暗躍
異種族間関係。
まだ物語上にはあまり登場してはいないが、この世界には多少なりにでも知性を持つ種族が数多く存在している。全地に広く分布しているのは人間だが、森にはエルフ、山にはドワーフ、草原にはグラスランナー、海にはマーマン等が生息している。これらは多少の差違はあれ、互いに交遊関係がある。更に、精霊達、ドラゴン、妖精、悪霊、妖魔、等々が存在する。彼等は人間達と友好的なものもいれば敵対的なものも存在する。地界では主要な知的生物は以上だが、天界には天族と称される神々や天使達、魔界には魔族と称される魔神や悪魔達が存在する。余談ではあるが異種族であっても好き嫌いや愛情表現は一般的に行われている。ちなみに異種交配によって子どもが出来ることはない。(別の世界で言うハーフエルフ等は存在しない)
ルミル 「人間や精霊以外も含む、異種族間での関係に関する情報ですね~」
ミュレス (自分が神だってわかって言ってるのかしら?……)
ルミル 「なにか言いましたか~ミュレス?」
ミュレス 「あ、いや。フェニエルとセレイラがどうなるのかな~って」
ルミル 「それは今回、ここで少し進展しますからね~」
フェニエル「何?私は聞いてないぞ?」
セレイラ 「楽しみですね~」
ラグ 「そうだね~」
ルミル 「色々な意味でね~♪」
フェニエル「ちょっと待て!どういう意味だそれは~?!」
セフィルナ「詳しくは本編をどうぞ~♪」
フェニエル「お、おい?!」
祭の中日、四日目。人々は祭の喜びに熱狂し、ルミル達は初の戦闘訓練で仲間としての結束を強めていた頃。同じルーケルセリュアの中に居るにも関わらず、他の者が見れば吐き気を催すほどのどす黒い怨念を出すものも居た。
「な……なぜ、貴方がこのようなことをなさるのですか?!アイネア様に対する背徳ですよ?!」
男に対して女は必死に訴える。しかし男の心には届いていないようだった。
「クククク……。なぜ、だと?……。では逆に聞こう、第五次天魔大戦以来、神々も魔神達もこの地界に対して直接具現する術を失ったという。つまり多くの影響力を行使できなくなったわけだ」
男は饒舌に語りながら、儀式用のものと思われる宝剣を引き抜く。
「その神々や魔神達が己の力もまともに地界に行使できぬにもかかわらず、あたかも支配者のごとく各々が統治を各地で行っているわけだ」
「そ、それは力が弱まったとはいえ、実際に私達を守護し祝福なさっているからで……」
女がそこまで答えたところで男は高らかに笑う。
「ハハハハハッ!!守護?!祝福?!己の力のために地界にある地脈を用いないと、まともに強力な技を行使できない存在に対してか?!お笑い草だな」
「そ、それでも私達のために事をなしてくださっています!!」
「いや、違う!奴等は己の益のためにやっているに過ぎない!」
「ど、どうしてそのような……。貴方は大司教として徳と能力を極めた方であるはずなのに……」
女は男に憐れみとも言える悲しみの目を向ける。その目を男は一瞥した。
「ふん!その逆だよ。私はこの地位に就いたことで悟ったのだ。今こそ神々の支配から抜け出し新たな力を得た我等の力で、そう我々が支配者となるのだ!!」
「愚かな!弱き人間が治めて上手くいった話は、遡れる全ての資料を見てもないはず!!」
「ほう……。流石は学識者としても名を馳せた巫女だけはあるな。そうだ弱き人間ではな……」
男の言葉に巫女は悟って顔色を変える。
「まさか?!貴方は……」
「そのまさかだとしたらどうするね、スザンナ」
スザンナと呼ばれた巫女は涙を流した。
「それは堕落です、ローズウェル……私は……私は貴方のことが……」
「何、心配するな。お前はここで、これから「私のために」死ぬのだからな。この私直々に大事に使ってやる」
ローズウェルと呼ばれた男はニヤリと笑う。スザンナは顔色が蒼白になった。
