離れゆく二人の涙模様
「岡先生!」
「…藤崎。どうした?」
「先生の顔、見とこうと思って」
「ああ、…もう卒業か」
「うん。明日でこの三年もおしまい。先生ともあんまり会えなくなっちゃうのかなって思ったらどうしても先生の顔見たくなって…。ごめんね」
「いや、大丈夫。座ったら?」
「ありがと。ねぇ、先生?」
「ん?」
「先生は、どう思う?」
「それは寂しいよ、すごくね」
「それで? 寂しいときは、どうするの?」
「わからないよ」
「でも、卒業したらあたしは先生の生徒じゃないんだよ?」
「いや、君はずっと僕の生徒だよ」
「違うよ。もう学校、終わりだもん」
「じゃあ、僕たちも終わりだ」
「…え?」
「もし、君が卒業してただの元教え子になったとしても、今こうしてる過去は消えない」
「そうだけど…。それは二人の秘密なんだから大丈夫だよ。絶対にばれないようにしたもん!」
「ばれるとか、そういうんじゃないよ。大切なのは、事実がどうであるか」
「先生、それは違う。本当に大切なのは、愛してるかどうかだよ」
「…それがいけないんだ。僕は君を愛している。だけどそれは、あってはならない事実なんだよ」
「じゃあ、もしあたしが同じようにこの学校で先生をやってたらよかったの? そしたら、ずっと、愛してくれていたの?」
「その話に答えても、意味なんてないよ」
「先生、そんな人じゃなかった…」
「僕は、教師であることを忘れて個人の感情で君を愛した。君にとって、もしそれがずっと胸に抱いていたい事実なら、それは教師、人間として失格な僕も表裏一体に存在する。きっと、それをずっと抱き続けたらいずれ君は崩壊してしまう。―いや、きっと僕がさせてしまう。だったら、今、まだ長くその気持ちを抱いていないうちに終わりにしたほうが君のためになる。本当にごめん。全てを捨てる覚悟なんだ」
「…はは、ははは、先生! 大人のくせに泣いてるよ?」
「…うん。なんか、目が痛い」
「素直に寂しいって、言って?」
「…寂しい」
「あたしも。…あっ、そうだ先生、マイナスドライバーとかない?」
「え? ちょっと待って」
「うん」
「…たしかこの中に…あった。はい」
「さんきゅ。…んー…どうなってんだろうこれ…。よいしょっ!」
「あ、なにしてんの」
「時計の解体。よし、止まった、止まった」
「電池とったら使えないよ」
「うん。…はい、先生。ほんとは入学のときにお父さんが買ってくれたものなんだけど…あげる。ちゃんと日付もはいってるからね、この日、この時を、まぁ…絶対に忘れないでねっていうことで」
「ありがとう」
「いいえ。それじゃあ、あたし行くね。ばいばい」
「ああ、それじゃあ…また明日」
「うん」