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新しい仲間の予定

 九級昇格の祝いだの何だのの前に俺たちは街の診療所に来ていた。理由はもちろんミュゼの治療だ。【奇跡の水薬(ポーション)】なら一瞬で治るらしいが、残念なことに今の俺たちに手が出せる価格では無かった。

 それはもちろん、大半を占める裕福でない人もそうで、ボロボロの末端診療所にも多くの人が詰めかけていた。



「あたた! もっと優しく縫って! これじゃ治療のほうが痛いじゃない!」

「麻酔を打つか? その分、代金は上がるが……」

「始める前に言って!」



 不健康なほどゲッソリとした医者は正直、怖い。痩せぎすな体で身長は見上げるほどあるし、目だけは突き出してギョロリとしている。まぁ、その異相でなくとも、俺たちを歓迎してないのは見てとれる。



「冒険者、冒険者。自分から好き好んで危険に突っ込んだ挙げ句に、ここへ来る。来なければ善良な人々の治療が進むというのに」



 善良な人がこの建物に来るかな? とも思うが、薄汚れた人々は日々の生活の中で傷付いている。そこの違いがこの医者は気に入らないのだろう。医者なりの信念か、と納得しつつあったが治療費に銀貨を取られたことで考え直した。



「僕の力不足がミューを傷付けた……」

「あまり悩むなよ、アラン。これからは俺たちも傷を負うだろうし、その度に誰かがへこんでいたらきりが無い。ミュゼは不幸中の幸いというか……投石を受けて切り傷だけというのもすごい話だ。お前からこれでも渡してやると良いぞ」



 俺は貝殻を取り出してアランに渡す。傷跡を残さないための軟膏だ。いまいちよく分からないが、女性は顔の怪我を気にするものだと聞いて、ここの薬師から買っておいた。やっぱり銀貨を取られたのでここは冒険者に特別優しくないと思う。



「イサオ、君ってやつは……」

「いや俺から渡すと、またこじれるからなぁ」



 ツンケンされる俺がおかしいのか、親しくできるアランが凄いのかは謎である。

 しかし、怪我一つでこうまで銀貨を取られると割と本気で生活の危機だ。さっさと級を上げたいところだが、腕前の方も連動しなけりゃ同じことだ。

 俺が結構強い方だと言っても、二箇所に存在できるわけでもない。怪我を減らす、あるいは癒やす何かが必要か。



「回復魔法って無いのか? もしくは冒険者やってる医者とか」

「回復魔法? 神官たちの奇跡……治癒魔術とも言うけど。冒険者をやっていることは極端に少ないから、基本的に取り合いだね。ほら、教会に住んでれば居場所が分かって治療を頼みやすいけど、旅をするとどこにいるか分からないだろう? 治す人数的に皆前者になっちゃうんだ。上位パーティだと当たり前にいたりするけど……医者の冒険者は分からないよ」



 腕一本失えば終わりの稼業で随分と世知辛い。まぁだからこそ三級以上が別格扱いなのだろうが……低ランクに入ってくれる奇特な冒険者でもいないものかと思っているとミュゼの治療が終わった。



「まったく……こんなところで治療されてたら、顔に傷が残るわね……」

「ミュー。これを傷に……」

「俺は先に組合に行ってるよ。九級にしてもらわなきゃならんし……ゴブリンの耳なんていつまでも持っていたくはないからな」



 こういう時は邪魔してはいけない。俺はアランとミュゼを置き去りに用事を済ますことにする。

 組合に顔を出すと相変わらずハーヴェ老がカップを磨いていた。いや、それしか見たこと無い。



「おお、イサオ。戻ったか、後の二人は死んだか?」

「生きてますよ。ちょっと傷を負ったから、後から来ます。これが証拠です」



 ベチャッとゴブリンの耳が入った袋が置かれると組合長は嫌な顔をした。それでも仕事なので中身を見る。



「五匹か。新人にしては上出来だな。いや、お前がいて傷を負ったってのはむしろ駄目な方か。生憎だがゴブリンの遺体は何にも使えないから、報酬にはならんが……九級の認定をしよう。カードの十級のところの数字にそこの羽ペンで十をなぞってみろ」



