第1話 過去に戻ってやり直せばあの娘を振り向かせられますか?
前の書き直しです。
俺の名前は小鳥遊 鷹士どこにでもいるような取り立てて何の取り柄もない高校二年生だ。
今、俺は今までの人生で最大級のイベントにあっている。
舞台は放課後の教室
12月に入り短くなった昼
太陽は既に沈みかけ夕焼けが教室を赤く染め上げる
俺の視線の先には1人の少女がいる。
彼女の名前は小野寺 綾瀬
俺のクラスメートだ
平凡な俺とは違い百人が見たら百人がその容姿を褒め称えるような美少女
しかも、性格も俺という絵に描いたようなつまらない男にも優しく接してくれる素晴らしい女性だ。
そして、俺が初めてあった時から恋い焦がれていた人でもある
そんな彼女が今俺の視線の先にいる
彼女は緊張か、はたまた羞恥に顔を赤らめながら何かを言おうとしている。
だがそのための決心がまだつかない。そんな表情だ。
そんな彼女の表情を見ているだけで俺の心臓はまるで捕らえられた猛獣が中で暴れているのではないかと思うほど激しく脈を打つ。
「あ…、あの……」
何かを決意したかのようにゆっくりと、しかし確実に彼女は口を開いた。
「この前の、その……付き合ってくれ……って言われた事なんだけど…」
「う、うん」
ついに核心に至るのか。俺の心臓の中の猛獣は更に暴れ出す。
因みに、付き合うというのは勿論フェンシングとかではない。
男女交際のことだ。
緊張のせいか妙なことが頭をよぎってしまった。
俺がそんな事を考えてるとは知るべくもない彼女はなおも続ける。
「その…、返事遅くなってごめんなさい。告白されるとは思ってなかったからびっくりしちゃって……。」
「ううん。大丈夫だよ。それじゃあ…もしかして返事聞かせてくれるのかな?」
コクンと頷く彼女。
「わ、私…男の人と付き合ったことないし……結構大食いだし……女の子らしくないし……ドジで迷惑かけるかもしれないけど……それでも言いなら…その……」
そこで勇気が尽きてしまったのか顔を真っ赤に染めうつむきながら、あの…あの…、とゴニョゴニョと呟く。
しばしの沈黙。
「綾瀬」
「…っ、はい!」
ビクッと反応し顔を上げながら返事をする。
「もう一度俺から言うよ。俺と……俺と付き合ってください!!」
そういい右手を前につきだし頭を下げる。
数秒後
「…はい。」
という言葉と共に差し出した右手に小さな手が握られる
こうして、また一組この地球にカップルが生まれた瞬間だった。
その二人名前は
小野寺 綾瀬
そして
一ノ瀬 隼人
そして、俺はそのカップルが生まれる瞬間を物陰からただ見ていただけだった。
そう、世界で一番好きだと言っても過言ではない人が他の男の告白を受け入れる瞬間に偶然居合わせた俺は何もする事ができずにただ物陰に隠れて見ていただけだった。
□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □
その日はどうやって帰ったのか覚えていない。
何を食べたのかも覚えていない。
ただ、こうして自室のベットの上に寝転んでいるということはどうやら無事帰宅に成功したらしい。
しかし、頭の中はまだ今日のあの放課後の教室での場面をただ、そんな事しても傷つくだけなのにただ、何度も思い返していた。
あの、お互いの気持ちが通じ合い恥ずかしそうに
しかし、幸せそうに見つめ合い笑い合う彼女達の顔を思い出すだけで、心臓の中の猛獣がその爪で心をえぐってるのかと思うほど心が痛んだ。
どうして……
そんな無意味な言葉を何度も呟く。
世界で一番、小野寺 綾瀬を世界で一番好きなのは俺なのに……一ノ瀬なんかよりずっと……。
一ノ瀬 隼人
彼がまだ憎む事ができるような人物ならまだ気持ちはずっと楽だったかもしれない。
顔は町で歩けば必ずスカウトがかかりそうな爽やかなイケメン
