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城塞都市ルーケルセリュア

フェニエル「で、どうするんだ?」


ルミル 「鍛冶屋を始めるのだから、まずは店を構えないとねぇ」


フェニエル「店って……お前、資金なんかもっているのか?」


ルミル 「無いのであれば、こうして店を構えようなんて言わないと思うのだけれど?」


フェニエル「いや、それは正論だが……そう言う姿には見えないのだがな……」


ルミル 「ま、見てなさいって」


フェニエル「ふむ……ま、拝見させてもらうとするか」

夜の帳が降りて暗がりが広がり闇夜に紛れる獣達が跳梁跋扈しつつある頃。

ルミルとフェニエルは、城塞都市ルーケルセリュアに近づきつつあった。


「かなり大きな都市だな……」


自らに覆い被さるような威圧を誇る城塞都市を見上げながらフェニエルは言った。


「そうねぇ……十万人くらいは住んでいるのかもねぇ」


知ってか、知らずかルミルが答えるように言う。フェニエルは苦笑しつつ、


「で、とりあえずは店探しか?」


と、ルミルに訪ねた。


「そうね。大通りの一等地のこじんまりした場所がいいわねぇ。五、六人が生活できるくらいが理想だけれど」


焦点が合わない眼で、情景を思い浮かべつつルミルはそう語る。フェニエルは、更に苦虫を潰したような顔をしつつ言った。


「お前の意見はわかったが……その姿格好からして、どうやってその資金を出すつもりだ?」


フェニエルの言葉はもっともだった。ルミルは、旅人がよくするような姿格好はしているが別段大量の資金を抱えているわけでもない。また、高価な宝石類を身に付けているわけでもない。つまり、どう見ても今すぐ資金を用意して店を買えるような姿には見えないのであった。

ルミルはくすりと笑いながら、


「大丈夫よ。もう少しすれば、資金を持って三人がやって来るから~」


後方を指差して言うのであった。しかし、後ろには今はまだ誰も見えない。フェニエルは苦笑しつつ、


「ま、いつもの事か……こっちが心配しても無駄なことかな。のんびり拝見させてもらおう」


そう言い、歩き続けるルミルの後ろをついていった。




城塞都市ルーケルセリュア。この「世界」にある、大大陸ラウレイドの中にある大型都市国家の一つ。ラウレイド大陸の北方、ラグラレイド地方の南西側、ヴァエラ・アリア地方にある、ケレス平野の南側に位置している。周囲が比較的肥沃な土地であり、農業を含めて産業が盛んでそれ故に繁栄していた。

また、この都市は、豊穣の神であるアイネアを信奉する宗教都市でもあり、巨大な大聖堂がある。

都市は大きく五つに分類されていた。南西部に技術士が多く滞在し、産業の基幹をなす、産業区。南東部に多数の商業関係者がおり、数多くの物流をこなす商業区。西部には貴族が多く住み、政治の基盤となる人材が多く住む貴族区。東部には教会関係者が多く住む、教会区。北部は、一般、及び貧民と称される人々が住む一般住民区があった。




ルミルとフェニエルは城塞都市の城壁の門の一つに来ていた。夜間にもかかわらず数多くの人が出入りしようと城門に集まっていた。ルミル達のような旅人、貿易をする旅商人、自らを鍛えるために旅をする修行者、数々の揉め事を解決して生活の糧とする冒険者など、様々な人々がいるのであった。


