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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
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死んだ僕の帰る先

掲載日:2026/07/06

***BL*** 森の奥に置き去りにされた僕。 ハッピーエンド

 僕は死んだらしい。


 美しい妹に、いつも疎んじられていた僕


 「いらない子供は、森へ連れて行け」



 僕はとうとう、森に置き去りにされてしまった。



*****



 こんな嵐の日に出掛けるなんて、馬鹿だ。

 明日になれば雨も止むだろうに、、、。

 それでも、僕は彼が危篤と聞いて、向かわずにはいられなかった。


 大好きなあの人が、高熱でうなされている。

 隣国から、嫌な流行病の話も聞いた。

 まさかと思いながらも、後悔したくなかった。

 準備された馬車に乗り、取るものも取らず、身一つで彼の元に行く。



 急いで!急いで!


 馬車は止まる気配が無かった。

 おかしいと感じたのは、随分時間が経ってからだった。

「いくら雨だからって、こんなに時間が掛かるだろうか、、、」

 雨の音が酷い。御者は大丈夫だろうか。やはり、明日まで待つべきだった、、、。

 僕は、御者の後ろの位置にある、小窓を開けた。



 いない、、。?



 嘘でしょう?こんな土砂降りの雨の中、彼はどこに行ったんだ、、、。

 そう言えば、今日の御者は誰だった?あまりに慌てていたから、ちゃんと確認しなかった。

 いや。顔は見た。知らない男だった。

 馬車はずっと走り続けていると思ったのに、激しい雨音に騙されていた。

 辺りは真っ暗で何も見えない。馬だって、こんな土砂降りの雨で立ち尽くしている。

 雨が止んだとして、ぬかるんだ道を歩くのは大変だ。

 それより彼は?早く彼の元に行かなければ!

