4.許婚候補
何にも換え難い私だけの騎士。
「お父様、いい加減認めて下さい!」
「しかしな、ティファナ」
物凄い剣幕でティファナは父であるラオストール国王に訴えかけていた。
ここは国王の執務室。
執務の邪魔はしまいと父の休憩時間に押しかけたのだ。
「しかしも何もありません!ディヴィだって一生傍にいてくれるって言ってくれたんですよ!」
正確には言った訳ではないが、同意したのだから言ったも同じだ。
「私もシーブス近衛隊長が、優秀であることは認める。しかしお前の結婚相手としてはなぁ」
「家だって名門シーブス家!本人も至って優秀!!性格にも問題なく、先輩後輩関係なく慕われて!おまけに許婚候補である私との仲も良好!!これのどこに問題があるのです!?」
ティファナの畳み掛けに国王は重い溜息を吐いた。
辣腕家で知られる国王だが、家族にはいまいち強く出られないのだ。
娘も王太子である息子もそれを解っていて、どうしても通したいことがある時は、こうして父を説得しようとする。
滅多なことではないのだが、母である王妃が、代わりに家族にとても厳しい人であるため、父親を早々に味方につけることが一番いいことを子供たちは理解していた。
「ティファナ、落ち着きなさい。彼はシーブス家とはいえ、素性の知れない養子だろう。それをよく思わない貴族は多いのだ」
国王自身は、父親としては娘の結婚には諸手を上げて賛成したかった。
ディヴィディアは本当に優秀な人材であるし、何よりティファナが彼のことを深く愛し、彼自身もティファナを憎からず思っているのは、端から見ていても明らかだからだ。
しかし、国王としての立場が彼女らの結婚には反対をする。
名門シーブス家の跡取りでもあるディヴィディアだが、その素性は不明。
10歳前後の頃、シーブス家の当主夫妻が屋敷の前で倒れているディヴィディアを見つけ、介抱したのだ。
彼は自分の名前がディヴィディアであること以外、何も覚えていなかった。
しかし、彼の佇まいは気品溢れ、物腰も仕種も丁寧で、どこかの貴族の庶子が捨てられたのだろう、とシーブス夫妻は結論づけた。
捨てられたのであれば、親を探すとおそらく彼の命は狙われるだろうと思った夫妻は、彼を自分達の養子として匿うことに決めた。
シーブス夫妻には子がなく、近い血筋にも若い親族がいなかった為に、跡取りについて困っていたこともあった。
夫妻はディヴィディアをよく愛し、ディヴィディアも夫妻を敬い、立派な青年に成長した。
もともと剣の才もあったらしく軍人一家であるシーブス家の教えを瞬く間に吸収し、22、3歳という若い年齢で、ティファナの近衛隊長に任命された。
シーブス家跡取りとしての身分、実力、容姿共にすべてそろったディヴィディアはすぐにティファナの許婚候補になったが、周りの貴族は素性が知れないことを理由にティファナとの婚姻どころか許婚であることすら反対していた。
そして、彼の容姿だ。
金髪碧眼が、ラオストール王家の証であるように、黒色は闇の神を、引いては魔族を思い起こさせる。
彼を魔族との庶子だと口さがない者が噂したのも1度や2度ではない。
全くいないわけではないが、大陸に住む人々は総じて色素が薄い。
そのため、彼の黒という濃い色彩は多くの者に奇異の目で見られるのだ。
「私は絶対、ディヴィ以外の人とは結婚しませんからね!無いとは思いますがっ、もし他の人と無理にでも結婚させようとしたら、私はディヴィと駆け落ちしますから!」
国王は、それにはディヴィディアの意志も必要だろう、と心の中で気の強い娘に突っ込みながら、呆れた眼差しを向ける。
「そろそろ休憩時間も終わりのようですから、これで失礼します!またお話に来ますから!!」
我は強いが、自分のことを優先させすぎることもない娘は、それだけ言うと一礼して、国王の執務室から去っていった。