「賑やかだな」

「そうねぇ……これなら沢山楽しめそうねぇ」


人々を見ながら、フェニエルとルミルはそう言っていた。そんな折り、後方からルミルを呼ぶ声が聞こえてくる。


「ルミル様~」

「マスター、どこだー?」

「マスターどこですかぁ?」


どうやら三名ほどの女性がルミルを探しているようだった。ルミルが答えて言う。


「やっときたわね~。シャネ、ルフィ、エセラ、あたしはここですよ~」


その声に気づいて三人はルミルの元に来た。


「急なお呼び出しでビックリ致しました~」

「しかも、物まで運んでこいだなんてマスターもキツイぜ」

「でも、なんとか間に合ったようですね」


中背のボーイッシュな格好の女の子がルミルの前に荷物をおろした。フェニエルは暫し驚いていたがルミルの肩を叩きつつ訊いた。


「この子達は何者だ?」


その質問にルミルは、くすりと笑いつつ、答えて言う。


「じゃ、自己紹介して貰いましょうか。シャネ、ルフィ、エセラ、順番にして貰えるかしら?」


ルミルにそう言われて三人は、フェニエルの方を向き笑顔になる。フェニエルはその姿を見て、少々畏まってしまった。まず、長身で見ただけで美人と言える女性が喋り始める。


「お初にお目にかかります、フェニエル様~。私はルミル様にお仕えする三人姉妹の長女でシャネと申します~。私の担当は、主に、ルミル様の生活一般の補佐とルミル様のお仕事の主に受付を担当しております~」


彼女が話終えると、次に短髪で中背なボーイッシュな女の子が喋り始めた。


「次は俺か。俺の名はルフィ。マスターに仕える三姉妹の次女で主に、マスターの仕事の補佐と近接戦闘が主な担当だ。宜しく、フェニエル」


ルフィがそう言い、握手をしようと手を差し出した。その潔さからフェニエルも手を出し、お互いが握り合う。


「宜しく頼む」


手を握って、フェニエルは、彼女も只者ではないことに気づいた。


「では最後にあたしですぅ」


そう言い、最後まで残っていた小柄な少女が喋り始める。


「あたしはマスターにお仕えする三姉妹の三女でエセラと申しますぅ。あたしは主にルミル様の魔法関係の補佐をさせていただきますぅ」


三人はこうして自己紹介を終えた。

そんな折り、彼女達が城門の入る番となった。ルミルが、門番にいる兵士に自らの立場と仲間を説明していった。

暫く手続きをしたあとでルミルが戻ってくる。


「ふぃ~やっと終わりました~。事務手続きは面倒だから今度からシャネに頼もうかしら~」

「私で構わない案件ではお任せください~」

「じゃあ、今度からお願いするわね~」


ルフィが荷物を背負いながら言う。


「で、何処に行くんだい?店を買うって聞いたけれど」

「あぁ……えっと、人通りが多い方がいいから中央の通りのいい場所を探しましょうか~」


ルミルがそう言うと、フェニエルは苦笑しつつ言う。


「それはいいが、資金はあるのか?通りのいい場所だとかなり高そうだが?」


その問いにエセラが答えて言う。


「それは大丈夫です~。ルフィお姉さまが持ってきていますよぉ。お屋敷が買えるくらいはありますからぁ」


ルフィがフェニエルに持っているものの一部を開けて、その中身を見せた。中には大量の金や宝石が入っていた。重量にすると相当な重さのはずなのだが、ルフィは事も無げに背負っていた。




夜間の筈だが、城塞都市ルーケルセリュアは煌々と魔法の灯りや、油を燃やした灯りで光輝いていた。人々は通りに出て、仕事を終えて、宵の楽しみをしていたり、次の日のための準備をしていたりと忙しく往来をしていた。店では、店員が客寄せをしたり、客が値切ったりと賑やかな賑わいを見せていた。

ルミル達は、そんななかを通りながら、目的の場所を探しつつ移動していた。

都市の中央広場の近くに来たルミルは、ある店に目を向けた。

その店は、他の店が忙しく営業しているにもかかわらず、客があまり入った様子がみられなかった。しかし、看板は、普通に武器屋の看板が出ている。


「このお店が良さそうね~」


ルミルはそう言い、その店に入っていった。フェニエルは、その店を見て、


「他の店が営業しているのに、えらくのんびりした店だな」


と、感想を漏らした。シャネがそれに答えて、


「何かありそうですね。ルミル様はその辺りを考えたのかもしれませんよ」


と言う。残りのニ姉妹もその答えに頷いてルミルについていった。


「なるほど。そう考える方が得心がいくか。」


フェニエルもその考えに同調してルミル達についていくのであった。




そこは、武器屋として名を馳せていた店であった。が、主人が急逝し、弟子達も一人、また一人と離れていき、店は寂れていったと言う。ルミルは、そこに最後まで住んでいた女性からあらましを聞いた後、店を買うための交渉をした。小一時間の商談の後、店を買うことに決まったのであった。


