湯けむり事情、その時、その人は見た!
ミスリル。
魔力鉱の事。精製して純度を高めたものを特に指して言う。なお、これ自体は読者の世界にある雲母(珪酸塩鉱物)のように綺麗だが脆いので通常は銀と化合させて合金として用いる。つまり、ミスリル銀とは合金の事である(この世界では)。物質化した魔力であり、またミスリル自体も魔力が消費されると空中に遊離している魔力を自然に吸収、固着する働きがあるため、魔法を用いる者には非常に欠かせない金属である。が……先にも書いたように脆い鉱物で、しかも鉱石中の含有率は決して高いとは言えず精製するのは非常に大変なため高価である。高い魔力を有するため、これを用いたアイテムには精霊が宿りやすい。現に物語上の精霊達はほぼ全てミスリル含有の武具に宿ったものである。なお、アイテムから魔力を用いるには、ある程度の慣れが必要であり通常単に持っているから使えるというような代物ではない。
ルミル 「と言うことで、この世界でのミスリルに関する情報です」
セレイラ 「私も、ミスリルのお陰で宿れたようなものなんですね」
ミュレス 「そうみたいね」
アムシェ 「と、なると私は……」
ルミル 「アムシェは特殊ですからね~。説明が難しくなります~」
アムシェ 「そうですか……」
ミュレス 「ま、物語が進めば、おいおい明らかになるわよ」
アムシェ 「そうですね。あ、本編をどうぞ」
「いや〜、俺もその時は幻でも見ているのか?と思ったね〜」
ここは一般市民が暮らす一般住民区。ルーケルセリュアの北部、大聖堂とラクリム川を境に北側一体を指す。大聖堂の近く、公衆浴場の隣にある食堂で男は話していた。
「書物や司祭様の話で聞いたことはあったけどさ〜。まさか、こんな場所で見るとは思わなかったね〜」
そう言って男は先程見たという、幻とも思える光景について語り始めた。
時は遡る。
祭の三日目。今日も街中は賑やかだ。ルミル達一行は、店に三姉妹を残してルーケルセリュア大聖堂の方へ移動していた。
「しっかし、毎日良くこれだけ浮かれ騒げるわね〜。何年見てもほとほと感心するわ」
ミュレスが周囲の人々を見て思いを語る。
「ほっほっほ。元人間の癖に、人の思いはもう忘れたのかの〜?」
挑発するようにルルアトが言う。ミュレスは少し顔を赤らめた。
「な?!約五万年生きようと、忘れたことなんてないわよ!あたしは、ああいう風に騒ぎ立てるのが苦手なだけなんだから!」
「ま、日頃からミュレスちゃんは騒いでいますし〜。それに、お酒を飲むと泣き上戸ですものね〜」
ルミルが口を挟む。ミュレスは顔を真っ赤にした。
「ちょ?!ななな……ルミル!そんなことバラさないでよね!」
「え〜……。可愛くて素敵なのに〜。ね〜皆さん」
ルミルが全員に賛同を問う。
「ほう。今度みんなで飲んでみるか」
「いいですねぇ。私はあまりお酒は得意ではありませんが、そういうことであればご相伴したいですね」
「俺はいつでも構わん」
「私には良くわかりませんが記録しておきます」
「ちょっと!!みんなも賛同しないでよ!アムシェ!こんなことは記録しなくていいからね!」
「あ、あの……私には何が何やらさっぱりです」
「セレイラちゃんはまだ若いからねぇ。このセフィルナお姉さんが色々教えて、ア・ゲ・ル♪」
「え?!あの……えっと……」
「セフィルナ、あまり急に教えてはダメです。セレイラは幼すぎますから」
「わ〜かってますよぉ、ゴルワス。危ないことはまだ教えないから大丈夫♪」
「え?え?!あ……危ないこと??」
「そうそう、そのうち大好きなフェニエル様に、あ〜んな事や、こ〜んな事をしてあげれるように教えてあげるワ♪」
「あ、は……はい、宜しくお願いします」
「言った先からこれですか……。思いやられますね……」
……とまあ、楽しく(?)語り合いながら、今日の目的地ルーケルセリュア最大の公衆浴場へと一行は向かっていた。
公衆浴場。
