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第ニ話:オーディション、魂はどこにある

 鍛冶場の帰り、その足で王城の訓練棟を借りることになった。

 まだ骨組みだけの固定ステージ《万雷》は工事中。だから、今日は簡易の練習室で“うつわ”のテストとメンバー候補の選抜をやる。


「募集は『やる気と度胸』のみ。器は貸与、経験不問」とレイが通達を出したら、面白半分の人材までわんさか集まってしまった。

 雷導結晶は節電モード、壁には共鳴抑制の木。床は足音がきちんと返るよう軽く張ってある。


「では、オーディションを開始します」

 レイが指揮棒をコツ、と床に当てる。

「評価は三点。刻み(歩幅を揃える力)、底(支え続ける持久と安定)、叫び(方向を示す熱)。最後に志望動機を確認します」


 私は「よし…」と小さく息を整えた。昨日は大好きなライブ、今日は大嫌いな人前。でも、バンドは一人じゃできない。


一人目:器用なチャラ男

「よっ、ルカちゃん。君、可愛いよね!……食べちゃいたいな」

「ひいぃいい!」

 反射的にレイの拳骨が落ちる。

「減点です」


 彼は悪びれもせず、貸与した“刻み”の器を受け取ると、すぐに等間隔の打点を刻み始めた。

 ズンズンと規則的な歩幅が部屋に満ち、私の胸骨の奥も無理なく合わせられる。…うまい。

 “底”の器に持ち替えれば、足裏に支えができ、どこにも無理がない。

 “叫び”を鳴らしても、外さない。初めて触ったはずなのに、間違えない。


「面談。志望動機は?」

「ルカちゃんが可愛いから。近くで見たい。できれば毎日」

「……」


 レイが私の耳元で囁く。「候補としては有力。実戦投入が早い」

「いやーーー! 生理的に無理です!」私は食い気味に叫んだ。「それに魂がないんです! こいつ、楽譜の音を弾いてるだけ! 内側からぐわーってものが、ない!」

 チャラ男は肩をすくめる。「じゃ、また連絡ちょうだい」

「しません」

 退室する背中に、レイが「減点で不合格」と短く告げた。


二人目:スケルトンの少女


 骨がぎしと鳴る音とともに、フードの影からスケルトンが入ってきた。

 緊張で指骨がカタカタしているのがわかる。

「し、志望動機は?」

「ルカさんにあこがれたから……。わ、私も鳴らしてみたい。自信はないけど、ステージに立ちたい」


 貸与の“叫び”を抱えると、彼女はそっと空振りでフォームを確かめた。

 弦に触れた瞬間――コトン。

 指骨が外れた。

「きゃっ……!」

 慌てて拾って戻す。もう一度、そっと。

 ギギ。粉がこぼれる。

 “刻み”に持ち替えて叩こうとすれば、今度は膝の関節がぷらんと外れ、慌てて押し込む。

 部屋の空気が、気まずい静けさで揺れた。


「……評価。」レイの声は静かだった。「今は見込みは薄い。種族的制約が大きい」

 スケルトンは小さくうなずく。「わ、わかってます。…でも、私、ルカさんの音が……好きで」

 胸腔の奥の、空洞が震えたみたいに、私の喉が詰まる。

「……ありがとう。また来て」

 彼女は目がないはずなのに、笑ったように見えて、ぎこちないお辞儀をして去っていった。


三人目:オタク風ゴブリン


 分厚いノートを抱えたゴブリンが入ってきた。眼鏡、メモ、メモ。

「自分ならもっと上手くできると思いまして!」

 “刻み”を叩けば、論理的にテンポを割り、アクセントを配置する。

 “底”は要点を押さえ、必要なところだけ持ち上げる。

 “叫び”は、初めて聞いた音楽のはずなのに、メタルの理屈を瞬時に組み立てて、正解に近い答えを出してくる。


「志望動機は?」

「昨夜のライブに感銘を受けました。メタルの神髄とはうんぬんかんぬん――(早口)」

 私は途中で手を上げて止めてしまった。

