死んだ僕の帰る先
***BL*** 森の奥に置き去りにされた僕。 ハッピーエンド
僕は死んだらしい。
美しい妹に、いつも疎んじられていた僕
「いらない子供は、森へ連れて行け」
僕はとうとう、森に置き去りにされてしまった。
*****
こんな嵐の日に出掛けるなんて、馬鹿だ。
明日になれば雨も止むだろうに、、、。
それでも、僕は彼が危篤と聞いて、向かわずにはいられなかった。
大好きなあの人が、高熱でうなされている。
隣国から、嫌な流行病の話も聞いた。
まさかと思いながらも、後悔したくなかった。
準備された馬車に乗り、取るものも取らず、身一つで彼の元に行く。
急いで!急いで!
馬車は止まる気配が無かった。
おかしいと感じたのは、随分時間が経ってからだった。
「いくら雨だからって、こんなに時間が掛かるだろうか、、、」
雨の音が酷い。御者は大丈夫だろうか。やはり、明日まで待つべきだった、、、。
僕は、御者の後ろの位置にある、小窓を開けた。
いない、、。?
嘘でしょう?こんな土砂降りの雨の中、彼はどこに行ったんだ、、、。
そう言えば、今日の御者は誰だった?あまりに慌てていたから、ちゃんと確認しなかった。
いや。顔は見た。知らない男だった。
馬車はずっと走り続けていると思ったのに、激しい雨音に騙されていた。
辺りは真っ暗で何も見えない。馬だって、こんな土砂降りの雨で立ち尽くしている。
雨が止んだとして、ぬかるんだ道を歩くのは大変だ。
それより彼は?早く彼の元に行かなければ!
ああ、、、
こんな状況でどうやって彼の元に行けば良いのか、、、。
バケツの水をひっくり返した様な雨、、、。
盗賊も現れないだろう。でも、雨が止んで、一人で行動したら分からない。金目の物は持っていないけど、身包み剥がされ、奴隷商人に売られてしまったら、、、。
もうあの人には逢えないかも知れない。
大好きな人。僕の命と引き換えに、どうか生き永らえて欲しい、、、。
夜中に雨の音が小さくなり出した。でも、辺りは暗く恐ろしかった。
漸く雨が止んだのは明け方で、僕は雨が止むと、馬を馬車から外した。
ぬかるんだ道を馬車で行くのは無理だと判断した。
馬も、あの大雨で衰弱している。
本当は僕自身、馬に乗りたかったけど、そんな事をしたら一歩も動けなくなるだろう、、、。
誰にも会いたく無かった。僕は寝不足と空腹、精神的なストレスでボロボロだった、、、。
身体に鞭を打ち、前に進むだけだ。
と、目の前が開けたと思ったら、断崖絶壁だった。もし、あの嵐の中、前も分からず前進していたら、僕は馬車諸共崖から落ちていただろう、、、。
ぞっとした、、、。
そして、何故か妹の顔を思い出していた、、、。
*****
僕は嫌がる馬を歩かせた
「ごめんね、、、」
と言いながら、手綱を引いて向きを変える。
僕自身は雨に濡れた訳では無いけど、疲れた頭は全く働いてくれない、、、。
朦朧としながら、兎に角前に進んだ。
緑の中に、赤い屋根が見えた。家だ、、、。あと少し、、、頑張れ僕、、、。
屋根の上に十字架を見つけ、僕は力尽きた。
馬だけは、ゆっくり前に進む。
*****
目が覚めると、一瞬夢を見ているのかと思った。
知らない部屋。知らない景色。知らない子供達の声。
天国に来てしまった、、、。
そう思いながら身体を動かすと、窓の外は美しい景色だった。
そうして、もう一度眠りについた、、、。
*****
夜中に目が覚めた。
枕元に誰かいる。燭台を持ち、僕の様子を見ていた様だ。
「目が覚めましたか?」
「はい、、、」
「何処か具合の、悪い所はありますか?」
優しい声だった。
「い、、、」
喉が、、、。
「ああ、済みません。先にお水をお持ちすれば良かった」
そう言って部屋を出ると、水差しとコップを持って現れた。
彼は僕を支え起こすと、コップに水を注ぎ、ゆっくりと僕に飲ませてくれた。
喉が潤い、僕は言葉を発する事が出来た。
「ありがとうございます」
「身体の方は如何ですか?」
「少し、ギシギシ言う様です」
「、、、三日間、ずっと眠り続けましたからね」
三日も、、、。
「子供達がいて賑やかですが、暫く此方にいると良いですよ」
「、、、馬はっ?!」
「大丈夫、美しい馬ですね。子供達が世話をしています。それから、馬車も見つけました。裏手にありますから、安心してください」
「此処は何処ですか?」
と聞くと、
「国境近くの森の中です。度々道に迷われる方がいるので」
と淋しそうに言う。
「貴方が無事で良かった、、、」
そうか、、、此処は、所謂そう言う場所だ。
生きて行けない人が来たり、育てられない子供、老人を連れて来る森、、、そんな場所があると聞いた事があった。
じゃあ、僕も森に捨てられたんだろうか、、、。
*****
ある日、神父様の友人が街から新聞を届けてくれた。
森の奥の教会にとって、新聞は貴重な情報源だ。
チラリと覗いた新聞に、僕の婚約者が妹と婚約を結び直した、と書いてあった。
僕は動く事が出来なくなった。
ど、どう言う事?
