episode4 契機
親に言われて渋々入ったものの、意外と塾は面倒だった。来月から五教科の授業が始まるから教材を取りに来いとの電話を後日受けた私は、部活を早めに抜けて直接あの塾に行った。
帰り道、背後から肩を叩かれ名前を呼ばれたので、振り替えると、この間も会った早瀬がいた。同じクラスなのだから今日だって学校でも会ったが、話さないから彼の存在感すら忘れてしまっていた。
実は地味ーずの私を見て内心気味悪がっているのだろう、もしかしたらこの事を誰かに話して影でネタにされてるかもしれない。根拠のない被害妄想が膨らむなかで、早瀬は少し困ったように私を見た。
「え、クラスメートが声かけて無視?ひどいなー。」
「あー…、いや何て言えばいーかわかんなくて。」
私も困り言葉に詰まると早瀬が会話を成立させようと笑顔をつくりながら話しかける。
「てかさ、和泉って基本話すとき自信なさげだねー。」
「まー、どーせ地味ーずだから私がなんか言ったところで…。」
声にしてから気がつき、もう遅かった。こんなことを言うのは更に逆効果かもしれない。自らを地味ーずと認めた上で、立場を批判するかのようなことを…。早瀬もきょとんとした顔で何と返せばいいかわからない様子なので、私が弁解しようとしたときに早瀬は答えた。
「地味ーずって、なに?誰が入ってんの?」
冗談かと思ったが、少し言っても本当にわからない感じみたいだから説明した。ランク分けがあること、自由に過ごせないこと。話すうちに段々自分が虚しくなり無意識に早瀬と目線をあわせないでいた。
「で、だから?それだと俺と話しちゃダメなわけ?」
「だ、だめっていうか、関わんない方がいいっていうか…。」
早瀬は気持ちがないようなへー、と返事をしたあとに、鞄から何かを取り出した。
「ならさ、メアド交換しよ。そんなら直接話さなくていーでしょ?」
何を考えているのかわからず顔をあげて早瀬を見るが、早瀬はただ、にっと笑ってスマホを操作していた。私の電話帳に一人増えた。