 ああ、、、

 こんな状況でどうやって彼の元に行けば良いのか、、、。


 バケツの水をひっくり返した様な雨、、、。

 盗賊も現れないだろう。でも、雨が止んで、一人で行動したら分からない。金目の物は持っていないけど、身包み剥がされ、奴隷商人に売られてしまったら、、、。


 もうあの人には逢えないかも知れない。

 大好きな人。僕の命と引き換えに、どうか生き永らえて欲しい、、、。



 夜中に雨の音が小さくなり出した。でも、辺りは暗く恐ろしかった。

 よくやく雨が止んだのは明け方で、僕は雨が止むと、馬を馬車から外した。

 ぬかるんだ道を馬車で行くのは無理だと判断した。

 馬も、あの大雨で衰弱している。

 本当は僕自身、馬に乗りたかったけど、そんな事をしたら一歩も動けなくなるだろう、、、。

 誰にも会いたく無かった。僕は寝不足と空腹、精神的なストレスでボロボロだった、、、。

 身体に鞭を打ち、前に進むだけだ。


 と、目の前が開けたと思ったら、断崖絶壁だった。もし、あの嵐の中、前も分からず前進していたら、僕は馬車諸共崖から落ちていただろう、、、。

 ぞっとした、、、。

 そして、何故か妹の顔を思い出していた、、、。



*****



 僕は嫌がる馬を歩かせた

「ごめんね、、、」

と言いながら、手綱を引いて向きを変える。

 僕自身は雨に濡れた訳では無いけど、疲れた頭は全く働いてくれない、、、。

 朦朧としながら、兎に角前に進んだ。

 緑の中に、赤い屋根が見えた。家だ、、、。あと少し、、、頑張れ僕、、、。

 屋根の上に十字架を見つけ、僕は力尽きた。

 馬だけは、ゆっくり前に進む。



*****



 目が覚めると、一瞬夢を見ているのかと思った。

 知らない部屋。知らない景色。知らない子供達の声。


 天国に来てしまった、、、。

 そう思いながら身体を動かすと、窓の外は美しい景色だった。



 そうして、もう一度眠りについた、、、。



*****



 夜中に目が覚めた。

 枕元に誰かいる。燭台を持ち、僕の様子を見ていた様だ。

「目が覚めましたか?」

「はい、、、」

何処どこか具合の、悪い所はありますか?」

優しい声だった。

「い、、、」

喉が、、、。

「ああ、済みません。先にお水をお持ちすれば良かった」

そう言って部屋を出ると、水差しとコップを持って現れた。

 彼は僕を支え起こすと、コップに水を注ぎ、ゆっくりと僕に飲ませてくれた。

 喉が潤い、僕は言葉を発する事が出来た。

「ありがとうございます」

「身体の方は如何ですか?」

「少し、ギシギシ言う様です」

「、、、三日間、ずっと眠り続けましたからね」


 三日も、、、。


「子供達がいて賑やかですが、暫く此方こちらにいると良いですよ」

「、、、馬はっ?!」

「大丈夫、美しい馬ですね。子供達が世話をしています。それから、馬車も見つけました。裏手にありますから、安心してください」

此処ここ何処どこですか?」 

と聞くと、

「国境近くの森の中です。度々道に迷われる方がいるので」

と淋しそうに言う。

「貴方が無事で良かった、、、」


 そうか、、、此処は、所謂そう言う場所だ。


 生きて行けない人が来たり、育てられない子供、老人を連れて来る森、、、そんな場所があると聞いた事があった。


 じゃあ、僕も森に捨てられたんだろうか、、、。


 

*****



 ある日、神父様の友人が街から新聞を届けてくれた。

 森の奥の教会にとって、新聞は貴重な情報源だ。


 チラリと覗いた新聞に、僕の婚約者が妹と婚約を結び直した、と書いてあった。

 僕は動く事が出来なくなった。


 ど、どう言う事?

 幾ら何でも早過ぎる、、、。

 妹と婚約者が僕を森に置き去りにしたんだろうか、、、。

 僕は回らない頭で、一所懸命考えようとした、、、。



*****



 貴族に取って、髪は命だ。

 僕は、自分の長い髪を紐で結び、短く切った。

 それを神父様に持って行き、街で売って教会の生活費の足しにして貰った。馬と馬車も教会に寄付した。

 そして、暫く教会に置いて貰える様に頼んだ。


 僕はもう、あの場所へは帰れない。例え帰っても、僕のいる場所は無いだろう。


 彼と結婚をして、彼に僕の家を継いで貰う予定だった。でも、妹と婚約をした今、僕は不要な存在だ、、、。



*****



 教会での生活はのんびりしている。

 森に置き去りにされてから半年、僕は子供達に勉強を教え、教会の仕事を手伝う毎日を過ごしていた。


 子供達と森に入り、果物を取って帰ると、教会にいつもと違う雰囲気が流れていた。

 馬が二頭繋がれている。

 来客なんて珍しい。

 僕は子供達に、来客の様だから静かにしようと伝え、裏口から入った。

「オリヴィエ、、、お客様がいらしている」


 お客様?僕に?