「そ、そんな……。貴方を止めることも出来ず、更には私の命でアイネア様まで危険に晒すなんて……」
「ハハハハハ!!喜べ!お前の命で、この儀式は全てが終わる。後は祭の最終日にアイネアを滅ぼし、私が新たなる支配者となるだけだ」
「無駄なことを!百五十年前に似たようなことを考えた者がトラスアモナでどんな結末を迎えたか知らない貴方ではないでしょう?!」
スザンナの言葉にローズウェルは一瞬動きを止める。しかし……。
「もちろん知っているさ!!」
そう言い、手にしていた宝剣をスザンナに突き刺した!!背中まで貫通し少しずつ血が出ていく。
「くくくく……。苦しかろう?……。痛かろう?……。頑張って私のために苦痛を増やしてくれ。そうだな、確かに似た状況が百五十年前にあった。ベヘモトは私と同じような目的の者が呼び出したのかもしれぬ。しかしだからこそ私はこの準備を始めたのだ!!今度こそ、そう、この私こそが力を手に入れるのだと!それも、水精の魔獣レビヤタン(別名リヴァイアサン)をな!!」
ローズウェルは宝剣を動かしスザンナへの苦痛を増やしていく。スザンナは苦痛で顔を歪めながらも最期の訴えをした。
「あの……あの、ら……ラクリム川の……畔で……私と……将来を……か……語り合った……貴方は…………」
しかしスザンナは最後まで言うことが出来ず、その場に倒れこんでしまった。ローズウェルは倒れたスザンナを鋭く見据えた。
「ふっ……。無知だった頃の思い出だよ、スザンナ。過去の妄執になど私は囚われぬ。私こそが地界における初めの「神を倒した者」となるのだ!」
ローズウェルはそう言い捨てて宝剣を鞘にしまい、その場を後にした。後は血だらけになっても苦痛ではなく悲しみで涙濡れた顔で倒れているスザンナが無惨にも残されていた……。
「やれやれ。男、女にかかわらずヒステリーは怖いのう」
ルルアトが疲れ気味に言う。セレイラは顔を真っ赤にした。
「ご……ごめんなさい!!わ……私、フェニエル様が他の女の人の事を考えているのを思うと、あ……頭が真っ白になっちゃって……」
「ん~♪可愛いわね~♪セフィルナお姉さんがイロイロ教えてあげないとねぇ」
「あ!!それです!」
「ん?」
「セフィルナさん、以前言っていた、あ~んな事とかこ~んな事とかって言うのを教えてください!」
「え?!」
セレイラにストレートに言われて、逆にセフィルナの方が焦る。
「あ……えっと、教えてはあげるケド、ちょっとここじゃマズイかな~♪」
「?。どうしてですか?」
純真に訊ねるセレイラを見て、ますます立場を悪くし、気まずい思いをするセフィルナ。
「いや、だからね……。これは男の人が聞こえる、つまりフェニエルが聞こえるところで聞いちゃいけないことなのよ!」
「な、なるほど!!」
セレイラは納得するが、それを見ていたラグとアムシェ以外のメンバーは苦笑した。
「なんとも可愛いですね~」
「っていいんですか?ルミルさん、放っておいて」
クロスが心配してルミルに訊ねる。ルミルは微笑んだ。
「フェニエルが本気で嫌がったら考えるけれど~」
「私は問題ない。実際セレイラは大事でルミルが見ているのと同じように可愛い存在だからな」
フェニエルは一生懸命にセフィルナから話を聞こうとするセレイラを見つめていた。
「あれ??いつの間にフェニエルとセレイラはくっついちゃったわけ?」
目を覚ましたミュレスが突然話に入り込む。
「つい先程みたいですよ。フェニエルも漸く自覚したようですし」
「な?!ちょっと待てクロス。私はそこまでは言ってないぞ?!」
「ん~?結局どういうことなのよ~?」
事態が理解できずミュレスが問い詰めてくる。フェニエルはたじろいだ。
「いや、その……私にとってセレイラは大事で可愛いと……」
「ふむふむ。で、今晩はイチャイチャしようと?」
「な?!な……何を……わ……私の一存でそ……そんなことは……」