読者の世界でも古代ギリシャやローマにみられたような一般人が自由に入れる大規模浴場。ルーケルセリュアには幾つかの公衆浴場があるが、大聖堂のすぐ北にある公衆浴場が最も大きく、また、利用者も多い。理由は様々にある。街の中心部である。様々な地区が近くにあるため色々な立場の人が集まってくる。特に、大聖堂で働く巫女さん達が多く利用しているので彼女達を見ようと来る者も多かった。ちなみに、この世界でも男女混浴である。余談ではあるが公衆浴場は公共施設でありルーケルセリュアでは管理人の管理の元、都市の資金で運営されている。
一行は大聖堂一階の通路部分を抜けて、北部の一般住民区に入った。大聖堂からすぐそこ目と鼻の先とも言うべき処に公衆浴場があった。
「へぇ……かなり大きいわね」
ミュレスが見上げつつ言う。建物はかなり大きくかなりの人数が入れそうだ。
「この都市最大の浴場ですからねぇ。では参りましょうか、更衣室はこちらですよ」
クロスがそう言いながら中に入っていく。一行はそれについていった。
更衣室も非常に広く、中に百人も入れるのでは??と思うほどで、広い故か子供達がはしゃいで走り回っている様子も見られた。
「これは確かに凄いな……」
フェニエルが感心しつつ周囲を見回す。様々な人々、戦士のような男性、職人風の老人、子供連れの主婦とおぼしき女性、衣服から聖職関係者と思われる者など色々いた。
「ここなら全員で着替えれそうですね〜」
ルミルはそう言ってさっさと服を脱ぎ始めた。
「はや?!ま、風呂に入りに来たんだから当然と言えば当然だけれど。ルミル、あんた早すぎよ!」
「え〜?でも精霊達のように一瞬では無理ですし〜」
そう言われて精霊達の方を見ると既に裸の状態だった。
「ささっ♪ロイ様も早く♪」
「ま、待て!セフィルナ!自分で出来る!」
セフィルナはロイにちょっかいを出している。ロイは焦りながら衣服を脱いでいた。
「フェニエル様。お……お手伝いしましょうか?」
セレイラはもじもじとしながらフェニエルに言う。フェニエルは少し顔を赤くした。
「あ?!いや、だ、大丈夫だ。そ、その……少し待ってくれ」
そう言い、そそくさと服を脱ぎ始めた。
「初々しいのう。若いとは良いことじゃな」
「全くですねぇ」
ルルアトとクロスが年寄り臭く会話をしているのだった。
「皆さん、何をしているのでしょうか?」
アムシェが訊ねる。ルミルは苦笑した。
「あ〜。これからみんなでお風呂に入って色々語り合うので〜。アムシェもその服の装着を解除してくださいね〜」
「イエス、マスター。イメージングフィールド解除します」
アムシェがそう言うと彼女の体が淡く光り、光の消えた後には見事な裸体をした姿が現れた。
「おや〜?ミュレスちゃん、まだ脱いでなかったのですね〜」
ルミルの声で皆の視線がミュレスに集まる。ミュレスはもじもじとしつつ、まだ漆黒のドレスを着たままだった。
「あ……いや、す、すぐ脱ぐわよ。心配しないでいいから先に行ってて!」
ミュレスが焦りながら言った。ルミルはくすりと笑う。
「皆さんは先に行っててください〜。あたしがミュレスの相手をして連れていきますね〜」
ルミルの言葉に全員が頷き浴場へと向かう。
ルミルは微笑みつつミュレスの肩に手をかけた。
「ど〜しました〜?刻印を見られるのが恥ずかしいですか〜?」
「そ……そんなことはないわ!た……ただ……」
ミュレスは俯いて話し、途中で止まってしまう。ルミルは肩にかけた手をドレスに持っていき、静かに脱がし始めた。漆黒のドレスがなくなったあとに色白で美しい肌が出てくる。更に腹から背中にかけて人間には見られない特徴的なアザのようなものが現れた。それは真っ赤で、まるでミュレスの身体にぐるぐると巻き付いて、とぐろを巻く蛇のようなアザだった。これこそバンパイアであることの証「刻印」である。ルミルは更にドレスを下げて脱がしつつ背中を軽く撫でる。
「んあっ……」
軽く体を走る快感にミュレスは思わず声をあげる。
「あらまあ……。可愛いですね〜ミュレス。みんなが居ない間にこっそりヤっちゃいますか〜?」
ルミルが少しずつドレスを脱がしながらミュレスの顔に手を当てる。ミュレスは色白な肌を全身が火照るように薄紅色に染め上げた。
「あ……今はダメ……遅くなるとみんなが気付くわ……」
