街中での出会い
聖剣ラグロウゼス。
約千五百年前、北の王が魔剣シャーギャルオンを行使して横暴を極めていた。大陸の中部で名工と称えられていた鍛冶師ソルアキムは魔術師ヴィルス、精霊使いシャナ、火の神ソルガムの聖戦士ルキニアス等と共同で対抗するための「聖剣」を製作、ラグロウゼスと名付けた。
武器属性は、聖。
但し、これは「基本」であり、実はこの剣、全元素属性(火、水、風、土、聖、魔)を持つ畏怖すべき剣である。故に常人では触れることすらままならず、その強力な力ゆえに死に至ることも珍しくはなかった。余りに強力すぎたために扱える者が居ないかもとも思われたが、南方から現れた勇者レオニスフェルオスが漸く扱い、北の王の用いる魔剣と対峙した。北の王は敵わぬと見るや、魔剣の力を暴走させて大陸北部を永久凍土と化したのである。その時、勇者と聖剣も失われた筈であった。
なお、今現在フェニエルが手にしている聖剣は完全体ではない。故に属性は聖のみが発動している。不足の部分として、鍔にあるはめ込み部分、剣先の剣身の穴、更に鞘にある穴、各三ヶ所にはめ込む三種類の宝玉である。
フェニエル「…………」
ルミル 「どうしたの~?」
フェニエル「これを俺に扱えと?」
ルミル 「(゜ー゜)(。_。)」
フェニエル「顔文字で答えるな!」
ルミル 「ま~頑張ってくださいね~。あ、本編をどうぞ~」
日は傾き、風は清涼さを人々に運び始め、次第に夜の帳が拡がりつつある夕刻。ここ、ルーケルセリュアでも、一日の仕事を終え、家路に着こうとする人々、逆に夜警などをする人々が仕事に就くために家から出てくる時間でもあり、往来は人々で賑わっていた。
今日は、ルーケルセリュアでは、収穫祭にあたるアイネア感謝祭の第一日目であった。この祭は七日間に渡って行われ、その年の収穫を歓び、又、名前の通りアイネアに感謝を示し、更に来年の豊作を祈願する一大宗教大祭である。
ルミルは店を早めに閉めて、全員で祭りを楽しむため街に繰り出していた。
「あらあら、夕刻ですから人が多いのは普通ですが、祭りのせいか今日は人の往来が多いですね~」
シャネが周囲を眺めつつ言った。
「しかしこうも多いと俺たちもはぐれかねないな」
ルフィが人混みに押されながら言う。実際、ルミル一家六人がまとまって歩くのは難しいほどに、街の主要街道は人で溢れていた。
又、祭のため、街道のあちこちで日頃はない出店が出ていたりと、いつもとは異なる状況をつくっていた。
「ま~、はぐれたときには無理に探さなくてもいいから祭を楽しみましょ~。家に帰るのはそれからでも遅くはないですし~。守護者と一緒に留守番では寂しいですからね~」
ルミルはそう提案した。全員はその言葉に頷いて了承した。
「セレイラ、手を離すな。この人混みでは、はぐれたら見つけるだけでも一苦労だからな」
「は、はい!」
フェニエルとセレイラはしっかりと手を握って歩いていた。
「あ、あれは面白そうですぅ」
エセラが出店の一つに興味を示して離れていく。
「あらあら、ルミル様、各自が別行動でも宜しいようですね~」
「みたいだな。マスター、そうしないか?」
シャネが、エセラが離れたのを見てそう提案する。ルフィも賛同した。
「そ~しましょ~かね~。フェニエル、そ~言うことなので~。セレイラちゃんと楽しんできてくださいね~」
ルミルは答えてそう結論した。フェニエルは応じて言う。
「わかった。確かに、この人混みではその方が良さそうだな……。では、行こうか、セレイラ」
「あ……はい、フェニエル様」
そうしてルミル達は、各自祭りを楽しむためにそれぞれが思い思いの場所へと移動していくのであった。
「全く……タイミングがいいのか悪いのか……。人間の祭だなんて、いつあるか知らなかったから、まさか今日からとはね……。って、ちょっとそこ!スカート踏まないでよね!」
背格好はまだ幼いようにも見える美しい白銀の髪をした少女が着ている漆黒のドレスについた汚れを落としながら怒鳴っていた。その可愛いが良く通る声に人々の視線が集まる。漆黒のドレスが美しい白銀の髪を映えさせ、更に色白の肌がその美しさに魅力を加えていた。加えて鮮血のような明るく美しい紅い瞳が人々を魅了していた。
「ったく……ちょっと背が低いってだけで、面倒が増えるんだから。人間社会は嫌なのよね!」
いかにも自分は人間社会の一員ではないと公言するように不平を述べつつ少女は歩いていた。
そんな折、少女はある男性にぶつかる。
「あいた!ったく、どこに目をつけているのよ~」
