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岩石が砕けた先は……。

 十年前のある夜、神社で葬儀が行われていた。


 そこにいた親族であるたった一人の少年は、周りが泣いている中、悲しい顔をしながらも泣かずに、死んだ母から目を反らし、泣き声と共に聞こえてくる、ある一つの問題を話している人々の会話を盗み聞きした。


「あの子、どうしますか?」


「あぁ、あそこに座ってる両親が二人とも死んだ可哀想な子のこと? 私が受け取る訳ないじゃない。……お金の問題もあるし」


「そうですよね。……というか、彼をどう育て上げればいいか、分かりませんしね」


 少年は、その会話を聞くと、両手の拳を握りしめ、思わず下を向き、悔しそうな顔で涙を流す。


 彼は、両親を亡くした悲しさよりも、その事に関する周りの対応と自分を受け入れてくれる環境がない悲しさの方が大きかったのだ。


(僕は……誰にも受け入れてくれない)


 そう思い、彼は心を閉ざした。


 結局、受け入れ先が見つからず、彼は児童養護施設に預けられたのだった。


 ―――


 そして、現在。


 俊也達は、変わらない日常を過ごしていた。


 ―――


 その夜、俊也は、いつもの様に、パソコンを開き、自分のサイトをチェックする。


 この日は、珍しく依頼が来ていた。


(……一ヶ月ぶりか)