 神父様の後を歩き、応接間に入ると

「オリヴィエッ!」

僕の名前を呼んだのは、元婚約者のアールバートだった。


 僕の思考はフル回転した。

 何故彼が此処にいるのか分からない。

「オリヴィエ?、、、」

不安そうな彼。何故、そんな顔をするんだろう、、、。貴方は、僕を殺して妹と結婚するんでしょう?、、、。



 僕は動けなかった。頭の中ではもの凄い勢いでアレコレ考えていたけど、その反動か防御反応か、、、分からないけれど、体はピクリとも動かない。

 唯一瞳だけが、ほんの少し揺らいでいた。


「オリヴィエ、、、私の事が分からないのかい?」


 僕は神父様を見た。

此方こちらに来た時は、既に意識がありませんでした。皆で教会に運びましたが、三日程目を覚ましませんでした、、、もしかしたら、記憶が無いのかも知れません」

彼に視線を移す。

「そんな、、、」

彼は泣いた。でも、僕にはそれが本当の涙か、偽物の涙か分からなかった。


「彼を連れて帰ります、、、」

そう言って、アールバートは袋一杯の金貨を出した。

此方こちらは寄付になります。オリヴィエを助けて頂いたお礼に、是非、お受け取り下さい」



*****



 僕はアールバートの馬に乗った。すぐ、後ろに彼を感じて怖かった。

 このまま、また何処どこか知らない所に連れて行かれ、今度こそ殺されてしまうかも知れない、、、。

 緊張して馬に乗ると、気分まで悪くなって来た。

 彼に頼る事は出来ない。身体が前のめりになって行く。

「オリヴィエ、、、どうした?」

彼が腰に腕を回して来た。

「だ、大丈夫です。気分が少し、、、」

「身体を起こして、私に寄り掛かると良い」

そう言って、片腕で僕の上半身を優しく包むと、身体を起こして彼に寄り掛からせる。

 彼は片手で手綱を操り、片手で僕を支えた。


 昔から僕に優しかったアールバート、、、。


 僕はあの雨の日の前に、戻りたかった、、、。



*****



 馬が止まった。

 僕は閉じていた目を開く。

 アールバートの屋敷だった。



*****



 彼は僕の手を引いて、自室を目指す。

 婚約時代、何度か訪れた事がある。


 でも、今は、、、。


 僕は部屋の前で躊躇した。

 この中に妹がいたら、、、。

 彼女は今、彼の婚約者だ。部屋に入るのは可笑しく無いだろう。

「オリヴィエ?」

呼ばれて彼の顔を見た。不安そうな顔。


 どうしてそんな顔をするんだ、、、。


 彼は扉を開き、一緒に来ていた騎士に

「済まない。侍女に紅茶を頼んでくれ」

と言った。

「オリヴィエ」

もう一度名前を呼ばれ、仕方無く部屋に入る。彼は僕の背中をそっと押し、扉を閉めると椅子に座らせた。


「君をずっと探していた、、、。迎えに行くのが遅くなって申し訳なかった、、、」


僕はどう反応したら良いんだろう。


「半年前の嵐の後、、、リマから君が「アールバートが病に侵され高熱を出している、命の危険があるかも知れない」と言って、急に飛び出して行った。そしてその後、行方が分からなくなったと聞かされた。増水した川の中から君の屋敷の馬車が見つかったが、御者も君も見当たらない。きっと下流に流されてしまったんだと言われた、、、」


 リマ、僕の妹。彼女はアールバートが好きだった。僕さえいなければ、アールバートは彼女と婚約するはずだったと、信じて疑わなかった。


 僕は彼を愛していたし、彼に愛されていると思っていたけど、彼は本当はリマを愛していたのかも知れない、、、。



 扉をノックする音が響く。

 彼は立ち上がり、扉を開けると紅茶を受け取った。

 出来るだけ僕を人目に触れさせたく無いのか、侍女を部屋の中に入れなかった。



 テーブルに紅茶のセットを置くと、彼はサイドボードからブランデーを取り出し、紅茶に注いだ。

「君がいなくなったと聞いて、呆然とした。君の家から婚約者をリマに変えたいと言われた時は、少しでも君と繋がっていたいから、了承したんだ。、、、しかし、私は君を諦め切れなかった、、、。川の中の馬車を見に行き、周辺に君達の痕跡が無いか探し回った。君の容姿を伝え、嵐の後に見かけ無かったか聞いて回った。君らしい人物の話を聞けば、迷わず確認に行った、、、。そして、ようやく君を見つけた、、、」

「リマとは?」

「君の妹だ、、、」  

 

