Sランク
その後、俺はかんづめと一緒に食堂で飯を食っていた。柳も誘ったが、用事があると断られてしまった。
食堂は広く、ざっと50人は収容できそうだ。片側の壁に注文する場所があり、ほかのスペースには、テーブルと椅子がぎっしり並んでいる。生徒たちは、皆お気に入りの料理を口に運んでいた。
そう言えば、かんづめはどれくらいのバッジを手に入れたのだろうか。試験中はかんづめを見なかったしな……
「二郎はバッジをいくつ手に入れたんだ?」
かんづめは反応を示さない。
「おい!二郎!聞いてるのか!?」
「あ、二郎って俺か。忘れてたわ。ごめん。バッジは5つぐらい集めたよ。硬質化してタックルしたら、みんなすぐ降参してくれたよ」
「絶対骨折れてるだろそれ…食らった人たちは大丈夫なのか?」
「あ、たしかにその人たち教室に居なかったかも」
俺は開いた口が塞がらなかった。
俺達が食事を済ませ、食堂を出ようと席を立つと、突然、周りが騒がしくなった。皆、食堂の入り口を見ながらヒソヒソ話している。
耳をすませて会話を拾うと、
「Sクラスの方がなぜこんなところに……」
「誰かが気に食わぬことでもしたんじゃないか……」
などと聞こえてきた。
どうやらSクラスの生徒がわざわざこの食堂に来たらしい。少し接触してみたい気もするが、わざわざ用があってここに来ているのだろう。その用事を邪魔してまで接触する必要はない。
そう思い、食堂の外に出ようとしたところ…
「すみません。そこの2人、少し時間よろしいですか?」
と声をかけられた。
振り返ると、そこには柔らかな笑みを浮かべた男子生徒が立っていた。前髪が眼鏡にかかるように垂れている。だが、何より目を引いたのは、胸ポケットに付いているSの形をしたバッチ。こいつがSランクだ。
さっきまで賑わっていた食堂が、しんと静まり返った。まさか、Sランクの用事が俺達だったとはな。
俺は眼鏡の男に言う。
「Sクラスの方が、俺達に何の用ですか?」
「ここで話すのもなんですので、場所を変えましょう。ついてきてください」
そう言って、眼鏡の男は歩き出した。
かんづめが小声で相談してくる。
「これどうする?行く?」
「断ったら何されるか分からない。ここは従おう」
かんづめは小さく頷いた。
眼鏡の男は、しっかりとした足取りで廊下を進んでいく。道中、生徒たちが彼に気付くやいなや道を空け、次々と頭を下げる。
かんづめは
「なんか王様の近衛兵になったみたいだよ」
と言って、複雑な表情をしていた。
その声が彼に聞こえていたようで、
「そんなに偉くないですよ。それに、たとえ頭を下げるのが遅れたからといって、殴ったりなんてしませんよ」
と、苦笑していた。
数分ほど歩いて、俺達は校舎の端の教室に着いた。
「ここです」
眼鏡の男が扉を開ける。そこには4つの机が向かい合うように並べてあった。少しホコリが舞っている。
「チッ…相方は遅刻ですか…まぁいいです。二人とも、どうぞ座ってください」
「ご親切にどうも」
俺達は椅子に座る。
眼鏡の男は向かいの席に座る。
彼が椅子に腰を落とすと同時に、彼の笑みが消えた。
空気が重くなる。さっきまで柔らかな笑顔をしていたとは思えない、別人のようだ。
「すみません。まだ相方が来てないようなので、先に自己紹介をしましょう。私の名前は海斗といいます。よろしくお願いします」
海斗は、カンペを読むような無機質な声で話す。
「俺は太郎で、こいつは二郎。よろしく」
「二郎です!よろしくね!」
沈黙が場を包み、気まずい雰囲気が流れる。そんな空気に耐えきれず、かんづめが話を振る。
「なんか、この学校って、変な感じしません?」
「……そうですね。重々しい空気があります」
「白い塀のせいか?」
「……それもあるかもしれません。私は1年間ここにいるのですが、あの塀は今も慣れません」
それを聞いて、かんづめが慌てて口調を硬くする。
「先輩じゃないですか!これは失礼しました!」
「……ここは年齢関係ない場所です」
「いえ!俺がそうしたいので大丈夫です!」
いつの間にか、かんづめと海斗の会話にすり替わってた。こいつこんなにコミュ力高かったのかよ……確かにすぐ誰とでも仲良くなりそうではあるよな。俺はかんづめを少し見直した。