「よし、じゃ、みんなで店の準備と家の片付けをしましょうか。あ、フェニエルは、部屋を用意しておくから今は、外で暫く遊んでてくれる?明日の昼頃には出来てると思うから、今日は宿屋にでも泊まっていて」


ルミルはそう言った。三姉妹は返事をしててきぱきと行動を開始し始める。フェニエルは、ふと疑問に思って言った。


「ん。それはわかったのだが、四人で明日の昼までにするというのは無理があるのではないか?」

「大丈夫。大丈夫。あたしがしているからね~。シャネ達もいるから全く問題ないわ。気兼ね無くいてちょうだい。って、いきなりは無理だろうけれど~、そのうちわかるわよ」


ルミルははぐらかすようにそう答えた。フェニエルはそれ以上追求することは無駄と見て、街に繰り出していった。

フェニエルがいなくなってから、ルミルは店を見回して、


「さて、始めましょうか。まずはこの店を結界で囲んでから始めた方がいいわね。みんなも手伝ってね」


と言った。シャネ達三人は、「はい!」と返事をして、早速、店造りを始めた。




翌日、昼になってフェニエルは驚いていた。

先日の晩、寂れた武器屋を訪れた場所ではなかったか?

しかし、今は看板をしっかりと立て替えられ、「魔法の鍛冶屋ルミル・ミーリア」と書かれた看板が掛かっていた。

ドアには、「明日オープンします」と書かれた札が掛けられていた。

そのドアを開けて、フェニエルは中に入る。

中は、別世界であった。

入ってすぐ目についたのは様々な武器や防具、工具類。自らも剣で生活を成り立てている身であるため、その並んでいるものが如何に素晴らしいかは直ぐに分かった。


「うお!この剣は……ま、まさか……」


ある剣を前に足を止める。そこには、刀身が見事に煌めく一振りの剣が飾ってあった。


「おや、お目が高いですね~。その剣は、約千五百年前に、北の王ログレウスが用いたと言われる、魔剣シャーギャルオンですよ~」

「ひねくれ者だがな、そいつは」


ルミルが、フェニエルに答えたのにルフィが更にフォローする。苦笑しつつルミルが続けて言う。


「あらあら、それを言っちゃダメですよ~。フェニエルに押し付けようと思ったのに~」

「相変わらずですね、ルミル様。フェニエル様、そんな剣でも宜しければ、手に取ってみられたらいいですよ」


シャネがそう言って薦める。そこへエセラが来て、


「あらぁ、フェニエル様来たんですねぇ。展示品はまだ少ないですけれど観ていってくださいねぇ」


微笑みながらそう言う。フェニエルは、半分返事で相打ちをしつつ、剣に見とれていた。


「我儘な子だから、フェニエルが使いこなすと楽なんだけれどね~」


剣に見とれるフェニエルを見ながらルミルは感慨深くそう言っていた。




「魔法の鍛冶屋ルミル・ミーリア」間もなくオープン!

そこで、またそこに関わってどんな物語が紡がれるか。

それはこれから語られる話である。

フェニエル「これは素晴らしい……」


シャネ 「あらあら、見とれてしまっていますねぇ」


ルフィ 「まぁ、無理もないだろ。剣が好きな奴なら、あの剣の魅力にとりつかれる奴は多いだろうし」


エセラ 「ですねぇ。マスターもそれを狙って飾っていたみたいだし」


ルミル 「ぎく!な、なんでばれるかな~」


ルフィ 「いや、剣で生計をたてているフェニエルにあんなものを見せる時点で確定だろ」


シャネ 「ですよね」


エセラ 「言わずもがなですぅ」


ルミル 「ま、まぁ、これからどうなるか、お楽しみに~」


次回は「開店!」の予定です。

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