シーケンスの洗礼
翌日の朝。俺達は廊下に張り出された紙を見ていた。それは昨日の新入生のクラス決めの結果だ。S〜Eまでのクラスの教室の場所と、そのクラスに該当する生徒の名前が書いてある。紙によると、かんづめがAランクで、俺と柳がBランクらしい。華々しく飾られたSランクの枠には、誰の名前も書いていなかった。新入生でSランクに該当する生徒は居なかったのだろう。
「げ、2人とクラス分かれちゃったよ」
「まぁ問題ないだろ。放課後は自由に行動できそうだしな」
「そういうことじゃ無いんだけど……ところで、今日は何するの?」
「名簿確認しながら現状整理。時間が余ったら調査でもしようか。放課後に昨日の教室に集まろう」
「了解!」
軽く今後の予定を立てて、俺達はそれぞれの教室に向かった。
自分の教室に着き、扉を開けたとき、衝撃の光景が目に飛び込んできた。教室の中心で在校生の男子生徒5人が新入生を取り囲み、暴行を加えている。新入生は棘つきの鎖で宙吊りにされていた。鎖は血で染まっている。鎖は、5人のうち1人の掌から伸びていた。
恐らく、シーケンス学校の洗礼を受けているといったところだろう。他の生徒もいたが、誰も助けようとはしない。これが日常とでも言うように普通に談笑している。
5人がかりで1人か。結局、こういう奴らは群れないと何もできない。集団のがんだ。
俺はバッグのなかに手を入れ、鋼鉄と鉛に触れる。そのまま能力を発動。バッグの中で金属が組み合わさる音が鳴り、拳銃が出来上がっていく。
5人組のリーダーと思われる男に拳銃を向け、銃弾を放つ。銃弾が肩にめり込み、男が肩を押さえる。
他の4人が俺を睨み、臨戦態勢になる。
「5人に喧嘩売るなんて、命知らずな新人だな」
「俺はあいつらのおもちゃが増えるに1000円」
周りは勝てるわけがないと、鼻で笑っていた。
鎖の男が、空いている手をこちらに向ける。同時に、3人が椅子を蹴飛ばしながら突っ込んできた。
素早く鎖の男の掌を打ち抜く。
鎖がボロボロと崩れ去り、新入生が床に叩きつけられる。
そのとき、3人はすでに眼前まで迫っていた。
身体をひねって3人を躱す。そしてすぐさまリーダーに駆け寄り、そいつの頭に拳銃を突きつける。
「近づくな!こいつがどうなってもいいのか?」
3人が固まる。周りがお〜。と関心の声を漏らした。
「そうだ。手を頭の後ろに回せ」
3人が言う通りにする。だが直後、俺の身体が重くなった。
━━1人が能力を使ったのか!
俺は地面に跪かされた。
もう1人が能力を使い床を隆起させる。
俺は震える手でデバフ男に照準を合わせ、引き金を引く。弾は足を貫いた。少し身体が軽くなる。
隆起する床を転がって避ける。後ろの椅子が飛び上がる。
俺は体勢を立て直そうとした。しかし最後の男が腕を剣に変え、斬りつけてくる。咄嗟に銃で防ぐが、グリップが壊された。
剣の男を蹴り飛ばす。
そいつの体を地面の男にぶつける。
武器を壊された。代用できるものは……
先程飛ばされた椅子が目に入る。俺は椅子に触れ、能力を発動する。直後に剣の男が起き上がった。
時間がない。大きく変形させる余裕はない。
俺は椅子の足を尖らせる。
男の方を見ると、居合の構えして、こちらを睨んでいた。
まずい!!