欲望に負けそうな力のない声でミュレスはなんとか断る。ルミルは微笑んだ。
「ん〜。それは残念ですね〜。またにしましょうか〜」
そう言いルミルはミュレスのドレスを全て脱がせた。風呂に入る前にも関わらずのぼせてしまったミュレスを連れて、ルミルは浴場へと向かうのだった。
更衣室も広かったが浴場は更に広かった。なんと湯気で反対側が見えないほどなのである。浴槽そのものは深いものではなく、座っても小柄なセレイラですら胸まで湯が当たらないくらいの高さだった。
「確かにこれは凄いな。街のみんなが利用するのも良くわかる」
周囲を見つつフェニエルが言う。ここまで広いと身近なもの同士のみが集まって話し合うにはおあつらえ向きと言えた。しかも浴場であるがゆえに音が反響し、多少の話し声は聞こえたとしてもまずは理解できない。親密な話や内密の話を親睦を深めながら行うには正に最適と言えた。
「セレイラちゃんは若いから肌も綺麗ね〜」
「え?……セフィルナさんだって素敵ですよ?」
セレイラとセフィルナが洗いっこをしながら会話を弾ませていた。
「ほほう。ルルアト殿は五千年も精霊をやっておいででしたか」
「まあのう……お陰で魔法にはかなり精通できたわい」
「ほ〜、それはそれは。是非語り合いたいですね〜」
別の場所ではルルアトとクロスの魔法談義が。
「ふ〜。いい湯だ。たまにはこういうのもいいものだな」
「左様ですね。明日からまた大変でしょうし、今のうちですね」
「だな。大変だがこれから宜しく頼むぞゴルワス」
「はい。守護に関してはお任せを。攻撃に関してはセフィルナがやってくれます」
巨漢の男と黒い肌の男が湯に浸かりながら今後を話し合っていた。ゴルワスとロイだった。
「ん?アムシェ、君も中に入るといい」
「はい。しかし私の記録にはこのような施設に関する情報がなく、どのようにして良いかわかりません」
「あ〜。そうか君は戦闘用として製作されたのだっけ」
フェニエルが少々頭を抱える。仕方なくアムシェの手を取った。
「言葉で言うのは私では難しいな、こっちに来てくれ」
「はい」
そうして二人は浴槽に入る。フェニエルが浴槽に浸かる。
「私がしたように浴槽に入ってごらん」
「こうですか?フェニエル」
アムシェも真似をして浴槽に浸かる。そこへ……。
フェニエルの後ろから何かが掴まってきた。
「ん?……ど、どうした?セレイラ」
セレイラがフェニエルに掴まって震えている。
「ふ……フェ……フェニエル……様……」
「お……落ち着け、セレイラ。どうしたというんだ?」
お前も落ち着くんだフェニエル。と突っ込みが入りそうな位フェニエルも慌ててセレイラに声をかけていた。セレイラは少し震えて鳴き声をしてから顔を湯で洗いフェニエルの方へ向ける。
「あ、あの……!」
「ん?どうした」
「あ……アムシェさんより私を構ってください!」
「……へ?!」
「そ……その、フェニエル様が他の女性を相手するところを見たくないです……」
「え……?えっと……」
「ま〜、つまり〜、焼きもちってことですね〜」
横からルミルが横やりをいれる。セレイラは真っ赤な顔をして俯いた。フェニエルもやや赤くなる。
「あ……えっと……わかった。努力するよ、セレイラ」
フェニエルの言葉にセレイラは満面の笑みを浮かべ、フェニエルに抱きついた。
「ま……まて!!セレイラ!胸!胸が当たってる!」
「いいんです!フェニエル様なら!」
「あら〜、お熱いことで〜」
「茶化すな!ルミル」
「はいはい〜。じゃ、あたしはミュレスと楽しみましょうかね〜。ね〜ミュレス?」
ルミルはそう言いミュレスの方へ向く。ミュレスは俯きつつ答えた。
「え?!ええ……そうね……」
そう言ってミュレスとルミルは少し離れたところへ移動した。
「ん?何かミュレスの奴、少し元気がなかったように見えなかったか?」
ロイが素早く様子を見てそう言った。ゴルワスが説明を入れる。
「多分、ルミル様が「真面目」に相手をしているからでしょう」
「真面目に、だと?」
「ええ、我々は長くてもルルアト殿で五千年ほどの付き合いしかルミル様とありません。自分などわずか八百年です。しかしミュレス殿はおよそ五万年もの間ルミル様と交友がおありですからね。関係は深いのです」
