新たなる勇者
えっと、さっきまでなんだか、すごいことがあった気がするけど、なんだっけ......。
誰か、話したかった人と話せたような。
そんなふわふわとした気持ちで目を開けたわたしは、起きた瞬間、手のほうに違和感を感じた。不思議に思いながら、視線を向けると、なにかを抱えていた。
「なにこれ......え、剣?」
剣なんてものを抱き枕にする趣味はないのだが......。
そんなことを思いつつ、もしかしたら、三人の誰かのものかもしれないと鞘から何気ない気持ちで抜いてみれば。
「これって......王剣!?いや、そんなことって、え?」
一人で戸惑った声を出しながら、部屋の中をぐるぐるとまわる。
王剣は本物を見たことがあるわけではないが、昔の文献は出回っていて、王剣を模した子供用のなりきり剣も売っているため、見目は知っている。
今日、夢の中で誰かと、重要なこの剣に関わる話をしたような気がしなくもない......。そして、そのままなにかを握らされたような......。
「あぁぁぁっ!お兄ちゃん!!」
ルリアと夢の中で話したのをすっかり忘れていた。
確か......ルリアは自分のできなかったことを成し遂げてほしいと話していた。
嘘だとは思っていたけど、まさか成し遂げてほしいことって......。
「勇者?だから、王剣を託してくれた......?」
勇者になって魔王を倒すということがルリアの成し遂げたいことだとしたら......わたしに後を継いでほしいという意思も辻褄があう。
なぜ、王剣が今、ここに現れたかはわからないが、つくづく世の中には不思議なことというものは存在する。
王剣が手元にあるということは、勇者は今、わたし。
バラバラの線と線が一本になってつながった瞬間だった。
■■■
「はぁぁぁぁぁぁっ!?王剣を託された!?今、勇者はルリカ!?」
朝なのに、こんなに叫ぶなんてすごいなぁ、なんて呑気なことを考えてしまう。
エリナの叫び声を聞きつけてアリアとマリトが、部屋から駆けつけてきた。
「なんだ!?どうかしたのか......って、ルリカ、そ、その手に抱えているものはなんだ.....?」
「......なんで、まさか」
顔面蒼白になっている二人。
逆に、王剣を生で見て、血の気がひかない人のほうが珍しいかもしれない。
「えっと、これにはいろいろあって。ご想像の通り、王剣です」
「なにがあったんだ?」
アリアが真剣な表情で問うてくる。
「今日、夢を見たの___」
わたしは順を追って話し始めた。
■■■
「___で、いつの間にか王剣を抱えていたの」
わたしが話し終えると、アリアは考えを整理するように目頭をおさえる。
数分間、沈黙がおとずれる。いつの間にか、雨が降り始めたようで、音がやけに鮮明に聞こえる。
冷静に考えれば、なんで、ルリアは出来損ないのわたしに後を継がせたんだろう。しかも、王剣もどうして、わたしなんかを認めてしまったのだろう。
ふたりとも(王剣を人とするかはわからないけど)見る目がないし、選択を間違っている。
___わたしは兄を犠牲にして生き残っただけの生きるべきではない者だから。
そうやって、わたしが沈黙の中で考えていると、アリアの表情がふっと緩む。どうやら、少しは考えをまとめられたようだ。
「話は、わかった。もう一度聞く。ルリカが勇者になったということで間違いないか?」
「うん。そうだと思う。なんでかって言われたらわからないけど、なんだか、剣がわたしを認めてくれている感じがするの」
「......過去の勇者もそういう感覚的なものだと語っている。やはり、本当のことだったんだな......」
漆黒の髪をかきあげて、また少し考えると、アリアは頷いた。
「エリナも、マリトも。もちろん、ルリカに協力するよな?」
「もちろんじゃない!今まで、たくさんの魔物と戦ってきた仲だもの。魔王も一緒に倒しましょう」
「......もちろんだ。魔王は僕たちで倒そう」
わたしは信じられない気持ちでその言葉を聞いた。わたしみたいな他人の後ろで生きているだけの人間が受け入れられるはずがないと少し、諦めていた部分もあったからだろうか。
「な、んで......。いいの?たまたま勇者になれただけのわたしに......協力、してくれるの?」
そうおそるおそる聞けば、三人は何を言っているんだと言わんばかりの顔でこちらを見た。
「あんたねぇ......”たまたま”ってなによ!ルリア様と王剣に認められたから、勇者なんでしょ!それを”たまたま”っていうのは失礼よ?そして、わたしたちが協力しないとでも思った?」
「はぁ......お前はいつもいつもそうやって自分を卑下するよな。自分で思っているよりも、俺の知っているルリカはすごい人間だぞ?」
「この四人で魔王を倒す。それが、与えられた役目だ。だから、四人で成し遂げよう」
「みん、な......」
そうだ。わたしが自分を許せなかったときも三人はわたしを慰めて、励まして、前を向かせようとしてくれていた。
それを忘れて、自分のことしか見ていなかったわたしはとんでもないバカだ。
「___うん。そうだよね。お兄ちゃんから後を継いでほしいって頼まれたからには、四人で魔王を倒すしかないよね!」
わたしが前を向いてそういえば、みんなが嬉しそうに、笑顔で頷いてくれた。




