々しいといった顔付きで「ふん」と鼻を鳴らして腕組をした。その態度に少なからず俺は安心した。体の震えはいまだ止まらなかったが、大分楽になった気がする。でも、レオノールさんの態度が気に食わなかったので、少し困らせてやろうと思う。…何をしたかって?ふふ、怖い時には人肌(?)がいいじゃん?だから抱きついてやった。

「うぉっ!?な、何しやがる!!」

「怖いので慰めてください!、ちなみに離れる気はありません。」

「お前随分、神経図太いな!?つーか何で俺様なんだよ、テロルでいいじゃねーか!!」

「レオノールさんの態度がムカついたのと、人肌を直に感じたかったので。」

「言い分はわかったけどな、周りを見ろ!テロルの野郎は完全に殺意向けてきやがるし、サンドラとリューゼは目が笑ってねぇし、してやがるし、ポタミアとシルヴィアも攻撃態勢じゃねーか!!」

「ライラスさんは普通じゃないですか。」

「彼奴は例外なんだよ!!」

「何で僕が可笑しいみたいに言われてるの?僕正常だよ??」

ぎゃあぎゃあわいわい騒いでいると、恐怖も薄れていって、なんだか、大丈夫な気がしてきた。怖いし、本当は泣きたい。誰もいなかったら、それこそ本当に暴れていたかもしれない。怖くて怖くて堪らないけど、一人じゃないなら、きっと、大丈夫。そのほにゃらら様だって生きてる筈。俺よりその人を知っているテロルさんがそう言うんだから、間違いない。なら俺はそれまで、その役目を果たすだけだ。


≪…ホントニソウナレバイイネ?≫


「え?」


いつだかに聞こえたあの声。俺に生きたいなら受け入れろと言ってきた、懐かしさを感じたあの声。…今、感じるのは、恐怖。そして…………危険。本能が全力で警報を鳴らしていた。

「どうした?…おい、おい!!」

「あ、あがッ、い、うぐ、う、ああっ」

異様な苦しみが俺を襲う。何で急に?そんな事を考える暇さえ与えてくれない。頭がかち割れる位の頭痛。肺がやられたかのように息が出来なくて。かひゅ、とか細い吐息が出るだけだ。体がふっとうしているかのように熱い。思考が上手くまわらない。声が出ない。怖い。痛い。


いた、い、いたい、いたい、イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ……ッ!!


「哀切様!どうし……か、……を…て………」

その声を聞き終わる事もなく、俺の意識はフェードアウトした。

最後に見たのは、テロルさんの焦った顔だった。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ど、どうしよう!?また倒れちゃったよ!?」

そう狼狽えるのには理由があった。彼らの主であり、そうではない存在、「哀切佐保」という男が倒れたのだから、内心も穏やかでいられない。

「落ち着いてくださいサンドラ。…ライラス!診断魔法を!」

「今やってるけど、<診断不可>ってでてくるの!僕の診断魔法じゃダメみたい!」

「そうですか…。アンデルデ!この症状に似たものを探して下さい!ポタミア!癒しの精霊を呼び寄せてください!シルヴィアとレオノールは何があってもいいように!」

「はぁ~い、任せてちょ~よっ!」

「えぇ、わかりましたわ!」

「気に食わねぇが従うぜ。」

「言われなくても出来てるわよ。」

こんな中でもテキパキと指示を出せるテロル()は、かなり重宝される人物だろう。彼は主を何よりも誰よりも大切に思っている。今の主は行方不明ともいえるし、そうでないとも言える。存在が完全に一致している謎の男が主だというのに、疑っていない辺りも大物と言えるだろう。その仲間達もそうだ。テロルの指示に対してすでに動いていたり、速攻で行動に移せるのだから流石だ。連携のとれている対応だが、それに水を差す者がいた。

「ソノ必要ハナインジャナイ?」

緊迫していた場面には場違いな程に明るく、ひょうきんな声が響く。何処か片言のような言い方で、無機質な声色だが、彼らにとってはなじみ深く、それでいてここにいるはずのない者の声だ。バッ、と全員がその声の方角を向く。…そこには。

「アハハ!バッカミタイナ顔ガ勢ゾロイジャン!ボクガイナイ間ニ腑抜ケタノォ?」

…行方不明とされていた、彼らの主が、ケタケタと楽しそうに笑いながら、そこに佇んでいた。

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