「なんだと、このガキ……」
少女がぶつかった男に文句を言うと、男の方も喧嘩腰に返してきた。
「何よ、レディに譲るのが男の仕事でしょうに!」
「何がレディだ、このガキが」
「な!これでもあたしは、あんたらよりは長生きしているわよ!」
「はっ!ガキの上にホラ吹きか。こりゃお仕置きが必要だな」
「ったく……相手の強さも解っていないくせに……出来るものならやってみなさいよ!」
「おぉ……よく言った。泣いてもやめてやらないからな!」
「それはこっちの台詞よ!」
もう、売り言葉に買い言葉といった応酬で、事態は収拾がつかなくなってきていた。
男が我慢しきれずに少女に手を出した!しかし少女に手が届く前に霧のように少女はかき消えてしまう。
「な?!どこにいった!」
「後ろよ」
少女の声が後ろから聞こえた。その刹那、男は何かに叩きつけられるかのように地面に倒れる。
「がはっ……」
「あら~?もう終わり?口ほどにもないわね」
「くっ……お、おのれ……」
男は少女の言葉に頭に来たのか、懐からダガーを取り出して構えた。
「けっ……もう許さねぇ……」
武器が出されたのを見て、周囲からは悲鳴が上がる。又、衛兵を呼ぶように言う声も聞こえた。
「やれやれ……大人気ないって言葉は知らないようね」
「やかましい!そのドレスごと、切り刻んでやる!」
挑発とも受け取れる少女の言葉に、更に激怒をして、男はダガーを構え、少女を斬りつけた!
一度、二度、三度……縦に横に突きもした筈だ。おかしい、一生懸命に斬っている筈なのに、ダガーだけがみるみる朽ちていく。
「ば……馬鹿な……」
切り刻む処か、少女が着ているドレスすら切れていない。
「お、お前は一体……」
男は恐怖で畏縮し、ダガーを足元に落としてしまう。少女がそのダガーを拾い手で握ると、ダガーはみるみる溶けていった……。
「ひっ……ひぃぃぃぃぃ!」
目の前で展開する異常な事態に漸く気がついた男は悲鳴をあげる。
「さて……さっき何て言ったかしら?」
そう言い、少女が近づいてくる。男は少し後ずさりしたが、腰を落としてしまい動けなくなってしまった。
『ピリリリリリリリッ!』
衛兵の鳴らす警笛の音が聞こえてきた。少女は舌打ちをしつつ言う。
「ちっ……衛兵まで相手にはしたくはないわね。ここは逃げておきましょう」
そう言ったのが早いか、少女は黒い霧に包まれてその霧が消えた後には何も残っていなかった……。
ルミルは出店を色々観て楽しみつつ、街中を歩いていたが、ふとある店に目を留めた。
土産物のような商品を売るその店は、主に、海産物などから造られたものや、海で洗われて美しくなった石、海底で拾ったと思われる遺留品などがあった。
「おや、いらっしゃい。お嬢さんなんかには珊瑚で出来た髪飾りなんてどうだい?」
客と見て店員がルミルに商品を勧める。しかし、ルミルはそんな言葉など無視するかのように、貝殻などが沢山付着した握り拳大の物体に目を留めた。
「あの~、これも売り物ですか~?」
「ん?ああ、それか。それはルクスソル内海で漁をしている漁師が拾い上げたものだよ。自然にはない形の物だったので、なにかはわからないが置いていたんだ」
「なるほど~」
確かに、それは自然ではあり得ない形をしていた。手に持つと結構な重さであるのに貝殻のついていない本体部分は完全な球体をしていたのである。
「そうだな、今なら銀五枚で売るよ」
店員はそう言い、ルミルに勧めた。ルミルは微笑む。
「それは安いですね~。その価格では店員さんが可哀想なのでこちらをどうぞ~」
そう言って懐から金三枚を出し店員に渡した。
「な……!こんなにもいいのかい?」
逆に店員が驚く。ルミルは微笑んだまま答えた。
「はい~。これはそれ以上の価格の価値が「あたしには」あるので~。気にしないで受け取ってくださいね~」
そうしてルミルは、その物体を買い取った。店員はルミルが見えなくなるまで何度も頭を下げていた。
路上で男とぶつかり、喧嘩になっていた少女は街道の別の場所に現れていた。
「やれやれ。ま、この辺りまで移動していれば大丈夫かな。全く、いい迷惑だわ」
腹を立てつつ、ドレスについた埃を払う。気を取り直して少女は再び街道を歩き始めた。
「ん~。そろそろ食べたくなる頃だけれど、どうしようかしらね~」
何やら食事のような事を喋りながら歩く少女。しかし彼女が視線を当てているのは人そのものであった。
「あらあら、珍しい方にお会いしましたね~」
少女と対面する方から声が聞こえた。その声はシャネのものだった。