咄嗟に回避行動を取る。
その刹那、男が消えた。
反応する間もなく、男の剣が脇腹を深く斬り裂く。
あの野郎……こんな切り札を隠していたのか……
油汗が吹き出す。足元には、血溜まりができていた。
男が構えをとる。次の一撃で決着がつくことは、この場にいる全員が分かっていた。
俺は数歩後ずさり、目を閉じる。
数秒後、血溜まりを蹴る音が聞こえた。
即座に音の方向に椅子を突き出した。
━━ドスッ…
鈍い音と共に、拍手が巻き起こる。
目を開けると、案の定、男が串刺しになっていた。
勝利を実感した瞬間、急にめまいがして、その場に座り込んだ。
「決着、ついたみたいだな」
後ろから声がした。
振り向くと、氷室が立っていた。
氷室は在校生のリーダーに近づき、こう言い放った。
「お前たちがこんな勝手できたのは、それなりの実力があったからだ。1人の生徒に負けた時点で、お前らはここで終わりだ。さっさと失せな」
氷室はそのまま、5人を教室の外へ引きずり出した。
そこで、俺の意識は途切れた。
気がつくと、俺は白いベッドに横たわっていた。どうやら、ここは学校の医療棟らしい。壁に掛けてある時計は、3時を示している。俺は放課後まで眠っていたようだ。
「あっ!起きたんだ!もう痛みはない?」
かんづめの陽気な声が聞こえる。
「あぁ。もう何ともない。すごいな。普通だったら治るのに1ヶ月はかかりそうだが……」
「医療棟の先生が、もう動いていいって言ってたよ!ここの医療はめっちゃ進んでるね!」
「そんなあっさり片付けて良いのか……?」
「治ったんだし、それはあとで考えれば良いでしょ」
「そうだな。それじゃあ、昨日の教室に行こうか」
「オッケー!」
俺達は医療棟を後にした。
「そう言えば、Aクラスの生徒ってどれぐらいいるんだ?」
「えっと……俺入れて9人ぐらいかな。でもみんな話しかけても反応薄いし、ずっと空気ピリついてるんだよね」
「優等生クラスだから仕方ない。馴れ合う気はないってことだろうな」
「そっちは何人くらいいたの?」
「15人だな。いや、5人いなくなったから10人だ」
「え!?なんかあったの?」
「まぁ少しいざこざがな……」
「あ〜だからそんな怪我してたんだね」
そんな話をしていると、昨日の教室の前に着いた。
扉を開けると、そこには趣味全開の部屋があり、そこら中にフィギュアやら、ゲーミングPCやらがところ狭しとならんでいる。かんづめはその部屋を見るなり、漫画棚の方へ走っていった。
部屋を間違ったのか?いや、部屋の隅で海斗がゲームをしている。彼がここを改造したのか。何のために?俺は海斗に近づき、ヘッドホンをひったくる。
「なんだこの部屋は?ここで作戦会議をするんじゃなかったのか?」
俺は海斗に詰め寄った。
海斗は気だるげに答える。しかし、相変わらず声は無機質だ。
「これはカモフラージュです。特定の4人が理由もなくここに出入りしていたら、怪しまれて学校にマークされるでしょう?だから、私達はここを趣味部屋として利用している。という理由をつけておくのです。ていうか、驚いたとしてもゲームが終わるまで待っててくださいよ」
「……それは悪かった。ところで、名簿で気になる点があった。それを共有したい」
「何ですか?」
俺は名簿を取り出し、最初のページを開く。
「この最初の犠牲者、柳桔梗という生徒とよく似ている。何かしら関係があるんじゃないか?もしかしたら同一人物とか……」
「それはないと思います。理由は、実力差がありすぎるからです。この生徒は1番最初の犠牲者で、ランクはEです。対して、柳桔梗さんのランクはB。たった1年半ほどでここまで成長するとは思えません。他に何かありますか?」
「あぁ。それだけだ」
「私達も話したいことがあるのですが、瞬が来ないことには進まないので、どうぞくつろいでください」
「分かった」
海斗の憶測を頭で繰り返す。確かに、姉妹と考えれば辻褄が合う。しかし、俺にはどうも引っかかることがあった。




