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魔神



 旅立ちの日が近づいているある日。


 

 今は市井で、これからの計画を立てるため、四人で歩いている。



 「魔王領(まおうりょう)に入るのはまだ早いよね......?」



 「そうだな。魔王領に最初から入っていくのは自殺行為とまったく一緒だ」



 「じゃあ、どこに行けばいいのかしら」



 「......魔物をある程度倒すのは?」



 みんなの考えでは、最初から魔法領に入っていくのは危ない、ということだった。



 「ねぇ、そういえば、お兄ちゃんの話を思い出したんだけど......」



 確か、ルリアも最初から魔王領に入らなかったはずである。



 「この世界には四体の”魔神”がいるとされているって。その魔神を倒すことが第一歩だって。そう言っていた気がする」



 「魔神、か......。確かに昔の文献にも魔神の存在は描かれている」



 アリアは覚えがあったのか、頷いているが、エリナは聞いたこともないのか、首をかしげている。



 「炎の神、稲妻の神、水の神、地の神」



 何かに取り憑かれたかのようにマリトが急に話し出す。



 驚いている間もなく、マリトは言葉を続けた。



 「四体が一つになるとき、新たな魔王を作り出す。四体が死ぬとき、魔王の力は弱まる」



 「えっ......?新たな魔王?」



 エリナがたまらずと言った感じで声を上げる。



 アリアも鋭い顔を崩さずに、目を細めた。



 新たな魔王......?魔王の力は弱まる......?



 聞き捨てならないのは、また、魔王が生まれるということ。魔王は特別変異だと思っていたけど......。



 「魔王は、特別変異で生まれるわけではないのか?」



 「そうね。そうやってわたしも聞いているわ」



 アリアもエリナも不思議に思ったのか、マリトに聞く。



 「いや、違う。特別変異というわけではない。僕は見たことがある」



 「なにを......?」



 きっと、そう訪ねるわたしの声は震えていただろう。



 いつになく、あまりにも真剣なマリトの表情にのまれそうだったから。





 「あいつが......()()が生まれる瞬間を」




 ■■■



 確か、あれは六年前とかの話だと思う。僕はそのとき、十二歳だった。



 僕の父は凄腕の魔物討伐部隊の長だった。



 だからだと思う。



 ___あそこで、四体が一つになる瞬間を見れたのは。



 父はある日、魔物討伐を依頼されていた場所におとずれていた。



 僕は、父についていきたいとねだって、無理やりついていっていた。



 魔物討伐を進めていると、なにか、大きい物音がした。



 よく見ると、とてつもなく大きい、四体の魔物だった。



 あのときの衝撃を今でも僕は忘れられない。あんなにも、強く美しい魔物がいるのだと。



 そのまま見惚れていたら、四体が急に光り始めた。



 皆、何事かと思って、焦って家の後ろに隠れた。



 そして、光が消えたとき、魔物は”四体”ではなかった。たったの一体に変わっていた。



 だけど、見目が恐ろしかった。角が生えていて、とても大きかった。



 世間でいう、”鬼”のような風貌をしていた。そして、思った。



 ___あれが魔王だ、と。



 魔王は家の後ろに隠れている僕たちに気づかずに、そのまま、魔王領のほうに飛んでいった。



 ■■■



 「これが、僕の経験したことだよ」



 マリトはいつもの無口な様子からは想像できないような、熱量で、締めくくった。



 エリナは迫力に気圧(けお)されたのか、こわばった表情でマリトを見ている。



 アリアは難しい表情で考え込んでいる。



 魔王が、生まれる瞬間。それを見れた人はこの世の中でも数人しか存在しないだろう。



 貴重な体験を、マリトはしてきたのだ。わたしにはないような、人生において大切な経験を。



 わたしなんかよりもマリトのほうが勇者にふさわしかったのではないか。



 そんな思いがわたしをうずまく。



 「だったら、その四体を倒すしかないよね。だって、力が弱まるんでしょ?」



 わたしが少し明るい声で言えば、残りの二人は、表情を緩める。



 「そうだな。それが一番妥当だな。倒しに行くか」



 「そうね。魔王討伐に一歩ずつ近づけるんじゃない?」



 二人が頷いてくれたことに安心して、わたしはマリトのほうを見る。



 「いいよ。みんなが行くならね。だけど、四体は長い旅になる。大丈夫?」



 「もちろん!」



 「大丈夫よ」



 「魔王を倒すのが最後だからな」



 わたしたちは顔を見合わせて、決意を胸に頷いた。

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