アイネア感謝祭最終日の事件
胸鎧ゴルワス。
近年(とは言ってもおよそ九百年前だが)にルミルが直接製作した魔法武具の一つ。通常一元素を得意とするものが多い魔法武具の中で二元素が扱える有能な鎧である。極めて実直な精霊が宿り、守護に関して極めて有能な力を発揮することとなった。
防具属性は「土」と「水」。
珍しい双元素属性の鎧である。(ラグは特別なのである)その力を用いて主人を的確に守護する。また、ゴルワス自身、他の守護魔法にも長けており自分も含めて仲間を守護するエキスパートとして活躍するであろう。彼自身は真面目で軍人の下士官のような人物である。今はロイとセフィルナのコンビを暖かく見守るのが楽しみだとか。
ゴルワス 「なんだか、自分の事を書かれると照れますね」
セフィルナ 「珍しい♪ゴルワスが赤くなってる~♪」
ロイ 「本当だ。珍しいな、この様子が撮っておければいいのにな」
アムシェ 「何なら撮りますが?」
ゴルワス 「やめてください……」
ロイ達 「は、はい……。(怒らせたら怖そうだ……)」
ルミル 「ま~、日頃おとなしい人は怒らせない方がいいですよね~」
ミュレス 「そこのところは同感だわ……。あ、以下が本編よ。楽しみなさいね」
アイネア感謝祭。ルーケルセリュアで催される最大の祭。七日間に渡り行われ街中は様々な催しで賑わった。中でも最終日は一層盛大で大聖堂に著名人や有志が数多く集まり、そこで教皇アイネアが神としての力の一端を示し集まった者は神の力を畏怖し感謝するのである。
今日は、その最終日であり街の賑わいも最高潮となっていた。街道に人々は出て楽士達や吟遊詩人が謡う唄に声を和して高らかに賛美を奏でていた。
そんな中ルミル達一行は人混みを掻き分けてルーケルセリュア大聖堂へと向かっていた。ルミルが予言した事件が起こる場所であり、今日がその日だったからである。
「フェニエル〜。今日は大丈夫ですか〜?」
ルミルの言葉にフェニエルは剣と鎧を確認しつつ答える。
「ああ、大丈夫だ。昨日丸一日休んだしな」
「ご……ごめんなさい!!フェニエル様。私達、調子に乗ってヤりすぎちゃいました……」
「ごめんなさい、マスター」
セレイラとラグが気まずそうに言う。フェニエルは苦笑した。
「いや、何もお前達ばかりが悪い訳じゃない。私も止めようと思えば止めれる立場だったのにそうしなかったのも悪いのだ」
「で……でも……」
「うん……やっぱり……」
フェニエルの言葉を聞いてもセレイラとラグはすまなそうに俯く。フェニエルは思い出したように軽く笑い始めた。
「ククク……アハハ……。何を萎れている二人とも。一昨日、私が言っても快感を貪り続けて喘いでいたのは誰だったかな?」
「ふ……フェニエル様?!こ……こんな場所で?!や……ややや……やめてください!」
「は……はずかし〜!!」
セレイラとラグは顔を真っ赤にした。一生懸命に隠そうとするその仕草に皆が微笑んだ。
「まあ、良い方向に進んだようですねぇ」
クロスがフェニエル達を見つつ言う。ルルアトも頷いた。
「そのようじゃな。若いとは良い事じゃて。こちらもな」
ルルアトが示す方向には、ロイにセフィルナがまとわりついてじゃれ合っていた。
「ロイ様〜。いいじゃないですか〜♪」
「セフィルナ、言っておいただろう。俺にそういうことを期待するな」
「え〜……。昨日も一杯愛してくださったのですから〜。ここでも〜♪」
「ば……馬鹿?!そんなこと言うな!言うと今夜からは無しだ!」
「そんな〜♪サービスしますから〜♪」
「い……要らん!!」
顔を赤くしつつロイはセフィルナとやりあっていた。が、その顔はとても嫌がっているものではなかった。
「ゴルワス〜。結局あれからどうなったのですか〜?」
「は。まあ、ご覧の通りです。一応、ヤることはヤったと言うところでしょうか」
「あんたは、それを愚直に見てたって訳?相変わらずねぇ」
ゴルワスの報告にミュレスが呆れた。ゴルワスは苦笑する。
「個人的にはお二人の関係は応援したいところです。自分は男と言う立場でもありますから、ロイ殿の良き友で、またセフィルナの良き戦友であれば良いと思っています」
「ま、あんたがいいなら、あたしが口出しすることじゃないしね。余計なお節介だったわね」
