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死神


ある夜、ビルの屋上。

街はネオンに照らされ、下では人々が騒がしく生きている。

その喧騒の上で、俺――玲哉は、無音の世界にいた。黒い服を身に纏い、影に身を潜める。


俺は望遠鏡を覗いて、ターゲットを確認する。

ターゲットは異能犯罪組織の幹部。

今回の依頼はそいつを“処理”する事だ。

後ろから足音が聞こえた。

振り返ると俺と同じ格好をした少女が立っている。短い髪に黄色い鈴が似合っている。

彼女は沙織。俺のバディーだ。

沙織は淡い栗色の短い髪を揺らしながら俺に話しかけてくる。

「今回のターゲットは目を合わせると動けなくする能力を持っているそうだよ。どうするの?」

「今回はターゲットの視界の外から狙撃する。事前にスケジュールは確認済みだ。これからあいつは1人になる」

「流石、死神と呼ばれているだけはあるね」

「その呼び名は嫌いなんだ。俺は人間だ」

そう。俺は死神と呼ばれている。どんなに強いターゲットでも、絶対に仕留めるからだ。しかし、死神と呼ばれる由縁はそれだけではない。俺とバディーを組んだ奴は、ほとんどが1週間も経たないうちに任務で死ぬのだ。俺のせいで人が死ぬたび、背中に見えない何かがのしかかってくる。

俺は銃を構え、引き金を引く。

 乾いた音が響き、ターゲットは崩れ落ちる。あいつがもう動くことはない。

俺は照準を外し、銃をしまう。


「ナイスショット!」

沙織が笑顔で言う。

こいつは、俺と組んでも1週間以上生き続けている。唯一のバディーだ。こいつと組んでからもう3カ月が経つ。

「ここ数年は、血なまぐさい仕事が多くなってきて敵わん」

「異能という存在が公になったからねぇ。仕方ないよ」

 異能は、人に超常的な力を与えるものらしい。政府は混乱を防ぐため異能の存在をひた隠しにしていたが、ほとんどの人間が異能を発現させたせいで、もう隠すことはできなくなった。

「政府は異能犯罪に対抗するために自治組織《DTA》を設立したんだ。そいつらに任せておけば良いだろう」

「DTAの人たちはただの公務員だよ。流石に強い異能を持ってる人たちには勝てないよ。そのために私たちがいるんじゃない。DTAの人たちが強くなれば私達もそんな仕事をする必要はなくなるよ」

うちの組織━━クラフトラインは、DTAでは持て余す組織などを対処している。幼い頃、身寄りのなかった俺はクラフトラインに拾われ、組織の一員として働いている。

「……そうだな。取り敢えず、上司に報告するぞ」

俺は上司に連絡する。

「こちら玲哉、俺達はターゲットを排除した。これより帰投する」

「分かった。回収班を回す。ケガはないか?バディーは?」

「問題ない」

「気をつけろよ。もうお前と組みたいって奴は沙織しかいないんだからな」

「分かっている。俺もあいつを失くすつもりはない」

「そーですよ!私はそんなに弱くありません!」

「それならいいんだか……とにかく気をつけて帰れよ」


 ――俺達はビルの屋上を後にした。


裏路地に降りる。人通りはほとんどなく、室外機の音が響いている。その音に混じって、足音が聞こえた。

俺は沙織に耳打ちする。

「敵だ。俺がこいつを惹きつける。お前は後から来て、能力で眠らせろ」

「わかった」

警戒しながら進むと、黒い仮面の男が通りを塞ぐ。黒いマントを身に着け、真っ黒なナイフを持っている。目を離したらすぐ見失ってしまいそうだ。

 「ターゲットの部下だな?悪いがそこをどいてもらおう」

俺は銃を構え、能力を発動する。金属から弾を生み出し、連射する。しかし、弾は敵の身体を通り抜ける。

なんだ?


これは影……?すると本体がいるはずだ。

本体は何処だ!?

影が本体へは行かせまいと、間合いを詰める。

俺は能力で落ちていた鉄屑で盾を作り、ナイフを防ぐ。しかし、ナイフが黒いせいで刃先捉えにくく、防ぎきれずに俺の頬を掠めた。


ここでは分が悪い。場所を変えた方が得策だ。 

俺は影から距離を保ちつつ、明るい場所に移動する。影は追って来たが、俺が明るい場所に着くと、ピタリと止まり、そこに足を踏み入れようとしなかった。

なるほど。こいつは光に当たると不都合なことが起こると見た。

俺は能力で閃光手榴弾を作り、影めがけて投げた。

程なくして閃光が迸り、影は跡形もなく消えた。

ふぅ…危なかった。影の弱点に気づけなかったら負けていたな。急に場所を変えたから沙織を置いてきてしまった。無事だと良いのだが……

━━キャー!

路地の奥から、沙織の悲鳴が聞こえた。

畜生!奴は分断させるのが目的だったのか!

急いで来た道を戻る。

いくつかの角を曲がった先で、沙織を見つけた。

しかし、彼女はかわり果てた姿だった。腹にナイフが突き刺さり、傷口から血がとめどなく溢れていた。

「あ…あぁ……」

俺は膝から崩れ落ちる。

また……?失った?結局……俺は死神なのか?

今度こそ大丈夫だと思ったのに……

沙織が口を開く。

「私、だぶんもう長くない。最後にこれだけ言わせて……」

俺は沙織の手を取り、叫ぶ。

彼女の手は氷のように冷たかった。

「いい!言うな!傷口が開く!」

「玲哉は死神なんかじゃない…玲哉は少しぶきっちょだけど、強くて、頼もしくて……優しい人。私はそんな君に惹かれたんだよ…ゴホッ」

沙織は血を吐く。

「君は人を救って……救って救って救い続けて。そしたら、君のことを死神っていう人なんていなくなるよ……ごめんね」

そう言って彼女は事切れた。

悲しむ間もなく、敵が俺を見つけた。

敵は俺に向かってナイフを投げる。

ナイフが腹をかすめ、血が滲み、体が痺れる。

痛みで身体が冷静になった。今は考えていても仕方ない。生き残らねば……しかし、身体が動かない。どうやらナイフに毒が塗ってあったようだ。


敵がゆっくり近づく。死へのタイムリミットが迫る。

死ぬ…?俺はバディーも守れず、敵も倒せず死ぬのか…?

敵がナイフを振りかざす。 


その刹那。


 ――ガンッ。

 鈍い音と共に、目の前の敵が突然吹き飛んだ。


 「おっとぉ〜!危なかったな!」

少し遅れて陽気な声が響く。


振り返ると、そこには、謎の青年が立っていた……

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