「げ!あんたはシャネ!ってことは…… ルミルもこの街にいるのね…… 」
出会って不味いものを見たかのように少女が答える。シャネは少女の質問ににこやかに微笑みつつ答えた。
「はい~。ルミル様も居られますよ~。しかし、本当にお久しぶりですね~」
「ま、まあ、久々よね。以前会ったのはトラスアモナで百五十年くらい前かしら?」
出来る限り平静を装いつつ話そうとする少女。シャネはいつものように落ち着いて微笑んでいる。
「そうでしたわね~。その時もありがとうございました~」
「べ、別にあんた達のためにやった訳じゃないんだからね!あたしの利益になったから手伝っただけなんだから!」
「あらあら。確かにそうかもしれませんね~」
「ったく!ど~して、あんたはいつもそ~なのよ!穏やかに落ち着いて。何で、あたしの方が緊張しなくちゃいけないわけ?!」
「あらあら……そう言われましても~。私の性格は、この通りですし~」
シャネが困ったわ、とポーズをとる。少女は逆ギレするように更に捲し立てた。
「ああもう!!わかっているわよ!どんなに対抗しようとしても、あんたら三姉妹やルミルには相手にならないってことくらいはね!こ、こんなに出会っただけで恐怖で畏縮してしまう相手はあんたらくらいだけなんだから!」
ハアハアと息切れをするほどに捲し立てて少女は一気に言い終えたのであった。
「あれ~?ミュニシュエセジヴセレスじゃないですか~。お久しぶりですね~」
先の球体を購入したルミルが、シャネと少女を見つけ話しかけてきた。
「げげっ!!ルミル・ミーリア!あんたにまで会うなんて……」
「あら~、そんなに邪険にしなくていいじゃないですか~」
「ええい!いつも「お節介」にあたしを利用しようとするくせに、どの口が言うか!」
「この口が♪」
「ぐっ……」
「あらあら、さしものバンパイアロード、ミュレスちゃんもルミル様の前では形無しですわね~」
ルミルとミュレスのやり取りにシャネはそう述べる。ミュレスは地団駄を踏みつつ答えた。
「きーっ!!どうやってあんたらに勝てって言うのよ!あたしが百人いたってシャネでさえ勝てるか怪しいものだわ」
「ん~。良く自分がわかっているじゃないですか~。で、また今回も……」
「却下!」
ルミルが言いかけたところをミュレスは即座に拒絶する。
「どうせまた、いつもの「お節介」の手伝いでしょ?!ったく、毎回、毎回、あたしと出会う度にそうじゃない!」
「そ~ですね~。しかも、今回は特別サービス付きですよ~」
ルミルの言葉にミュレスの耳が動く。それを見て、ルミルはミュレスに近づきそっと耳打ちした。
「ですからね~………………と言うことでどうですか~?」
ミュレスは少し考えた後に答えた。
「ま、まあ、そこまで言うなら手伝ってあげないこともないわよ……。べ、別に勘違いしないでよね!これは、あたしの利益を考えての行動なんだからね!」
「あらあら♪」
「全く素直じゃないですね~」
「う、うるさいわね!本当の事をなかなか言わないルミルも似たようなものじゃない!」
「ん~。そう言われれば確かに~。そろそろ、少しずつフェニエルにも伝えないといけませんね~」
フェニエルと言う聞き慣れない名前を聞いてミュレスは興味を持った。
「誰よ、それ?」
「はい~?」
「その、フェニエルって誰?あたしは知らないんだけれど」
「あ~。詳しく話すと長くなるけれどいいですか~?」
「べ、別にいいわよ。聞いてあげるわ!」
ルミルとミュレスが話しているのをシャネは微笑ましく見守っていた。
夜も更けて祭の賑わいは更に高まっていくのであった。
バンパイアロード、ミュレスの登場。彼女はどう関わっていくのか。
ルミルが手にいれた謎の球体は?詳しくは次回にて!
ルミル 「と言うことで~仲間になったミュレスちゃんです~」
ミュレス 「ちょ?!あたしは仲間になるなんて言ってないわよ!」
ルミル 「え~……(;´д`)」
ミュレス 「大体、どんな関係で、そこまでいかせるつもりよ」
ルミル 「あたしとミュレスちゃんの仲じゃない~」
ミュレス 「どんな仲よ?!」
ルミル 「裸を見せ合った仲……(〃∇〃)」
ミュレス 「あ、あれは……」
ルミル 「ん~?」
ミュレス 「あれはその………」
ルミル 「ん~?」
ミュレス 「ええい!わかったわよ!百歩譲ってあげるわ!」
ルミル 「わ~い。また、一緒にしましょうね~」
ミュレス 「ちょ?!ま、まって!や、やだぁ!」
………う~む……( ̄▽ ̄;)
あ、次回は「魔法生命体ラグセム三十四型、起動します」をお送りする予定です。