 それは知っています、、、。


「そして、私の婚約者」


 僕にどうしろと言うんだろう。貴方は妹と婚約してしまった。


「君は本当に、私の事を忘れてしまったのかい?君自身の事は?家族の事も?全て思い出せないのか、断片的なのか、、、。私の事を思い出すのは難しい事だろうか、、、」


 彼はブランデー入りの紅茶を飲んだ。


「あの、、、僕はこれからどうなるんですか?」

リマのいる、あの屋敷には行きたく無い。でも、此処ここにいる事も出来ない。何故、僕を連れて来たんだろう、、、。


 アールバートがブランデーをストレートで飲み出した。そんなに強く無いのに、、、。


「悪酔いしてしまいますよ」


 アールバートがピクリと反応した。

「私が深酒をしそうになると、君はいつもそう言って止めてくれた、、、」


 しまった、、、。


「本当に記憶が無いの?」


「、、、あります、、、。意識の無かった三日間を除いて、全てあると思います」

「何があったか、話してくれないか?」

「、、、僕にも、ブランデーを下さい」



 彼は僕の紅茶に砂糖とブランデーを入れた。



*****



「あの嵐の日。貴方の屋敷から使いの者が来たそうです。リマが応対をし、僕に「アールバート様が高熱を出している。命に危険があるかも知れない」と、不安そうに伝えました。僕は心配でいても立ってもいられず、すぐに此方こちらに向かいました。屋敷の前に馬車が用意してあった為、それに乗ったのです。、、、今、思えば、あの馬車には家紋も無ければ、御者も知らない顔でした。でも、僕は一刻を争っていたので、気にしなかったのです」


 改めて、自分が馬鹿だと思った。そのあとも、淡々と事実を話した。


「貴方が妹と婚約を交わした事は、新聞で知りました、、、」

「、、、リマが、新聞社に話したんだ、、、」

「リマは貴方が好きでしたから、婚約出来て嬉しかったんでしょう、、、。それとも、大々的に発表してしまえば、例え僕が戻って来ても、貴方と結婚出来ると考えたのかも知れません」