幾ら何でも早過ぎる、、、。
妹と婚約者が僕を森に置き去りにしたんだろうか、、、。
僕は回らない頭で、一所懸命考えようとした、、、。
*****
貴族に取って、髪は命だ。
僕は、自分の長い髪を紐で結び、短く切った。
それを神父様に持って行き、街で売って教会の生活費の足しにして貰った。馬と馬車も教会に寄付した。
そして、暫く教会に置いて貰える様に頼んだ。
僕はもう、あの場所へは帰れない。例え帰っても、僕のいる場所は無いだろう。
彼と結婚をして、彼に僕の家を継いで貰う予定だった。でも、妹と婚約をした今、僕は不要な存在だ、、、。
*****
教会での生活はのんびりしている。
森に置き去りにされてから半年、僕は子供達に勉強を教え、教会の仕事を手伝う毎日を過ごしていた。
子供達と森に入り、果物を取って帰ると、教会にいつもと違う雰囲気が流れていた。
馬が二頭繋がれている。
来客なんて珍しい。
僕は子供達に、来客の様だから静かにしようと伝え、裏口から入った。
「オリヴィエ、、、お客様がいらしている」
お客様?僕に?
神父様の後を歩き、応接間に入ると
「オリヴィエッ!」
僕の名前を呼んだのは、元婚約者のアールバートだった。
僕の思考はフル回転した。
何故彼が此処にいるのか分からない。
「オリヴィエ?、、、」
不安そうな彼。何故、そんな顔をするんだろう、、、。貴方は、僕を殺して妹と結婚するんでしょう?、、、。
僕は動けなかった。頭の中ではもの凄い勢いでアレコレ考えていたけど、その反動か防御反応か、、、分からないけれど、体はピクリとも動かない。
唯一瞳だけが、ほんの少し揺らいでいた。
「オリヴィエ、、、私の事が分からないのかい?」
僕は神父様を見た。
「此方に来た時は、既に意識がありませんでした。皆で教会に運びましたが、三日程目を覚ましませんでした、、、もしかしたら、記憶が無いのかも知れません」
彼に視線を移す。
「そんな、、、」
彼は泣いた。でも、僕にはそれが本当の涙か、偽物の涙か分からなかった。
「彼を連れて帰ります、、、」
そう言って、アールバートは袋一杯の金貨を出した。
「此方は寄付になります。オリヴィエを助けて頂いたお礼に、是非、お受け取り下さい」
*****
僕はアールバートの馬に乗った。すぐ、後ろに彼を感じて怖かった。
このまま、また何処か知らない所に連れて行かれ、今度こそ殺されてしまうかも知れない、、、。
緊張して馬に乗ると、気分まで悪くなって来た。
彼に頼る事は出来ない。身体が前のめりになって行く。
「オリヴィエ、、、どうした?」
彼が腰に腕を回して来た。
「だ、大丈夫です。気分が少し、、、」
「身体を起こして、私に寄り掛かると良い」
そう言って、片腕で僕の上半身を優しく包むと、身体を起こして彼に寄り掛からせる。
彼は片手で手綱を操り、片手で僕を支えた。
昔から僕に優しかったアールバート、、、。
僕はあの雨の日の前に、戻りたかった、、、。
*****
馬が止まった。
僕は閉じていた目を開く。
アールバートの屋敷だった。
*****
彼は僕の手を引いて、自室を目指す。
婚約時代、何度か訪れた事がある。
でも、今は、、、。
僕は部屋の前で躊躇した。
この中に妹がいたら、、、。
彼女は今、彼の婚約者だ。部屋に入るのは可笑しく無いだろう。
「オリヴィエ?」
呼ばれて彼の顔を見た。不安そうな顔。
どうしてそんな顔をするんだ、、、。
彼は扉を開き、一緒に来ていた騎士に
「済まない。侍女に紅茶を頼んでくれ」
と言った。
「オリヴィエ」