「ん~?あれ?それってフェニエルもOKってことよね?」
ミュレスがさりげなく突っ込む。その言葉に、話が聞こえていないセレイラとセフィルナ、そして良くわかっていないラグ以外は頷く。フェニエルは顔が真っ赤になった。
「え??い、いや、でもセレイラは、その……」
「ま、それ以上はあたしらがどうこう言うことじゃないけれど、お互いの気持ちが間違いないなら手遅れにならない内に、伝え合って関係を深めるなりした方がいいわよ?」
ミュレスはそう言い自分の着ている漆黒のドレスに目を落とす。ルミルは少し悲しげに見つめた。
「クロードを呼んだ方がいいですか?ミュレス」
「な?!ルミル!!余計なことはしないで!彼が選んだ道だもの……ゆっくり……休ませて……あげて……」
ミュレスは再び漆黒のドレスに目を落とした。その瞳から幾つか涙がこぼれ落ちたのが見えた。
「逆に訊くようになるが、ミュレス、そのクロードという人は君の思い人なのか?」
フェニエルが訊ねる。ミュレスはため息を一つ吐いた。
「あんたね~。女の人に無神経って言われたことない?」
「あ、ああ……。今もセレイラに……」
「ま、いいわ教えてあげる。第五次天魔大戦の時にあたしを愛した物好きな人間よ、彼は」
「人間、ということは……」
「今も生きていたら人間じゃないでしょ!ま、彼は寿命で死んだのではなく、第五次天魔大戦の時の戦禍に巻き込まれちゃってね」
「そ、そうなのか……」
「で、彼は有能な裁縫師だったんだけれど最後の作品がこのドレスってわけ」
「それは~、彼の命がこもったドレスなんですね~。布ですが材質が特殊でして~。下手な金属鎧より丈夫ですよ~」
ミュレスの話にルミルが付け加える。ミュレスはルミルを見て微笑んだ。
「最期まであたしを思ってくれた人だった。たぶんルミル以外で、と言うかバンパイアになって初めてまともに相手をしてくれた人間だったかもね。あ、もちろん一般的な付き合いなら他でいつでもしていたけれどね」
「なるほどな……。すまない、そんなことをずけずけと聞いてしまって……」
フェニエルはそう言い謝る。ミュレスはそれを見て苦笑した。
「裏表がないのはすごくいいことだけれど、あんた達苦労しそうね」
「は?!」
ミュレスの言葉の意味がわからず、すっとんきょうな答えをフェニエルはしてしまった。それを見ていたものは微笑んでいた。
ローズウェルは大聖堂の近く、聖騎士団の一室に来ていた。
[で、首尾はいかがですかな?ローズウェル殿」
部屋の中で聖騎士団の正装と思われる鎧を着た男がカップに茶を淹れながら言った。ローズウェルは答える。
「問題なく儀式は完了した。後は最終日に発動させるだけだ。それはそうとして、エルハイム聖騎士団長。我々に賛同する同志はどれくらい集まりましたかな?」
「今のところ聖騎士団の約半数といったところですな。当日の状況で多少変化するでしょう。教会側はいかがですかな?ローズウェル大司教」
「全体に対して五分の一程度ですな。やはりアイネアの影響が強いのでしょう。まあ当日は賛同者を式典から外しておき、計画決行時に戦力として参加して貰うように手配してありますぞ」
「なるほど、それは心強い。逆にアイネアに与する者は式典で……」
エルハイムはそう言い笑みを湛えながらローズウェルを見る。ローズウェルも微笑んで答える。
「そう、アイネア共々滅んで貰いましょうかな」
そこでは己の野望のために手を組んだ邪なる者が笑いあっていた。
「でね、例えばベットでさっきみたいにするといいわけ♪」
セフィルナがイロイロとセレイラに説明する。セレイラは多少顔を赤らめつつ一生懸命に聞いていた。
「す、凄いです!セフィルナさん。わ……私、頑張ってフェニエル様に奉仕します!!」
「あ……う、うん。が、頑張ってね♪……。(正直に言って良かったのかしら?)」