「なるほどね。長年の付き合いという奴か。しかしそれ以外にも何かありそうだったが……。俺の思い過ごしかな?」
ロイはそれ以上は考えず、その場での交友を楽しむことにした。
ルミルとミュレスは少し他の人々とは離れた浴槽に入った。
「いい湯ですね〜」
「ええ……」
いつもと違いミュレスが言葉少なになっている。しかしルミルはそれに気にもとめずミュレスに近寄る。
「さて、近くに誰も居ませんし〜。そろそろ始めましょうか〜、ミュレス」
「ルミル……本当にいいの?……」
ミュレスが真面目な顔で訊いてくる。ルミルは笑顔をした。
「もちろんですよ〜。それにあなたはそれだけの力を得てきたと思いますしね〜。今度こそ耐えれると思いますよ〜?」
「い……いや、そうじゃなくて!」
「ん〜?」
「あたしに力を与えてもいいの?も、もちろんあたしは嬉しいわよ。で、でも……」
「あ〜……。もしかして、クラムモデウスの事を思い出して心配しているのですか〜?」
「当然じゃない!彼もルミルに認められて力を得たのに最後には……。あ、あたし……彼のようになるんじゃないかと!!」
「相変わらず自分に対しては厳しいですね〜。彼は自分のものではない力に驕ったから滅びただけですよ〜。あたしの事を思うミュレスがそんなことをするとは思いませんね〜」
「そ……そりゃ……今は、そ……そうかも……知れないけれど!!」
感情が押さえられなくなり嗚咽しながらミュレスが言う。ルミルはそんなミュレスを抱きしめた。
「大丈夫。この前は少し早すぎただけです。それに何も一度に全部なんて無茶はしませんからね。あたしを好いてくれる気持ちを忘れなければ必ず出来ますよ」
真面目な口調のルミルの言葉を聞いてミュレスは漸く涙を止めた。
「そ、そうね。頑張ってみるわ!」
「そ〜。その意気です〜。では、いきますよ〜」
ルミルはそう言いミュレスと抱擁を交わす。次第にそれは熱のこもったものとなる。
「んあ……。いい感じ……」
ルミルから得る力に快感を感じつつミュレスが言う。ルミルは微笑む。
「可愛いミュレス……もう少し頑張って……」
二人は身体を更に寄せ合い、仄かに輝き始める。
「んあ!!あ、熱い!!」
己に入りこむ力の奔流にミュレスは叫びをあげる。
「あっ!!はぁっ!!こ、今度は決めるんだから!!んっ……んあぁぁぁ!!」
ミュレスは叫びをあげてからぐったりと項垂れた。
「良く頑張ったわ、ミュレス。これで少し楽になりそうね」
上手く力を渡せたことをルミルは喜びながら、気を失っているミュレスに優しくキスをした。
「と、まあこんな感じでさ〜。俺もビックリしたねぇ」
男は見たことを語っていた。
「お前、風呂場で寝込んで夢でも見たって考えたことないか?」
話を聞いていた男が答えて言った。男は憤慨して言う。
「いや!間違いなく俺は見た!夢なんかじゃないって!!」
「俺には信じられないがなあ……」
「間違いないってばよ〜」
そこではそんな風に語られていたのであった。
様々な思い、気持ち。彼らが一つとなり、ルミルの「お節介」が成功するのか。
それはこれから語られる物語……。
セレイラ 「フェニエル様~」
フェニエル「お、落ち着け!セレイラってもしかして、突っ走ると危ないタイプ?(汗)」
ルミル 「日頃おとなしい娘は怖いですからね~」
セレイラ 「うふふ……これで、フェニエル様は、私のモノ……」
フェニエル「ちょ?!お、落ち着けセレイラ!」
ミュレス 「あふ……あら……まあ、頑張りなさいフェニエル」
フェニエル「……ミュレスが落ち着いている……天変地異の前触れ?!」
ミュレス 「ちょ?!何言ってるのよ!慣れないことをしたから少し疲れただけよ!」
セレイラ 「え?何をしたんですか?」
ミュレス 「いや……それはあの……」
ルミル 「うふふ、秘密です♪」
ミュレス 「うん、そう、秘密なのよ!」
ま~、色々あるようで。みんな頑張ってね~。
あ、次回は「ディバイディングドライバー」です。
(勇者王と被っていますが、仕様です。あしからず)