もう一度名前を呼ばれ、仕方無く部屋に入る。彼は僕の背中をそっと押し、扉を閉めると椅子に座らせた。
「君をずっと探していた、、、。迎えに行くのが遅くなって申し訳なかった、、、」
僕はどう反応したら良いんだろう。
「半年前の嵐の後、、、リマから君が「アールバートが病に侵され高熱を出している、命の危険があるかも知れない」と言って、急に飛び出して行った。そしてその後、行方が分からなくなったと聞かされた。増水した川の中から君の屋敷の馬車が見つかったが、御者も君も見当たらない。きっと下流に流されてしまったんだと言われた、、、」
リマ、僕の妹。彼女はアールバートが好きだった。僕さえいなければ、アールバートは彼女と婚約するはずだったと、信じて疑わなかった。
僕は彼を愛していたし、彼に愛されていると思っていたけど、彼は本当はリマを愛していたのかも知れない、、、。
扉をノックする音が響く。
彼は立ち上がり、扉を開けると紅茶を受け取った。
出来るだけ僕を人目に触れさせたく無いのか、侍女を部屋の中に入れなかった。
テーブルに紅茶のセットを置くと、彼はサイドボードからブランデーを取り出し、紅茶に注いだ。
「君がいなくなったと聞いて、呆然とした。君の家から婚約者をリマに変えたいと言われた時は、少しでも君と繋がっていたいから、了承したんだ。、、、しかし、私は君を諦め切れなかった、、、。川の中の馬車を見に行き、周辺に君達の痕跡が無いか探し回った。君の容姿を伝え、嵐の後に見かけ無かったか聞いて回った。君らしい人物の話を聞けば、迷わず確認に行った、、、。そして、漸く君を見つけた、、、」
「リマとは?」
「君の妹だ、、、」
それは知っています、、、。
「そして、私の婚約者」
僕にどうしろと言うんだろう。貴方は妹と婚約してしまった。
「君は本当に、私の事を忘れてしまったのかい?君自身の事は?家族の事も?全て思い出せないのか、断片的なのか、、、。私の事を思い出すのは難しい事だろうか、、、」
彼はブランデー入りの紅茶を飲んだ。
「あの、、、僕はこれからどうなるんですか?」
リマのいる、あの屋敷には行きたく無い。でも、此処にいる事も出来ない。何故、僕を連れて来たんだろう、、、。
アールバートがブランデーをストレートで飲み出した。そんなに強く無いのに、、、。
「悪酔いしてしまいますよ」
アールバートがピクリと反応した。
「私が深酒をしそうになると、君はいつもそう言って止めてくれた、、、」
しまった、、、。
「本当に記憶が無いの?」
「、、、あります、、、。意識の無かった三日間を除いて、全てあると思います」
「何があったか、話してくれないか?」
「、、、僕にも、ブランデーを下さい」
彼は僕の紅茶に砂糖とブランデーを入れた。
*****
「あの嵐の日。貴方の屋敷から使いの者が来たそうです。リマが応対をし、僕に「アールバート様が高熱を出している。命に危険があるかも知れない」と、不安そうに伝えました。僕は心配でいても立ってもいられず、すぐに此方に向かいました。屋敷の前に馬車が用意してあった為、それに乗ったのです。、、、今、思えば、あの馬車には家紋も無ければ、御者も知らない顔でした。でも、僕は一刻を争っていたので、気にしなかったのです」
改めて、自分が馬鹿だと思った。そのあとも、淡々と事実を話した。
「貴方が妹と婚約を交わした事は、新聞で知りました、、、」
「、、、リマが、新聞社に話したんだ、、、」
「リマは貴方が好きでしたから、婚約出来て嬉しかったんでしょう、、、。それとも、大々的に発表してしまえば、例え僕が戻って来ても、貴方と結婚出来ると考えたのかも知れません」
