炎の神1
「あんた方、気をつけていくんだぜ。こっからは治安が悪いって有名だからさ」
わたしたちが国境を超え、炎の神がいると噂されている街に訪れたときだった。馭者に急に話しかけられた。
「治安が悪いって......?」
「ああ、人間界の治安が悪いわけじゃなくてな。魔神がいるせいで、魔物の治安が悪いんだ」
魔物の治安が悪いって......魔物同士が喧嘩しあうってことかな?
基本的に魔神や、魔物はお互いに仲間として認め合い、協力することが多い。
そのため、魔物討伐に行くと、何体もの魔物が協力して、束になって襲いかかってくる。
しかし、魔物が喧嘩しあうという前例はないが___いや、ある。
前例が、たった一体だけ存在する。魔王だ。
魔王だけは、魔物と協力しようとせず、一体で戦い抜く。
「なんで、魔物は喧嘩しあうんですか?」
わたしが聞くと、馭者は苦い表情を浮かべる。
「魔神に気に入られようと、魔物の中で内部戦争が起きるみたいだぜ。まったく、迷惑なやつらだなぁ」
「内部、戦争......」
それは人間界でもある。王族や貴族に気に入られようと、媚を売り出す人間たちが一定数存在する。
ルリアとルリカは一応、下級ではあるが、貴族の出ではあるため、そんな媚を売るようなことはなかったが。
ちなみに、アリアは上級貴族、マリトは下級貴族、エリナは庶民の出である。
「ま、ということだから、気をつけていくんだぜ。死んじまったら元も子もねぇしな。俺は、この街にいるから、また馬車が必要だったら声をかけてくれよ」
気さくな馭者はわたしたちに軽く手を振ると、去っていった。
■■■
___どうやら治安が悪いというのは本当らしい。
「......荒れてるなぁ」
いつも魔物を見ても、なにも言わないマリトが思わず、声を上げてしまうほどには。
「荒れてんねぇ」
「荒れてるわね」
「荒れてるね」
四人で同じことを言って、ため息。でも、みんなが口を揃えて、言ってしまうほどには荒れている。
目の前で今、なにが行われているか。___答え、魔物の内部戦争。
わたしたちがいるというのに、魔物は戦い続けている。本来、魔物というものは人間を見つけたら、何も考えずにまっすぐ襲いかかってくるはずだが。
どうやら、魔物たちはすぐ近くにいるわたしたちの存在に気づかないほど、戦いにのめりこんでいるらしい。
「いや〜これは、あの馭者さんも忠告してくれるわけだわ。内部戦争に巻き込まれて怪我などした人も、少なくないんじゃないかしら?」
「そうだね。とりあえず、被害を最小限にとどめるためにも、できる限り倒そっか」
わたしの言葉とともに、みんな走り出す。
わたしとアリアは弱い魔物を片っ端から切っていき、エリナは剣でフェイントをかけ、魔物をおびき寄せる。そして、そこをマリトが切る。
完璧な連携プレイ。これはルリアから教わり、培ってきたものだった。
『ルリカたちは個々の力はすごいんだから、協力してみたらもっと強くなれると思うけどなぁ』
『そう?わたし、すごくなんてないよ。だって、アリアよりも接近戦はうまくないし、エリナとマリトよりも遠距離戦は得意じゃないよ』
ルリアの言葉にわたしはそう答えた。自分がかわいそうだというアピールをしたいとか、そんなことないと慰めてほしいとかでは決してない。
本当にアリアやエリナ、マリトよりも力は劣っていると思っていたし、自分が才能がないことぐらい、嫌と言うほどわかっていた。
『ルリカ。おいで』
手招きされ、腕の中に飛び込めば、ルリアはわたしの髪を弄びながら、優しい声で告げた。
『ルリカは劣っているんじゃない。まだ、自分の”戦い方”を見つけられてないだけ。だから、そういうこと言っちゃだめだよ、約束。それとね』
『?』
大好きな香りに包まれながら、わたしは頷いた。
『これから協力する方法、覚えていこうか』
『協力?よくわかんないけど......覚えてみる!』
あのころは、なにも考えずに話していたが、連携プレイは本当に大切で大事なことだと気づいたのは、ルリアが死んでからだなんて。とんだ皮肉だ。
「___!」
まだまだ、ルリアから学ぶべきことはたくさんあったのに。連携プレイを含め、ルリアはたくさんのことを教えてくれた。だけど、すべてを学んだわけではない。
もっともっと、強くなるために、学ばなければならないのに。
「___カ!」
どうしたら、あのときの後悔から、抜け出せるのだろう。いや、抜け出すなんて、そんなことをしてはいけないほど、罪は重いのだ。
わたしは、この罪とともに、ルリアの意思を継いでいかなければならないのだ。それは、義務ではない。わたしがやりたいからやる。だからこそ___
「ルリカ!避けろっ!!」
アリアの叫び声とともに、わたしの身体は横に吹っ飛んだ。
何が起きたのか、まったくわからない。完全に意識を思考に持ってかれていた。
「ルリカ!頑張って、もう少しよ!」
「ぼーっとしてたら、やられちゃうよ」
エリナとマリトが元気づけてくれる。
「ご、ごめんっ!つい、ボーッとしちゃってた!」
どうやら、魔物から助けてくれたのは、アリアらしい。すぐに、助太刀に入る。
「ご、ごめんね。わたしがぼーっとしてたから。助けられちゃって」
「大丈夫だ。それよりも、顔色が悪いが、体調はどうだ?」
「本当に、全然大丈夫。少し、いろいろ考えちゃっただけ。まだまだ、やれるから」
アリアは少し考えるような表情になってから、
「そうか」
と一言だけいった。
わたしは、そのとき気づかなかった。
アリアが痛みに顔をしかめていたことに___。




