固くきれいなビー玉たち。
(あの依頼から何ヵ月経ったんだ?)
そう思える程月日は早く流れ、彼――川部俊也――は今日も彼女――下村奏恵――と一緒に学校に行く。
そんなある日の夜、また依頼が来た。
―――
Light killers様
私はある高校の1年生です。
私の両親はいつも私を暴行してきます。
もう、怖いです。耐えきれません。
それに私が生きていても、両親は得するどころか損をするから、
もう私はこの世にいる必要はありません。
私を殺してください。
△△県○○市10代女性
―――
「……ここの住所って、あたしたちの学校の近くじゃない?」
「そうだな……。じゃあ、この件はお前に任せる」
「ハァ!?」
奏恵は怒り始めた。
「『ハァ!?』ってなんだよ!? 元々、女担当は自分だって言っただろうが!!」
俊也も怒り始めたので、
「わっ、分かったよ……」
奏恵は1歩引いて、依頼を受け入れた。
―――
次の日の朝。
彼らはいつもの女子たちの猛アピールを受けながら、学校に登校する。
その時、学校の3階の(彼らの方角で)左側から奏恵は妙な視線を感じた。
彼女はその視線を気にしつつ、俊也と教室へ向かった。
―――
昼休み。
奏恵は朝に視線を感じた教室へ向かった。
そこには、地べたに座って本を読んでいる少女を見つけた。
「何の本を読んでいるんですか?」
奏恵は少女に話し掛けてみた。
「……倫理の本です。もっと言うと、親の存在について調べています」
少女はそれだけを伝え、また本に目を向ける。
(そういえば、依頼書に『親に暴行を受けてる』って書かれてあったな〜)
奏恵は思い出し、――この子が依頼主だ――と確信した。
「そういえば!」
いきなり少女が本を閉じると同時に立ち上がった。
「朝、男の人と一緒に歩いていましたよね!? しかも、学校ナンバーワンの!!」
少し興奮した様子で奏恵に聞く。
(えぇ!? そうなの!?)
心の中で驚いた奏恵は、即座に「うん!! そうだよ!」と心の中とは裏腹に得意気に話す。
「へぇ〜。じゃあ、あの人のこと、教えてください!」
と少女は頼む。
―――
ここから先は会話が長いので以下略。
この話題から2人は意気投合して、仲良くなった。
―――
放課後。
奏恵と少女は2人で帰った。
「そういえば、名前を聞いてなかったね。あぁ、あたしは下村奏恵。改めて、よろしく」
奏恵は自己紹介をする。
「あたしは一年の高野美帆です。こちらこそよろしくお願いします」
と少女――美帆――は自己紹介をした。
それから2人は静かになった。
しばらく時間が経って美帆が、「あの、奏恵さん……」と話し掛けた。
「ん? ……何?」と奏恵が反応すると、「話をしてもいいですか?」と美帆は真剣な顔で言う。
―――
「ただいまー」と叫び、自分の部屋に向かう奏恵は、「で? ……どうだった?」と俊也に聞かれた。
「……あたしたちと同じ境遇にある人だったよ。しかも、拾った親が子供に暴行してるって」
「そうか……、分かった」
それだけ言うと、彼は立ち去ろうとしていたが、「待って!!」と奏恵は引き止め、そして真剣な顔つきで言った。
「話があるの」
―――
夜。
指定場所に着いた奏恵は、足音を立てながら美帆に近づく。
「あたしを殺しに来たんですか」
と、美帆は言う。
「早く殺してください。あたしに未練なんてありません」
と、続けて言う。
それを聞いた奏恵は、仮面を取り始めた。
「かっ、奏恵さん!?」
美帆はその姿を見て、驚きを隠せなかった。
「……あたしもね、あなたと一緒で孤児なんだ」
奏恵が言うと、いきなり美帆を抱き締めた。
「怖かったよね、ずっと殴られて来て。
哀しかったよね、ずっと認められなくて。
苦しかったよね、ずっと一人で」
奏恵は小声で語りかけた。
そう言われると、美帆は大泣きした。
奏恵ももらい泣きした。
―――
奏恵が指定場所に着く頃、俊也は[奏恵に頼まれた事]をしに外に出かけていた。
「ここか……」
俊也はある家の前に着き、インターホンを押した。
その家には高野と書かれてあった。
「は〜い」
女性らしき声が聞こえた。
そして、その声の主がドアを開ける。
「こんばんは」
俊也は少し暗い笑顔で言った。
「坊や、こんなところで何してるの? 子供はもう寝る時間だよ」
そんな俊也に女性が優しく声をかける。
「……実は、あなたに警察からの令状が出ています。一緒に来ていただけませんか?」
女性の顔が豹変した。
「ハァ!? ふざけんなよ!! あの血が繋がってないクソ娘を引き受けたせいで、こっちは迷惑かけてんだ!! 殴って何が悪い!?」
興奮しながら女性は言い、気が狂ったのか、ナイフを持って俊也に襲い掛かった。
しかし、俊也は刺さりそうになったギリギリのところで避け、ナイフを持っている方の手を掴み、ナイフを地面へ落とした。
そして俊也は言った。
「すみません。警察からの令状が出ていると言うのは嘘です。ただ……」
と何かを言い掛けると、後ろから警察らしき車のサイレンが鳴り響き始めた。
「あなたが言った言葉、とった行動は、すべて僕の仲間が録画しました。もう通報済みです。……子供を殴ったら、痛い目に会うのは親なんです。反省してください」
俊也は淡々と言う。女性の身体が崩れ落ちた。
「どうして、私がやっているって分かったの?」
女性は震える声で下を向きながら問う。
「友達に教えてもらいました」
相変わらず、淡々と言う俊也。そして、そこを後にしようとする。
「……あぁ、あともう1つ」
彼の足が止まり、振り向かずに、
「自分が言った言葉、とった行動には責任を持ってください」
そう低い声で言い残し、去って行った。
女性は手錠を掛けられているとき、去って行く彼を見ながら泣いていた。
―――
「ただいまー」
棒読みで叫んで、自分の部屋に向かおうとする俊也は、「おかえり」と笑顔で奏恵に迎えられた。
彼が振り向くと、そこにはもう1人、女がいた。
「おい、そいつって……」
「一旦、警察に預けたんだけど、彼女の意志でここに連れて来た」
と奏恵が説明すると、
「高野美帆です! これからもよろしくお願いします!」
美帆はぺこりとお辞儀をした。
家族が1人、増えた。