「、、、リマが?」

「、、、彼女は僕が嫌いでしたから、、、」

「とてもその様には見えなかった。君が居なくなってから、一番心配したのは彼女だ。多くの涙も流していた」


 僕はふふっと笑った。


「貴方がリマと婚約した事が分かった時、僕を森に置き去りにしたのは、リマじゃないかと思いました。それから貴方も、、、」

「私?」

「二人が愛し合っているなら、僕が邪魔だったでしょう?」

「、、、オリヴィエ、、、」

「今だって本当は生きていた僕を見つけて、亡き者にしたいんじゃないですか?」

アールバートは、悲しそうな顔をしていた。

「この紅茶にも毒が入っているかも知れませんね」

僕は紅茶を一気に飲んだ。

「オリヴィエッ!」



、、、しまった、、、ブランデー、、、。



*****



 気持ち良い、、、。


 ぼー、、、ッとする頭で考える。

 湯船だ、、、久しぶりのお風呂、、、。誰かが身体を洗ってくれたんだ、、、。気持ち良い、、、。


 侍女に手を引かれ、湯船から出ると身体を拭いて身支度をしてくれた。僕はなすがままで

此方こちらへ」

と言われると、彼女の後を着いて行った。

「ゆっくりお休み下さい」

アールバートの部屋のベッド。彼はいない。

 僕はそっと入り込む。

 彼の匂いだ、、、。

 涙が出た。

 もう、あの頃に戻れない、、、。彼が婚約してしまったから。僕があんな事を言ったから、、、。

 彼のベッドで、彼の布団に包まる。


 大好きなアールバート、、、。

「僕を置いて行かないで、、、。アールバート、大好きなんだ、、、」

そう呟いて眠りについた。



**********



 私が部屋に戻ると、オリヴィエは私の布団の中で

「アールバート、大好きなんだ」

と言った、、、。彼に疑われて、私は落ち込んだ。もう、彼に信用される事は難しいかも知れない、、、そう考えながら、湯船に浸かっていた。

 彼の独り言を聞けて良かった。きっと彼の本心だ。しかし、私を疑っているのも、本当の事だろう。

 私は、彼を森に置き去りにした犯人を、必ず見つけると誓った。


 まず、オリヴィエを森に置き去りにした御者を探さなければ、、、。それから、教会の神父に当日の話を確認したい。


 私はそっと、オリヴィエの横に入る。オリヴィエはブランデーで酔ったから、すやすやと眠っている。

 オリヴィエ、、、私はもう、ブランデー位じゃ酔わないよ。君が居なくなって、どれだけ酒を煽ったか、、、。


 彼を胸に抱いて眠る。

「ん、、、」

と小さな声を出し、私にしがみ付いて来た。

 可愛いオリヴィエ、、、貴族の証の髪を切ってしまったんだね、、、。うなじを撫でると、彼は私に身体を押し当て、少し声を出した。



**********



 朝、ゆっくりと目が覚めた。こんな遅くまで寝てしまうなんて、、、。

 部屋には一人だった。

 夜着を整え、ベッドから降りる。僕の着替えは何処どこだろう、、、。ザッと見回しても見つからない。

 この姿で廊下に出るのは嫌だけど、、、。

 僕はそっと扉を開けた。

「 ! 」

扉の外に騎士が一人立っていた。

「何かご入用ですか?」

「、、、あの、僕の服はどこでしょう、、、」

「申し訳ありません。少々汚れておりましたので、侍女が洗濯をしています」

「あ、、、」

、、、無いんだ。

「朝食をお持ちしますか?」

「お願いします」

僕が返事をすると、扉で見えない位置にもう一人いたらしく、その騎士が僕の食事を取りに行ってくれた。

「他にも、何か御座いますか?」

と聞かれて、何も無い僕は

「大丈夫です、、、」

と言って、扉を閉めた。



 これって、閉じ込められてない?



*****


 

 アールバートの屋敷の食事は美味しい、、、。こんな状況なのに、料理を堪能してしまうなんて、、、。

 でも、あれからアールバートとゆっくり話しが出来ない。彼は僕が目覚める前に部屋を出て、僕が眠りに着いてから戻る。

 たまに、夜中に目が覚めて、彼が隣りで眠っているとやっぱり嬉しくて、ほんの少し側に寄って、ほんの少し彼に触れて眠る。



*****



 珍しくアールバートが早く帰って来た。

 僕は、緊張して言葉が出て来ない。

 彼は、ベッドの上で読書をしていた僕に近付くと

「嵐の日に、君を乗せた御者を見つけた、、、」

と言った。

「え?見つかったんですか?!」

僕の横に腰掛け、ゆっくり話す。

「彼は報酬金を貰っていた。多分そうだろうと、あの時期以降、急に金遣いの荒くなった人物を探したんだ。彼は毎晩飲み歩き、自慢話の様に「嵐の夜に貴族を乗せたら、大金持ちになった」と話した。余り細かい事は口止めされていたんだろうが、少し仲良くなって、上手く話しを引き出したら「女に依頼された。森の奥で男を一人置き去りにしろ、場所は指定する。最後にお前は馬車から降りて、馬だけ走らせれば良い」、、、そう言ったそうだ」

「、、、あの日、、、僕は、雨が止んで、、、。馬を馬車から外し歩きました。暫くすると断崖絶壁で、、、前の晩、走り続けていれば、僕も馬車も落下して命は無かったと思います」


 思い出して、怖くなった、、、。


「多分、リマは馬車が見つからなかったから、もう一台用意したんだろう。馬車が見つからなければ、君の事故を証明出来ない。あの川は、雨で増水していたから、馬と君が流されたと言えばみんなが信じたんだ。君が使用した馬車も馬も、教会にまだある。君と神父、それから御者の発言でリマを有罪に出来るだろう」

