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境界世界のクロニクル  作者: まるた。
一章 少女の鬱屈
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一方彼女らは


「おい、本当に大丈夫なのあれ? なあ」


 眼前の闘技場で繰り広げられる戦いに、ギンカは心配そうに隣の騎士に聞いた。

 普通にどっちも本気(マジ)だ。

 手加減など微塵も感じられなかった。


 二人がぶつかり合うたび、ギンカなんかはケガでもしないかと心配してしまう。


「大丈夫です心配要りません。あれくらいで死ねるなら人生軽く百回はやり直せますよ、保証します」


 シグが断言した。


「ほら、私だって切り刻まれたり刺し貫かれたりしたって死にはしないでしょう? 同じようなもんです」


「それは君だけじゃない?」


 ギンカは呆れシグを見る。

 この青年の不死身っぷりは人間として明らかに異質だ。

 一応、分類(カテゴリー)的には人間のはずなのだが。


「いえいえ、騎士なんて、足がブッ飛ばされるとか腕がスッ飛ばされるとか首がカッ飛ばされるとかしない限り、ケガなんて言いません。それ以外だったら大抵ツバつけときゃ勝手になおります」


「いやいや、首飛ばされたら死ぬだろうが」


 首をカッ飛ばされてケガしたゼ、なんて暢気に言えるヤツがいたらそれはそれは怖すぎるだろう。

 絶対に人間じゃないよそれは、とギンカは戦慄する。


「変態だな。変態。騎士なんて連中にはマトモなヤツがいないのか」


「おや酷いです。私の繊細な心臓が傷つきますよ」


「それはもういいから」


 シグが肩をすくめて、もっとも、と続ける。


「まだ全力ではないようですし、これからですよ。これから」


「そうなの?」


 この期に及んでまで、手を抜いているとでも言うのだろうか。

 ギンカがたまに観覧する試合よりも遥かに高度な気がするのだが。

 そんな疑問が顔に出ていたのだろうか、シグが補足の言葉を続ける。


「一応こっちに気を使っているんでしょうね、彼ら。余波が来ていないでしょう?」


 あの技量(レベル)の手合いが闘ったらこの程度じゃすまないですよ、とシグが言う。


「死力をつくして闘ったら吹き飛びますよ、それはもう色々と。この程度の損壊で済むなら、闘技場を何時も修理している整備士は泣いて喜びます。最悪、こっちまで巻き込まれる被害(レベル)です。本当はね、全力で戦いたいなら都市外の森とかそこらでやるのがいいんですよ」


 闘技場でなら比較的安全に騎士は戦える。

 それでも運悪く巻き添えを食う客も、中にはいないこともないがそれは自己責任だという。


「不吉なこというなよ。君たちみたいな変態どころか頭おかしいレベルの域にまで達してるデタラメな人間と違ってボクは一応ノーマルなんだぞ。そこまで人間やめてないんだよ」


「それなら大丈夫ですよ。心配要りません」


「なんでさ」


「貴女は私が守りますから。ね、安心でしょう?」


 なんでも無さそうにシグが告げる。

 良くそんなキザったらしい台詞を素面で言えるもんだなあ、とギンカはズレた所で感心した。


「あっそう。頑張ってね」


「淡白な反応ですね、信用してくださいよ」


「信用してくださいだって? 君のその言葉こそ疑わしいものはないんだけど」


「日ごろの行いですね、悲しいです」


「そういう態度のせいでいまいち信用しにくいんじゃないか」


 どんな時でも変わらない騎士の態度に少女は脱力する。


「ま。だけど、信じるよ。君は素直じゃないけど嘘だけはつかないヤツだからな」


「それはそれで買いかぶりすぎですよ」


「高く買っているんだ」


「そうなんですか?」


「そうなんだよ」


「ふむん、それなら期待に応えられるようにがんばりましょうかね」


 騎士は少女にそう誓う。


「で、君はどっちが勝つと思う?」


「さて如何でしょうか」


 一概になんとも言えませんね、と彼は言葉を濁して明言を避けた。


「距離が離れての仕切りなおしですので、一応はメルクの有利に一票ですね」


「どうして?」


「そもそもイドは治療師(ヒーラー)です。つまり支援職ですね。剣持って接近戦なんてあり得ません。何考えてるんでしょうね、あの人。それは魔法使い(メルク)にも言えることですけど、何で好んで剣持って振り回してんでしょうか、馬鹿じゃないですかあの人達。こんな事を言うと怒られるかもしれませんが、彼らはある意味で似た者同士ですねえ」