「、、、リマが?」
「、、、彼女は僕が嫌いでしたから、、、」
「とてもその様には見えなかった。君が居なくなってから、一番心配したのは彼女だ。多くの涙も流していた」
僕はふふっと笑った。
「貴方がリマと婚約した事が分かった時、僕を森に置き去りにしたのは、リマじゃないかと思いました。それから貴方も、、、」
「私?」
「二人が愛し合っているなら、僕が邪魔だったでしょう?」
「、、、オリヴィエ、、、」
「今だって本当は生きていた僕を見つけて、亡き者にしたいんじゃないですか?」
アールバートは、悲しそうな顔をしていた。
「この紅茶にも毒が入っているかも知れませんね」
僕は紅茶を一気に飲んだ。
「オリヴィエッ!」
、、、しまった、、、ブランデー、、、。
*****
気持ち良い、、、。
ぼー、、、ッとする頭で考える。
湯船だ、、、久しぶりのお風呂、、、。誰かが身体を洗ってくれたんだ、、、。気持ち良い、、、。
侍女に手を引かれ、湯船から出ると身体を拭いて身支度をしてくれた。僕はなすがままで
「此方へ」
と言われると、彼女の後を着いて行った。
「ゆっくりお休み下さい」
アールバートの部屋のベッド。彼はいない。
僕はそっと入り込む。
彼の匂いだ、、、。
涙が出た。
もう、あの頃に戻れない、、、。彼が婚約してしまったから。僕があんな事を言ったから、、、。
彼のベッドで、彼の布団に包まる。
大好きなアールバート、、、。
「僕を置いて行かないで、、、。アールバート、大好きなんだ、、、」
そう呟いて眠りについた。
**********
私が部屋に戻ると、オリヴィエは私の布団の中で
「アールバート、大好きなんだ」
と言った、、、。彼に疑われて、私は落ち込んだ。もう、彼に信用される事は難しいかも知れない、、、そう考えながら、湯船に浸かっていた。
彼の独り言を聞けて良かった。きっと彼の本心だ。しかし、私を疑っているのも、本当の事だろう。
私は、彼を森に置き去りにした犯人を、必ず見つけると誓った。
まず、オリヴィエを森に置き去りにした御者を探さなければ、、、。それから、教会の神父に当日の話を確認したい。
私はそっと、オリヴィエの横に入る。オリヴィエはブランデーで酔ったから、すやすやと眠っている。
オリヴィエ、、、私はもう、ブランデー位じゃ酔わないよ。君が居なくなって、どれだけ酒を煽ったか、、、。
彼を胸に抱いて眠る。
「ん、、、」
と小さな声を出し、私にしがみ付いて来た。
可愛いオリヴィエ、、、貴族の証の髪を切ってしまったんだね、、、。頸を撫でると、彼は私に身体を押し当て、少し声を出した。
**********
朝、ゆっくりと目が覚めた。こんな遅くまで寝てしまうなんて、、、。
部屋には一人だった。
夜着を整え、ベッドから降りる。僕の着替えは何処だろう、、、。ザッと見回しても見つからない。
この姿で廊下に出るのは嫌だけど、、、。
僕はそっと扉を開けた。
「 ! 」
扉の外に騎士が一人立っていた。
「何かご入用ですか?」
「、、、あの、僕の服はどこでしょう、、、」
「申し訳ありません。少々汚れておりましたので、侍女が洗濯をしています」
「あ、、、」
、、、無いんだ。
「朝食をお持ちしますか?」
「お願いします」
僕が返事をすると、扉で見えない位置にもう一人いたらしく、その騎士が僕の食事を取りに行ってくれた。
「他にも、何か御座いますか?」
と聞かれて、何も無い僕は
「大丈夫です、、、」
と言って、扉を閉めた。
これって、閉じ込められてない?