「いえ、いつもミュレス殿には感謝しております。今回も共に戦えることは幸いです。しかしそれよりも、ルミル様とはどうでしたか?」
ゴルワスの質問に今度はミュレスが顔を赤くした。
「え?!あ……あたし?!あ〜いや、その〜……ルミルとは上手くいっているわよ?!うん」
明らかに怪しい素振りを見せるミュレス。ルミルが悲しげな素振りをする。
「最近、冷たいんです〜。前ほどは構ってくれなくて……。あたしは飽きられたのでしょうかね〜」
「ちょ?!ちょっと待ってよ!今朝だってあれだけヤっておいて何を今更……ハッ?!」
ミュレスは自分が話した事柄に気が付いて耳まで赤くなる。ルルアトがやれやれと素振りをした。
「なんじゃ、お主も似たようなものではないか。ヤるだけヤっておれば十分じゃて」
「う……うるさいわね!そういうあんたはどうなのよルルアト!」
「ん?儂か?儂はクロスと一緒に魔法に関して色々話し合っていたぞい。いや、儂でも驚くほどクロスは魔法に精通しておるわい」
「いやいや、ルルアト殿の見識のお陰で私の方が沢山学ばさせて貰っていますよ」
「研究好きなのは相変わらずだなクロス」
「これだけはやめられませんよフェニエル」
クロスの満足げな顔にフェニエルが喜ぶ。ミュレスはやれやれと表現した。
「ま、お互いそれでいいならいいけどね」
「最終日のためか人混みが酷く中々大聖堂まで行けません」
アムシェが淡々と報告をする。ルミルも少々怪訝そうな顔をした。
「そ〜ですね〜。出来れば大聖堂の近くに行きたいのですが〜」
「中に入るのではないのか?」
フェニエルが質問する。ルミルは苦笑した。
「最終日の式典にはアイネアの熱心な信者さんやアイネアの加護を求める有力者が大勢集まりますからね〜。新参者のあたし達は門前払いですね〜」
「しかし……それでは事件の騒動が大きくなるのでは……」
「と言うより、大きくなってからでないと動きようがないのですね〜。一応アイネアも自分の組織の中に軍隊を持っていますし〜」
ルミルの言葉にフェニエルは以前ここに来たときの事を思い出した。確か聖騎士団と言われる存在があったはずだ。
「と、なるとだ。事はかなりの大事になるのだな?」
ロイが訊ねる。ルミルは無言で頷いた。
その時、大きな衝撃と音が響き大聖堂の一部が壊れる!!しかし、出入口付近を警護する聖騎士達は何事もないかのように中に入ろうとする一般人を規制していた。
「何だか、おかしいわね。大聖堂の方で何か起きたみたいなのに聖騎士団の連中落ち着き過ぎているわ」
ミュレスが遠目に見ながら言った。
「報告!大聖堂中心部付近に巨大生命体反応を確認。データから推察して魔獣と思われます」
アムシェが急いで述べる。ルルアトが驚きの声をあげる。
「魔獣じゃと?!それでは百五十年前のトラスアモナの時と同じではないか!まさか、今回は……」
「魔獣?セフィルナ、魔獣とはどんなものだ?」
ロイが訊ねる。セフィルナが答える。
「えっと……どう言ったらいいのかな〜……。地界には元素六属性があるのはご存じですよね〜?」
「あ、ああ、確か、水、火、土、風、聖、魔、だったかな」
「で〜、地界には地脈と言って、特定の元素の力が強く働く場所が多数あるのです」
「なるほど」
「で、私達精霊が魔力に誘われて宿り出現するように、強い地脈の場所には元精と呼ばれる元素の精が集まるそ〜です。あ、私は見たことはないのですけれど」
「それは精霊とは異なるのか?」
「えっと、似てはいますが、より純粋な力に近い存在だそうです。つまり、ハッキリした意思は持っていないけれどもまとまった力と言えばいいのかな?」
「なるほどな……ん?と言うことは魔獣と言うのは……」
「あ、そこを言わないとダメですね。魔獣は、その精を儀式によって集め一つの獣のようにして使役した存在を指します。非常に強力で、マトモに戦ったら私とかは一発でヤられちゃいますね」
「で、それが出現したということか……」
クロスが漸く事態の緊急さに気付く。
「しまった!!大聖堂内ということは犯人の目的はアイネア様か!」
「しかしクロス、ここからすぐ現場に向かうのは今現在不可能です」
アムシェが報告する。しかしクロスは急いで人を掻き分けて進みだした。