「裁判ですか?」

「、、、嫌なのか?」

「、、、」

「君は殺されそうになったんだぞ?」

「でも、、、」

「でも?」

「でも、裁判なんてしたら、リマは有罪になってしまうでしょ?」

「多分な」

「、、、」

「オリヴィエ、、、私は君と結婚したい。だから、裁判をして、リマとの婚約を白紙にしたいんだ」

「、、、そんな事しなくても、僕が見つかったんだから、、、」

「リマが側にいたら、君はまた狙われてしまうんじゃ無いか?」

「また?」

「私は、もう二度と君を失いたく無いんだ、、、。あんな思いは、もう嫌だ」

アールバート様が涙を滲ませる。


 僕はアールバートを抱き締めた。

「ごめんなさい、、、。心配掛けてごめんなさい」

「本当だ、、、その上、私の事まで疑って、、、」

彼も抱き締めてくれた。

「私には君しかいないのに、、、」



*****



 彼は私を連れて、父上の元を訪ねた。

 リマが学園に行っている間に。彼女が屋敷を出たのを確認してから、屋敷に入った。


「お時間を取って頂いて、有難う御座います。彼が、貴方に合わせたい人物です」

人払いはしてあった。母上にもまだ話していない。

 僕は被っていたフードを取った。

「オリヴィエ!無事だったのか?!」

父上は、驚きを隠せなかった。

「あの、濁流の中、、、良くぞ無事で、、、」

涙を滲ませていた。僕まで瞳が潤んで来る。


 アールバートは一つ一つ、順を追って話して行った。父上は静かに、口を挟む事無く聞いた。

 途中で眉間に皺を寄せる事も有ったが、言葉は発しなかった。

 話しを全て聞き

「リマが、、、あの子が君と婚約すると言い出した時、気付けば良かった、、、。新聞に婚約の記事が載った時は、どこから情報が漏れたのか不思議だった、、、。まさか、リマが、、、」

父上は青い顔をしていた。

「どう詫びたら良いか、、、。オリヴィエは、どうしたい?」

「彼と、、、結婚出来れば何も、、、」

「ふむ、、、。それは、大丈夫だ。お前が無事だったのだから、問題は無い」

「リマを遠くにやって下さい」

アールバートが真剣な声で言った。

「彼女は、オリヴィエを殺そうとした、、、。次が無いとは限りません」

「、、、そうだな、、、。無罪放免とはいかないだろう、、、。出来るだけ遠くに嫁がせる。それで良いか?」

父上は、僕とアールバートを見て言った。

「有難う御座います」

アールバートが頭を下げると

「私の方こそ、娘を罪人にしないで済んだ事、本当に感謝する」



 それから父上は、母上と二人で話す為に席を外した。

 僕達は暫く応接間に残り、疲れた様に紅茶を飲んだ。



 夕方、リマが学園から帰ると、表に有ったアールバートの馬車に気付いたのか、真っ先に応接間を訪れた。

「アールバート様っ!」

ノックもせずに扉を開けた。とても淑女とは思えない行為。

 