 彼は、依頼の内容を見た。


 ―――


 Light killers 様


 僕は誰にも受け入れてくれません。


 受け入れてくれないのに、どうして生きる必要があるのでしょうか。


 殺してください。


 ○□県△○市 20代男性


 ―――


 これを読み終えた俊也は、頭を掻き、「アァーー」と叫びながら背伸びをして、床に大の字で倒れた。


「場所が遠い故に情報が少ないし、……つーか、ここド田舎じゃん」


 彼は天井を見上げる。


「まぁ、いっか。……愚痴をこぼしたってしょうがないし。明日、一人で行こう」


 そう呟くと、隣の部屋の奏恵が彼の部屋のドアを開けて、「うるさい!」と言われて頬にビンタされる俊也であった。


 ―――


 翌日。


 ○□県△○市の駅に着いた俊也は、改札を出て、出口へ向かう。


 出口に着くと、「アァー」と背伸びをしながら叫び、深呼吸をした。


「相変わらず、ここの空気は旨いな〜」


 独り言を話している俊也は、ある場所へと向かった。


 ―――


 俊也が向かったのは、とある街中の外れ道の、大きな教会である。


 実は、今の義母である華原鈴に引き取られるまで、俊也と奏恵はここで育てられたのだ。


 俊也は、そこに寄って、挨拶と依頼人(この街はポジティブな人が多いため、ここ以外に依頼書を書く人がいないという俊也の予想から)の目星を付けに行くようだ。


 ―――


「変わってないな〜」


 俊也は、教会の前の門で足を止めて、昔、自分達が預けられた時のことを思い出していた。


 あの日も、少し肌寒く、門が錆びれていて、雰囲気が悪かったが、門の向こう側は、季節外れの紅葉がとても明るく、そして子供達の笑い声がよく聞こえていた。


 思い出に浸っていた俊也は、ハッと我に返り、門の近くにあるインターホンを押す。


『はーい』


「先生、お久しぶりです! 俺です、……川部俊也です!」


『……あぁ、俊也君! 久しぶりねぇ。そこは寒いでしょう? さぁさぁ、あがってくださいな』


「はーい、お邪魔しまーす」


 そう言って門に入る俊也であった。


 ―――


 俊也は待合室に案内され、牧師と二人きりになった。


 牧師が聞く。


「で? ご用件は何でしょう?」


「二〜十年前にここを卒業した暗そうな男性って、居ませんでしたか?」


「……あなたは相変わらず、可愛くない子ね」


「……そりゃどーも」


「名簿を持ってくるから、ちょっと待ってね」


 そう言って、牧師は部屋から出ていった。


 しばらくすると、名簿を持って帰ってきた。


「探してみたら、一人だけ思い当たる子がいたわ」


「ホントですか!?」


「えぇ」


「写真を見せてください!」


「えぇ、いいわよ」


「一枚撮ってもいいですか?」


「えぇ、いいわよ」


「ありがとうございます!」


「いいえ、構わないわ。用はそれだけ?」


「はい」


「じゃあ、またね」


 二人は立ち上がり、玄関へと向かう。


「はい、ありがとうございます! ……ちなみに、何で彼がここに来たかって、教えていただけませんか?」


「……いいけど……、あまり他の人には他言しないようにね」


「はい、わかってます!」


「あの子はね……」


 ―――


 先生は彼の両親が病気で亡くなったが、引取先が見つからず、元々の暗い性格から心を閉ざしてしまったこと、その後、ここに来てもその心が開くことは無かったことを話した。


 ―――


「……お話していただき、ありがとうございます」


「いえいえ。……ホントにもう帰るの?」


「あっ、はい。用はもう済んだので」


「相変わらず、可愛くない子ね」


「…………では、また」


「はいはーい」


 彼女が笑顔で手を振ると、彼は玄関のドアを閉めて、駅へと向かった。


 ―――


 その夜、指定場所で、一人の男が夜空を見上げていた。


 そこに仮面の男が現れた。


 その気配を感じた夜空を見上げている男は、その体勢のまま、言った。


「僕を……殺してください」


「そうか……。だが、その前に一つ問う。お前は、本当に一人か?」


「……え?」


「確かに、お前は周りに誰もいないかもしれない。……けど、受け入れてくれた人はいるはずだ!! お前はそれに気付いていないだけじゃないか?」


「違う!! だって……、十年前のあの葬儀の時、誰も俺を引き取ってくれなかった!! ……受け入れてくれなかったんだ!!!!」


「それでも教会の人々は……、子供達は受け入れてくれたんじゃないのか?」


「あれは、あの立場だからだろ?」


 仮面の男はその言葉を聞いた瞬間、依頼人に近づき、右手で彼の左頬をビンタした。


「人を信用できない愚か者が、何泣き言吐いてんだコノヤロー!!!!」


「…………っ!!」


 依頼人は叩かれた左頬を左手で抑えて、今にも涙が出そうな目を右手で拭う。


「あそこの子供達だって、お前の気持ちと一緒だ!!

 あそこの子供達だって、本当の両親と暮らしたいって願ってるさ!! ……それを誰よりも分かってるのは、お前だろ?」


「……ヒクッ……ヒクッ……」


「……俺は、両親の顔を一度も見たことがないんだ」


「……ヒクッ……ヒクッ……」


「幸せだな。……両親の顔を見たことがあって。……愛情をもらって」


「……ヒクッ……ヒクッ……」


「お前は、受け入れてくれた人を自分から避けてたんじゃないのか?」


「……ヒクッ……ヒクッ……」


「そうやって、泣いて、逃げていただけじゃないか?」


「……ヒクッ……ヒクッ……」


「逃げて逃げて、その先に何がある?」


「……ヒクッ……ヒクッ……ヒクッ……」


「何もない。……少なくともあそこの教会の子なら、分かるだろう?」


「……ヒクッ……ヒクッ……じゃあ……」


「…………?」


「ヒクッ……どうすれば……ヒクッ……いいんだ……ヒクッ……よ? ……ヒクッ……」


「それもあそこの教会の子なら、分かるはずだ」


「……ヒクッ……ヒクッ……」


「現実を受け止めろ。……そして、人を信じてみろ」


「……ヒクッ……ヒクッ……」


「確かに、それは今までのお前なら、難しいかもしれない。……無理かもしれない。

 だけど、受け止めて、前に進まないと、心は、開けない」


「……ヒクッ……ヒクッ……」


「自分は自分で変えろ! ……そのためには、これが必要か?」


 仮面の男は、ナイフを男に向ける。


「……ヒクッ……い……いえ……ヒクッ……」


「そうか、……なら、よかった。

 ……それと、いい加減泣くのを止めろ!! みっともないぞ!」


「あっ、はい……」


 男はポケットからハンカチを取り出して涙を拭き、他のポケットからティッシュを取り出し鼻を噛む。


「それにしても……」


 仮面の男は上を見上げて、言った。


「今日の夜空は、綺麗だな」


「……そうですね」


 依頼人も共感して、仮面の男の方を向く。


「あの……、ありがとうございました!!」


 そう言って、依頼人は頭を下げた。


「いいさ。……頑張れよ」


 仮面の男は、その言葉を残して去って行った。


 ―――


 翌日の午後。


 俊也は無事に家に帰り、いつものようにパソコンを見ていた。


 サイトには感謝状が届いていて、それを読み終えると、窓辺に行き窓を開けて空を見上げた。


 その日の空は、とても済んだ青空だった。


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