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Memory of tears  作者: 至木三芭
一章"異変"
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ばんばん行きます、至木です。どうも。

プロローグは終えたものの、まだまだ導入部です。

ダメなところなどもあるかもですが、少しずつ成長を見せていけたらと思います。

ではでは、はじまりはじまり。

「おはよう、エリス」



「おはよう、アリーゼ」



アリーゼが聖騎士団の職舎に異動してから一週間、世界は当たり前のように平和だった。

出勤しては聖騎士団へ入ったことで得た権力と、権限の説明。以前まで同僚だったはずの者に指示をして走らせる。そんな立ち位置になった自分に戸惑いを隠せないものの、緩やかに日々は過ぎていた。



「ほとんどのことを教え終わったから、今日はアリーゼのこと、教えて」



自分の机に座るとエリスがアリーゼを見つめ、予め決めていたかのような滑らかさで問いかける。



「リリアに、貴女達はお互いを知らなすぎって言われたから。……いや?」



「嫌じゃない、けど」



エリスの言葉を解くと、恐らくリリアというのは聖女であり、彼女はその聖女を気安く呼べる立場にいると予想できる。

物心ついた時からエフレイエに住んでいたアリーゼとしては、聖女の名前がさも友人かのように気軽に出ることだけは一週間経っても慣れることではなかった。



「じゃあ、教えて?」



「あまり面白いものでもないよ? 僕はこの通り、エルフと人間の間に生まれたハーフで、父と母、どちらが人間でどちらがエルフかは知らない。赤子の時に孤児院街に捨てられてたらしいんだ。レストの姓は僕の後見人である孤児院のシスターのもので、アリーゼもその人に付けられた」



特に家庭に事情のある子供を預かるせいか、ハーフエルフであるアリーゼを子供達は軽く受け入れてくれ、またシスターも優しかった。とアリーゼは続けた。



「間違いなく、僕はとても恵まれた環境にいたと思う」



「どうして騎士団に?」



「元々十五になったら働くつもりだったんだ。で、僕も人を助けたい、そして孤児院へ恩返しがしたい。手っ取り早く願いを叶えるには騎士団が最短だった。それに……」



「それに?」



「僕には"力"があった」



「魔術のこと?」



「そう。力を持つ人はね、わかっているのにその力を隠すのは良くないってシスターが言ってたんだ。だから、僕はその力を役立てることにした。僕が守ると決めたモノを脅かすモノを、この力で無くすことにしたんだ。一人じゃたかが知れてるけど、それでもって。結果として、敵対者を殺してしまう自体をも招くこともあるけど。それでも――」



アリーゼの言葉には、育ててくれた全てへの深い恩義と決意で溢れていた。純粋にそれを信じている。ある意味で彼はこの聖都に住む者と同じ、信仰深い少年だった。




「……白い」



「え?」



「――なんでもない。いつか、時にはその心は貴方を惑わせる。けれど、貴方はその想いを裏切ってはダメ。私は貴方の気持ちを信じて聞いたから、死ぬまで自分を貫いて」



色に例えるなら――白。奇しくも彼女の知る中で最も位の高い女性と同じ色。聖女と呼ばれるあの女性も、同じように自分の想いに正直で、純粋に信じている。誰かの為を想う自分の心を。



「――もちろんだよ」



屈託なく笑うアリーゼに、エリスは少しばかり口角を釣り上げた。アリーゼは物静かに笑う彼女を見ると、内心でガッツポーズをした。

初めて会って以来、彼女の笑顔を見るのが楽しくなっているようである。



「魔術師としての貴方はどう? 聞く限りでは、貴方の代ではトップクラスの術師って聞いているけど?」



「買い被りだよ。もしそうだとしても、それはエルフの血っていうズルのおかげであって僕自身には繋がらない。っていうと、ちょっとネガティブ過ぎちゃうかな。

そうだね……じゃあ、人より炎の扱い方が上手かった。って答えてことにしておくのでいいかな」



「炎の扱い?」



「そう。僕は炎の魔術が得意なんだ。でも、他の元素の魔術はてんでダメ。元素が関わるモノは炎の魔術しかできないんだよ。これでトップクラスだなんて言われても、ね」



肩を竦めて苦笑してみせるアリーゼをエリスはじっと見つめた。嘘はついていない。謙遜でもない。本人の中では紛れもない事実なのだろう。



「じゃあ、任務が来たら楽しみにしておく」



「あはは、頑張るよ。と、今度はエリスのことを教えて欲しいな」



アリーゼは少しばかりテンションを高めにして問いかけた。生まれのせいで友人の少ない彼は誰かとこうして自分のことなどを話す機会なんて少なく、この語らいをしてるというだけで楽しくなっていたりする。