「それはわかっています!遅きに失したとはいえ魔獣を止めなければ!!恐らくこの地で召喚したのであれば水精の魔獣レビヤタン!奴では同元素を扱うアイネア様では危険だ!!」
「よし、大変だがみんな急いでいこう!」
フェニエルの言葉に皆は頷き急ぎ大聖堂に向かった。
時は少し遡る。
ルーケルセリュア大聖堂では今年も多くの信者、有志を集め盛大な感謝祭最終日の式典を始めていた。
「これより、アイネア様にご登場いただき、お言葉を賜りたいと思います」
司会を務める司教が宣言すると舞台上にはラクリム川からと思われる水が大量に吹き上がる。その吹き上がる水の中から厳かにアイネアが儀式礼服を纏って現れた。
「皆さん、ようこそ来られました。第五次天魔大戦の折、私達はこの地界に対して直接関与する術を失いました。つまりあなた方に対し多くの技を行うことが出来なくなってしまったのです。しかしあなた方は私達を崇め敬い続けてくれました。今、力は限られてはいますが皆さんのためにも私アイネアは力を使いたいと思います」
アイネアが式辞を述べると会場からは盛大な拍手が起こる。そしてそれが静まるとアイネアは「力」を使い水を球状にして空中に持ち上げた。会場からは感嘆の声が上がる。が……。
「水精を用いた演出か。水の神とも称えられたアイネアも地に落ちたものだ」
物陰から男の声が聞こえた。それに素早く警護をしていた聖騎士団の者が集まる。
「何者だ?!アイネア様に対する冒涜は許さぬぞ!」
「冒涜?ハハハハハッ!では逆にアイネアに訊ねるが良い!今のは貴女の直接の力であったのか?とな!!」
聖騎士団の者の声に男は挑戦を投げ掛けた。聖騎士団員は歯噛みしてアイネアの方へ向き、言う。
「私はそのようには思っておりません。しかし、僭越ではございますがアイネア様のお言葉を頂きたく存じます」
それにアイネアは静かに答えた。
「気にせずとも良い。先も言ったように私達は直接関与する術を失っているのです。ですからこの力は直接行使はしていますが、この地の水精の力をも用いているのです。でなければ私達はあなた方に対しては力を用いられないからです」
「クククク……。それみたことか。この地があっての力と言うことだ!で、あれば!!この地の力を、そうこの私が用いても「神」となれると言うわけなのだ!!」
男はほくそ笑みながら宝剣を抜く。その動きに周囲に集まっていた聖騎士団員は全員、剣を抜いた。それを見てアイネアが言う。
「確かに貴方にそれが出来ればそう名乗る資格があるでしょう。しかしそれは必ず失敗します」
「ふん!何故そんなことがお前にわかる!ま、そのようなことは結局のところどうでも良いのかもしれぬがな。どうせお前はここで滅び、地界での足掛かりを失うのだ!」
「確かに私は一度地界に対しての関係を失うことでしょう。それでも貴方は滅びるのです。何故ならそれは私以上の方からの予言だからです」
「貴様以上のだと……?まあいい、どのみち私はお前と問答をするためにここに居るのではないからな!!さあ私を憑代に出でよ!レビヤタン!!」
男は宝剣を掲げて叫ぶ。すると宝剣から強い光が出て周囲の人々は目を覆った。光が収まって目を開けてみると男の周りに無数の水の塊が集まり始めていた。
「いかん!総員攻撃!!」
聖騎士団の隊長と思われる人物が指示を出す。それに従い聖騎士団員の数人が男を剣で切り裂いた!が……。
「くくくくく……。無駄だよ……。私はもう人間ではない!!水精の魔獣レビヤタンなのだよ!!フフフ……ハハハハハッ!!」
男は高笑いをした。水は更に男にまとわりつき始め、男の姿が見えなくなるほどになった。暫くして巨大な呻き声と共に巨大な水の塊の中から数多くの水をまとわりつかせた巨大な海龍(海蛇型の龍)が出現した。
「これが……私の……新たなる姿だ……さあ……畏れよ……逆らう者全てには相応しい死をくれてやろう……まずは貴様からだ!!」
レビヤタンはその巨大な頭をアイネアの方向に向けて突進してきた!アイネアの前を数名の聖騎士団員が捨て身で守ろうとする!
「我らの身を呈してでもアイネア様をお守りするのだ!」
「下らぬ。雑魚共々アイネアを喰らってやるわ!」
レビヤタンは聖騎士団員もろともアイネアを含めてその巨大な口に入れた!
