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第1話

「アルト。お前はパーティーから抜けてくれ」


 優雅に極上のサーロインを堪能していた俺に、非情な宣告が下された。

 声をかけたのは、聖騎士ハイネス。その背後には、魔術師マリアと弓使いユキエが冷ややかな視線を投げている。


「い、いきなりなんだよ。パーティーから抜けてくれってどういうことだ?」


 頭が真っ白になった。昨日まであんなに笑い合っていたのに、あまりに唐突すぎる。


「……正気か? ハイネス」

「これは三人で出した結論だ。足手まといのお前に割くリソースは、俺らにはない」


 耳を疑った。俺たちは苦楽を共にした、かけがえのない仲間じゃなかったのか?

 特にマリア。あの慈愛に満ちた微笑みは嘘だったのか。すがるように視線を送っても、彼女は頑なに俺を見ようとしない。

 重苦しい沈黙の後、マリアが徐に口を開いた。


「ごめんね、アルト。でも……あなただって、理由は分かっているでしょ?」


 そう言われても心当たりがなかった。俺は俺なりに、命を懸けてこのパーティーを支えてきたつもりだった。


「アルト、自覚はあるはずよ。……例えば あのオーク戦の時もそう。私たちが命を懸けて戦っている間、あなたは茂みに隠れて震えていただけ……。挙句の果てに、今日だって一人で卑しく飲み食いして。もう我慢の限界だわ」

「違う、違うんだ! マリアはなにか勘違いしてる! オークのときは、裏でどうしても」

「言い訳しないで! 結局何もやってなくてこうなってるんだから、口答えしないでよ!」

「最後まで話を聞いてくれよ。あのときは……」


 弁明しようとしたが、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。

 こんなことマリアの前で言えるはずがなかった。だってあのときは物陰で……。


「やっぱり何も言えないじゃない。これ以上はあなたに優しくすることは出来ないわ。早くここから出ていって」


 激しい衝撃が全身を貫く。

 信じていた。彼女だけは俺の味方だと。だが、彼女が向けたのは救いの手ではなく、奈落への突き落としだった。悲しみが一周回って、腹の底からドロドロとした熱い感情がせり上がってくる。


「本当なら食ったものも返してもらいたいぐらいだ」


 ハイネスが吐き捨てた嘲笑。マリアのゴミを見るような蔑みの視線。

 その瞬間、俺の中で何かが「決壊」した。

 お前らは何もわかっていない。俺がどんな思いで過ごしてきたのか。


「……そうか。それがお前たちの答えなんだな」

「そうだ。さっさと出ていけ。お前の席はもうない」

「わかった。出ていくよ。……だが、最後に一つだけ忠告だ。追い出して後悔する羽目になるのはお前らだからな。後で謝ってももう遅いからな」

「は? 何を言って――」


 俺は席を立ち、王宮の中庭へと歩を進めた。西日に照らされた美しい天然芝。王侯貴族が愛でるその庭園のど真ん中で、俺は迷うことなくベルトを解いた。


「おい、アルト!? 何を……ッ!?」


 ハイネスの制止など耳に入らない。俺はズボンと下着を膝まで下ろし、純白の月のような尻を衆目に晒した。夏の蒸し暑い空気が、解放された肌を撫でる。コンディションは最高だ。


「食らえ。これが俺の――フルコースだ!!」


 ブッ、ブリュリュリュリュリュリュァァァァッ!!!!


 静寂を切り裂く轟音。それは、一流の吟遊詩人が奏でる重低音よりも力強く、大地を震わせた。

 俺の体内から解き放たれた「黄金の復讐」が、手入れの行き届いた芝生の上にピラミッドを形成していく。


「あ、あああ……っ!?」


 マリアが絶叫し、その場にへたり込む。

 無理もない。俺が今朝から摂取した特上ステーキ、高級ワイン、そして昨晩の激辛ホルモンが、究極の化学反応を起こしてこの世のものとは思えない悪臭を放っているのだ。


「ふ、ふざけるな! 衛兵! 衛兵を呼べ!!」

「無駄だハイネス。この『絶対領域』には誰も近づけない」


 夏の直射日光が、俺の産物から立ち上る湯気をさらに加速させる。

 泣き叫ぶ客、気絶するユキエ、そして泡を吹いて倒れる貴族たち。

 地獄絵図と化したパーティー会場で、俺はスッキリとした表情で言い放った。


「マリア。お前が言った通り、俺は何も隠し事はしないことにした。これがあの日、俺が茂みでやっていたことの全容だ」

「……そんな、嘘でしょ……。私たちは、こんな……こんなもののために……」


 顔を覆い、マリアは泣き出してしまう。


「もう、やめて……。私たちが悪かったから……。謝るから……。」

「マリア、俺は忠告したよな? 後で謝っても遅いと。それにお前らが食ったものも返してもらいたいって言うから返してやってんだぞ。逆に感謝しろよ」


 絶望に染まる元仲間たちを背に、俺は優雅に尻を拭う。

 もはや未練などない。この広大な大地こそが、今の俺にふさわしい戦場だ。

 立ち去る俺の背中に、沈みゆく夕日が神々しい後光を添える。会場にいた誰もが、鼻を抑えながらも、その堂々たる後ろ姿に目を奪われていた。

 そして、誰かが呟いた。


「勇者だ……」


 後に、歴史書は語る。

 彼が通った後には、なぜか草木が異常なほど青々と茂り、豊かな大地が広がったという――。


 これが『勇者アルト』と呼ばれる人間の誕生秘話である。

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