プロローグ
どうして、こうなったんだっけ。
そんな疑問が離れない。俺が一体何をしたというのか。先程まで、いつも通りの帰路を辿っていた筈なのに。何で……
「……様!ご無事でしたか!?」
「わぁあん!!……様ぁ!心配でしたよ~~っ!」
「遅いんですよ!馬鹿!」
「あらあら、お寝坊さんねぇ。」
「何で囲まれてるんだよ!?助けてェェェェ!!!!」
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俺の名前は哀切佐保。少し変わった名前の平凡な高校生だ。
何をやっても平凡だし、秀でているものはない!運動も勉強も平均、コミュ力はない、人前苦手なあがり症、友人関係もそこそこな、物語でいうモブ的な存在だ。しいて言うなら、料理は得意だ!家事もできますっていう、特技かも怪しいものしかない、平凡で面白みに欠ける人間、それが俺だ。モテているわけでもなんでもないし、寧ろ、リア充は爆発しろスタンスの人間だ。安心してくれ。
「…佐保!お前聞いてないだろ!?」
「え、うん。何か話してたっけ?」
俺の隣で騒いでいるこいつは幼馴染兼親友の天塚隆太だ。俺はあだ名でりゅーって呼んでる。「ひでぇ!」と騒ぐ幼馴染を横目に、俺はスタスタと歩いていく。どうたいして傷ついていないだろうし。
「佐保のそういうドライなとこ嫌いじゃないけどさぁ、もう少しデレてくれても構わないぞ?」
「何言ってんのお前。ついに怪しいお薬にでも手を出したか?」
そんな会話を繰り返していると、いつの間にか趣味の話題になっていた。俺とりゅーは、そういう類のものが好きで、よく一緒に喋っている。
俺たちが好きなのは、ハイファンタジーのライトノベルだ。ああいうファンタジーなものに憧れを感じずにはいられない。魔法だとか魔人族だとか亜人だとか、世界観なんかが大好きなんだ。りゅーはどっちかっていうと、勇者とかの聖属性がつく方が好きらしい。俺は絶対魔属性の方がいい。魔王とか邪神とか、魔人とか超格好いいじゃんか!
「前のあのハイファンタジーは良かったよなぁ、流石佐保オススメだよなぁ~」
「当たり前だろ。世界観はもちろん、魔法とか勇者の活躍とか魔王との掛け合いとか、最高だよな。それがわかるなんて、流石りゅーだよ。」
お互いの感想を言いあいながら、いつもの分かれ道に来たときだった。
俺とりゅーはいつも通りに「じゃあな」と言って、それぞれの道に進むときに、突然、頭が割れるような音が響いた。ガンガンする頭に、思うように動かない体。過呼吸のように繰り返す息。地面が平行ではないような感覚に陥り、思わず倒れこんでしまう。苦しみから逃れるように胸を引っ掻くようにもがく。
背を向けて歩いて行ってしまう親友に、手を伸ばした。
「たす、け……て、りゅー…」
そんな声は、空しく届かずに消えていった。唐突すぎる出来事に、走馬灯を見る間もなかった。
…人が死ぬときって、こうなのかな。
薄れゆく意識の中、俺はあっけない人生の終了に、違和感を感じることもなく、抵抗することもなく、目を閉じた。
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とかなんとか思ったが、前言撤回、人生終わってませんでした!!
え?何でわかったのかって?ふふふ、良い質問だよワト〇ン君。それはだね…
………今現在進行形で、落ちているからさ!!!
「俺が何したんだよォォ!?理不尽すぎだろーがぁああああ!!」
しかも、どうやら倒れたあの場所から沈むように落ちてきたらしく、スピードがえげつない。
それに、周りの景色が真っ黒で、なんか闇っぽい。底が見えないほど暗くて深い、そもそも底があるかどうかさえ疑ってしまうほどの暗さ。落ちたら絶対に無事じゃすまない。それだけは本能的に理解した。
どうにかできないものか。試行錯誤を繰り返していく内に、なんだかファンタジー世界によくあるような、ウィンドウが出てきた。異国語で書かれているらしく、とても読めたものではないが、何となくで名前と種族があるのは理解した。落ちながらだというのに、我ながら凄い冷静だ。
この世界は俺がいた普通の世界じゃない。そう確信した俺は何か使えそうな能力やスキルがないかを確認した。…読めねぇよ畜生!!と、愚痴をこぼしたくなるが、そんな事を言っている暇はない。必死にウィンドウを操作していると、声が聞こえた。
≪ネェ、生キタイノ?≫
頭に問いかけるような声。聞いた事なんてないはずの声に、懐かしさを覚える。
俺はその声に応じるように念じた。
(できるのか?)