「メタルは理屈じゃねーんだよ! さっさと失せろ、くそやろー!!」

「ひっ」

 後ろで魔王が小さく肩をすくめる。「ルカちゃん……怖い」

 ゴブリンは俯き、「す、すみません……」と退室した。

 実力は、ある。けど――違う。


四人目:おっとりサキュバス


 ゆるやかな微笑みのサキュバスが入ってきた。

「志望動機は?」

「男にも女にもモテたいから。ルカちゃんのライブ聴いて、これはモテるって確信したの」

「……正直でよろしい」


 “底”を抱える。無音。

 “刻み”を叩く。ずれる。

 “叫び”を鳴らす。鳴らない。

「あら、あらら? 意外と難しいのね、あれ?」

「次の方どうぞー」レイが次の候補に声をかける。

「ちょ、ちょっと待って! あと少しでコツが掴めそうなの! お願い!」

 彼女はなかなか離れない。とうとう近衛が「あーれぇー」と持ち上げる形で外へ。

 それでも彼女はナンパを忘れない。「あ、でもいい男ね♡ このあと飲みにいかない?」

 私はその腰のラインを、穴が開くほど見送ってしまい――


「えっろいな。……あのおねぇさん……」

 鼻血が垂れる。

 魔王が慌ててハンカチを差し出す。「ルカちゃん、鼻、鼻ー!」


 そのあとも何人か挑戦したが、決め手に欠けた。

 夕方。練習室は音の残り香だけを漂わせ、三人で会議になった。


「やはり、一人目(チャラ男)と三人目ゴブリンが良いのでは?」レイが冷静に言う。「少しの練習で即戦力です」

「だめぇ!」私は机に額をぶつけた。「あんな形だけの音なんかメタルじゃない! もっと情熱的で、内側からこう…ぐわーって感じがないとだめなの!」

「ルカちゃん、落ち着いてー」魔王がクッキーの缶を開ける。「はい、魔王特製クッキーだよー」

「……ふぅ。おいしい……」


 魔王はにこにこしながら言った。

「ルカちゃんは、小手先の技術なんかより、同じ志をもつ仲間が欲しいんだよね? 大丈夫だよ! ルカちゃんの音楽はすごいんだから、気長に待とう。成果なんて出なくていいからね、やりたいことゆっくりやってね」

「……でも、私にはメタルしかないから……お世話になってるし」

「ふふ。ルカちゃんはいい子だねー。ルカちゃんを呼んだのはこっちの都合だし、全然気にしなくていいんだよー。ねー、レイちゃん?」

「たまにはまともなことをおっしゃるんですね、陛下」レイは微笑んだ。「陛下の言う通りです。あなたを召喚したのはこちら側の都合。だから、気負わずに、あなたのやりたいことをやってください」


 胸の奥が、少し温かくなる。

「……実は、気になる子たちがいたの」

「本当かいルカちゃん!? やったね! レイちゃん! 今すぐお呼びして」

「もう夜ですよ」レイが苦笑する。「明日、改めてお呼びしましょう。……ふふ、ルカ。よかったですね」

「……はい!」

 魔王たちのやさしさに触れて、思わず涙が滲んだ。


「ところで、ルカちゃんの候補ってだれ? だれ? おじさん気になるー!」

「……じ、実は――」


 頭に浮かぶのは、ぎこちなく笑った骨の娘。そして、引きずられていくおっとりサキュバスの腰。

 それから、昨日の遠い刻みに**拳を握った“誰か”**の横顔。

 即戦力じゃないかもしれない。今すぐは鳴らせないかもしれない。

 でも――あの一拍に、ぐわーって燃えるものを見た。


「明日、連れてきてもいい?」

「もちろん」レイが頷く。

「歓迎会もしよう!」魔王が目を輝かせる。「クッキー焼くね!」

「……まずは練習です、陛下」

「はーい」


 扉の向こう、夜の王都に音はない。

 だけど、次の一拍のために、胸の奥で小さなカウントが鳴り続けていた。

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