闇に灯る光。
ある高校の正門前では、美人の女子から(言ってはいけないが)ブサイクでキモい女子たちが立ち尽くしている。
その女子たちはある男子を待っていた。
「あっ、きたよーー!!」
1人の女子が言うと、そこにいた女子全員がキャーキャーと騒ぎ出す。
その男子は1人の女子と共に歩み寄る。
―――
一方、その二人はというと……、
「なぁ、またコレ壊れたのか? ノイズっぽくないノイズが聞こえるんだけど」
補聴器をつけた男子――川部俊也――が右の耳の補聴器をトントンと叩く。
「……ハァ。……あんたさぁ、いい加減、自覚しなさいよ」
その男子の隣にいる女子――下村奏恵――が呆れてため息をつく。
「自覚って何を? ……何を自覚すればいいんだよ?」
俊也が聞くと、奏恵は正門前を指を差し、「目の前の光景を」と無表情で言った。
そこには、数えきれないくらい沢山の女子が「キャーキャー」と言いながら俊也を待っている。
「俺、ああいうの嫌いなんだけど」
苦い顔をしながら彼は言う。
「……ていうかさ、何であたしがいるのに、女子がこうも沢山いるの? 中学の時は、諦めてくれたんだけどなぁ」
一人でボソボソと呟く奏恵。
「お前が愚痴ばっか言ってどうするんだよ?」
と突っ込むが、
(俺も愚痴、言いてぇ……)
彼は思う。
―――
そんな感じで二人は正門を通り抜けた。
―――
2人は普通に授業を受け、部活には入部せず、いつも2人で帰る。
そして、2人が別れることがない。
なぜなら、2人は、一緒に住んでいるからだ。
その理由は、2人は生まれたときに、それぞれ違う家族が同じ場所に捨てられて、その2人をある老人――華原鈴――が拾ったからだ。
―――
2人が家に着いて、奏恵は鈴の手伝い(家事)をし、俊也は部屋にこもって、ひたすら勉強……という設定になっているが、実は彼はやっていない。
ひたすらネットに夢中になっているのだ。
夕飯を食べる時間となり、奏恵は俊也を呼びに部屋に行くと、いきなり、
「まだネットをやってるの!?」
と大声で言い、俊也は即時に、
「いいじゃねーか!? そんなの俺の勝手だろ!?」
「あんたね―――!!」
奏恵はそう言いながら、意図的にドアを閉める。
そんなことを知らない鈴は、「早くおいで〜」と、大声かつ優しい声で言った。
―――
俊也の部屋に入った奏恵は、「で? ……今日はどんな依頼なの?」と言い、真剣な表情に変わった。
「今日はこんな依頼だ」
彼はそう言いながら、奏恵にパソコンを見せた。
―――
実は彼らは、今、ネットで有名な[Light killers(光の殺し屋たち)]なのだ。
その特徴は4つ。
1つ。
白い仮面と黒い服に黒いマントを着た男と、赤いリボンがついたポニーテールに男と同じように黒い服に黒いマントを着た女だということ。
2つ。
すぐに殺さない。
3つ。
依頼人に深入りする。
4つ。
依頼遂行後は、必ず感謝状のメールが来る。
―――
そして、今回の依頼はこうだった。
―――
Light killers様
私は、嫌われものです。
生まれてからずっと愚痴を言われ続けました。
そして、失敗してばかりの人生でした。
会社に入社して、結婚して、子供が生まれて……でも今は、家族に嫌われ、会社の同僚にも嫌われ、挙げ句の果てに、給料も減って……。
こんな私を必要とする人なんて、どこにもいません。
私を殺してください。
〇〇県××市40代男性
―――
「なんで、嫌われているって思ってるんだろうね」
奏恵が首を傾げる。
「たぶん、ネガティブなんだと思う。……さて、食べに行くか!!」と俊也が立つと、「食べに行くって……何を?」と奏恵が聞く。
「夕飯だよ、夕飯!! 元々、呼びに来たのはお前だろ!?」
(あっ、忘れてた)
奏恵は顔を赤らめる。