わくわくと隠しきれない楽の感情を滲ませて少女へと視線を向けた。



「私? ……私は、ここの生まれじゃない。どこで生まれたかは秘密。家族もいない。武器は、この剣だけ。……ごめんなさい、あまり話すことがない」



淡々と、無表情に自身のことを語る少女の声には事実の声音しかない。本当にこう説明するしかないのだろう。と納得したアリーゼは大丈夫だよ。と頷いて席を立った。



「紅茶、良ければ淹れるけど飲む?」



部屋に備え付けられた紅茶用具へ歩いて行きエリスへと振り返る。この一週間、このセットが内心気になって仕方なかったのである。



「紅茶、好きなの?」



「うん。エリスは?」



「好き。だから飲む」



「承りました」



返事をして、手際よく準備を整えていく。やがて室内に紅茶の薫りが広がっていき、二人分の紅茶をカップに注いで、アリーゼはエリスへ振り返った。



「砂糖とミルクは?」



「角砂糖五つとミルク二つ」



「……え?」



「どうしたの?」



きょとんと、エリスの言葉を理解しきれないアリーゼにエリスは小首を傾げた。

ひとまず言われたものを目の前に揃えて、それから一言。



「多すぎじゃないかな、エリス」



「そんなことない。これが最低ライン。これより少なくしたらストレート」



「ストレートティーに謝った方がいいと思う」



「なんで? これでも充分大人の味」



「幼い子供でもそんな甘いの飲まないよ」



やれやれ、と紅茶を自分とエリスの机に置いて、自分は何も入れずストレートで口に含んだ。目の前ではエリスが角砂糖とミルクを大漁投入しており、見るだけで甘そうな光景が広がっている。



「エリスはわりと子供な味覚なのかな――あ痛っ!」



想像しただけで胸焼けしそうな角砂糖の投入にポツリと呟いた独り言は、額に直撃したスプーンによって遮られていた。



「年上に向かって失礼」



「……すいませんでした」



子供っぽいところもあるのかもしれない。と内心で呟く。

また何か投げられたら堪ったものじゃないと内心で呟いたはずなのに、目の前の少女はアリーゼを半目で見つめていた。



「……何かな」



「アリーゼ、次はない」



バレていたらしい。引き攣った笑みでアリーゼは頷くことしかできなかった。



「貴方は思ってることが顔に出やすいし、隠し事が下手。騙し合いや化かし合いは不得手だと思う」



「その通りです……言い訳のしようがありません」



「今後の課題。――ん、リリア?」



「はい……って、どうしたの、エリス」



「ん、リリアが帰ってきたみたい。私と貴方を呼んでる。

――うん、うん」



ひとしきり頷くと、エリスは紅茶を一気に飲み干した。

あれを一気飲みか……とまたしても顔を引き攣らせるアリーゼだが、直後の彼女の言葉にその表情を固まらせた。



「アリーゼ。これから聖女の間に行く」



「……え? ええっ!?」



「リリアが会いたいって。それと、初任務」



「聖女様が……って、初任務?」



「そう。私達が請け負わないと行けない任務が来た。

覚悟を決めて、決めたら行く」



初任務。聖女の謁見。二つの単語がのし掛かる。アリーゼは目を閉じると大きく息を吸って吐き出した。

それからよし。と一言言って紅茶を飲み干す。まだ熱さが残るそれを飲み終えた時には動揺は表情から消えていた。



「決まった?」



「うん。行こう」



「ん、期待、してるから」



少女なりの励ましなのだろう。エリスはアリーゼの肩を叩くと部屋を出て、廊下で扉を開けて待機している。

もう一度よし。と小さく喝を入れて、アリーゼも部屋を後にしたのだった。

アリーゼくん、結構強そうな雰囲気出させられてますが、まぁ聖都トップの聖騎士団に推薦されるような子なので悪しからず。

ですが、ファンタジーにおける戦闘は適材適所なので一人による無双はほとんど起こりません。ついでに言えばこのコンビ、どちらもわりとボケなのでツッコミがいません。

さて、次回は聖女様と任務開始。他の聖騎士も出したりしたいし、出来るだけ早筆で行きたいものです。

では、また次回で。

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