*****
アールバートの屋敷の食事は美味しい、、、。こんな状況なのに、料理を堪能してしまうなんて、、、。
でも、あれからアールバートとゆっくり話しが出来ない。彼は僕が目覚める前に部屋を出て、僕が眠りに着いてから戻る。
たまに、夜中に目が覚めて、彼が隣りで眠っているとやっぱり嬉しくて、ほんの少し側に寄って、ほんの少し彼に触れて眠る。
*****
珍しくアールバートが早く帰って来た。
僕は、緊張して言葉が出て来ない。
彼は、ベッドの上で読書をしていた僕に近付くと
「嵐の日に、君を乗せた御者を見つけた、、、」
と言った。
「え?見つかったんですか?!」
僕の横に腰掛け、ゆっくり話す。
「彼は報酬金を貰っていた。多分そうだろうと、あの時期以降、急に金遣いの荒くなった人物を探したんだ。彼は毎晩飲み歩き、自慢話の様に「嵐の夜に貴族を乗せたら、大金持ちになった」と話した。余り細かい事は口止めされていたんだろうが、少し仲良くなって、上手く話しを引き出したら「女に依頼された。森の奥で男を一人置き去りにしろ、場所は指定する。最後にお前は馬車から降りて、馬だけ走らせれば良い」、、、そう言ったそうだ」
「、、、あの日、、、僕は、雨が止んで、、、。馬を馬車から外し歩きました。暫くすると断崖絶壁で、、、前の晩、走り続けていれば、僕も馬車も落下して命は無かったと思います」
思い出して、怖くなった、、、。
「多分、リマは馬車が見つからなかったから、もう一台用意したんだろう。馬車が見つからなければ、君の事故を証明出来ない。あの川は、雨で増水していたから、馬と君が流されたと言えばみんなが信じたんだ。君が使用した馬車も馬も、教会にまだある。君と神父、それから御者の発言でリマを有罪に出来るだろう」
「裁判ですか?」
「、、、嫌なのか?」
「、、、」
「君は殺されそうになったんだぞ?」
「でも、、、」
「でも?」
「でも、裁判なんてしたら、リマは有罪になってしまうでしょ?」
「多分な」
「、、、」
「オリヴィエ、、、私は君と結婚したい。だから、裁判をして、リマとの婚約を白紙にしたいんだ」
「、、、そんな事しなくても、僕が見つかったんだから、、、」
「リマが側にいたら、君はまた狙われてしまうんじゃ無いか?」
「また?」
「私は、もう二度と君を失いたく無いんだ、、、。あんな思いは、もう嫌だ」
アールバート様が涙を滲ませる。
僕はアールバートを抱き締めた。
「ごめんなさい、、、。心配掛けてごめんなさい」
「本当だ、、、その上、私の事まで疑って、、、」
彼も抱き締めてくれた。
「私には君しかいないのに、、、」
*****
彼は私を連れて、父上の元を訪ねた。
リマが学園に行っている間に。彼女が屋敷を出たのを確認してから、屋敷に入った。
「お時間を取って頂いて、有難う御座います。彼が、貴方に合わせたい人物です」
人払いはしてあった。母上にもまだ話していない。
僕は被っていたフードを取った。
「オリヴィエ!無事だったのか?!」
父上は、驚きを隠せなかった。
「あの、濁流の中、、、良くぞ無事で、、、」
涙を滲ませていた。僕まで瞳が潤んで来る。
アールバートは一つ一つ、順を追って話して行った。父上は静かに、口を挟む事無く聞いた。
途中で眉間に皺を寄せる事も有ったが、言葉は発しなかった。
話しを全て聞き
「リマが、、、あの子が君と婚約すると言い出した時、気付けば良かった、、、。新聞に婚約の記事が載った時は、どこから情報が漏れたのか不思議だった、、、。まさか、リマが、、、」
父上は青い顔をしていた。
「どう詫びたら良いか、、、。オリヴィエは、どうしたい?」
「彼と、、、結婚出来れば何も、、、」
「ふむ、、、。それは、大丈夫だ。お前が無事だったのだから、問題は無い」
「リマを遠くにやって下さい」
アールバートが真剣な声で言った。
「彼女は、オリヴィエを殺そうとした、、、。次が無いとは限りません」
「、、、そうだな、、、。無罪放免とはいかないだろう、、、。出来るだけ遠くに嫁がせる。それで良いか?」
父上は、僕とアールバートを見て言った。
「有難う御座います」
アールバートが頭を下げると
「私の方こそ、娘を罪人にしないで済んだ事、本当に感謝する」
それから父上は、母上と二人で話す為に席を外した。
僕達は暫く応接間に残り、疲れた様に紅茶を飲んだ。
