8.暁と黄昏
「っ!?」
ティファナは何が起こっているのかわからなかった。
たっぷり5秒は経った後、ティファナの唇からディヴィディアの唇が離れていって、ようやくティファナはディヴィディアにキスされたことに気付いた。
「やっと言ってくれた」
ディヴィディアが苦笑しながら、固まるティファナを見つめる。
「ティファ?」
ひょいと顔を近付けて覗き込むディヴィディアにティファナは顔を真っ赤にしてどもる。
「き、キ、ス!」
「もう一回してほしいのか?」
そう言いながら、ディヴィディアはティファナの唇に、今度は短く触れるだけのキスをする。
「ちがっ!な、なんで、キスするの!?」
ティファナの問いにディヴィディアは首を傾げる。
「何でって、想い合ってる同士がキスするのに他の理由がいるか?」
「想い合ってる…?」
さっきからディヴィディアが言うことが理解できず、ティファナは頭に疑問符が飛び交う。
「俺さ、自分が魔王なこと知ってたんだよね」
「はぁっ!?」
ディヴィディアのあっけらかんとした答えに、ティファナは思わずはしたなく声を荒げる。
「いや、シーブス夫妻に拾われた頃は本当に記憶無かったんだけど、ティファと合ってから、思い出して」
「……な、なんで?」
「ラオストール王族って、ラオストアの加護受けてるだろ?」
コクンと頷くティファ。
「ソレ俺の親父」
「……はい?」
ティファナは目を見開く。
「光の神ラオストアと闇の神オルディアの子どもなんだよ、俺。
だけど闇属性強くて、母親の元でいろいろやんちゃしてたら、魔王とか呼ばれるようになって。
めんどくさいから、そのままずっと生きてきたんだけど、15年前、まだガキのお前に惚れたんだよ」
「……」
「いや、俺も自分でビックリした。
ホントにロリコンかと。
でも俺にとっちゃ生きてる生き物皆ガキな訳だし、まぁいっかって。
それで、お前に近付くために、人間の子供のふりしてシーブス夫妻に近づいたんだよ。
でもミスって魔力と一緒に記憶も封印してしまって。でもティファと会ってから、やたらと頭に直接離しかけてくんのがいるなー、と思ってたら親父だった」
「主神ラオストア?」
「そうそう。
それで記憶取り戻して、後はティファと結ばれる為にずっと動いてた」
そのために人間のフリしたんだし、と続けるディヴィディアに、ティファナは情報の処理が追いつかない。
「で…でも、私の言霊が」
「あのなー、ティファ。
考えてみろ?
ティファ達はラオストアの子孫って言われてるけど、本当の子孫じゃなくて加護を受けた存在だろ?
俺は実子。っていうか、俺両親とも神だし、自分も神なんだよな。加護を受けただけの人間の強制が、与える側の神に効くと思う?
むしろさ、俺の方がずっと言霊使ってたんだけど」
「え?は?」
「“俺のお姫様”“俺のティファ”」
「それって…」
「んー、ずっと俺のモノになれーって念じてるのに、ティファったら、全然効かないもんだから焦った焦った!
なんか立場的にも結婚できるか怪しくなってきたし、どうしようかと思ってたけど、ちゃんとティファが俺を好きでよかった」
「……じゃあ、私のこの気持ちは作り物なの?」
不安がティファナを襲う。
呪いをかけてまで手に入れようとした相手。
その気持ちが作られたもの……?
「違う!ティファは、俺の言霊が効かなかったんだ。効いてたら、俺が一言言った瞬間に俺に全てを捧げる」
「……」
「でも、ティファはそんなことはなくて。
ティファにとって、俺はずっとただの親しみやすい近衛だっただろ?」
ティファナは頷く。
実際会ってから数年はそうとしか思っていなかった。
それが段々、その優しさや気さくさに惹かれていったのだ。
「それ、俺の言霊が効いてない証拠。
だからティファはティファの意志で俺を好きになった。
それが俺にはとても嬉しい」
「じゃあ私もディヴィを縛っていた訳ではないの?」
「あぁ。俺はもとからティファが好きだからね」
「好きでいても構わないの?」
「ティファが構わないなら、喜んで」
「……好きよ、ディヴィディア。愛してる」
ティファはディヴィディアの首に手を回し、自ら抱き着く。
それを優しく受け止めて、ディヴィディアは満足そうに微笑んだ――。
――――――
「養子や魔王相手はダメでも、神相手なら許してくれるよな。陛下たちも」
「そうねぇ、どうかしら?」
「攫ってもいいかなー、話すのめんどくさい」
「ディヴィがいいなら、私はいいわよ」
「いいのか?」
「父様達には、手紙を書くわ」
「あー、でもシーブス家の両親はどうしようか」
「やっぱり残る?」
「どうしようか?」
「私はどちらでもいいわ。貴方とずっといられるなら」
END
光と闇が混じる時――それは暁と黄昏。