「ルミル様……後はお願い致します……」
アイネア達はアイネアのその言葉を最後にレビヤタンの中へその姿を消した。
「お……おのれ!!よくもアイネア様を!」
「魔法部隊を急げ!!」
「非戦闘員の避難を!」
聖騎士団員や教会の司教達の怒号が響く。周囲では恐怖により数多くの叫び声や泣き声が出始めた。
「ククク……ハハハハハ!!心配するな者共。皆、私が喰らい新たなる神としての贄としてやるわ!!」
そうしてレビヤタンは周囲に居る人々から喰らい始めた。
レビヤタンの出現により戦闘要員はともかく式場でアイネアの祝福や加護を受けようと来ていた一般の者達は恐怖と混乱に陥っていた。
「は、早く逃げなければ!」
「あなた?!どこにいるの?!」
「あ〜ん!お母さ〜ん!お父さ〜ん!」
怒号や叫び声、泣き声などが数多く響き渡り、人々は出口に向かって殺到する。しかし許容量を超えて人々が集まると事態はとたんに混沌とした事態に変貌した。
「どけ!」
「きゃあ!」
男が女の子を払い飛ばして出口へ進む。女の子は床に倒れこんだ。その間にも次々に人が殺到し、綺麗だった女の子のドレスは踏まれて泥々に汚れてしまった。
「はっ?!お父様?お母様?」
はたと気づいて周囲を見回すが傍に居たはずの父母の姿はなく周囲は逃げ惑う人々しかいなかった。
「ど……どうしましょうか……。助けて……アムシェさん……」
女の子は以前助けを差し伸べてくれた女性の名を述べる。そう、彼女はシニファだった。再び親とはぐれてしまい混迷する人混みの中、途方に暮れて立ち尽くしてしまうのだった。
「どういうことなのです?!中に入れないとは!!」
日頃落ち着いて興奮することのないクロスが怒声を上げる。大聖堂の入口を警備していた聖騎士団員は冷淡に言う。
「先程も言ったように命令だ!我々は団長の命令通り任務を行っているに過ぎない」
「くっ……話をする気もないようですね……事態はどんどん悪化しているというのに……」
クロスの心配通り、大聖堂からは大きな音が聞こえ人々の叫び声も聞こえていた。ルミルがクロスの傍に来て警護している聖騎士団員に話す。
「え〜と。団長さんの命令ということは〜。団長さんはアイネアちゃんを見限ってレビヤタンに荷担したってことですね〜」
「な?!貴様!何故そのようなことを知っている?!」
「うふふふ〜♪あたしには知らないことは「ない」ですからね〜。皆さん、どうやら彼らはあたし達の敵のようですよ〜」
ルミルの言葉に聖騎士団員達は剣を抜く。フェニエル達も応戦体勢に入った。
「ミュレス〜」
「何よ?ルミル」
「アムシェと一緒に、ここは切り抜けて早くレビヤタンのところへ行ってください〜。これ以上人を食べられると大変になりますので〜」
「な?!またなの?!ええい!!わかったわよ!行くわよ、アムシェ!」
「了解しました」
ミュレスは黒い霧をまとわせて力を集め聖騎士団員が固めていた一角をその力をもって吹き飛ばした。アムシェはすぐにそこに入っていき、ミュレスも霧状に姿を変え建物の中へと進んでいった。
「さて、人相手ならば我々は負けぬ!いくぞみんな!」
フェニエルが全員に声を掛ける。
「は……はい!!」
「僕、頑張っちゃうからね!」
「一仕事頑張りますか」
「うふ♪張り切っちゃお♪」
「自分も精一杯務めます」
「参りますよ!ルルアト殿」
「やれやれ、厄介なことになりそうじゃな」
敵達が集まってくるなか、各々が用意を整え、構えた。ルミルはそれを見て微笑んだ。
ついに出現した魔獣レビヤタン。抗うことも出来ずに食べられてしまったアイネア。混乱する人々の中に放り出されてしまったシニファ。レビヤタンと対峙するために急ぐミュレスとアムシェ。レビヤタンに与する聖騎士団員と対峙するフェニエル達。結果はともかく、一体どのような経過となるのか?
それが語られるのは次のお話。
クロス 「くっ……早く行かねばならぬのに……」
ルルアト 「焦っては何にもならぬぞ」
フェニエル 「やっと私の力が示せるな、次回で」
セレイラ 「が、頑張ります!」
ラグ 「うん!!」
セフィルナ 「うふふ~♪血よ~♪叫びよ~♪タ・ノ・シ・ミ・♪」
ロイ 「次回は血の雨が降るかな……」
ゴルワス 「恐らく……。別の意味で、敵に同情します」
ロイ 「だな……(ため息)」
ミュレス 「あたしらだけで何とかなるのかしら?」
アムシェ 「断言はできませんがマスターの言葉は信頼に価します」
ミュレス 「そうね!出来るだけやってやるわ!!」
シニファ 「あ……アムシェさん……」
ルミル 「さて、次回は修羅場ですよ~」
……いつもの調子で言わないでくださいルミルさん……( ̄▽ ̄;)
真面目に次回は修羅場です。
次回、「対決!魔獣レビヤタン」をお送りする予定です。
お楽しみに。
しっかし……一体何人死んでいくことやら……( ̄▽ ̄;)