≪愚問ダネェ。当タリ前ジャン。…生キタイナラ、受ケ入レロ。≫
それだけ言うと、頭に響いたその声は消えていった。
…なぁ、もしかして、だけど、受け入れろっていう事は…そのまま落ちろってことか!?えっなにその鬼畜ゲーム。俺高い所とか駄目なんですけど!?ああ、さようなら俺の意識。第二の人生なんてロクなもんでもんかったなぁ。
そんなバカな事を考えていると、急に視界が明るくなった。先ほどの暗闇に慣れてしまった目には痛い。ぎゅっと目を閉じて、そのまま降下していく。そうして、体に鈍い痛みが走る。…またしても前言撤回!全然鈍くない!痛すぎて悶えるレベル!!
「イ……ッテェェェェェ―――――ッ!!!!死ぬわ!こんなん受け入れろとかバッカじゃねーの!!?」
思わずそう叫んでしまった。痛みに身をよじらせて転げまわっていると、声が聞こえた。
男女の声だ。くそ、リア充か?そう思って目をあける。そこには、なんか、変な衣装を纏っている四人の男女がいた。
「~~~~!?~~、~~~~!」
「~~!!~~~…。…~~?」
「~~、~~~~。」
「~!?~~~~!!」
え、何言ってんのコイツら。異国語なんてわかんないんですけど。そんな思いが顔に出ていたのだろう。最初に話しかけてきた男が、心配そうにこちらを見ている。多分、察するに「もしかして言葉を理解できていないのでは?」とでも言ってるんだろうな。
そう思われても、ここには某未来型ロボットなんてものは存在しないし、自力でどうにかするしかない。…ファンタジーってもっとチートじみたことができると思ってたのに、全然じゃね?などと思いながら、ウィンドウを見る。相変らず読めないし、何を書いているかわからないけど、適当にタップする。すると、見慣れた日本語が目に入る。ラッキー、なんて思いながらそれをタップすると、ぶわっと風が起こる。
それを無視するようにウィンドウを見ると、全てが日本語に変わっていた。
そうすると、持っていたスキルなんかが見えるようになった。ウィンドウを見わたせば、いろいろとあるけど今はオールスルーだ。とにかく異国語を変換することが先決だ。タプタプ、と暫くタップしていれば、語源変換の文字を見つける。迷いなくそれをタップすると、耳に若干の違和感を感じたが、暫くすれば慣れて、聞こえるようになってきた。
「あー、あー…テステス、テステス。ンッンー…おし、大丈夫だろ、聞こえるか?」
俺がそう一言発しただけで何故か感激したように、口を押さえていたり、涙する者がいた。え、なに、俺そんな可笑しい事したのかよ?え、チートフラグきた系ですか?
「ご無事でいらしたのですね!?」
「うわぁああん!よがっだでずぅう~!!」
「もー!心配させないで下さいよ!馬鹿ぁ!」
「よかったわ…。本当に…」
えぇ、なんだよこのお通夜モード。何かすっごい感激されてるし泣かれてるんだけど。二番目の子に至っては抱き着いてきてる。見知らぬ人々に囲まれた俺は、そいつらから向けられた視線が突き刺さって仕方ない。俺のコミュ障は発揮されて、まともに話せない。手は空をつかむようにわたわたとせわしなく動いている。そんな手を最初に話しかけてきた人がつかむ。
「ご回復、おめでとうございます…!」
やめろ、そんな見つめるな、頼むから。
そんな俺の思いが届くはずもなく。久々の他人との会話であがっているというのに、そんな見られたら死ぬぞ、俺!!そう思いながらも、口には出せずにいた。緊張からか、心臓が五月蠅い。冷や汗も出ている。
「ね、ねぇ、顔が青いけど、大丈夫ですか?」
そう問われても、答えは一つしかないだろう?
「大丈夫、じゃ、な…い……」
そう言って、倒れた。薄れゆく意識の中、名も知らない四人の悲鳴を聞いた。
ああ神様。俺が何をしたっていうんだ。
次に目覚めた時に、元の世界にいればいいのに。なんて淡い期待を抱きながら意識を手放した。
思い付きで書いたので、設定ガバガバです。
変わるかもしれません。