ありのまま語った後で一抹の不安を拭えないセフィルナであった。
「で、結局どうするわけ?」
ミュレスがニヤリとフェニエルに訊ねる。フェニエルは顔を赤くした。
「え?!ど……どうって何を……」
「今更ナニって言うのよ~。ドコまで食べちゃうの?」
好奇の目で見るミュレス。フェニエルは更に顔を赤くする。
「た、食べっ?!ま、待て?!私はそんな……」
「やれやれ……エリム地方の言葉にも「据え膳食わぬは男の恥」ってのがあるわよ?」
「な……何だそれは?」
「女性から情事の誘いを受けて、それに応じないのは男の恥だ、って事。ま、セレイラがモーションかけてきたら応えてあげなさいな、フェニエル」
ミュレスはやれやれと表現しつつフェニエルを見た。フェニエルは俯いたままでいる。
「セレイラが……。そうか応えるのも愛情かな……」
「相変わらず奥手ですね。大学院以来変わっていませんよ、フェニエル」
「ま、年寄りから言わせて貰えば若いうちに後悔する前にヤっておいた方がいいぞい」
「俺が言えることではないかもしれないが、お互い認め合っているなら前に進めばいい」
「自分は応援します、フェニエル殿」
「私にはそのような記録がないので判断は出来ませんが、皆さんの状況を見るに賛同する側に立ちます」
「えっと……僕はフェニエル様とセレイラ姉さんが仲良くするのがいいな」
全員から励ましの言葉を貰うフェニエル。ルミルは微笑んでいた。
「フェニエル様~!」
そこへセレイラが走ってくる。そしてそのままフェニエルに抱きつく。
「私、セフィルナさんからイロイロ教えて貰いました!早速、今晩にでもフェニエル様にご奉仕しますね!」
「え?!奉仕?!」
「はい!私にさせてください!!」
顔を赤くしつつも真剣に、そして笑顔でセレイラはフェニエルの顔を見つめた。
(結局どう言ったんですか~、セフィルナ?)
(あ?!いや純真に訊かれたので、ありのままに……。ま、不味かったですかね?)
(いえいえ~、明日の朝が楽しみですよ~)
フェニエルは一つ溜め息を吐いた。
「わかった、私も腹を決めよう。セレイラ、君の思う事をしてごらん」
「はい!!」
セレイラは強くフェニエルに抱きついた。ラグがそれを見て手を挙げる。
「あ、はいはい!!僕もお手伝いしたい!セレイラ姉さん、僕にも教えて!」
「え?ラグも?じゃあフェニエル様に聞こえないところで教えてあげますから、こっちへいらっしゃい」
「うん!!」
そう言い、二人は離れた場所に行く。フェニエルは焦った。
「ちょ?!ちょっと待て!!ら……ラグまで?!こ、こんな展開考えてないぞ?!おい!セレイラ!!」
「ん~。明日の朝、フェニエルは起きられそうですかね~?」
ルミルの質問に全員が首を振るのであった。
魔獣を召喚しようとし、また神殺しを企む暗躍。
幸せなフェニエル達をよそに事態は進みつつあった。
対峙するのは数日後である……。
ルミル 「さて、R-18にならない程度に少し覗き見してみますかね~」
(フェニエルの部屋で……)
フェニエル「せ……セレイラ……少し休ませてくれ……」
セレイラ 「え~……まだ、教わったご奉仕の半分もしてないです……」
フェニエル「いや、私の体が持たないって……」
セレイラ 「ああん……フェニエル様に気持ち良くなって欲しいのに……」
ラグ 「ここは僕に任せて!え~い!!」
フェニエル「??!!何か、キター(゜ロ゜)?!」
セレイラ 「フェニエル様?!」
フェニエル「ふ……ふふふ……はははは!!さあ、目一杯相手をしてやろうではないか!」
二人 「きゃ~♪」
(視点がフェニエルの部屋から戻る)
ルミル 「…………(汗)。ま、明日は大変そうね~……」
……( ̄▽ ̄;)……いいのか??
まあ、もう言っても無駄か……(´Д`)
次回は「アムシェの小さな冒険」の予定です。
その次から「お節介」の戦いが始まる予定です。
お楽しみに~。