 間違いなくメルクは嫌そうな顔をするだろう。


魔法使い(メルク)は状況に応じた様々な魔法が使えるわけで、一方で治療師(イド)は遠距離からの攻撃手段に乏しく、というか持っていません。いかに彼女が強くとも、近づいて斬る以外の手段は持ち合わせていないのですよ。だから離れると火力不足。イドはどうにかしてメルクに近づかないといけないという事ですね」


 離れれば離れるほどにメルクの有利に働くのだという。


「元々、こんな場所(フィールド)が固定されたところで闘うのなら魔法使いが不利に決まってます」


 と、説明が終わるとシグは小馬鹿にしたように小さく笑う。


「ふっ、ていうかナゼ知らないんです? 貴女は。一体、何年彼らと付き合っているんですか? 知らない事実に私のほうがビックリです」


「うるさいな。いいだろそんな事。そんな些事は誰かと付き合う上で重要じゃないんだよ」


「貴女はそう言う人ですからねえ」


 しみじみと呆れたようにシグが相槌を打つ。


「大体なんでボクが知らないで君は知っているんだよ」


「別に隠していることでもないですし。私、これでも騎士ですから。それに私ってば、けっこう偉いんですけどね。もっとも、貴女は知らないかもしれませんけれど」


 最後にそう付け足して、彼は意地悪そうなニヤリ笑いを浮かべる。


「はぁ!? 馬鹿にするなよ。それくらい知ってるよ」


「その割には普段の私の扱いが雑ですよね」


「それは、普段の君がただただ尊敬もなにも出来たものじゃない態度だからだろ」


「酷い言われようです。こんなに出来た人間、世界中探したってそうはいませんよ」


「ふん、君は随分と狭い世界に住んでいるようだね。ビックリだ」


「貴女には言われたくないんですが。ほとんど城から出たことないくせに、良くそんな事が言えますね。逆に感心します」


「ボクだって好き好んで城から出ないわけじゃない! 王さまが出してくれないのがいけないんだよ。人を引きこもりみたいに言うのはやめろ。出れるもんなら出てるさ」


「城の外に出たって、どうせ貴女なんて何処かそこらでのたれ死ぬのがオチです。止めておいたほうが賢明ですよ。そんな若い身空で死にたくは無いでしょう?」


「おいおい、ボクを誰だと思っているんだ。不可能は無いね」


「いやいや、貴女お金も持っていないでしょう? どうやって生活するつもりですか、お姫様」


「なんとかなる。なんなら宝物庫から宝物でもパクってってもいいし」


「残念、犯罪です」


「ふん。間違っているのはボクじゃない、世界の方なんだ」


「怖い発言ですね」


「ふむん、そうだ革命でも起こそうか。よし、その時は君が革命軍の指導者(リーダー)だな。そしてボクは影からの支配者として君臨するのだ」


「いやあ無理でしょう。夢の見すぎですよ。というか、なにサラッと人を巻き込んでるんですか。嫌ですよ、面倒な」


「チャンスだぞ?」


「独裁反対です。少しはお隣の共和国でも見習ったらどうですか、民主的です」


「君だって特権階級(きぞく)だろうが」


「それもそうですね、私ってば成り上がりですから身分意識薄いんですよ。ところで、何の話をしていたんでしたっけ? くだらない話で大分本題からそれてしまいましたね」


「ボクは悪くない」


「私も悪くないです」


「じゃあ誰も悪くないな」


「全くです」


「全くだ」


「さて、不毛な言い争いは止してそろそろ観戦に集中しませんか?」


「そうだな」

説明キャラは書いていて楽しいですね

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