成績は常にトップクラスでスポーツは万能。
サッカー部では不動のエースらしい
しかし、そんな高スペックを鼻にかけることなく誰にでも優しく思いやりもある。
そんな彼には自然と人が集まり友人も多い
お似合いだ
心は否定したくても頭がそう認めてしまっている。
一ノ瀬と俺。
どちらかと付き合うとしたら……いや、比べるまでもない。
むしろ比べることすらおこがましい、そんな気分になる。
よっぽどの物好きでない限り、具体的には1000000人中999999人は一ノ瀬を選ぶだろう。
「まぁ、しょうがねぇよ。」
いつもの、俺が物事をあきらめるのによく使うせりふが頭に浮かんだ。
「だいたい、女子とまともに喋れない俺がまして、小野寺と付き合うなんて最初から無理だったんだ。むしろ変な男に引っかからずにすんだんだ。一ノ瀬ならいいか。」
そうだ、諦めの良さは俺の数少ない特技だ。
今までだってしょうがないでいろいろ諦めてきたじゃないか。
今日できっぱりと小野寺の事は諦めよう。
そう決めると、少し気が楽になった気がした。
ふと、時計を見る。
もう、1時だ。早く寝よう。
忍び寄る寒さから身を守るように毛布を深く被る。
そして、目を閉じ明日になるのを待った。
すーと、閉じていた目尻から何かがこぼれ落ちた。
何だろうと、それを拭う。
それは、まごう事なき俺小鳥遊 鷹士の涙だった。
あきらめきれなかった。
その昔どこかの偉い誰かが言った。
失って初めてそれが自分にとってどれほど大切なのかが分かると。
同感だ。
そして俺の場合それは小野寺だったという事だ。
あぁ、畜生。俺にも一之瀬くらいのスッペックがあればな・・・・
「ふん、情けねぇ面だな。」
どこからかそんな声がした。
空耳かと思ったが確かに聞こえた気もした。
恐る恐る毛布から顔を出す。
あ、ありのままにいま起きたことを話すぜ。
俺の部屋に見知らぬ無駄にダンディーなおっさんがいた。
何を言ってるかわかんねぇと思うが俺にもわかんねー。
なんだこいつ……。
もしや不審者か?
取り敢えずすぐに通報できるようにベットに転がっていた携帯を右手に握りしめる。
「お、お前誰だよ!ていうか、何で俺の部屋にいるんだよっ!」
俺は若干ビビりながら見知らぬおっさんに話しかける。
すりと、そのおっさんは渋めの顔に笑みを浮かべて俺に言い放った。
「俺は、天使だ。お前の願いを叶えにきてやったぞ。」
「あー、もしもし警察ですか?何か自分が天使とか言ってる不審者が…」
「ちょっ、お前何やってんだよっ!!」
焦った様子で俺に向けて手をかざす天使(自称)
すると、不思議なことに警察へ通報していたはずの携帯がいきなり消滅した。
「なっ!」
「あぶねぇ……いきなり通報とか何考えてんだよ!!」
焦る天使
いや、普通この状況は即通報でしょ。
「てか、俺の携帯は!?」
先程消えてしまった携帯を探す。
ここで、あることに気がついた。
「あれ?てかなんで暗闇中なのにこんなにはっきり見えるんだ?」
そう、先程まで寝ようとしていた俺の部屋は真っ暗。
当然電気一つ点いていない。
「それは、俺の力さ。そして携帯はここだ。」
そう言ってスーツの内ポケットから取り出したのは見慣れた俺の携帯だった。
「なっ、いつの間に……」
あの一瞬で俺から奪ったのか?いや、距離が離れてるからそんなことはあり得ない。
それに暗闇でもこのおっさんだけははっきり見える。
「どうやら、ただの不審者じゃないみたいだな。」
「だからさっきも言っただろ。お前の願いを叶える為に来た天使だって。」
呆れたような顔をしておっさんは言った。
「いや、天使って言ったら普通翼の生えた赤ん坊とか幼女だろ」
おっさんの天使はなんか聞いたことがない。
「決めつけはタブーだ。そのイメージはお前ら人間が勝手に付けたものにすぎない。それに俺にだって翼はある。」