「誰?」

僕の後ろ姿に、一瞬怯む。

「やぁ、リマ。オリヴィエが見つかったんだ」

アールバートが優しく言う。僕は彼女に背中を向けていたから、指先が震えるのをそっと隠した。

「お兄様なの?」

「オリヴィエ、、、」

僕は深呼吸をして立ち上がり、後ろを振り向いた。

「ただいま」

「嘘よっ!」

リマは大きな声で叫んだ。

「お兄様は死んだのっ!死んだのよっ!」

リマが僕を睨んだ。

 彼女の声が聞こえたのか、父上と母上が応接間に入って来た。

「リマ、、、」

彼等は入り口で、僕達のやり取りを静観する。

「そんなに大きな声を出したら、オリヴィエがびっくりするよ。彼は記憶を無くして、帰って来る事が出来なかったんだ」

「アールバート様、、、」

「君も、彼の亡き骸が見つからなくて、心配していただろう、、、?」

リマの表情が変わった。

何処どこかで生きていて欲しいと、願っていたんじゃ無いかい?」

「え?、、、えぇ、、、」

アールバートは僕の横に立つ。

「私はずっと探していたんだ、、、。ようやく見つける事が出来た」

僕の肩を抱き寄せる。

「では、、、わたくし達の婚約は?」

「済まない、リマ、、、。彼が戻って来た以上、白紙に戻すべきだと思う」

「嫌っ!嫌です!わたくしはずっと、貴方の事が好きだった!やっとやっと婚約出来たのに!アールバート様だって、わたくしが好きだから、婚約して下さったのでしょう?お兄様よりわたくしの方が貴方の婚約者に相応しいわ!お願いです、わたくしを捨てないで!」

「リマ、、、。オリヴィエが居なくなって、私は少しでも彼との繋がりを残しておきたかった。だから君と婚約をしたんだ。家同士の繋がりも保ちたかった、、、。済まない。オリヴィエが見つかった以上、私は彼を選ぶよ」

「で、でも!新聞に載ってしまいました!貴方と結婚出来なければ、わたくしの立場は?」

「大丈夫だ、、、不幸な事故だったんだ。また、新聞で発表すれば良いだろう。、、、君なら、どうやって連絡すれば良いのか、知っているんだろう?そうだ、君の知り合いの記者を紹介してくれないか?」

僕の肩を抱く彼の手に、怒りを抑える様に力が込められる。


「リマッ!」


母上が声を上げた。

「貴女と結婚したいと言うかたがいらっしゃるの、、、。とても優しいかたよ、、、。姿絵があるから、彼方あちらのお部屋で一緒に見ましょう、、、」

母上はリマに手を差し伸べ、彼女をこの部屋から連れ出した。


 父上は、アールバートに深くお辞儀をして、彼女達を追った。



**********



 私達は、オリヴィエの屋敷を後にした。

 オリヴィエをあの屋敷には帰せない。

 リマがいる間は、私の屋敷に住んで貰う。



「オリヴィエ?、、、淋しいかい?」

「、、、そうですね、少し、、、」

夕食後、寝室で今日の疲れを取りたくて、枕元の酒を開けた。

 入浴を済ませた彼の濡れた髪、、、襟足の短い髪から雫が流れ落ちる。

 ベッドに腰掛けて、彼は本を読み、私は酒を注ぐ。

「ちゃんと乾かさないと、、、」

彼の短くなった髪が、、、凄くそそる。

 酒を渡しながら、うなじを見る。綺麗なうなじだった、、、。

 オリヴィエは本を閉じ、枕元にそっと置く。両手でグラスを受け取り、コクリと一口飲んだ。

 彼の上下に動く喉元、、、。


 ようやく彼が戻って来たと実感した。


「そんなに見ないで下さい、、、」

恥ずかしそうに、グラスの酒を一口飲む。綺麗だと思った。入浴で温まった身体の所為か、唇が赤い薔薇の花弁はなびらの様だ。

 私は彼のグラスを取り、彼の唇を求めた。

 驚いた彼は後ろに下がり、枕に身体を預けた。

 グラスの酒を口に含む。

 そのまま、ゆっくりと顔を傾け近付くと、彼は私の唇に視線を落とす。

 小さく開いた唇にキスをした。手を添えて、口の中の酒を流し込む、、、。

 彼は眉間を寄せて、それを受け取った。


 もう一度、、、。


 彼は肩で息をしながら、私を待つ。

 私は、酒を口に含むと彼に口付ける。

 私から受け取った酒をコクコクと飲みながら、オリヴィエは私を抱き締めた。

 辛い酒がオリヴィエとの口付けで甘くなる。この世の何よりも甘いと感じた、、、。



 もう絶対に離さない。私達が離れるのは、死が二人を分つ時だ、、、。






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