 言われたとおりにすると溝を補充するように数字が埋まった。そして組合長が代わって九の字を入れていく。やっぱりこの羽ペンは魔法の道具のようだ。



「この数字を上手く書けるやつを組合長にしている気がするな……ほれ。これでようやく魔物退治なんかの依頼が主になる。あ、それとお前を訪ねて来た変なやつがいたぞ。教会で待ってるとさ」

「教会? 俺に一番縁遠い場所なんですけど……」

「そんなこと知るか。教会自体はこの地区にあるから、行くか行かんかはお前の問題だ」



 シッシッと追い払われる。仕方なく外に出るが、教会に行くかどうかを悩んだのは一瞬だった。考えられるのは面倒事だろう。タムル山に住んでいた俺は洗礼も祝福も受けていない。しかし俺にそんな知名度は無いはずだが……とにかく行ってみることにする。


 教会は独特な建物で、鐘楼の塔が突き出ているのですぐ分かった。というか冒険者組合の四軒ほど隣だ。その大きくて妙に軽い扉を押し開く。

 そこで俺は……【黄金】を見た。


 金属製の軽鎧一式を装備し、金色のメイスと小盾を腰に下げている。しかし、専用に作られたであろう防具は曲線を描き、女性であることを訴えかけてくる。一番の特徴はクルクル巻にされたツヤのある金色の髪だった。



「イサオ様ですわね? わたくしはフラーボスの弟子であるマルグリットですわ!」

「……誰の何?」

「……イサオ様なんですよね」

「そうだけど。アンタの師匠とアンタのどっちも知らん」



 なるほど。こいつは変なやつだ。

 そして同時にこう思う。多分、【師匠】絡みだろうなぁ。ともあれ、信じさせて用件だけ聞こう。



「俺の【師匠】は偏屈で名前すら教えてもらってない。その過去もな。だから俺が俺であると証明する物は特に無いんだけど……共通の話題……ああ、ネスタルさんには世話になった」

「ネスタル様に!? ではやはりあなたがイサオ様ですわね……」

「そんな驚くところか? あの人結構ふらっとやって来てたし、俺の読み書きはネスタルさんに教わったぞ」

「う……羨ましい。ですが、わたくしはともかくお師様まで知らないとは……教会の枢機卿ですわよ?」

「山育ちに一般常識を期待してくれるな。ただでさえ街に降りてきてから、知らないだらけなんだから」



 おかげで毎日、刺激的ではあるけれども。恥ずかしいことは恥ずかしいのだ。



「それで、用件は? 俺は【師匠】から特に引き継いだことは無いぞ」

「いいえ、引き継いでいます。そう! 新しき英雄という道を!」

「英雄ぅ?」

「そう、お師様たちが築き上げた伝説の数々……しかし、それももはや過去のものとなった今! 弟子であるわたくしたちが、その重責を担い立ち上がるのです!」



 意味があるのか、天を指差す黄金の女に俺はとりあえず拍手を送った。というか【師匠】って英雄だったのか……大分人格面に問題のある英雄だな! 大体、その伝説がなぜ隠遁生活しているのかが謎だ。【師匠】もネスタルさんも、せいぜい全盛期を少し過ぎた程度だろうに。



「で、引き継いだ先で何しろってんだ。俺は生活のためにとりあえず冒険者になったけれども」

「あら。それで合ってますわ」

「んん?」

「お師様たちは伝説の冒険者。その代わりをわたくしたちが務めるのです。ほら、わたくしも」



 マルグリットはカードを見せてくる。確かに冒険者登録している。あ、地味に八級だ。つまり、コイツが俺に会いに来た用件とは。



「チームを組めと?」

「そうですわ。ネスタル様のお弟子も旅立たれたとのこと。わたくしとパーティを組んで、伝説の再来となるのです!」

「いや、俺はもうパーティ組んでるんだけど」



 なんですってぇぇぇぇ! という叫びが教会にこだました。今まで会わなかったタイプで新鮮だなコイツ。

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