そう言い、俺に背を向けるおっさん。
そこには確かに純白の翼が生えていた。
なんつーか、死ぬほどにあわないな。おっさんと翼って。
「話を元に戻そう。」
俺の方を向きながら天使は言った。
「お前の願いを叶えに来た。しかし、本人が乗り気でないなら無理に叶えてやろうとは思わない。お前以外にも願いを叶えたいと思ってる奴はたくさん居るからな。」
「俺の願い…?」
「あぁ、お前の願いだ。小野寺 綾瀬と付き合いたいという願いだ。」
どうやら、本当にただの不審者ではなく天使のようだ。
もしただのコスプレおっさんなら小野寺への俺の気持ちを知っているはずがない。
「マジか……。もしかしてあれか、文字通り恋のキューピットをしてくれるってことか。」
「まぁ、そうだな。しかし全部俺がやるわけではない。あくまで手助けをするだけだ。」
チッチッチッと、人差し指を横に振る天使。
しかし、俺は今日の放課後の事を思い出した
「でも、小野寺はもう他の男と付き合ってるんだぜ……流石に天使が俺なんかの為にカップルの中を引き裂いたりはしないだろ?」
「ふん、まぁそうだな。それに、お前にそんなことができるとも思わないし。」
天使は意外に辛辣だった。
しかし何も言い返せない。
「そこでだ、お前を過去に戻してやる。二人が付き合うずっと前にだ。」
「え、そんな事できんの?」
「当たり前だろ?俺、天使だし。」
ドヤ顔の天使。
タイムスリップか…
やべぇ、テンションあがってきた!
だが、しかしあることに気がついて再び下がるテンション。
「いや、やっぱり無理だよ。」
「ん?何がだ?」
不思議そうな顔で俺を見つめる天使。
「いや、過去に戻してもらえるのはありがたいしやってみたいけどさ、相手はあの一ノ瀬なんだよ……。それこそ1000000人女がいたら999999人は一ノ瀬選ぶぜ。そんな相手にもう一度チャンスもらっても……」
「勝てる気がしないか?」
コクリと頷く俺。
天使はしばらく黙っていたがやれやれといった表情で話してきた。
「やれやれ。お前って奴は本当にダメな男だな。言っただろ?決めつけはタブーだと。彼女がその1000000人の内の残りの一人でないという保証が何処にある」
「でも、現に小野寺は一ノ瀬を……」
「それは、お前が何もしなかったからだ。思い出して見ろ。お前が彼女を好きにさせるために何をした?大したことはしてないだろ?」
そう、言われてこれまでの日々を思い返してみた。
天使の言うとおりだった。
俺は何時も今日の放課後のようにただ彼女を遠くから眺めていただけだった。
そして、何もしなかった。
まるで、傷つくのを恐れるかのように。
「で、どうする?行くか?やめとくか?」
俺はこの選択の後どうなるか予想してみた。
このまま天使の誘いを断った場合だ。
明日から、後悔と共に二人が恋人同士になったのを遠くからまた眺めるだけ
そして、卒業
進路が分かれ、しばらく会わなければもしかしたら彼女の事を忘れられるかもしれない。
天使の誘いを受けた場合だ。
そう簡単に小野寺とつき合えるとは思えない。だけどもう一回チャンスがあるのだ。
しかし、そのチャンスをミスした場合俺はまたあの場面を見ることになるのかもしれない。
どちらも楽な道とは言えない。
それだったら
後悔しないほうを選びたい。
「……行きます。行かせてください。」
「決まりだな。」
ニヤッと渋い笑みを浮かべるおっさん。
「よし、目を閉じろ。」言われた通りにする
すると天使の大きな手が俺の頭の上に置かれた感触がした。
「行ってこい。あっちで待ってるからな。」
その声が聞こえた瞬間俺は強烈な睡魔に襲われあれよあれよと言う間にベットに倒れ込んだ。
他の連載と同時進行なので更新はあまり早くないですがお気に入りや評価感想書いてくれるとすごくうれしいです( ;∀;)