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どうでもいいけど好きだよ!

作者: 埴輪庭


ドジャース、巨人、岡本和真、国民民主党、ちいかわ、ンポチャム、BL。


私の「好きなもの」リストには共通点がある。


全て彼女が好きなものだ。


正直に言って、私はこれらに興味がない。


人は普通、内なる衝動から何かを好きになる。


心の琴線に触れ、魂が震え、「これだ」と感じる瞬間がある。


だが私の場合、順序が逆だった。


彼女がそれらについて熱く語るから、私も「好き」ということにした。


ただそれだけの、極めて打算的な選択だった。


自分というものがないのか。


そんなので好きと言えるのか。


そういう疑問は、実のところどうでもいい。


人間関係を円滑にする潤滑油として、「どうでもいいものを好きということにしておく」という戦略は驚くほど効果的だ。


嫌いなものを好きになろうとする苦行より、無関心なものに仮の愛着を持つほうが遥かに楽。


エネルギー消費はほぼゼロに等しい。


もちろん最低限の下調べはする。


岡本和真の打率、ちいかわの最新話、国民民主党の政策。


典型的なニワカの所業だ。


だが奇妙なことが起きる。


知識が蓄積されると、自然と愛着が芽生えてくる。


そうなれば会話も弾む。


共通の話題は最強の接着剤だ。


人は自分の好きを否定されると傷つき、肯定されると喜ぶものだから。


ここで重要なのは「焦点をずらす」という技術だ。


コンテンツそのものを愛そうとするのではない。


彼女がそれを愛している、その事実に焦点を当てる。


野球そのものではなく、野球を語る彼女の表情。


ちいかわの物語ではなく、ちいかわを見て笑う彼女の声。


対象への直接的な愛情ではなく、間接的な、いわば反射光のような愛情。


これは遥かに生成しやすく、何より楽しい。


なぜなら私はコンテンツより彼女のほうが好きだから。


この「焦点をずらす」技術は創作にも応用できる。


いきなりのマウントで申し訳ないが、先日私は異世界恋愛短編で総合日間三位を獲得した。


異世界恋愛なんてテンプレ適当に書けばある程度伸びるじゃねーか、という向きもないではない。


が、それでも三位はなかなか難しいと思う。


しかしこのジャンル……公爵令嬢と王太子がイチャコラする定番の世界に私は全く興味がない。


だが楽しんで書けた。


なぜか。


私は異世界恋愛を書いていなかったからだ。


かっこいいおっさんを書いていたからだ。


見た目は冴えないが実はハードボイルド、そんなおっさんキャラクターが私の好物だ。


だから舞台を異世界に設定しただけで、本質的にはおっさんを輝かせる物語を紡いでいた。


読者は異世界恋愛を読んでいるつもりだが、私はおっさん賛歌を書いている。


この認識のズレが、むしろ作品に独特の味わいを与えたのかもしれない。


経験上、楽しんで書けばある程度結果はついてくる。


個人的には、“狙いすぎた”作品はあんまり伸びなかった。


焦点をずらすことは妥協でも欺瞞でもないと思う。


直視できないものを斜めから、あるいは反射を通して見る。


太陽を直接見ることはできないが、水面に映る太陽なら見つめられるのだ。


興味がないものを“興味があるということにする、焦点をずらして興味を発生させる”というのは、人間関係や創作だけではなく、色んなシーンで利益をもたらしてくれるとおもう。


(了)



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― 新着の感想 ―
最近、彼女さんのイメージぼやけて来ていたのですが、コレを読んで更に解像度が低下しました。  ソレはソレとして、創作論として、また処世術として中々に為になるのでわー? と思わされますた。
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