6.条件
いつになったら、私のモノになってくれるの?
「どうした、ティファ?」
最近は、特に要請もなくディヴィディアもティファの側で本来の護衛の任務についていた。
その護衛の相手であるティファナは、ここ最近眉間にしわを寄せて何かを考え続けている。
侍女達は理由を知っているのか何も言わず放置しているが、ディヴィディアには気になって仕方なかったので、耐え切れず声をかけた。
「ちょっと、ね。お父様もお兄様も説得するのはどうしたらいいのかしら」
言葉と同時に吐き出された溜息。
「陛下と殿下を説得……何をする気なんだ?」
「ディヴィを認めてもらうのよ!」
「俺を?」
ティファナの答えにディヴィディアは首を傾げる。
ディヴィディアをティファナの近衛隊隊長に任じたのは国王自身だ。
それは国王が娘を任せるに足る実力を持つ、とディヴィディアを信頼してくれているからに他ならない。
認めるという話ならもう十分認められている。
「お父様ったら身分と血統にこだわる貴族が多いからって……このままだとディヴィディアが公爵になるのを認めないの!」
王女であるティファナが降嫁するのは、やはりそれなりの家でなければならない。
ディヴィディアも養子とはいえ、公爵家に名を連ねているが、本人が身分を持っている訳ではない。
ティファナがディヴィディアと結ばれる為には、ディヴィディアが公爵位を継ぐことが前提なのだ。
そこで問題が発生する。
ラオストール王国では、爵位を継ぐ時には国王と名だたる貴族の承認が必要なのだ。
これはすでに形式上の手続きになっており、家が推す者がそのまま承認される。
しかし、ディヴィディアは素性の知れない養子であり、ティファナの許婚候補となっているのだ。
王族と誼みを結びたい貴族にとって、ディヴィディアは邪魔な存在であり、爵位を継ぐのを阻むことも容易な存在であるのだ。
国王も王太子もそれを重々承知しており、王女のわがままを優先させるより、多くの貴族の反発を買わない方が重要なのだ。
「……爵位なぁ。俺は別に構わないけど」
「それではダメなの!」
飄々とした態度のディヴィディアにティファナは怒りを覚える。
ディヴィディアがティファナとの結婚を望んでいる訳ではないことをティファナはわかっていた。
それでもいつかディヴィディアがティファナのことを好きになって、結婚を望んでくれたら、と思っていた。
そのためには、何よりもディヴィディアに公爵位を継いでもらわなければならない。
「まぁ、最近魔族も大人しいから、俺もしばらくは傍にいられる。相談に乗るから、気長に考えろ。眉間にしわの跡つくぞ」ティファナの眉間を指でつつきながら、ディヴィディアは優しく微笑む。
「なんでそんな他人事……魔族!」
「魔族がどうかしたか?」
急にハッとしたティファナにディヴィディアは、のんびり尋ねる。
「そうよ。魔族だわ!
ねぇ、ディヴィディア。魔族は倒さないといけないわよね」
「まぁ、そうだな。民にとっては恐怖の対象でしかない。人を守る為には、魔族を倒さなきゃいけないのは間違いない」
ディヴィディアはティファナの問いに真面目に答える。
ティファナはその答えに不敵に笑うと、口を開いた。
「ディヴィが魔族をいっぱいいーっぱい倒せば、お父様も反対する貴族も賛成してくれると思うわ!だって、それはこの国への忠誠の証と同じなんですもの!!」
目をキラキラと輝かせながら、ティファナは最高の提案だと思った。
これまでもディヴィディアは多くの魔族を倒してきた。
しかし、それは国からの要請があったからで、彼にとっては仕事だった。
それを自主的に行ったら、どうだろうか。
国を守るために自ら魔族討伐に志願する。
そして功績をあげれば、血筋にこだわる貴族達も、ディヴィディアの実力を認め、爵位継承を認めてくれるだろう。
「まぁ、可能性はあるかもな」
ティファナの考えにディヴィディアは頷く。
「そうでしょう!ディヴィディア、魔族退治よ!!」
ティファナは、ディヴィディアにギュッと抱き着く。
「ディヴィディア、私のディヴィディア。ずっと離さないから、ちゃんと帰ってきてね」
「わかってるよ、俺のお姫様。行ってきます」
ディヴィディアもティファナの背中に腕を回し、優しく抱き留め、片手はティファナの頭をポンポンと撫でる。
それからそっとティファナを離して、王城を後にした。
かくして、ディヴィディアは、ティファナの提案の通り魔族討伐のために国を巡ることになった。




