淡く咲く青色の花。
高野美帆が来てから、1週間後の朝。
美帆はいつもは全く気にならないニュースを夢中になって見ていた。
「どうしたの?」と奏恵が聞くと、「いやっ、これ見てくださいよ!!」と美帆が言うので奏恵は見てみると、
[昨日午後4時、△△市の小学校のコンクリートでその小学校の生徒と思われる女の子が死亡しました。
調べに寄りますと、その女の子はクラスでいじめを受けていて、それに耐え切れず、屋上からの飛び降り自殺を図ったと思われます。
この事を受けて、教育委員会はそのクラスの担任の教師を今年度で辞任させる意向を示しました。
辞任させられる教師の名前は、神田誠人(46)……]
そう流れた瞬間、美帆はテレビの電源を消して、
「この先生、あたしが小学生の時の恩師なんです。……先生は、あたしがいじめを受けていた時、助けてくれたんです」
美帆は言うと、泣き始めた。
自分の恩師を悪者扱いするメディアが許せなかったんだろう。
俊也と奏恵は頭が真っ白になり、何をして良いのか、また、何と言えば泣き止むのか分からず、ただ立ち尽くしていた。
―――
その日の夜。
俊也と奏恵はいつものようにサイトを確認すると、とんでもない依頼書を見つけた。
―――
Light killers様
私は教師です。
私は昨日、とんでもないことをしてしまいました。
私が誰よりも愛している生徒を自殺させてしまったのです。
私は、この責任を負って自殺します。
殺してください。
□□県○○市40代男性
―――
「おい!! コイツってまさか……」
俊也は驚きながら奏恵に話し掛ける。
「美帆に伝えた方がいい?」
「……あぁ、すぐ呼んできてくれ」
そう俊也は答えると、奏恵はすぐに走って美帆を呼びに行った。
―――
「奏恵さん……これ……」
依頼書を読み、絶望的な顔をした美帆はそう呟いた。
泣きそうになり、しばらく何も言わなかったが、3分くらい経って、彼女の口が開いた。
「あたしにも……手伝わせてください」
その時の彼女の目は、涙目ながらも、とても鋭く強い目だった。
―――
翌日。
この日は休日だったので、美帆は卒業した小学校に向かった。
―――
小学校に着いて、走って職員室に着くと、「あの!!」と大声で言いながらドアを開けて、「神田先生はいらっしゃいますか!?」美帆は少々興奮気味にまた大声で聞いた。
「いっ……今はいません。あのっ……、どちら様でしょうか?」
引きながら女性教師が返す。
「ここの小学校を卒業した高校一年です! 情報漏洩とかは一切しません!!」
息切れしながら美帆は話す。
「神田先生なら、今、自宅謹慎中です」
その女性教師は美帆に教えた。
「ありがとうございます!!」
美帆はお辞儀をすると、そのまま走り去って行った。
―――
その後、美帆は神田の家へと訪れた。
美帆はポストにLight killersからの手紙を入れて帰ったふりをして、近くの物陰に隠れた。
数分後、神田がポストの中身を取りに来た。
美帆はそのタイミングを見計らって、「神田先生……?」と神田に話し掛けた。
神田は咄嗟に振り向き、「……高野…………美帆……さん?」と美帆に聞いた。
「先生!! お久しぶりです!!」
美帆は叫び、神田に強く抱きついた。
「……くっ……苦しい…………、苦しいから、放してくれないか?」
と、とても苦しそうに言われたので、慌てて、「すっ、すみません。つい……」と美帆は手を放して謝るが、「いいよ」と神田は笑顔で返してくれた。
「で? どうしたんだ? 悩み事か?」
神田は美帆に聞く。
「先生は優しいんですね」
美帆は小声で呟くと、「……?」と神田は首をかしげる。
「何でも無いです。久しぶりに先生の顔を見たくて……。では、失礼します」
お辞儀をして美帆は帰った。
―――
家に着いて、「ただいま」と美帆が言うと、「……様子はどうだった?」と俊也に聞かれた。
「元気そうでした。 ……けど……」
「けど?」
「……なんだか、無理してるように見えました」
「そうか……。ちょっといいか?」
「……?」
―――
夜。
指定場所は勤務先の学校の屋上。
そこに着いて、神田誠人は一人で夜空を眺めていた。
「どうだ? 最後になるかもしれない夜の夜空は」
急に誰かが話し掛けて来たので、ビックリした神田は周りをキョロキョロ見渡して、声の主を探した。
そうしたら、後ろに仮面をつけた2人組がいた。
Light killersだ――。
彼はそう確信した。
「私に未練なんてありません。殺してください」
と神田は下を向きながら言う。
「……殺す前に、一つ問う。本当に未練なんてないのか?」
仮面をつけた二人組の内の一人(俊也)が聞く。
「……あんたの事情は知ってる。でも、だからといって、そこで逃げたら、いけないと思う。……死んでいった女子生徒のためにも、そして……、今、いじめを受けている生徒たちを救うためにもだ!!!!」
冷たい風が流れた。
「でも、俺は……」
神田が何かを言おうとすると、「先生!!」といきなり美帆が話に割り込んできた。
「……高野……?」
淋しそうな顔で神田は振り向いた。
「先生!! あたし、いじめを受けていた時、先生に救われたんです!! 先生が助けてくれた時、とても嬉しかったし、生きる希望が持てたんです。先生は、まだ生きる希望を持っていない生徒にその希望を与えないといけないと思います」
美帆は真剣な顔で言うと、
「……すまない、高野。どうも、俺にはそんな希望が見えて来ない」
と神田下を向きながらが返事をしたその直後。
パシッ!!
美帆は勢い強く神田の頬を叩いた。
「いじめを受けていた生徒はね、神田先生!! ……あなたが『頑張れ』って、『生きていれば必ずいい事がある』って、『逃げたらダメだ』って、そう言ってくれたから、みんな頑張れたんですよ!! ……なのに、今のあなたは、あの時とは全然違う……」
美帆は大声で叫び、泣き出しそうになる。
「俺は……、一人の生徒を殺してしまったんだ。俺には、その責任を[死ぬこと]で、償わなければならない……」
神田は下を向いて、両手を握り締める。
「誰がそんなこと言ったんですか!!!???」
美帆は大声で若干枯れていつつも、なお、続ける。
「……あたしは先生が言っていることは違うと思います。
……あたしは、先生が侵したその罪は、[生きて行くこと]で償うべきだと、……そう思います。
死んでしまった女子生徒のためにも、いじめで苦しんでいる他の生徒たちのためにも、……そして、先生自身のためにも」
さらに美帆は続ける。
「生きてください。……『生きればいつかいい事がある』……。あたしはそうは言いません。
でも、これだけは覚えておいてください。人間1人1人に、自殺する理由なんてないんです。……それに、先生は、あたしに、こう教えてくれました。『いじめを受けている人間は、それに耐えて、歯を食い縛って、強くならなきゃいけないんだ』
この言葉を先生に捧げます」
そう美帆は言うと、神田は泣いて前を向き、3人を見て、震える声でこう言った。
「俺は……死ねない……」
その言葉を聞いた3人は、立ち去っていった。
―――
翌日。
サイトを見ていると、感謝のメールが届いていた。
それを見た3人はお互いに笑いあった。
今回は、同じ言葉の繰り返しですね。
すみませんでした。
えっと、言い訳を言うとですね、
美帆のセリフを書こうと思ったら、すっかり忘れてしまうというとんでもない大誤算を起こした……という感じですね。
今度から気をつけます。