夕方、リマが学園から帰ると、表に有ったアールバートの馬車に気付いたのか、真っ先に応接間を訪れた。
「アールバート様っ!」
ノックもせずに扉を開けた。とても淑女とは思えない行為。
「誰?」
僕の後ろ姿に、一瞬怯む。
「やぁ、リマ。オリヴィエが見つかったんだ」
アールバートが優しく言う。僕は彼女に背中を向けていたから、指先が震えるのをそっと隠した。
「お兄様なの?」
「オリヴィエ、、、」
僕は深呼吸をして立ち上がり、後ろを振り向いた。
「ただいま」
「嘘よっ!」
リマは大きな声で叫んだ。
「お兄様は死んだのっ!死んだのよっ!」
リマが僕を睨んだ。
彼女の声が聞こえたのか、父上と母上が応接間に入って来た。
「リマ、、、」
彼等は入り口で、僕達のやり取りを静観する。
「そんなに大きな声を出したら、オリヴィエがびっくりするよ。彼は記憶を無くして、帰って来る事が出来なかったんだ」
「アールバート様、、、」
「君も、彼の亡き骸が見つからなくて、心配していただろう、、、?」
リマの表情が変わった。
「何処かで生きていて欲しいと、願っていたんじゃ無いかい?」
「え?、、、えぇ、、、」
アールバートは僕の横に立つ。
「私はずっと探していたんだ、、、。漸く見つける事が出来た」
僕の肩を抱き寄せる。
「では、、、私達の婚約は?」
「済まない、リマ、、、。彼が戻って来た以上、白紙に戻すべきだと思う」
「嫌っ!嫌です!私はずっと、貴方の事が好きだった!やっとやっと婚約出来たのに!アールバート様だって、私が好きだから、婚約して下さったのでしょう?お兄様より私の方が貴方の婚約者に相応しいわ!お願いです、私を捨てないで!」
「リマ、、、。オリヴィエが居なくなって、私は少しでも彼との繋がりを残しておきたかった。だから君と婚約をしたんだ。家同士の繋がりも保ちたかった、、、。済まない。オリヴィエが見つかった以上、私は彼を選ぶよ」
「で、でも!新聞に載ってしまいました!貴方と結婚出来なければ、私の立場は?」
「大丈夫だ、、、不幸な事故だったんだ。また、新聞で発表すれば良いだろう。、、、君なら、どうやって連絡すれば良いのか、知っているんだろう?そうだ、君の知り合いの記者を紹介してくれないか?」
僕の肩を抱く彼の手に、怒りを抑える様に力が込められる。
「リマッ!」
母上が声を上げた。
「貴女と結婚したいと言う方がいらっしゃるの、、、。とても優しい方よ、、、。姿絵があるから、彼方のお部屋で一緒に見ましょう、、、」
母上はリマに手を差し伸べ、彼女をこの部屋から連れ出した。
父上は、アールバートに深くお辞儀をして、彼女達を追った。
**********
私達は、オリヴィエの屋敷を後にした。
オリヴィエをあの屋敷には帰せない。
リマがいる間は、私の屋敷に住んで貰う。
「オリヴィエ?、、、淋しいかい?」
「、、、そうですね、少し、、、」
夕食後、寝室で今日の疲れを取りたくて、枕元の酒を開けた。
入浴を済ませた彼の濡れた髪、、、襟足の短い髪から雫が流れ落ちる。
ベッドに腰掛けて、彼は本を読み、私は酒を注ぐ。
「ちゃんと乾かさないと、、、」
彼の短くなった髪が、、、凄く唆る。
酒を渡しながら、頸を見る。綺麗な頸だった、、、。
オリヴィエは本を閉じ、枕元にそっと置く。両手でグラスを受け取り、コクリと一口飲んだ。
彼の上下に動く喉元、、、。
漸く彼が戻って来たと実感した。
「そんなに見ないで下さい、、、」
恥ずかしそうに、グラスの酒を一口飲む。綺麗だと思った。入浴で温まった身体の所為か、唇が赤い薔薇の花弁の様だ。
私は彼のグラスを取り、彼の唇を求めた。
驚いた彼は後ろに下がり、枕に身体を預けた。
グラスの酒を口に含む。
そのまま、ゆっくりと顔を傾け近付くと、彼は私の唇に視線を落とす。
小さく開いた唇にキスをした。手を添えて、口の中の酒を流し込む、、、。
彼は眉間を寄せて、それを受け取った。
もう一度、、、。
彼は肩で息をしながら、私を待つ。
私は、酒を口に含むと彼に口付ける。
私から受け取った酒をコクコクと飲みながら、オリヴィエは私を抱き締めた。
辛い酒がオリヴィエとの口付けで甘くなる。この世の何よりも甘いと感じた、、、。
もう絶対に離さない。私達が離れるのは、死が二人を分つ時だ、、、。