「それに……」
俊也は何かを言い掛けると、
「『腹が減っては戦はできぬ』って言うもんな!!」
と俊也は珍しくボケると、
「『戦』ではないでしょ!?」
奏恵は珍しく突っ込む。
そしてその後、俊也は日時と場所を指定するメールを送り、パソコンを閉じた。
―――
次の日。
2人は学校を終え、帰宅し、着替えて、外へ出て、「カップル」という雰囲気を出しながら、指定場所へ向かった。
指定場所にはゴミ箱がある。
飲んだばかりの缶ジュースを捨てに行くという設定だ。
俊也は奏恵を待機させて、1人で捨てに行った。
そこには、今日のターゲットらしき男性がいた。
俊也が空き缶をゴミ箱に投げようとすると、「何をしているのですか?」と、いきなり俊也は男性に声を掛けられた。
「ゴミを捨てようとしているんです」
と俊也は言い、空き缶を放り投げて捨てた。
「そうか……。実は、俺も捨てられるんだ。今日、ここで……」
と男性は、言い返した。
俊也は、今日のターゲットはこの人だと確信した。
そして俊也はあえて問う。
「何を捨てるんですか?」
その問に男性は、「全てを……だ」と答えた。
俊也は、「僕でよければ、話を聞かせてください」と頼んだ。
男性は語った。
―――
男性は語った。
俊也は、それを目をつぶりながら聞いていた。
男性は語り終えたとき、涙を流していた。
―――
「話していただき、ありがとうございました」
俊也はぺこりとお辞儀をし、その場を立ち去った。
―――
2人は家に帰り、奏恵は俊也に、
「で? どんな事情だったの?」
「ただのネガティブ思考だ。……ある種、病気とも言える」
自分の部屋に続く階段を登りながら俊也は答えた。
「彼が小さい頃、依存するくらい仲が良かった親友が、いじめが原因で自殺して、しかもそれが自分のせいで、それからずっと、何に対してもネガティブ思考って事だ」
俊也は続けて言った。
「要するに、今の今までずっと責任感じてるって事?」
そう奏恵が聞くと、「そうだな」と俊也は答えた。
そして2人は、仕事の準備を着々と進めていた。
―――
その夜。
『明日のご飯の買い物』を口実に、2人は集合場所へと向かう。
そして、案の定、集合場所には、昼に俊也と話した男性がいた。
そして、俊也たちは、[Light killers]として、男性の前に現れた。
「俺を殺しに来たのか……。早く、殺してくれないか?」
男性は彼らを見て言うと、
「その前に、1つ問う。あんたには生きなければいけない理由は無いのか?」
仮面を着けた男(俊也)は聞く。
「……何も無い。だから、早く殺してくれ!!」
男性は突然大声で叫んだ。
「あんたはそうやって逃げているだけじゃないか!!」
仮面を着けた男は大声で叫び始めた。
「あんたには護るべき家族がいるだろうが!! 何が『何も無い』だ!! あるじゃないか!? ここに!!」
彼は、深呼吸して、落ち着いた低い声で言う。
「それに……、死んだ親友のためにもあんたには、『生きる義務』がある。……そんなことも判らずに『死にたい』なんてほざくな!!」
また深呼吸して、
「俺が言いたいことは全部言った。……後は、あんたの決断次第だ」
もう1人の女(奏恵)が、
「ここにナイフがある。死にたいなら取って自分で差しな」
ナイフが上に乗っているお盆を男性の前に出し、彼の決断を待つ。
「俺は……、死ねない……」
男性の身体が崩れ、泣き始めた。
「そうか……。だったら、歯を食い縛って生きろ。俺たちは、そういう人間が好きなんだ」
そう言って立ち去った。
―――
後日。
サイトに感謝状のメールが届いていた。
どうやら、男性は、部長に昇格したらしい。
それを見た2人は「良かったですね」と返信した。
そして、今日も2人は自殺しようとする人間に光を与える。