開店!
シャネ 「ん~、フェニエル様、まだ見とれてますねぇ」
ルミル 「仕方がないなぁ。別の奴でも見せちゃおうかな」
ルフィ 「もしかして、あれか?!マスター!」
エセラ 「たぶん、ルフィ姉様の考え通りかとぉ」
ルフィ 「マジかよ……ま、フェニエル頑張れ……」
フェニエル「え?!一体何事?」
ルミル 「ま、このエピソードの詳しくは後ほど~。まずは本編を楽しんでくださいね~」
明くる日。
街はいつもと同じ賑わいをしていた。しかし、唯一昨日と違うのは、昨日まで、寂れた武器屋があった場所に「魔法の鍛冶屋」と言う、一風変わった店ができたことにある。
人々は突如現れたその店の事を話題にしていた。
通常、店を開くには店を開くための役所での各種手続き、店自体を行うために行う必要がある模様替え、品物の在庫を確保し、展示することなど、仕事は山ほどあり沢山の人を雇っても数日でできるような仕事ではないはずだった。
しかし、この店は突如として、武器屋だった場所に出現し、しかも翌日には開店すると言うのだ。
話題にならない方がおかしいと言うものである。
「よ~し。これで準備はオッケーかな~。」
店を概観してルミルがそう言う。
店の入り口には既に、沢山の人だかりが出来ていた。シャネ達が外に出て、整理をしているところだった。
フェニエルは苦笑しつつ、
「ここって鍛冶屋だよな?」
確認するようにルミルに問うた。
ルミルは頷きながら答える。
「ええ、そうですよ~。お店の看板にも書いたでしょ?」
その答えに満足できず、フェニエルは言葉を続けた。
「鍛冶屋なら、炉がある筈だ。しかしこの店にはない。更にだ、昨日ははぐらかされたが、僅か一両日で店が構えられるなぞ、聞いたことがない。どう言うことなんだ?ま、お前さんが只者ではないことは以前から知っていたわけだが、一緒に行動するようにもなったし、少しは身の上でも話してくれてもいいんじゃないのか?」
一気に捲し立てて、フェニエルは些か息をむせこんだ。ルミルは、フェニエルが語り終えるまで待っていた。そして、フェニエルが落ち着いてから、静かに、しかし、威厳のある声で話し始めた。
「そうですね。そろそろ、少しお話をする時期かもしれませんね。」
日頃話す口調ではない、まともな喋りにフェニエルはキョトンとしてルミルを見据えた。ルミルは言葉を続ける。
「高い能力を持って、人々の世界に紛れ込んだ世界の傍観者と言えば、今の言葉としては適切かもしれませんね。」
「高い……とは、どれ程の……?」
「簡単に言うならば、人の想像を越えている、です。ま、難しく言うのはエセラが得意ですから、そのうちさせましょう。のんびりと、とは言っても私たちの基準でですがこの世界を観たいので、各地を歩いていて貴方と出会ったのがこの前の事だったのです。」
簡潔だが、納得の行く説明がされた。勿論、深い真相は分からないが、それは今後明かされるであろう事も、フェニエルには予測が出来た。なぜなら、ルミルが「真面目」に相手をしてくれているからだ。
「そうか……詳しいことはまた聞くとしよう。わざわざすまなかった。」
フェニエルは、事実の一部とはいえ、明かしてくれたルミルに謝意を述べて、頭を垂れた。
その姿に、ルミルは少し照れたように頬を染めた。素直な感謝に素直に反応した結果だった。
「ま~、そう言うわけですから~、暫くの間あたし達に付き合ってください~。元々、その予定だったのでしょ~?」
いつもの口調に戻ったルミルの言葉を聞いてフェニエルは苦笑しつつ答える。
「そうだな、そもそもは、私がついていくと言ったんだった。国を出奔して以来、大した目的もなく渡り歩いてきたが漸く目的が現れたのかもしれないな。よし!私も参加させて貰おう。いいのだろう?」
その台詞に、ルミルは笑みを浮かべて答える。
「もちろんです~。あたし達の仲間にようこそ~。では、これが、一緒に行動することになる証ですよ~」
いつの間にか、手にしていた一振りの剣を、ルミルはフェニエルに手渡した。
剣を手にしたフェニエルは自分に襲い掛かる「重圧」に耐えていた。「力」を持つものが、所有者として認めるための試練のようなものである。
「こ、これは凄い……昨日見た魔剣と互角かもしれない……」
剣から降り掛かる「重圧」に耐えつつフェニエルはそう語った。その様子を見て、ルミルは満足げに、
「さすがはフェニエルですね~。その剣は、聖剣ラグロウゼス。北の王が持っていた魔剣と対をなす南の勇者が持っていたとされるものですよ~。使いこなせるといいわね~」
そう語った。フェニエルがまだ聖剣と格闘しているが、ルミルは店の入り口に向かい、シャネ達に合図を送る。それを見てシャネ達は店の前で待ち構えていた、客を中へと入れ始めた。
魔法の鍛冶屋ルミル・ミーリア遂に開店である。
「はいはい、押さないで下さいね~。お店の中は狭いですから~」
