こんな夢を観た「柿の木に登る」
庭でバドミントンをしていたら、シャトルが柿の木の枝に引っかかってしまった。
「あれくらいなら、ちょっとよじ登って取ってこれるよ」わたしは言い、幹にしがみつく。
「よしなって、柿の木はもろいから、ポキッといっちゃうかもしれないよ」中谷美枝子は心配したが、わたしは「平気、平気」と聞く耳持たなかった。
今はまだ青いけれど、熟すと甘い柿が成る。それを毎年、子供の頃から登ってはもいで、その場で食べてきたのだ。
曲がりくねって節くれだらけの木は、どこに手をかけ、足を絡めたらいいか、頭にすっかり入っている。
いつものように、コブに手を当て、両足で幹を挟み込む。そのまま最初の太い枝にまたがった。
だらんとぶら下げた爪先が、中谷の頭が触れるかどうか位の高さである。
「あんた、まるでサルみたい」中谷がわたしを見上げて言う。
そんな中谷は、登れずに悔しがるイヌを思い出させた。改めて中谷を見てみると、確かにイヌに似た顔立ちをしている。大きな耳が立ち気味なところなど、パピヨンにそっくりだ。
「やーい、パピヨーン」わたしはそう言ってやった。高いところに立つと、なぜだか急に自分が偉くなったような気がする。
「なによ、パピヨンって」中谷にはパピヨンという犬種がわからないらしかった。
柿の木には去年も登ったけれど、何だかずいぶんと久しい感覚だった。もう、10年も登っていないような、そんな妙な気持ちがする。
どうしてかな、と考えてみたところ、それは枝の幅が関係しているようだった。
こんなに枝が太かったろうか? それとも、1年のうちに成長したのかな。
枝先に見えているシャトルを追って、またがったまま進んでいく。
ところが、行けども行けどもシャトルに近づけない。シャトルそのものは次第に大きく見えてくるのだが、距離がいっこうに狭まらないのだ。
「変だなー、ちょっと前まで、手を伸ばせば届きそうだったのに」わたしは言った。
「ちょっと、あんた、むぅにぃ。こっちから見ると、おかしな感じになっちゃってるよ」そう、中谷が指摘する。
「おかしいって、どんな?」わたしは聞き返す。
「あのね、縮んでるっていうか……。目の錯覚じゃなければ、あんた、確かに小さくなっちゃってる」
そんなことあるものか、と枝を見ると、幹よりも何倍も広くなっている。乗り移る時にはまたがっていたはずなのに、今は正座をしているのだった。
「あれ? どうなってるの、これ」
「試しに、後ろに下がってみなさいよ」中谷が言う。
わたしは後ずさりをしてみた。すると、枝が少しだけ細くなる。
「ああ、やっぱり気のせいじゃなかった」中谷が合点してうなずいた。「枝の先へ行けば行くほど、あんたの背が小さくなるなぁ、ってずっと思っていたの。なんだろうね、これって」
わたしはもう1度前進してみる。また枝が太くなり、シャトルがぐんと大きくなった。
なるほど、そういうことか。これではいくら登っても、シャトルは拾えない。
「降りてきなさいよ。シャトルは、棒でかき落とせばいいじゃない」
けれど、わたしはちょっぴり意地になっていた。
「ここからなら、シャトルまで飛びつけそうな気がする」下で見守る中谷に向かって断言する。
「ちょっと! やめなって、そんなの。絶対に落ちて大怪我するに決まってるって」中谷が慌てて止めた。
わたしは身構え、えいっとシャトル目がけてジャンプをする。宙を飛んでいる間にも、わたしは自分の体がどんどん小さくなっていくのを感じていた。
あわや、というところで何とかシャトルの羽に手が届き、必死の思いでしがみつく。その時のわたしは、ケムシほどの大きさもなかった、と後になって中谷が証言した。
シャトルはわたしごとバランスを崩し、そのまま一緒に枝から落ちていく。
地上では、半ばパニックに陥った中谷が、両手を差し出しながら右往左往しているのが見えた。
次の瞬間、どすん、と衝撃を感じ、わたしは地面の上にいた。
正確には、中谷の上で尻餅をついた状態だった。手には、小さなままのシャトルを握りしめている。
「早く、降りてよ、むぅにぃ。重いじゃないの」
「あ、ごめんね」わたしはよっこらしょ、と立ち上がる。「落ちながら、すっかり元の大きさに戻ったんだね。どうなることかと思ったけど、助かった」