「分からないことがあったら訊いてくれ。鍛冶関連なら俺が、魔法関連なら、そこにいるエセラが答えてくれるぜ」
「あらぁ、お客さんそれに興味がおありですかぁ?由来や性能等の説明が必要であればあたしが致しますよぉ」
シャネ、ルフィ、エセラはそれぞれが、店に入ってきた客の対応をしていた。フェニエルはまだ聖剣と格闘していた。しかし、フェニエルがそこで格闘していると言う事実を、来ている客は誰も知らないのであった。それがルミルの仕業であったことは、後日フェニエルは知ることになる。
ルミルも、一つのナイフを見つめる客に目を留めた。
「ナイフをご所望ですか~?」
ルミルに問われて、その客は躊躇した。
「あ、いやその……私は革細工師でして……」
中途半端に自己紹介をしつつ話が途切れてしまう。ルミルは展示してあるナイフを出して、その客の目の前に見せた。
「なるほど~、革細工をされるならナイフには関心がありますよね~。革を加工するときに脂がでますから、手入れとかは大変でしょ~?」
「よくご存じなんですね、まだ、見たところお若いのに、自らの仕事以外の事にもお詳しそうだ」
「い~え~。仕事柄関連されるお仕事に興味があって覚えているだけですよ~。あ、そうそう、ここではこの様なナイフにも魔法を掛けて販売しているんですよ~。手入れとか、切れ味を良くする魔法の類いもありますから一つお持ちしましょうか~?」
ルミルが商品を薦めようとしたところ、その客は肩を項垂れながら、小さな声で答える。
「あ、いや……私は大したお金も持っていないし魔法が掛かったナイフなど買えそうもないですよ……」
そう言う客に、ルミルは、フムと、少し考えてから、
「お客さんは、例えばこのナイフは幾らで売っていると思いますか~?」
と、突然に手にしているナイフの値段を聞いてきた。
客は驚いて、暫く考えた後、
「以前、武器屋で魔法が掛かったものを見たことがあるが、金貨一枚以上はするのではないか?」
そう答えた。ちなみに、一般人の一日の賃金は通常銀貨一枚、その銀貨一枚で大抵は家族四人くらいがなんとか生活できるくらいであった。更に言えば金貨一枚は、銀にして三十枚である。つまり、一月分の賃金はしそうだ、と言うことである。
ルミルはその答えを聞いて、ニマッと笑いながら、
「普通のお店ならそうでしょうね~。でも、ここは魔法の鍛冶屋なのですよ。通常の鍛冶屋や武器屋とは異なるのです~。そうですね~……お客さんが相手なら、今お財布にあるお金でお売りしますよ~?」
そう言った。客は唖然とする。
暫くしてから漸く口を開いて言った。
「そ、それは嬉しいが……私は今、銀貨五枚ほどしか持っていないのだが、これでは足らぬだろう」
その答えにルミルは首を振りながら、
「い~え~、正直にそう答えたあなたには、その価格でお渡ししますよ~。頑張ってお仕事をして下さいね~」
そう言いながら、ナイフを鞘に納めてから客に手渡す。客は驚きながら、財布の中から、有り金全てである銀貨五枚を出してルミルに手渡した。
「本当にいいのかな?」
ナイフを手に持ちつつ、不安げに客は問い質した。ルミルは笑顔で、
「はい~、それで、稼げるようになったら、また、うちの店を利用してくださいね~」
そう答えるのであった。客は何度もルミルにお辞儀をしながら店を立ち去っていった。
「また、マスターがお節介をしていますぅ」
その様子に目を留めていたエセラが言った。
ルミルは頭をかきながら、
「あらら、忙しいからバレないかと思ったのに~、やっぱりバレちゃいましたか~」
やや恥ずかしげにそう言った。シャネとルフィも客の応対をしながら、
「私達の間でそれはないでしょ~ルミル様」
「全くだ。相変わらずマスターは甘いな」
と言っていた。ルミルは更に頭をかきつつ、別の商品に目を留める客に声をかけようとしていた。
魔法の鍛冶屋ルミル・ミーリア、初日は、数多くの客が入り様々なドラマが生まれようとしていた。
また……店の隅ではフェニエルが、聖剣と格闘を続けているのであった。
ルミル 「と、言うことで、お店もオープンなのですよ~」
ルフィ 「やれやれと言う感じだな。これからが大変だが」
エセラ 「それは問題ないですけれどぉ。フェニエル様まだ戦っていらっしゃいますよぉ?」
シャネ 「聖剣に認められるまでは頑張っていただかないといけませんね~」
ルミル 「と言うことで頑張れ~」
フェニエル「お、お前ら!ひ、他人事だと思って……」
ルフィ 「いや、実際他人事だし。ま、頑張れフェニエル」
エセラ 「応援だけ、してあげますねぇ」
シャネ 「ふれ~ふれ~♪」
ルミル 「良かったわねぇ、フェニエル。女性から応援が貰えて~」
フェニエル「お、お前達~!くそ!何としてもモノにしてやる!」
四人 (これで、上手く行きそうですね(だな))
次回は「ある成金者の物語」の予定です。